梅雨どきは散歩もままならないから美術館・博物館のたぐいで館内をうろうろする。そのつもりでも晴れ間が広がれば外を歩くのが心地いい。このところ晴れ続きだったので、上野の博物館へ行くにあたり上野駅ではなく千代田線の根津から池之端をへて上野まで歩く。途中、池之端の公園で都電の残骸を眺めたりして。
根津から500mぐらい歩くともう上野動物園の西園の入口にさしかかる。これはもう入園料を払って動物園の中をつっきり、博物館までショートカットしようと思った。どこかで早くもセミの鳴き声がすると思ったら、だだをこねる幼児の泣きわめく声が夏のセミのように聴こえただけで、さすがにセミはまだ鳴いてなかった。
動物園の生き物は、ぐったりしてるのが多い。野生の生き物も実際こんなものなんだろうか。それとも動物園に囚われの身だから、だらけてしまってこんなふうなんだろうか。ぐったり、だらけて、やる気のない動物たちを眺めていると、人間も……いや何でもない。
ちいさな猿が木の上で身を寄せ合ってぐったりしている。その中に1匹ぐらいは警戒心の強いのがいて、あたりをキョロキョロ見回している。損な性分らしいけど長生きするのはキョロキョロしないで寝てるような、ぐったりとだらけたやつらかもしれない。人間も……いや何でもない。
これはミーアキャットというやつだろう。ミーアキャットはどいつもこいつも、多くの時間を天を見上げて過ごしてる。天敵の猛禽に襲われないか警戒してるようで、とにかく上ばかり見ている。動物園の檻の中を猛禽が襲撃してくることはないと思うが四六時中とにかく天を仰いで動かない。必死な様子が悲しい。人間も……いや何でもない。
池之端をへて動物園を通り抜けたら、そこは薩長が焼き払った徳川の菩提寺があった場所。すっかり更地になった跡が上野公園として整備され、その奥に国立東京博物館がある。梅雨の晴れ間は湿度が高く、歩いていると体に熱がこもる。水分補給をまめにしないと熱中症になるだろう。
入場すると広場にコーヒー売りのクルマがいて、豆を挽いて1杯ずつ淹れるそれを買い求めてベンチで飲んだ。というのも水分補給を兼ねて気分を落ちつかせ、これから見物する特別展・古代メキシコに意識を向けるためだ。これまでの道のりはついでの散歩であり、上野動物園は通るはずじゃなかった。
クモザルをかたどった壺か何かに興味を引かれてじっくり見る。博物館は座る場所が多くて電波状況がいいから、デジタルツールを持って行けばメールとかスラックとかで着信をその都度チェックして打ち返せる。だからリモートワークに最適なのだ。家にいるより気が紛れるので、仕事の能率も上がる。
特別展のチケットを買うと常設店も見ることができる国立東京博物館はお得で、午後の時間をめいっぱい過ごしながら必要に応じて座り仕事できる。たびたび足を運んでいると気に入った展示ができるもので、カニがへばりついた焼物などは見飽きない。古代メキシコの動物をかたどった品々を眺めた後は、いつもと少し違って見える。
東洋館もついでに見ることができて本当に時間つぶしながら仕事するのにいい。殷の青銅器は縄文土器に引けをとらない禍々しさで、どこで見ても心を奪われる。青銅器も戦国時代になると既に面白くも何ともなくなり、夷狄の文化が滅びた後に漢人が覇を唱えてまた夷狄の支配を受ける「中華」の歴史(史記にならって明史まで書き継がれた)って、いったい何だったんだろうと首を傾げる。
首を傾げたり仕事をこなしたり、就業しながら時間をつぶす。天気がよかったから、山にでも登ろうかと思わなくもなかったが、山なんか登っちゃうと仕事にならないので博物館内をうろうろするぐらいが丁度よかったと思う。
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