散 歩 B L O G

歩くことが唯一の趣味ですから。

首都圏外郭放水路

2024-03-10 | Weblog

いつか行こうと思いながら、なかなか行くチャンスがない場所のひとつ「首都圏外郭放水路」へ行ってきた。どこにあるのか、よく知らなかった(埼玉だろうぐらいの認識だった)場所……たしかに埼玉の畑の中、というか野原の下にそれはあった。春日部のほうといえばイメージできるだろうか? 住所で表現すると、千葉県野田市宮崎……千葉じゃん!

春日部の道の駅・唱和の資料館で見たパネルによると、利根川・江戸川・荒川といった大きな川にはさまれた埼玉の一部(中川・綾瀬川流域と呼ばれる地域)はお皿のように窪んだ地形で、大落古利根川・倉松川・中川などの支流が緩やかに流れており、昔から洪水の被害が絶えなかった。そこで支流のそばに縦抗を掘り、縦坑をトンネルでつないで江戸川に近い調圧水槽に水を送って、ポンプで江戸川に流す放水路を地下に作った。

それが首都圏外郭放水路で、調圧水槽を「地下神殿」になぞらえて、見学者を受け付けている。洪水の心配がないときは水槽が空なので人が入っても大丈夫らしい。特撮番組や映画、音楽のプロモーション映像のロケに利用されることも多いと聞く。それで、なんとなく見覚えがあるんだろう。全長6.3kmのトンネルは国道16号線の地下およそ50mのところを通してあるという話だ。

見学者はこのような小屋(に見える地下神殿の入口)から階段を百段以上、自力で下りて自力で上がらなければならない。そう聞くと大変そうだが、地下50mと思ったら大したことないようにも感じられる。山登りで「あと50m」といったら、もうちょっとでたどりつく場所という感覚だから。もっとも、山登りと比べるほうが変なので、足腰に自信がない見学者を戒めるための「百段以上、自力で」なのだろう。エレベーターやエスカレーターはない。

重機はこうやって立坑を下ろしたり、立坑から吊るし上げたりするそうだ。昔、ぼやき漫才の人生幸朗・生恵幸子が「考えると夜眠れなくなっちゃう疑問」として地下鉄はどうやって穴に入れるのか、責任者出てこい! 的なネタをやっていたことを薄っすら覚えている。こうやって穴に入れているのかもしれない。

この穴の上では少年がスケートボードをやっていた。下は奈落で、およそ50mポッカリ口を開けていると知ったらスケートボードやってる足がすくみそう。知らぬが仏とはまさにこのこと。知っててやってる、ということはあるまいね。

階段はくねくね曲げてあり踊り場がたくさん設けてあるから、もし足がすべったとしても50mまっすぐ転がり落ちることはない。トントン下りてくると「地下神殿」が広がっている。高さ18m、幅78m、長さ177m。ガンダムが高さ18mだから、ホワイトベースの格納庫がだいたい「地下神殿」ぐらいかもしれない。それぐらいのスケール感といえばわかりやすいだろうか、わかりにくいだろうか。どうだろうか。

河川が氾濫しそうになって施設に水を取り込むのは、年に平均7回程度。どうしても水と一緒に土砂も入り込み、ポンプで排水したあとも床に数㎝土砂がたまる。見学エリアは手作業で土砂をよけて客を入れる。平均して年7回程度、お客さんのために土砂を(部分的に)どけて、歩きやすくしてあるわけだ。年末に重機を使って全体の清掃を行うらしい。

いわれてみると見学エリアの端から向こうに土砂がたまってる。このまんまでも歩けないことはないが、泥の状態だったら嫌だ。もっとも、汚れてもいい防水シューズ(山歩き用)を履いてきたので、きれいに土砂を取り除いた見学エリアを目にしたときは、ちょっとだけ残念に思った。だからといってエリアを越えて土砂の上を歩くようなことはしない。係員に怒られたくないから。

見学エリアの高さ18mの柱に何か表示してある。上のパネルは「定常運転水位」……あの水位を超えないところまで、調圧水槽に水を溜める。水位を超えそうになったらポンプで排水を急ぐ。台風のときなどはフル稼働しないと、あの水位を超えそうになるらしい。下のパネルは「ポンプ停止水位」……江戸川への排水はあの水位まで水が下がったら止める。残った水はトンネルを通し、別の縦坑からポンプで排水する。そんなことが、平均して年7回程度ある。

そんな作業を管理する場所がこちら。モニターに何やら施設の様子が映されている。「地下神殿」もロケ場所に使われるけど、この管理室がロケ場所として使われることもある。窓ガラスに『翔んで埼玉2』のワンシーンが例として掲げてあった。

「甲子園監視システム」ということは片岡愛之助が率いる大阪陣営が他県の人間を強制労働させている甲子園の地下の様子をモニターする場所だろうか?

ここは千葉県野田市宮崎だけど。

TBSドラマ『下町ロケット』で操作室がロケに使われました! 日テレドラマ『大病院占拠』で操作室がロケに使われました!! TBSドラマ『マイファミリー』で操作室がロケに使われました!! ロケ場所みつけるのも大変だろうな。

ロケ場所としての用途にとどまらず、地下の大神殿は春日部の暮らしと産業を支えているようだ。国土交通省による誇らしげなパネルが施設内に掲げてあった。水害が軽減されたことにより、企業の誘致が進んで物流倉庫やショッピングセンターが立地したという。

管理室は地下ではなく地上にあり、窓から外を眺めると見渡すかぎりのどかな風景が広がっている。地面にある円形のものは、第1工区トンネル1396mを掘ったシールドマシンの面板で、外径12.04m重さ120t。固い土を掘るカッタービットと呼ばれる刃が688個ついてると、近くで見た立札に書いてあった。

 

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バス散歩

2024-03-02 | Weblog

前回しょっぱなからコースをはずれたので東42からやりなおし。東京駅八重洲口(南口)のバス12のりばで待つ。雨降りだからバス散歩には、むしろ好都合。なんにも用事がないけれど、南千住車庫前行きに乗って阿呆みたいに揺られる。

アメリカ大陸を縦横に結ぶ、低所得層の交通手段グレイハウンドバスに乗りたいと思っても、アベノミクスで円の価値は下がり、日本人の資産が大幅に目減りしたから、おいそれと低所得層のバスにも乗れない。東京の路線バスで我慢するしかない。

バスが日本橋をゆくとき、灰色の窓に寄りかかって見慣れた景色を少し高い位置から眺めると、普段の東京と少し違って見える。まるで観光に来たようではないか。地方の都市で路線バスに乗ったときの感覚を催す……知らない町を走ってみたい、どこか近くへ行きたい。

浅草が近づいてくると、すぐ前をはとバスが走行する。浅草寺にでも行くんだろうか。それとも浅草演芸ホールにでも? あのバスの中では初々しいバスガイドさんか、ベテランのバスガイドさんが、マイクで何やかや東京案内のおしゃべりをしていることだろう。こっちは路線バスだし、お客さんも少ないから静かに前進あるのみ。

人力車の群れが路上をゆくのが見える。こうして路線バスの車窓から東京を眺めるのもまんざら悪くない。雨降りで寒い日だから、人力車で凍えるよりバスに揺られてるぐらいのほうがいいかも。最高気温、3度とか4度とか。数日前は突然22度ぐらいあったのに。

泪橋のバス停で降車ボタンを押してバスを下りる。ちばてつやの漫画『あしたのジョー』の冒頭でかなりのページ数を割いて、物語の導入として泪橋のドヤ街の描写があったのを覚えている。丹下のおっちゃんや矢吹丈がどんな吹き溜まりからボクシングで世界をめざすのか、しつこく泪橋を描いてあった。

これが泪橋の交差点。いまはもう橋がない。江戸時代、小塚原の御仕置場へ処刑されに行く罪人たちがあの世に去ることを悟り、涙を流して渡った橋だから涙橋=泪橋というそうだ。さすがにいまはもう、袖を濡らしてる人はどこにもいない。何の用があるのか車がビュンビュン走るだけ。

南千住車庫前バス停まで歩き、そこで上野松坂屋前行きバスを待って乗る。グレイハウンドバスに乗るとアメリカの低所得層の息づかいを感じることができるそうだが、東京の都バスに乗っても低所得そうな乗客の息づかいのようなものは感じられる。手ぶらで乗り降りする東南アジアの若者たちは、どこに何の用があるんだろう?

キャリーバッグを持って都バスに乗り込むのは旅行者なんだろうけど、どことなく低所得そうな雰囲気が漂う。そもそもキャリーバッグが安物っぽい。それはいいけど、なんでまた南千住からバスに乗るのか? これからどこへ行って、何を楽しむつもりなのか。あるいは稼ぎに行くのか。

日本のお年寄りも都バスに乗ってくる。高齢者はバス料金が無料になるか優遇されるからバス移動するんだろう。あんまり日本の若者はいない。低所得そうなんだけどな若者も……。奨学金がいつのまにか学資ローンに化けて20年、社会に出る前に多額の借金を背負うケースが多くてバブル後の氷河期世代なんかより過酷だと聞く。

吉原に身を沈めて学費を捻出する学生も多いとか。廻れば大門の見返り柳いと長けれど、と樋口一葉の「たけくらべ」に出てくる吉原大門のバス停が近づいてきた。目を凝らしてよく見ても、どれが大門でどれが見返り柳かまったく分からなかった。いまはどっちもないんだろうな、たぶん。

そうこうするうちにバスは走行して上野界隈をすぎてゆく。バスに乗ってるのも飽きてきたけど、おとなしく終点の上野松坂屋前まで乗っていく。せいぜい2時間弱なのに飽きちゃうとは長距離移動のグレイハウンドバスなんて無理そう。御徒町で古着屋をのぞき、別に何も買わず地下鉄で帰った。

関連記事: アルプスからバスで

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