先週は四国こんぴら歌舞伎に遠征し、前日は赤坂で『赤目の転生』を観て、さすがにだいぶ観劇疲れがありましたが・・・、吉右衛門さんの『吃又』と藤十郎さんの『帯屋』の二つはどうしても観たくて、体を引きずり引きずり行ってまいりました。今回は幕見発売10分前に行ってちゃんと座れた
【傾城反魂香(けいせいはんごんこう)】
吉右衛門さんの又平が絶品。。。。。。。。。。。
ほんの一週間前に金毘羅でニザさまの至芸を観たばかりなのに、今度は歌舞伎座で吉右衛門さんの至芸。幸せだぁ。。。。。
昨年末の国立劇場の仮名手本の時に急にお年を召されたように見えたので、もうこのままお元気な吉右衛門さんは観られないのだろうか…とか実は密かに思ってしまっていたのだけれど、1月の沼津も今回の吃又も本当に素晴らしかった。
沼津でもそうだったけど、こういう役の吉右衛門さんって見ている側が「可哀想」と感じてしまう雰囲気があるんですよね。胸がきゅーと締め付けられてしまうような。なんでだろう。
自害しようとするときも、今回も本当にこのまま死のうとしているように見えた。リアルな演技も大袈裟な演技もしていないのに。
そしてそして、最後のあの晴れやかさ
ああ、吉右衛門さん・・・!!!(もう言葉がない)
今回涙を誘われた理由のもう一つは、菊之助のおとく。
わぁ・・・・・、菊ちゃんてばいつのまにこんな情のある演技をするようになったのでしょう!吉右衛門さんとの共演が増えた結果なのだろうか。
花道の物見の場面。舞台中央では、雅楽之助(又五郎さん)の注進を聞く将監(歌六さん)と将監北の方(東蔵さん)。花道では、き真面目に物見をし続ける又平(相変わらず瞬きしない吉右衛門さん)。そしてその背中を後ろからずっと見守るおとく。この菊ちゃんの風情がね、又平のことをよーくわかっているのだなぁと伝わってくるの。
又平が修理之助に「自分に行かせてほしい」と頼むときも、最後の舞のときも(吉右衛門さん、何もかもがお見事すぎ)、彼を黙って見守る表情から本当に又平の気持ちを理解していることが伝わってくる。
菊ちゃんの演技にこんなにぐっときて泣きそうになったのって、私はこれが初めてではなかろうか。あ、野崎村で一度あったか。
吉右衛門さんと菊ちゃんの夫婦がこんなにいいとは吃驚でした。やっぱり菊ちゃんには女方でいってほしいなぁ。。。
歌六さん、東蔵さん、又五郎さん。安定、完璧、文句なしです。あ、ただ歌六さんは「その吃りでは…」と言うべきときも「その身なりでは…」と間違えておられた。すぐに言い直されていたけど。
錦之助さんの修理之助も、とてもよかったです。この人も(というかこの場にいる皆がそうなんだけど)又平の気持ちを理解しているのだなぁとわかるから、全く嫌な感じがしない。でも優しいだけじゃなく、凛としていて。
脇がいいと安心して話に集中できるし、思う存分主役に感情移入できるのが本当に嬉しい。葵太夫さんも相変わらず素晴らしかったです。
はあ、観に来てよかった。。。。。
好きな吉右衛門さんのお役がまた一つ増えました。
ちなみにワタクシの好きな吉右衛門さんのお役は、知盛@義経千本桜、由良助@仮名手本忠臣蔵、松浦侯@松浦の太鼓、十兵衛@沼津、などなど。
主役じゃないけど、和田兵衛@盛綱陣屋もとてもよかったなぁ。もちろんニザさま盛綱とセットで。仁左衛門さんと吉右衛門さんの共演をもっともっと観たいのに、杮落しが終わってから殆どやってくださらなくて悲しい・・・。
【桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ) ~帯屋~】
昨年の1月松竹座以来の再演となった「帯屋」ですが、上方の役者による上方歌舞伎の上演が歌舞伎座では少なくなっているので、お絹はとても切ない役ですが、85歳の父と共演で和事の舞台をお見せできることは喜びです。
(扇雀さんのブログより)
長右衛門は藤十郎さん。
ワタクシの好きな藤十郎さんのお役は、吉野山の静御前、封印切の忠さん、曽根崎心中のお初ちゃん、などなど。特に封印切の藤十郎さんはすんごく好き。ものすごく好き。嫌味のないダメ男
ならこの帯屋を観ないわけにはいかないではないですか。
というわけで、疲れた体を引きずり引きずり東銀座までやってきたわけです。
やっぱり来てよかったぁ。。。。。。。。。
こういうお役の藤十郎さんにいつも感じることなのだけれど、藤十郎さんが纏っている空気って文楽の空気を思い出させてくれるんですよね。竹三郎さんや秀太郎さんにも同じようなものを感じるから、これが上方役者の空気というものなのだろうか。同じものを寿治郎さんの繁斎にも感じられて、舞台上でこのお二人は他の役者さん達と違う空気を纏っているように見えたのでした。
その対極の空気を纏っていたのが染五郎(儀兵衛)のように私には感じられたのだけど、昼の部の伊勢音頭の貢の評判が非常に良いようなので(私は観られませんでした。すごく残念)、私の気のせいかな
長吉(壱太郎)と儀兵衛の“長さん尽くし”が個人的にものすごい中弛みポイントだったので、そのせいもあるかもです。あれ、文楽でもやっていましたっけ?帯屋のこの辺りの場面、文楽(嶋大夫さん)で観たときは全くダレずにすごく楽しめたのだけれどなぁ。。
そういえば、お半ちゃんは歌舞伎では遺書を戸外に置くんですね。文楽では屋内でしたよね、たしか。これは戸外の方がいいな。屋内だと、すぐに見つかる場所に置くなんて長右衛門と心中するためにわざとだろうか?とちょっと思ってしまったから笑(今でもちょっと疑ってるケド)。
壱太郎ってどちらかというと現代的な都会っ子な空気の役者さんだと思うのだけど、お半ちゃん(二役)が想像していたよりいいなと感じました。お半ちゃんってずっと(といってもまだ14歳だけど)長右衛門のことが好きだったのよね?お伊勢参りの夜の出来事だって、意図したことではないとはいえ、お半ちゃんの意に沿わなかった事では決してなかったはずで。そしてとても若いから、死に対する恐怖心や現実感が希薄だと思うの。だから帯屋を訪れたお半には演歌のような悲愴感は不要のように私は思うので、そのあどけなさ、淡々とさえ見えるところが、壱太郎になかなか合っていて。今回の藤十郎さんの長右衛門&壱太郎のお半のカップル、私は好きでした。
そしてお絹さん(扇雀さん)があまりにも気の毒すぎる・・・・・という後味は文楽のときと同じ。あんなに素敵な女性なのに。ほんっっっと長右衛門ってダメ男
!でも憎めない
、と感じさせる藤十郎さんの至芸よ。。。。。。。。。。
ふぅ、満足満足。
やっぱり私はこういう歌舞伎らしい歌舞伎がほっとするなぁ。
普段仕事とかで疲れてるからかな(^_^;)
※ようこそ歌舞伎へ 中村壱太郎 『桂川連理柵~帯屋』