風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

NHK交響楽団 第1939回定期公演 Aプロ @東京芸術劇場(10月17日)

2021-10-18 20:12:27 | クラシック音楽


ヘルベルト・ブロムシュテットが初めてN響を指揮したのは1981年11月。以来ちょうど40年、ほぼ毎年のように共演を積み重ねてきた。昨年は来日が叶わなかったが、マエストロと私たちの深い絆はいささかも緩むことがない。今回の3種類のプログラムは、すべて北欧とドイツ・中欧の作品を組み合わせたものである。70年近くにわたり、これらの地域を主舞台に活躍してきた巨匠の指揮者人生、芸術のエッセンスが凝縮されている。

《池袋Aプログラム》のレオニダス・カヴァコスは現代最高峰のヴァイオリニスト。磨き抜かれた音色やフレージング、構築力、時には粗野にもなれる実験精神など、どこを取っても間然する所がない。厚い信頼関係で結ばれたマエストロのサポートを得て、ブラームス《ヴァイオリン協奏曲》は、シーズン屈指の好演となる予感大である。ブロムシュテットとN響は、ニルセン《交響曲第5番》を20年前にも演奏した。当時「注目されない曲に敢えて“布教精神”で挑む」と語っていたマエストロ。その熱意が実り、ニルセンは我々のスタンダード・レパートリーになりつつある。《第5番》には作曲家が敬愛したブラームスの楽想が見え隠れするが、表現のユニークさ・インパクトの強さは、マーラーやショスタコーヴィチにも匹敵する。この曲を愛してやまない巨匠が、限りない共感を込めて贈る。
企画担当者による「2021年10月定期公演」の聴きどころ・西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長))


N響の定期Aプロ2日目に行ってきました。
ブロムシュテット&N響を聴くのは2019年の秋以来2年ぶり。前回来日されたときに「次回は93歳か…。とても聴きたいけれどご無理はされないで…」と思っていたら昨年の来日はコロナ禍でキャンセルとなり、そして今回94歳でお元気に来日。杖なしでスタスタと歩かれ、椅子なしで指揮。そして老いや弛緩とは無縁の音。やはりベジタリアンでいらっしゃることと現役の音楽生活が秘訣だろうか
それにしても。

いい演奏会だったなあ。。。。。。。

チケット発売日にPCの前で待ち構えて購入した今日のプログラム。ワタシ的には今回のブロムさんの公演で一つを選ぶなら絶対にこれ!だったのだけど。世の中の売れ行き的には一番不人気だったようで、長く売れ残っていた(最終的には他の公演同様にソールドアウトになったけども)。なぜなんだ。ブロムさん&カヴァコスのブラームスVn協って物凄いのよ!?しかもブロムさんのニールセンがメインプロよ!?

【ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77】
コロナ対策でブロムさん&カヴァコスは管の後、弦の前(だっけ?)にステージにご登場。客席から万雷の拍手で迎えられながら、ご本人達はオケの奏者達に向かって拍手。相変わらず謙虚な方達だなあ
そして東京芸術劇場の華美でない音響はきっとブラームスに合っているはずと思っていたら、予想どおり。

いやあ、美しかった。。。。。。

ブロムさん&カヴァコスのこの曲の演奏は2017年にみなとみらいホールで聴いていて、後半のシューベルトも含めてあの日のブロムシュテット&カヴァコス&ゲブァントハウス管の演奏は今でも私の中でベスト3に入っている演奏会です。
でも今日の演奏も素晴らしかったなあ。。。。。。改めてカヴァコスのブラームスの音が好きすぎる。清潔感と誠実さと力強さと情熱と陰影と温かみと美しさ…。ホールにふわぁっと作曲家の”心”が広がるような感覚は生演奏ならではだよね。あまりの素晴らしさに興奮しながらも、泣きそうになってしまったよ…。
N響もゲヴァントハウス管のTheドイツ、Theブラームスという音とは全く違うし全体的に控えめではあったけれど、丁寧さと高い集中力と熱と温かみを感じる演奏が素晴らしかった。
第一楽章の第二主題、美しかった。。。。。
第二楽章の終盤はペルチャッハの夕映えが見えた。。。。。
第三楽章。終わってほしくない!と心底思ってもブロムさん&オケはグイグイ進む。と思っていたら、カヴァコスこそがノリノリなのだった
温かく、美しく、愛に溢れて、かつ厳しく凛とした澄んだ空気。
甘えたことを言っていないでしっかり生きなきゃ、と感じさせられました。
ブロムさんとカヴァコスに感謝だな…。
大好きな大好きなブロムさん&カヴァコスのブラームスのVn協奏曲。再び聴ける機会はあるだろうか…。おそらくないだろうな…と思いながら、大切に拝聴しました。でも実際は演奏のあまりの素晴らしさに、最初から最後まで息を止めて聴き入ってしまいました。

【J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 「ルール」(Vnアンコール)】
しっとりと美しかった…。ブラームスのVn協奏曲も、この曲も、後半のニールセンも、みんな一曲の中に陰と陽を感じさせる音楽だな、と感じました。
コロナ対策のためブロムさんも退場せずに指揮台の上からカヴァコスの演奏を聴かれていました。ブラームスのカデンツァも、このアンコールも、体ごとカヴァコスに向き直ってじっとその演奏に耳を傾けるブロムさん。カヴァコスはこの演奏をブロムさんに向けて弾いているようにも見えました。演奏後のブロムさんはとても嬉しそうで。ゲヴァントハウス管との来日のときにも感じたけれど、ブロムさんはきっとカヴァコスの演奏が大好きなんだろうな

(20分間の休憩)

【ニルセン:交響曲 第5番 作品50】
ニールセンが副題を名づけなかった2曲の交響曲のうちの一つで、第一次世界大戦終結の2年後、1920年の秋から書き始められた曲。ラトルは「第4番より第5番のほうがニールセンの戦争交響曲にふさわしい」と述べているそうです(wikipedia)。
この日ブラームス、バッハ、そしてこのニールセンを聴いて、陰と陽、善と悪、破壊と創造、明と暗、光と影、そのどちらも内に持っているのが人間の本来の姿なのだろうな、とそんな風に感じました。
そんな人間が作っているのがこの社会であり世界であるなら、影が完全になくなり光だけが支配する日がいつの日か訪れるのではなく、その両方が同時に存在するのが自然な姿なのだろう、とそんな風に感じたのでした。破壊があり創造がある。その繰り返しがこの世界なのだろう、と。そんなどうしようもない世界の中で、自分の中の闇に抗い光を消さないようにすること、一人一人の辛く悲しい思いが少しでも少なくなる状態の世界を目指すことがきっと大切なんだ、と。この曲に統一された調性がないのも、そう感じた理由かもしれません。
しかしそれは私が今日の演奏からそう感じたというだけで、ニールセンがどういう意図で作曲したのか、ブロムさんがどういう意図で指揮していたのかはわかりません。キリスト教徒のブロムさんの感覚では違うかもしれないとも思う。

奏者の方のtwitter情報によると(オリジナルは下に貼っておきます)、ブロムさんはリハーサルで第一楽章について「ごく日常的で平凡なマーチが、いつしか戦争の恐ろしいマーチに変わるのだ」と仰っていたそうです。第二次世界大戦の終結時にブロムさんが18歳だったことを思うと、実感を伴った重い言葉だな…。この曲の中の容赦ない邪悪さがじわじわと世界を支配していく空気、恐ろしかった…。
一楽章ラストのクラリネットのソロ(松本さん?)、いい音だったなあ。N響のクラリネットの音は、いつも好みです。このソロはブロムさんによると「たった1人の生き残りが、我々に物語を伝えている」とのこと。
しかしこの曲は本当に独特ですね。ショスタコーヴィチとブラームスとヤナーチェクを混ぜたようなところにプラスされる、北欧の作曲家らしい清廉とした空気。
金管の音で正義が表現されるのは割とお約束だけど、小太鼓のテンポを他の楽器とずらして闘いを表現するのは面白いなあ!こういう手法ってよくあるのだろうか。私は初めて聴く気がする。
ブロムさん曰く「1楽章に比べて2楽章のコーダは短いので、難しく感じている」と。そのせいなのか今日の演奏がたまたまなのかはわからないけれど最後の和音も「大・勝・利!!!」という風にスカッと気分爽快に全てが解決されるのではなく、これはひとまずの勝利なのだと感じさせられるような、どこか心の中に後を引いて残る感じで、それゆえの独特の響きの美しさと余韻が印象的でした。予習のときは第一楽章だけで終わった方が名曲になったんじゃ?と感じたこの曲ですが、今日の演奏を聴いてやはり第二楽章は必要だ、と感じました。そして今ふと思ったけれど、この曲を聴き終えたときにこれで全て解決!もうすっかり安心!とは感じられず、闘いは終わったはずなのにこの先も再び不安は訪れるのだろうと感じるのは、第一楽章のラストの後にこの第二楽章が続いているのも理由かもしれない。
そしてこんなに難解そうな曲なのに、ブロムさんの指揮で聴くと、全ての音に意味を感じる。ちゃんと一つの交響曲に聴こえる。さすがは十八番。
演奏機会の少ない曲だそうなので、ブロムさんの指揮で聴けてよかったな。ブロムさんはこの曲をとても愛されているそうで、今回はブロムさんたっての希望でプログラムに取り上げられたとのこと。確かにyoutubeを検索すると色々な楽団との過去の演奏が出てくる。ブロムさんの個性を思うと少し意外な気がするけれど、傷跡を引きずりながらなお光を求めるような、そういう感じにブロムさんは惹かれておられるのかもしれない。暴力と恐怖で心も体もぼろぼろに傷ついて。それでも光の方へ行こうとする、倒れても再び立ち上がる力。そういう人間の、世界の逞しさ、美しさ。それはイエスキリストの姿にも似ているといえるかもしれません。
「私は身体的にも精神的にも痛みは大嫌いだ、しかし音楽の中の痛みは美しい。戦いも美しい」とはブロムさんの言。
私が聴いたのは二日目ですが、一日目の演奏はクラシック音楽館で11月21日に放送予定だそうです。
そうそう、ニールセンの五番を東京芸術劇場で演奏したのは正解だったと思う。響きの豊かなサントリーホールでは絶対に音の団子になっていたと思う
あと一楽章の最後、小太鼓はちゃんと舞台裏に行って遠ざかっていっていた(覚書)。




©N響twitter


カヴァコスのインスタより。可愛らしい53歳と94歳


※11月21日追記



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