風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル @サントリーホール(12月8日)

2018-12-20 01:01:02 | クラシック音楽



モーツァルト: アダージョ ロ短調 K.540
リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調
(休憩15分)
シューマン: 交響的練習曲 op.13(遺作変奏付)

あのハッピバースデーディーアイーヴォーーーーーから早1年。今年も東京にポゴリッチのピアノが響く季節がやってまいりました
今回の演奏会のタイトルは、『イーヴォ・ポゴレリッチ 還暦』。
・・・なにがどうしてこんなタイトルになったのか・・・。
昨年の演奏会後、
スタッフ:来年は60歳ですね~。60歳は日本では”還暦”って言うんですよ~。
イーヴォ:kanreki・・・?
スタッフ:そうです^^ おめでたい意味なんですよ~。
イーヴォ:素晴らしい!来年のリサイタルのタイトルはそれに決定だ!
スタッフ:え・・・・・・・・あ・・・・そうですね・・・・。
みたいなやり取りでもあったのだろうか。

さて、ポゴさんのリサイタルはいつも感想を書くのが難しいけれど、今回も同じで。
一昨年昨年は曲ごとに天国と地獄のジェットコースターを体験させてくれたポゴさん。なんて書くとKAJIMOTOさんの解説の「天使か悪魔か」みたいな何やらカッコイイカンジがするかもしれませんが、私のはそんな意味ではなく、「これを聴いてしまったらもう何も言えない」な天国と、「良さが全くわからない…」な地獄という、ガチな意味でのそれだったのでありました。
それが今年はちょっと違って。
なんと、一度もそのジェットコースターが起こらなかったのですよ
モーツァルト→リスト→シューマンと、ほぼずっと違和感なく聴いてしまった。ウットリといってもいい。
ピアノに悲鳴を上げさせるあの鍵盤ぶっ叩き超強音も、今回は一度もなく(ポゴさん比)。
私がポゴさんの演奏に慣れたという理由もあるかもしれないし、ポゴさんの演奏がまた変化したという見方もできるかもしれないけれど、私が今回のリサイタルで感じたことはむしろ逆で、「もしかしたらポゴレリッチって、私が思ってるほどには変化していないのではなかろうか」ということなのでありました。
たとえば同じ年の同じ曲でも日によって全く違う風に演奏されることがあるらしい一方で、youtubeにあがっている2012年のリストのロ短調ソナタと今回の演奏の間にはそれほど大きな違いは感じられない(今回はぶっ叩きはなかったけれど)。それがどういう理由によるのかはポゴさんにしかわからないけれど、でもそういう揺らぎを超えたところでは、この人の根底にあるものはそれほど大きくは変わっていないのでは、と何の根拠もないけれどそんな風に感じた今回の演奏会だったのでした。それは彼の若い頃からも含めてか?と言われると、現段階ではなんとも。掴みかけたと思ったら違う面を見させられてしまう、そういう意味では今回もポゴさんらしいリサイタルだったといえるのでした。
ていうかただ純粋に演奏を聴いていればいいだけのはずなのに、こうして色々思いを巡らせてしまうのがポゴさんの演奏なのよね
なお今回の演奏時間はリストが50分、シューマンが遺作変奏21分本編33分の計54分だったそうです(ツイ情報)。こんなにゆっくりでも、ちゃんと”音楽”なのだよなあ、ポゴさんの演奏って。

シューマンの本編11曲目、素晴らしかった。暗さが内包された、でも不思議とピュアな、独特なポゴレリッチの音。終曲はThe今のポゴさんなテンポでしたけど、一昨年の『ウィーンの謝肉祭の道化』でも感じられたブルックナーかバッハのような響きにも惹きつけられました。リストの最後の1音もなんだか独特で印象的だった。
こうしてまた次回のリサイタルのチケットも買ってしまうのだろうなあ、私は。この人でしか聴けない音楽があるのだから仕方がない。もういいやとなるまでは聴きますよ。
次回の来日は2020年2月とのこと。予定の曲目は、バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ラヴェルだそうです。

恒例の開演前のポロポロ(今回も7分前まで弾いていた)は、今回ははっきりとリストのソナタでしたね。これから弾く予定の曲を開演前に思い切り崩して客に聴かせるのを気にしないポゴさん。さすがだ笑。



ポゴレリッチのインスタより(ご本人が書いているわけではなさそうですが)。
村上春樹さん、いらしてたんですね。気付きませんでした。
小説『アフターダーク』には、ポゴレリッチのイギリス組曲の演奏が登場するのだそうで(私は未読)。村上さんは小澤さんとの対談本でもポゴさんのことを話されていましたよね。「面白い演奏をするピアニストがいる」とかそんな感じのことを仰っていたような。ちなみにイギリス組曲は次回の来日で演奏される予定。

Bach English suite nº3 in G minor BWV 808 (Pogorelich)

若き日のポゴさんのイギリス組曲。うん、既に立派にポゴさんだ。でも次回来日時にはこれとはまた違う演奏を聴くことになるのだろうな。

Ivo Pogorelich ..Chopin - Ballade No.3 ..Op. 47 ..Shades of Imola ..2017.. (Remastered) ..

ワルシャワに向かう飛行機の中で色んなピアニストのショパンを端から聴いていたのですが、そのときの心情に最もピタリと合ったのが、ポゴさんのこの演奏(昨年東京でも聴いたバラ3)だったのでした。自分でも不思議でしたが、おそらくポーランドという国の居心地が良いのだか悪いのだか定義しにくい、私が慣れた西欧諸国のそれとは全く違う空気に、ポゴさんの演奏がピタリと合ったのだと思います。そういう意味ではショパンの時代のポーランドというより、今の時代のポーランドかな。

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