風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

それならば私は何も失わずに生きてゆけた

2023-06-08 00:52:37 | その他音楽

みゆきさんの「I love him」がとても聴きたくなって、それならいっそ夜会を観てしまおうと、日付が変わるこんな時間まで『夜会VOL.3 KAN(邯鄲)TAN』を観てしまった。

夜会の中のどの作品が自分に刺さるかは人によって違うと思うけれど、私は特に『VOL.3 KAN(邯鄲)TAN』や『VOL.8 問う女』がそうで、気軽な気持ちでは観られません(夜会で気軽に観られる作品って殆どないけども)。
刺さりすぎて、観られない。
でも涙活というか、敢えて観たいときもあって。今夜がそれでした。
開始10分の「タクシードライバー」で既に涙ボロボロ。一人暮らしなので誰に気兼ねなく、思いきり泣いたわ。

昔は、みゆきさんの歌に出会えさえすれば、その人は決して自殺するようなことにはならないだろうと本気で思っていた頃があったけれど。
今はそうではないということを知った。
悲しい人は悲しいし、辛いことは辛い。
みゆきさんの歌に出会えても、自ら死を選んでしまう人はいる。
それでも、私達はみゆきさんの歌にどれほど心が救われることか。力をもらえることか。

最後に歌われる「I love him」。
愛することと愛されることはイコールではない。いつもそこにはズレがある。
そしてみゆきさんは(みゆきさんが描く女性は)、たとえ傷ついても、たとえ愛してもらえることはなくても、"それでも"愛することを選ぶ。そういう人生の方を選ぶ。
愛なんて儚いものと空虚に思うのではなく、傷つくことを怖がり愛さないことを選ぶのではなく、あっという間に夢のように過ぎてしまう人生だからこそ、愛することを選ぶ。それは胸の奥にずっとあった本当の願いなのだ、と。
この歌の女性は決して男に都合のいい女になっているわけではなく、自分の意志でそういう生き方を選んでいるんですよね。ちゃんと自分の主導で自分の人生を生きている。
この頃から最新の『VOL.20 リトル・トーキョー』に至るまで、みゆきさんはぶれていないなぁ。
『VOL.3 KAN(邯鄲)TAN』は1991年11月13日~12月7日の公演で、みゆきさんは39歳だったんですね。
あるみゆきさんのファンの男性の方が、夜会の中で最も好きな作品がこの『VOL.3 KAN(邯鄲)TAN』だと仰っていて。
「欲しいものが手に入らなくても、不幸とは限らない」という価値観の大転換を示したところに感動したのだ、と。

その前向きさは決して容易なものではないし、勇気のいることだし、失うものもあるし、傷つくし、逃げてしまう方がきっとずっと楽だけれど。
それでも、愛する方の人生をみゆきさんは(みゆきさんが描く女性は)選ぶのだな。
返される愛は無くても。
まぁ大前提として、それほどまでに強く愛せる相手に出会えるということだけで、既に十分に幸福なことだと私などは思ってしまうけれども。これを恋愛的な相手ではなく人間愛にまで広げると、また別ですけれど。

ところでラストの扉の向こうの部屋ってテーブルの上にロウソクが立っていて何かの儀式の部屋のようにも見えるのだけど、みゆきさんの本によると人々が集う食卓のような、そういう感じの設定なんですよね、たしか(本はむかし図書館で一度借りただけで手元にないので自信ないけれど)。
温かな体温をもった人間達のいる場所に彼女は戻っていくのですよね。再び傷つくことも、裏切られることもきっとあるけれど、それでも。

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