風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル @所沢ミューズ(11月3日)

2022-11-04 03:03:55 | クラシック音楽



こんばんは。
皆さま、文化の日はいかが過ごされましたか。
私は信じがたい多忙さでございました…。
朝一番で本日が全国旅行支援の受付開始の八ヶ岳のホテルを電話予約し(電話受付のみだった)、午前中に週末の上高地旅行のためのPCR検査を受けに行き(ワクチン2回接種者のため)、昼に2時間近くかけて所沢まで電車で行き、小手指の有名店でハンバーガーを大急ぎで食し、電車を乗り間違えて逆方向に行ったりしながら(埼玉慣れない…)、15時から所沢ミューズでシフのリサイタルを聴き、帰宅したら陰性通知が届いた、という一日。。。疲れたけど、まぁ充実した休日ではありました。全部遊びですが。

所沢ミューズは初めて行きましたが、スタッフさん達が親切で良いホールですね~(「こんにちは!」という挨拶、新鮮だった)。音響もいい。ただ、客層が………。飴玉剥きさん、時計アラームさん、盛大に咳しまくりさん、パンフレットの音ガサガサさんは普通にいるし、演奏中にバタン!と思いきり扉の音を立てて出ていく人に遭遇したのは初めてです…(余裕がないくらい体調悪いとかだったのかもですが)。良いホールなのにもったいないなあ

【J.S.バッハ:イタリア協奏曲 へ長調 BWV971】
前回シフを聴いたのはコロナ禍が始まった頃だったので、2年半ぶり。お元気そうで何よりです
と思っていたら、、、途中で音が迷子になった…?
昨年のバレンボイムと同じく無音にならないように上手く流してはいたけど、この曲でそれが起きたことに驚いた。なぜならシフはこの曲を暗譜で何百回も弾きまくっているはずで、シフ歴短い私でも聴くのは既に3回目。客のマナーがよくないから演奏に集中できないという様子にも見えなかったので、かえって心配になってしまった。

【ハイドン:ピアノ・ソナタ ト短調 Hob.XVI:44】
この曲からは一気に持ち直したように感じられました(だからこそ、さっきのイタリア協奏曲はなんだったのか不思議だったけど)。
シフのハイドン、本当にいいよねえ…。表情豊かで大好き。
ハイドンがこんな良い作曲家だと知ることができたのは、シフとペライアとヤンソンスのおかげだな。

【モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570】
私は最近はシフのモーツァルトが大好きなのですが、今日のこの曲の演奏はこの世のものじゃないような怖いくらいの美しさ…。加えて、親しみや歌心もあって。トリップ状態になって聴いてしまいました。
そしてなんかこの音、とてもとても既視感がある。
もしや今日シフが弾いているピアノって、ベーゼドルファーだけどインペリアルではないのではなかろうか、という疑念がこのとき生まれる。

【ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109】 
今回のリサイタルで一番楽しみにしていたのが、この曲(この曲とハイドン以外は、過去にシフで聴いたことがあったので)。
シフ、冒頭でop.109とは違うフレーズを弾いていて(ほんのワンフレーズくらいですが)、その瞬間私の中にバレンボイムの曲間違いに遭遇した時の記憶が蘇り、「シフ、あなたもか…!」と心の中で突っ込んだのだけれど。そのまま自然に本来のフレーズにつながってop.109が始まった。一体なんだったんだろう。一瞬バレンさんみたいに別の曲を弾きそうになってすぐに我に返ったとかだろうか。あるいは、即興的な何か?
youtubeに2013年の来日公演のこの曲の演奏があがっているけれど、いまひとつ音楽の表情が薄く感じられてあまり好みではないのですが、今日の演奏はレクチャー動画の方に近い演奏(←好み)をしてくれて、嬉しかった
勢いのある二楽章もとてもよかったし、シフがレクチャーで「ベートーヴェンの全ソナタの中で最も美しい楽章だと思う」と言っていた三楽章は、昨年聴いたバレンボイムのそれが心に深く沁みたのだけれど、シフも別の良さがありますね。私はシフが弾く独特な軽みや明快さ(バッハやハイドンのような)を持ったベートーヴェンがとても好きで、またシフの変奏の美しさは言うまでもなく無類。
そしてあのひと粒ひと粒の高音の響きの美しさ……。
この音でやはり確信。このピアノ、絶対にインペリアルじゃない。
ベートーヴェンの音楽でぴかぴか氷った星々が見えるこの音色。
ちょっとフォルテピアノのような響きも感じられて。
色合いの変化が繊細なのに鮮やかで。
中音部はまろやかな木の温かみ。
・・・この感じはあの5年前に初めてシフを聴いて感動した時の280VCと同じ。あの怖いほどの美しさ。聴いていると否応なくトリップ状態に連れていかれるあの音色。
最後のゴルトベルクのアリアに喩えられる静かな部分で咳があったのはとても残念だったけど、この頃にはここの客のマナーを私はすっかり諦めていたので、もはやさほど気にする境地にはなく。
それよりも、あの音色をもう一度聴けたことがひたすら嬉しくて、休憩時間になったらピアノの確認に行かねば!と。

(20分間の休憩)
というわけで、さっそく確認しに一階へ。


低音の鍵盤が黒ければインペリアルだけど(←見分け方はそれしか知らない)、、、遠くてよくわからん。
仕方がないので、二階へ


やはり低音が黒くない…!のでインペリアルではないのは確か。
280VCかどうかは不明だけど、あの音色はきっと間違いなくそうだと思うので、満足して自席へ。
あの2017年の演奏会を最初で最後にシフの東京公演はオペラシティ所有のベーゼンに戻ってしまっていたから、もう二度とシフが弾くあの響きは聴けないのだろうと諦めていたのに、まさかの所沢で再会できるとは。
今回私が所沢公演を選んだ理由は一度シフの演奏をオペラシティとは異なるホールの音響で聴いてみたくて、できればオペラシティ所有のインペリアルとは異なるピアノでも聴きたかったからなのだけど(インペリアルが嫌いなわけではなく、シフは前回も前々回もインペリアルだったので他のでも聴きたくなった)、はるばる東京を通り越して埼玉まで来た甲斐があった。

※追記:演奏会後のtwitterで「280VC」と明記しているベーゼンに詳しそうな方がおられました。音の違い以外では、どの部分を確認したら判断できるのだろう…?

【モーツァルト:ロンド イ短調 K.511】
【シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959】
後半の2曲は、昨年ハイティンクが亡くなったときにシフがウィグモアホールで追悼として演奏してくれたのと同じ曲。あの日の客席には奥さんのパトリシアさんもいらしていて…。「ベルナルトが聴きたいと思ってくれるような曲を選んだ」とあの時シフは言っていた。
2曲を切れ目なく演奏したのもあの日のそれと同じで、どちらも過去にシフで聴いたことがある曲だけど、今回聴くことができて嬉しかったです。
シフのシューベルトのソナタは以前聴いたときに4楽章の演奏が苦手だったので今日は覚悟して聴いたのだけど、今日のはとてもよかったな。前回聴いた時よりも作為的な印象が減って、より自然な演奏に感じられて感動しました(私の耳にそう聴こえただけで、ご本人は同じように弾いていたかもです)。
今日の演奏、弱音がやたらと美しく響いていた。シフ、いつもより弱音を小さく弾いていた気もする。ホールとピアノの特性に合わせているのかな。
最後の音の響きが残っているなかで一部の人達が拍手をしてしまったけれど、シフは黙って鍵盤を押さえたままで、すぐに収まる拍手。少しずつシフに教育されていく所沢ミューズの聴衆達
個人的には一部の非常識な人のために残りの客に対しても演奏をしたくなくなるアーティストの考えには賛同できないのだけれど、「アーティストだって人間だ」というのも理解できる。今日のホールの客に限って言えば、後半に向かってほんの僅かずつではあるけれどマナーは改善されていったように感じたし、客席にいた大部分の常識ある、かつシフの演奏を愛している人達の思いはちゃんと彼に通じたのではないかな、と。「マナーが悪いわりに拍手は熱狂的だった所沢の客」とSNSで言っていた人がいたけれど、マナーが悪かったのはそもそも一部の人達だし(とはいえ他ホールに比べるとその割合は圧倒的に多いので、今後このホールはできれば避けたいですが…)。
アンコールを3曲やってくれたのも、シフもそれをわかってくれたからではなかろうか。と思いたい。シフ自身がミューズの音響と280VCの相性の良さを楽しんでいたから、というのもあり得るな。

【ブラームス:間奏曲 op.118-2(アンコール)】
先日フレイレの記事で紹介したばかりのop.118-2。まさか今日シフが弾いてくれるとは…。このプログラムでアンコールにブラームスがくるなんて全く想像していませんでした。
フレイレとハイティンクが亡くなってちょうど一年。先日のマイスキーと今日のシフの演奏で一年目の追悼をできたような気がして(私自身は何もしていないが)、少しほっとしました。
シフの118-2、フレイレのそれと違って死にたい気を起こさせないのが有り難い。
でもシフでこの曲を聴くのは3回目だけど、今日の演奏は何故かいつもよりも深みと憂いが増して聴こえた。私がフレイレのことを思っていたからだけではないようにも思う。

そして280VCの音…。次いつこのピアノをシフで聴けるかわからないから、大事に大事にその響きを耳と記憶に焼き付けました。

【モーツァルト:ピアノソナタ第16番 K545 第一楽章(アンコール)】
シフがこの曲をアンコールで弾き始めると必ず客席から笑いが起こるけど、すぐに笑ってられない演奏であることがわかる人にはわかるはず。ユジャ・ワンのトルコ行進曲と同じ。彼女のそれと異なり、難易度高いことは全くしていないのにヤバイのがシフ。
私の近くの席の人、この曲が始まった途端に楽しそうにエアピアノを始めたけれど、すぐにやめていた。このシフの演奏に合わせてエアピアノをできるとしたらよほど聴く耳を持っていないか、よほど厚顔無恥な人だけだと思う。それくらい物凄いもの、シフのモーツァルト。こういう単純な美しさって、実は最も難しいものなのではないだろうか。一見誰でも簡単にできそうで、実は極々限られた人にしかできない演奏だと思う。この曲でのシフの演奏は、天使が弾いてるとしか思えない美しさ。装飾の自由さ&愉しさもこの上ない。

【J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から プレリュードとフーガ第1番 ハ長調BWV846(アンコール)】
モーツァルトが終わりの合図かと思っていたら、熱狂的な拍手&ブラボーに応えてバッハやってくれた!今日はバッハが少なかったからとっても嬉しい。私はこの曲をシフで聴くのは初めてなので、更に嬉しい。最初のイタリア協奏曲の不安定さとは異なり、こちらは抜群の安定感で相変わらず絶品のバッハでした。

今回も客席におられる塩川さんが見える席だったので、そのご様子でこれで最後かを判断するワタシ(塩川さんの様子で大体わかる。最後と判断した場合は楽屋に行く準備をされるので)。それは別にしても、塩川さんの姿を見ているとなんか落ち着く。「シフ、客席の物音に怒ってないかしら?(楽しそうに弾いてはいたけど)」とか心配しながら塩川さんを確認すると、変わりなく笑顔で拍手されていてほっとしたり。シフも同じで、客席にいる塩川さんを確認すると安心したりするのかな。シフの「塩ちゃん」呼び、また聞きたい ってこんなに書いて塩川さんじゃなくて人違いだったらどうしましょう。
そういえばシフ、割と最近もまた客席のマナー関係で物議を醸していた記憶が。内容は覚えていないけど(似たりよったりの内容だし)。
今回2年半ぶりにシフの演奏を聴いて、当たり前だけど、代わりのいない唯一無二のピアニストだなと再認識しました(もちろん他のピアニストも同様)。どうか健康で長生きしていただきたい。この先もできるだけ長くシフのピアノを聴いていたいです。

15時開演、18時終演。シフにしてはアンコール少なめ?と思ったけど、もともとメインが長かったようで、トータル時間は全然短くなかった



小手指駅から徒歩すぐの某有名店のチーズバーガー。人気店なので、30分くらい外で並んで入店。店員さんの感じもよく、確かにとてもジューシーで美味しかったのだけど、パテがスパイスが効いているのがあまり好みではなかったな。個人的にはもっとただの肉!っていう感じの味の方が好き。横須賀のネイビーバーガーみたいな。




ハンバーガーに時間をとられて、さらに電車も乗り間違えたりしたので、航空記念公園を散策する時間がとれなくて悲しんでいたら、ミューズへの道沿いにYS-11が
興奮して写真を撮りまくってしまった。


所沢の紅葉、見事でした。


















所沢といえばトトロ ジブリファンの聖地!(私は初めて行ったけど)
本当はトトロの森も散歩したかったのだけど、今回は時間がとれず断念
写真は、所沢駅のパン屋さんで購入したトトロあんぱん。
ホームの発車メロディーもトトロだった♪


今回のシフの来日ツアーは「曲目を事前に発表せず、その日のインスピレーションで決める。その曲についての解説を混じえながら演奏をする」というものでした。ですがこのtweetの感じだと、所沢ミューズだけは「事前に決めてほしい」とシフに強く頼んだぽいですね。シフのファンはそんなことは望んでいないと思うけどな。ファンならシフが一番心地よく演奏できる状態であってほしいと思うはず。でも演奏会に来るのはファンばかりではないですし、難しいところですね。個人的には、事前に発表をしてくれるのは予習ができるという意味では有難いです(クラシック初心者なので)。もっとも所沢もシフが曲目を決定したのは5日前なので、シフ的にはさほど問題ないのかも。「演奏会の何年も前に曲目なんか決められない」と以前仰っていたし。曲目を事前発表するだけで解説はあるのかな?と思っていたけど、今日は解説も一切なしの通常形式のリサイタルでした。
私は”話をするシフ”も見たいので、明日(4日)のオペラシティも伺います。今日とあまり曲が被りませんように…!(ゴルトベルク全曲やってくれないかな…100%ないか…)

Sir András Schiff - Live at Wigmore Hall
ハイティンクの追悼として演奏された、2021年11月13日のウィグモアホールのリサイタル。1,2曲目は本日後半と同じ。

András Schiff - Sonata No.30 in E, Op.109 - Beethoven Lecture-Recitals

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