風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

アルゲリッチ&フレンズ @すみだトリフォニーホール(6月3日)

2022-06-08 11:01:33 | クラシック音楽




先月のオペラシティに続いて、すみだホールにアルゲリッチを聴きに行ってきました。

【フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調(辻 彩奈&アルゲリッチ)】
予習で聴いた別の奏者達の音源では完全にヴァイオリンが主役でピアノが伴奏になっていたのだけれど、今日はさすがアルゲリッチ 予測のつかないスリリングで雄弁な演奏を聴かせてくれました。同じ曲なのにこんなにピアノが存在感をもった演奏になり得るのか、と吃驚。4楽章コーダの突然の急加速にはちょっと驚いた。
今日の公演に行きたいと思ったのは、辻 彩奈さんのヴァイオリンにも興味があったから。高い集中力で渾身の演奏をしてくださって素晴らしいヴァイオリニストだなと心から感じたのだけれど、先日の東京音大アカデミーの場合と同じく、アルゲリッチの自由自在な音と一緒に聴いてしまうとやはりまだ若い(硬い)演奏に聴こえてしまう感はありました。
アルゲリッチがヴァイオリンを食おうとガンガン押し出しているわけでは全くなく、むしろその逆なくらいなのだけど、彼女の共演者が彼女の音と同じくらいの存在感を示すのはとても難しいことなのだろうな、と。でも今回アルゲリッチとこの曲を演奏できたことは、辻さんにとってすごく良い経験になったのだろうと思う。
それにしてもこのフランクの曲、初めて聴いたけどめちゃくちゃカッコイイですね!世の中まだまだ知らない曲があるのだなあ。

(20分間の休憩)

【トーク】
2020年に亡くなった友人イヴリー・ギトリスの思い出についてアルゲリッチが語るコーナー(+酒井さん、通訳さん)。今日の演奏会には「イヴリー・ギトリスへのオマージュ」という副題がついていて、彼にちなんだ曲が選ばれています。
とはいえこのコーナー、思いのほか長く時間がとられていて吃驚
事前準備がなかったのか結構なグダグダ進行で、最初のうちは「こんなにトークに時間をとるならその分演奏をしておくれ。私は話ではなく音楽を聴きにきたのだよ」と思ったのだけど、答えるのが難しい質問に困りながらも一生懸命考えて、いい加減じゃなくちゃんと回答しようとしているアルゲリッチの姿に、知ってはいたけど誠実な人なのだなあと改めて感じて、こういう彼女の姿を生で見られるのは実はとても貴重な機会なのかもしれない、と感じたのでした。結果的に準備万端のトークよりよかったかも。
以下、覚書です。順不同。

・イヴリーはどんな人?
 ⇒彼は私にとって親しい友人であり、そして人生のガイドでした。彼は人生を愛し、人々を愛していました。彼の本名はイツァークで、それは笑い声という意味です。ハハハッという笑い声です。それはユダヤ人の名前だったため、(1933年に11歳で)パリ音楽院に入学が決まりパリに移住したときに、身を守るため「イヴリー」と改名しました。イヴリーはパリ郊外の街の名前です。
・彼を建物に喩えると?
 ⇒(だいぶ長い間考えこんでから)私はピサの斜塔だけれど(客席から笑い)、、、彼を建物に喩えることはできません。彼は海に向かって一人立っている人というイメージです。
・コンサートホールに喩えると?
 ⇒彼の出身地であるイスラエルのハイファのホールでしょうか。あそこには海もありますから。でも、、、やはり違います。いま思い浮かんだのは、ナポリのオペラハウスです。
・絵画に喩えると?

 ⇒ピカソの『ゲルニカ』が浮かびました。あれはひどい絵ですが。でも、、、やはりマティスの青です。(←青の〇〇?聞き取れず)
・色に喩えると?
 ⇒虹色。・・・こういう質問は難しい。彼を箱に入れて考えることはできません。
・調性に喩えると?
 ⇒・・・シベリウスの協奏曲を思い浮かべましたが、あれは何調ですか?ロ短調? ※正解はニ短調
・彼が亡くなったときに見た夢について
 ⇒彼とはよく電話をしていて、亡くなる数日前にも電話をしました。彼は「君と話している暇はないんだ。神と話していて忙しいから」と言っていました。
彼が亡くなったとき、不思議な夢を見ました。見たことのない植物があって、花や実がなっているのですが、その実は茶色で長くヴァイオリンの形に似ていました。専門家を呼んで見てもらうと、それは人が笑っているところにしか現れない植物だということでした。その後その植物はどこかへ飛んでいってしまいましたが、再び戻ってきました。
・今日弾くソロ曲について
 ⇒ショパンの『パガニーニの思い出』を弾きます(客席から拍手)。シェイクスピアは「音楽があるのは〇〇だ」(←聞きとれず)と言いました。たぶん。(「I think!」と言いながら退場)

※帰宅してシェイクスピアの音楽に関する言葉をググったところ、「音楽が何のために存在するかさえご存知ないらしい。勉強や日々の仕事が終わった後、疲れた人の心を慰め元気づけるために音楽はあるのではないか?」というのがありました。アルゲリッチはこれを言っていたのかな。アルゲリッチらしい言葉だと思う。
そしてギトリスの演奏、一度生で聴いてみたかったな…。

【パガニーニ:カプリース op.1から 第24番(辻 彩奈・ソロ)】
辻さんの音って、きちんと弾いていながらも、ちゃんと情熱的な音がするところがとてもいい。

【ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲(アルゲリッチ&酒井 茜)】
スリリングで楽しかった!

【ショパン:パガニーニの想い出(アルゲリッチ)】
これは当初プログラムに入っていた曲で、その後「アルゲリッチのソロ演奏はなくなりました」と追加発表され、当日に上記のとおり本人の「演奏します」宣言で演奏されることになったのでした。
素晴らしかった。。。。。。。。
子供のような軽やかさと純粋さ、泣きたくなるような温かさと美しさ。。。。。
アルゲリッチの音って、太めの音で豊かに"歌っている"ところはロシアのピアニストに似ている。でも力加減や低音の響きは違って、リズムも違う。無理やり言うなら、ロシア+ウィーン+南米+ジャズという感じがする。フレイレのショパンにもそういうところがあったな。先日に続いて彼女のショパンを聴けて、嬉しかったです。
なおアルゲリッチは前曲で弾いていたスタインウェイではなく酒井さんが弾いていたカワイをそのまま弾いたけれど、いやあ、素朴でいい音。。。ちなみに私の家のピアノもカワイでした(当時は華やかな音のヤマハが羨ましかった)。

【クライスラー:愛の悲しみ(辻 彩奈&アルゲリッチ)】
この曲って、こんな優しい曲だったんですね。。。これも泣きそうになっちゃったな。。。。。
アルゲリッチはもちろん、辻さんのヴァイオリンも素晴らしかったです。
終演後しばらくこのメロディが耳から離れませんでした。

【クライスラー(ラフマニノフ編):愛の悲しみ(酒井 茜・ソロ)】
ラフマニノフが編曲するとこんな風になるのか…!面白い!

【シュピルマン:マズルカ ヘ短調(酒井 茜・ソロ)】

シュピルマンは『戦場のピアニスト』のモデルとなったピアニストですが、作曲活動もしていたんですね。今回初めて聴きましたが、ショパンの音楽によく似ている。これは1942年にワルシャワゲットーのカフェで働いていたときに作曲された作品で、当時ナチスはショパンをナショナリズムを刺激する音楽であるとして演奏を禁止していました(そういえばワルシャワのショパン像もナチスにより破壊されたんでしたね)。この曲が非常にショパン風なのは、そんなナチスに対するシュピルマンのせめてもの抵抗だったのではないかとのこと。この曲が作曲された年の後半、彼の家族は強制収容所に運ばれ、全員が命を落としました。一人ゲットーに残された彼の物語は、映画で描かれているとおりです。ギトリスは終戦直後に初めての西側のユダヤ人としてポーランドを訪れ、その際にシュピルマンと会っていて、「素晴らしいピアニストだし、素敵な人だったな」と言っていたそうです(プログラムより)。
濃厚すぎない酒井さんの演奏からは、この曲が弾かれたかもしれないカフェの空気を感じられる気がしました(といっても”ゲットーのカフェ”であることは忘れてはなりませんが…)。

【シマノフスキ:マズルカ op.50から第10番(酒井 茜・ソロ)】
やはりポーランドの作曲家であるシマノフスキは以前ツィメルマンやヤンセンで聴いたことがあって、どちらもすごく濃厚な演奏だったのだけれど、今日の演奏はもう少し軽やかな感じで、これはこれで新鮮でした。

【プロコフィエフ:「三つのオレンジへの恋」より行進曲(辻彩奈、酒井茜)*アンコール】
【モーツァルト:4手のピアノ・ソナタ K.381 第3楽章(アルゲリッチ、酒井茜)*アンコール】
後半少々重い選曲だったので、最後の明るいモーツァルトで笑顔で帰ることができました。
カーテンコールは、アルゲリッチが他の二人を促して左右に移動して、客席に深々とお辞儀。今日の会場はP席はなかったけど、舞台後方も振り返って確認していた。キャンセル魔で有名な人だけど、気遣いの人なのだなあ。舞台袖が見える席に座っていた方のtwitter情報によると、演奏を終えた辻さんや酒井さんを舞台袖で拍手で迎えていたそうです
酒井さんや辻さんと一緒にいるアルゲリッチは、なんだかとっても楽しそう 女子会みたい
NHKのカメラが入っていたので、いつか放送されるかも。

7日のサントリーホールのクレーメルとのデュオにも行ったので、後ほど感想をあげますね(素晴らしかったです…!)。


終演後。魔界の塔のようなスカイツリー笑


女子会

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