風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ピエール=ロラン・エマール ピアノ・リサイタル @紀尾井ホール(3月21日)

2019-03-22 00:24:05 | クラシック音楽



1年ちょっとぶりのエマールのリサイタルに行ってきました。
会場に着くと当初の曲順から変更になっており、ナッセンとベンジャミンが入れ替わりに。

※2階BR1列目

【オリヴァー・ナッセン:変奏曲 Op. 24 (1989)】
前半3曲はエマールお得意の現代曲のプログラム。youtubeで予習したときは「・・・みんな同じ曲に聴こえるんだけど~ どこがカノンでどこが変奏やら全然わからないんだけど~」と早々に挫折。しかし生で聴くとみんなちゃんと違う個性の曲に聴こえるという現代曲生演奏マジック。
ていうかエマールの現代曲の演奏は本当にいいよね。特に贔屓のピアニストというわけではないので普段彼の録音を聴くことは殆どないのだけれど、一曲目の演奏が始まった途端にオペラシティでの『幼子イエス~』の音が一瞬で蘇ってきて、他のピアニストと同様にやはりエマールにはエマールのはっきりとした個性があるのだな、と実感したのでした。
この曲は結構楽譜をガン見しながら弾いていた感じなのに、完全に自分の音楽にしているように聴こえるのだからすごいものだなあ。鮮やかだった。
ナッセンは昨年亡くなったそうで、今回の演奏は追悼の意味もあったようです。

【アントン・ウェーベルン:変奏曲 Op. 27】
一方、こちらは私にはハードルが高かった
youtubeではポリーニもグールドも弾いているしきっと何か魅力のある曲なのだろうと思うけれど、どういう風に楽しめる曲なのか正直良さがわからず

【ジョージ・ベンジャミン:シャドウラインズ ─ 6つのカノン風前奏曲 (2001)】
これはエマールが初演した曲なんですよね。なので当然ながら完全に”彼の音楽”となっている安定の演奏。第三曲以降が特によかったな。第五曲は圧巻でした。
今日の演奏を聴いて思ったけれど、エマールは最後の一音の響かせ方がとても丁寧で美しいのですね。最後の一音の響かせ方が綺麗なピアニストって沢山いて、それぞれに個性があるけれど、エマールのそれにも独特の個性を感じました。心を感じさせる音というよりは、その音の響きに世界がある感じ。抽象的でスミマセン 覚書として。

(休憩20分)

【J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988】
私はエマールのバッハは録音でも聴いたことがなかったので、初っ端のアリアから「おお、エマールはこういう風にバッハを弾くのか!」と吃驚。
まず拍子のとり方が独特(うまく言えないけど、等間隔ぽい感じ)。そして打鍵が柔らかくなく強めなので、カノンの部分はよくわかる。もう少しフランス的な軽い感じに弾くのかと想像していたのだけれど、考えてみるととてもエマールらしいバッハ。
しかしその強めの音のために途中から耳が痛くなってきてしまい、また基本的に全ての変奏を同じようなニュアンスで演奏するので、ずっと聴いていると飽きてくる。和声もかっきり綺麗に響かず、微妙にばらけて聴こえ(エマールは和声の演奏があまり得意ではない?)。

はっきり書いてしまうと、こういうゴルトベルクはコノミデハナイ・・・。

というわけで早々に目を閉じてウトウトとBGMのように聴いていたのだけれど(BGM向きの演奏ではなかったが)、21変奏あたりからなんとなくいい感じに音が変わってきたような?となり、26変奏辺りになるとなにやらただならぬ空気を感じて舞台に目をやると、エマールがのめり込んだように弾いていたのでありました。おお、音楽がいい感じに活き活きしてる。良い意味で響きまくってる。こうなってくると、なんだか楽しい。好みではないが、こういうのもありかもしれないと思えてくる。ゴルトベルク変奏曲THE LIVE、みたいな。そういえば『幼子イエス~』のときも、15曲目辺りからこの人はトリップ状態のような音を出していたのだった。エマールってそういうタイプなのだろうか。休憩なしで75分も弾いていると相当疲れると思うのだけれど(全てリピートあり)、後半になるほど音が活き活きしてくるとはすごいバイタリティだなあ。あるいは疲れてくる頃ゆえに力が抜けていい感じにトリップ状態になるのだろうか。ご本人にとって本意か不本意かはわからないけれど、私はエマールのこういう音が結構好きです。
最後のアリアもいい感じに力が抜けていて、でも変わらずエマールらしさも残した音でよかった。例のアルペジオは、1回目が上↘下で繰り返し時が下↗上でした。
聴き終わってみると、それを弾くピアニストの数だけゴルトベルクもあるのかもしれないな、と感じることができました。バッハの音楽の懐の深さですかね。

ところで現代曲とバッハの組み合わせってよくあるプログラムなのかしら。
ムローヴァのときも思ったけれど、どんなに現代曲が素晴らしくても、バッハを聴いてしまうと「やっぱバッハ最強」となってしまうのは、いいのかわるいのか。今日のリサイタルも、エマールの演奏自体は前半の現代曲の方が絶対的に彼の良さが出ていたと思うけれど、作品自体はバッハを聴いてしまうとやっぱりバッハ最強と感じてしまう。300年近くも前の音楽なのにすごいものだなあ。ボイジャー搭載のレコードにバッハが多いというのもさもありなん。現代音楽には感じられない長閑さも好き。
※追記:エマールの最近のコンサートカレンダーを見たのですが、ゴルトベルク1曲だけの演奏会が殆どなんですね。今回の東京は大サービスだったのだなあ。エマールさん、ありがとう。
※追記2:本日3月21日はユリウス暦のバッハの誕生日なのだそうです!

紀尾井ホールに行ったのは初めてだったのですが、永田町からとても近いんですね。いつも国立劇場方面にばかり行っているので知らなかった。そして隣はホテルニューオータニ。あの『リヴィエラを撃て』のめっちゃ重要な場面の舞台ではないですか(といいつつちょっと記憶があいまいだけど)確か庭が重要なのよ!
そんなわけで、帰りは道を渡ってテクテク日本庭園へ。桜が咲いていて、気持ちい~。ていうか思っていた以上に広い本格的な庭園でびっくり 滝まである。椿山荘もそうだけど、さすが歴史あるホテルは庭も違いますねえ。そして改めて高村女史のこだわりぶりに脱帽。リサイタル後のちょっと嬉しいオマケでした

エマールが語るバッハ《ゴルトベルク変奏曲》


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