風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

広島交響楽団 2018「平和の夕べ」コンサート @広島文化学園HBGホール(8月5日)

2018-08-10 12:11:49 | クラシック音楽




というわけで、急遽広島へ行ってきました。
何より1日のすみだトリフォニーホールのリサイタルでのブラームスが素晴らしかったことと、先日訪れたポーランドで広島や長崎のことが思い浮かんだことと、豪雨の影響で広島の観光産業が打撃を受けていて「復興のためにも広島へ」と県が訴えていたため、それならばと片道3時間半、往復7時間の日帰り旅です。

演奏会の前に、翌日の記念式典の準備が進んでいる平和記念公園と資料館を訪れました。この時期の広島は初めてでしたが、やはり他の時期に来るのと街の雰囲気が違いますね。東京にいるとなかなか肌で感じられない感覚なので、来てよかったと思いました。
しかし外国人が多いですねえ。資料館の展示の写真撮影は個人の記録目的なら可というのはアウシュヴィッツと同じで(正確にはアウシュヴィッツは「歴史を伝えるためなら可」でしたが)、自撮りは不可というのも同じ。アウシュヴィッツでは写真を撮るときに後ろめたさが皆無というわけにはいきませんでしたが、今回日本人の立場で外国からの見学者が真剣な表情で展示物の写真を撮っている姿を見て、全く嫌な気持ちにはなりませんでした。あのとき近くにいたユダヤの人達も同じだったのかな。そういえば中谷さんは「この場所に関心を持って訪れてもらえることは彼らにとって嬉しいことなのです」と仰っていた。

会場のHBGホールに着くとロビーに折り鶴コーナーが設けられていて、翌日の記念式典に持っていかれるとのことなので私も一羽折ってみたのですが、、、折り方を思い出すのに時間がかかりプチショック。。

【J.S.バッハ:アリア】
最初に、先月の豪雨で亡くなられた方々のご冥福を祈り、バッハのアリアが献奏されました。この翌日の6日は豪雨からちょうど一か月目を迎える日でした。非常にゆったりとした速度で静かに静かに演奏されたそれは、この献奏にこれ以上に適した曲はないと感じさせるもので、フレーズとフレーズの間に置かれた一瞬の無音がどんな音よりも多くのものを語っているように感じられ、胸が苦しくなりました。 「終演後の拍手はお控えください」とのことでしたが、秋山さんがわかりやすく指揮棒を扱っていらしたので拍手は起こりませんでした。

【ブラームス:交響曲第3番ヘ長調】
ただ・・・私はこのオーケストラを聴くのは初めてだったのですが、なんというかちょっとハラハラさせられる演奏で・・・。なかなか音楽に身を預けきることができなかったんです(直近で聴いた生演奏がコンセルトヘボウホールでのコンセルトヘボウ管だったのもよくなかったのかもしれない)。
なので一楽章と二楽章はあまり演奏に集中できなかったのですが、三楽章からはフワッと気分が上昇し、その後は最後まで大変楽しむことができました。四楽章の情熱的な主題の音も頑張ってる感は出ちゃっていたけれど、ライブ音楽としては熱くて楽しかった。秋山さん、盛り上げてくださりましたね~。やっぱりブラームス好きだなー。

(20分間の休憩)

【ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調】
舞台に登場したフレイレは、いつものニコニコ笑顔ではなく、控えめな表情。広島の災害のことを気にしてくださっているのかな。
さて、昨年の飯守さん×読響のアグレッシブなブラームスがあまり好みではなかったのは当時ここに書いたとおりで、でもフレイレのスピードアップにはよく対応されていたし、フレイレも楽しそうでしたし、あれはあれでいいコンビなのかもと感じたこともここに書いたとおり。
今回広島まで聴きに来たのは読響よりもう少し闘争的でないオケの音でフレイレのこの曲を聴きたかったからで、確かに今回の広響の演奏は闘争的ではなかったのだけれど・・・・・、今度はフレイレの自由気味なペースにオケがついていけていなかったような
読響とのときと比べるとフレイレがとても弾きにくそうで、最初がそうなのはこの人には珍しいことではないけれど、今回はなかなか回復せず、結局フレイレが自分のペースに乗りきることができないまま、オケとピアノが完全には溶け合うことのないまま、最後までいってしまったように聴こえたのでした。
あるいは、このホールのピアノがフレイレと相性が良くなかったのだろうか

前から数列目という真ん前でフレイレのこの曲の演奏を聴くことができたのは嬉しかったなぁ。大好きなフレイレのブラームス、たっぷり堪能いたしました。
いろいろ書いてしまいましたが、何よりも、この日、原爆投下の前日の夕べに、広島で、広島交響楽団が世界の平和を祈って演奏をすることに大きな大きな意味があるのだと思いました。全てを演奏の上手下手で測るのではなく、そういうささやかな特別さも大切にしないといけないのだと。平和資料館で日常を突然奪われた人達に触れ、また豪雨災害で亡くなられた人達の中にも今日のコンサートを楽しみにしていた人がいたかもしれないと思い、強くそう感じました。

アンコールの1曲目はパデレフスキの「ノクターン」。それから止まない拍手に再び登場して、グリーグの「トロルドハウゲンの婚礼の日」。どちらも今日も素晴らしかった。。。トロルドハウゲンは、中間部の甘いメロディに変わる瞬間の空気の変化にいつもうっとりしてしまいます。しかしなんとなく予想はしていたけれど、やはり今回はグルックは弾かなかったですね。

最後は、舞台袖からフレイレが秋山さんの手を引いてお二人でご登場。なんだかほのぼのと可愛らしかった

フレイレ、次はいつ日本に来てくださるのかなあ。。。お早い来日をお待ちしています







ロビーのピースメッセージ(広響twitterより)。PAZってポルトガル語のPeaceなんですね。


いいお写真




平和記念資料館の本館はリニューアル工事中でした。


先にリニューアルを終えた東館。本館の展示物の一部もこちらで見ることができました。久しぶりに訪れましたが、すっかり綺麗になっていて驚いた


式典の準備が進む記念公園。リハーサルなどが行われていました。








アウシュヴィッツのときと同じで、こういう明るい空の下でこうして多くの人がこの場所を訪れているのはいいことなのだと感じました。


平和記念公園の近くで食べたランチ。牡蠣穴子御膳。穴子めしをお出汁で食べるのがすんごく美味だった 牡蠣もミルキー。



瀬戸内海の「毒ガス島」はいま――加害の歴史語り継ぐ人々
ヒロシマのもう一つの側面。私達は戦争の被害者としての側面だけでなく、加害者としての側面にもしっかり目を向けなければいけないのだと、やはりアウシュシッツで感じました。日本からの見学者はユダヤ人の心情に気持ちを重ね合わせたり杉原千畝さんを同じ日本人として誇りに思ったりはしていても、一方で当時の日本がドイツの同盟国であったという事実や日本が国内外で行った非道な行為には不思議なほど興味や注意を払っていないように感じられたから…。中国や韓国がどうこうとなると話がややこしくなるのであれば、外交問題と切り離して考てみればいいと思う。私達一人一人が戦争に思いを馳せるときは、犠牲者の正確な規模などは専門機関の調査に任せ、不明な点は不明なままでいいではないか、と。それでも向き合えるべき事実は沢山ある。平和資料館にあった展示ひとつでも、原爆が投下された直後に現地調査を行い貴重な資料を残した日本人科学者達は、戦中には軍の指示により原爆を研究していたという事実。被害者でもあり、加害者でもあるという事実。もうあれから73年がたっているのだ。自虐的になれというのではない。そうではなく、自分達にとって心地いい面だけでなく、心地よくない面も含めた物事の多様な面を感情的にならず冷静に見つめられる視野とバランス感覚を身につけられなければ、同じ悲劇は必ず繰り返されると思う。それは日本人に限ったことではなく、世界的に必要とされる感覚だと思うのです。ナチスドイツの完全なる被害者のようにみえていたポーランドやオランダも、実はユダヤ人との関係では同時に加害者としての側面もあり、彼らもそういう問題を抱えているのだということをあの旅行によって知ることができました。

Nelson Freire plays Schumann/Liszt 'Widmung' for Martha Argerich

今回フレイレが広響と演奏することになったのは、トリフォニーホール繋がりだけじゃなく、アルゲリッチの紹介もあったりするのかしら。
0:33あたりからの演奏の膨らみ、素晴らしいですね~。この部分、アルゲリッチも喜んでいるようだが、何を言っているのかはわからず。演奏後のスペイン語?の会話をgoogle翻訳してみたけど、フレイレは「never played」と言っていて、アルゲリッチは「どうして?素晴らしいのに!好きではないの?」と。この曲の演奏自体のことを言っているのか、ある種の弾き方のことを言っているのか、あるいは別の意味があるのか、google翻訳ではわからない・・・。DVDには英訳があるらしいのだけど、入手に至らず この曲(シューマン=リストの献呈)、最近はアルゲリッチがアンコールで弾いていますね。

Nelson Freire on his love of piano, cinema and jazz - musica

文字起こしは、こちら
His love-story with the piano started as a young child with his first teacher in Rio, Nise Obino, a former student of a pupil of Liszt. 
“I was lucky enough to meet someone. Like everything in life, music works through love – maybe it’s something to do with my star sign, I’m Libra, they say it’s the sign of love – so, I loved that teacher very much and I would have done anything she asked of me,” he told our reporter, Lise Pedersen.

私もてんびん座です~♪(誰も聞いてない)
そしてHe gets nervous before each concert.と。フレイレが毎回スロースターターに感じられるのは、実は本当にそういう理由によるのかしら。トリフォニーホールの子供達が言っていた印象が実は一番合ってたりして。

※インタビュー:WELCOME RETURN TO AUSTRALIA: Brazilian Pianist Nelson Freire(2016年9月)
フレイレは”Chopin devotee”であると。昨年のソナタも、とってもよかったですもんね~
“Chopin? How sad would be the world without him. It’s music that touches everyone’s heart no matter which part of the World. He was maybe the best thing that happened to the piano for in his hands the piano was no more a percussion instrument but became a singing one”. 

Comment    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ネルソン・フレイレ ピアノ... | TOP | 眠れぬ夜に »

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。