安倍首相が目指す「美しい国ニッポン」像は、どこか一般国民の感情とかけ離れている気がしてならない。今夏の参院選を制し、安定政権を樹立しないと実現出来ないとの思いから妥協を重ねているのかも知れないが、力強いメッセージが感じられない。
先日、テレビで「常磐ハワイアン・センター」の誕生秘話を特集していた。1966年にオープンし40年経ち、今年入場者数5,000万人を突破したという。常磐といえば、かつての炭鉱の町。エネルギーを石炭に頼っていた時代に国策として栄えた点では、夕張と同じだ。
30数年前、東京勤務時代に新聞やテレビで「常磐ハワイアン・センター」の宣伝を見るたびに「どうして東北にハワイなの?」か理解できなかった。40年前といえば、日本とホノルル間の航空運賃は22万円もした。当時の学卒の初任給は3万円前後だからハワイ旅行は夢のまた夢だった。地元の人間だけでフラダンスやポリネシアン・ショーを演じると言う企画。しかも、雪が多く寒い土地柄にはハワイは似つかわしくない。この常識を超えたユニークな発想と英断が、消え行く炭鉱の町を支えたのだから見事だ。
また、北海道ニセコスキー場には、オーストラリアから8000人近くのスキー客がやって来る。パウダー・スノーと温泉が大人気。一部の富裕層中心だが、彼らはヨーロッパへ行くよりも日本を選んだ。地元石川県の和倉温泉でも、「自然と食と温泉」を一体化した誘客運動が功を奏し、台湾からの観光客が年々増加している。
これらは、いずれも地域の強みを活用したものだ。一時乱立気味だったテーマパークはいずれも赤字だ。異国の文化を持ち込んで成功した例は、常磐と東京ディズニーランド以外には無い。それぞれの地方のユニークさをベースに、いかに付加価値を高めるかが大切だ。イメージ先行の政府に頼らず、地域独自のアイディアを練り上げる不断の努力が「美しい国」を創る礎になると確信する。