特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ちょっとドキッ!

2006-07-21 09:21:17 | 遺体処置
遺体の眼がパッチリ開いていたとき。
薄目を開けている遺体は珍しくはないし、完全に目蓋を開けている遺体も少なくない。
その多くは、筋肉の緊張がなくなったり、腐敗が進行することが原因で眼球が下がることによって起こる現象。
この状態の目蓋を閉じるにはちょっとした技術が必要。
薄目ならともかく、パッチリと眼が開いた状態はさすがの遺族も気味悪がる人が多い。
そう言う私も面布(遺体の顔に掛ける白い布)を取った瞬間、ちょっとドキッ!とする。
そして、私の経験では100%の遺族が「閉じてくれ」と依頼してくる。
やはり、「遺体は眼を閉じているべき」という先入観があるのかな?

ロープがぶら下がっていたとき。
遺族もなかなか言い出せないのだろう、自殺現場だと知らされずに現場に出向くことがある。
床などの汚染部分に目を奪われていて、突然、ぶら下がったままの首吊ロープを見つけたら、ちょっと引く。
無神経な私は思わず「自殺ですか?」とストレートに訊いてしまう。
訊いた後で「もっと気を使った言い方をすればよかった」と思うことが多い。

遺体を落としてしまったとき。
親しい知人の母親が亡くなったとき、遺体を病院から自宅に運んだ。
車から遺体を降ろすとき、ストレッチャーの脚がうまく伸びずに担架ごと地面に遺体を落としてしまった。
遺族からは「キャーッ!」と悲鳴が上がったと同時に私も声にならない悲鳴をあげた。
遺族の一人が親しい友人だったことが不幸中の幸いで、謝って済ませてくれた。
これが、謝るだけじゃ済まない相手だったら・・・と思ったら今でもちょっと冷汗もの。
(7月8日掲載「そこのけ、そこのけ、死体が通る」参照)

遺体が声をだしたとき。
遺体の口腔内にはガスや空気がたまる。
遺体を動かすときにそのエアが口から漏れることによって、声を出したように聞こえるときがある。
そんな遺体には「生き返るかもしれない・・・」という妄想が頭を過り、しばらく作業を止めてしまう。
もちろん、私の経験には遺体が生き返ったという事例はないが。
やはり、声が聞こえるとちょっと手を止めてしまう。

遺体が温かいとき。
普通の人は温かくて柔らかいのが人間だと思っている。
私にとっては冷たくて硬いのも人間。
しかし、遺体は冷たくて硬いものばかりではないときがある。
亡くなってから間もない人や保温性の高い状態で安置された人などは、体温が温存されていることが多い。特に、外気に触れにくい背中は。
普通の人は冷たくて硬い人を触るのには抵抗があると思うが、私は温かくて柔らかい人にちょっと抵抗感を覚える。だって、その人は死んでる訳だから。

車にウジがいたとき。
作業を終えて後片付けを済ませて帰途につく車に乗ったら何故か座席にウジが這っている。
「なんでこんな所にウジがいるんだ?」「俺が連れてきたのか?」と思ったら、急に気持ち悪くなる。
見える範囲で自分の身体を見回す。
ウジって、居るべき所に居る分には何ともないけど、居そうもない所にいきなり発見するとちょっと気持ち悪い。

街から腐敗臭がしたとき。
悪臭には色々なものがある。各種のゴミや排気はもちろん、挙げていけばきりがない。
腐乱死体臭はその最たるものかもしれない。
そして、その臭いを嗅ぎ分けられるのは限られた人間。
たまに、何気なく歩いている街からその臭いを感じることがある。
そのほとんどは気のせいにできる程度なのだけれど、確信を持てるレベルの濃い臭いを感じることがある。
深入りしないのは冷酷・無責任なのかもしれないけど、迷わず不介入。
でも、心臓の鼓動はちょっと高くなる。
(7月11日掲載「液体人間」参照)

トイレが真っ黒だったとき。
長~く掃除しないでいるとトイレというものは真っ黒になる。
便器はもちろん、床・壁・天井に至るまで真っ黒の黒!!
その黒さは色を塗ったのかと見紛うくらい。
その正体はカビ!恐るべし!

腐乱現場のドアを開けるとき。
腐乱現場のドアを開けるときちょっとドキドキする。
中がどんな状況になっているか分からないから。

分からないからドキドキする。
分からないからワクワクする。
長く生きたって80年そこそこ、終わってみれば短いはず。
人生は、先のことが分からないから面白い。

さて、次のドアの向こうには、どんな未来が待っているのだろう。
ドアの隙間から流れ出ている腐敗液が、私を一層ドキドキさせてくれる。

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