知人の大工さんに今度の物件を見てもらおうと、売り主さんとも明日の午前中で調整すると先日お話ししてきた。
それからその大工さんのご自宅に何度も電話したのだがつながらなかった。
朝の7時から夜の10時頃まで一時間おきくらいに。
最初の日は、奥様とお仕事でお忙しいのだろうなと思った。
むしろお元気なのだろうなと安心した。
翌日になってもずっとお出にならない。
呼び出し音は鳴っているから使われていないわけでもなさそうだ。
いやぁどこかお泊まりのお仕事かご旅行なのかな?、と、でも少し不安も。
ついに今日になって、(以前にも遊びに行ったことがあるので)隣の市のご自宅へ直接うかがってみた。(置き手紙も用意して)
彼は一匹狼の大工さんなので、彼を知っていそうな第3者も僕らは知らないのだ。
数年ぶりにうかがったご自宅はすでに別の方のお名前が。
ご近所の方に聞き込みすると、二年ほど前に転居されたとか。
住所まではわからなかったが、彼の娘さんの嫁ぎ先の会社を覚えていて教えて下さった方がいた。
早速その会社に電話。
そして先月お亡くなりになったことを知った。
彼の名は宮澤さん。もう80近かったのではないか。
彼の名前を知ったのはもう10年以上前。
僕が隣の市の住宅街で、チェリーと本格的にひきこもっていた頃。
そう、駐車場まで床下からトンネル掘って行きたいと思うほどの頃。
ポストに入っていた一枚の手作りのチラシ。
そこには「小さな大工仕事承ります」と。
そのチラシを僕は大切に保管していて、8年前今のこの家を借りるときに、初めて宮澤さんに電話したのだった。
すぐ快く一緒に見に行って下さって、「大丈夫、つくりはしっかりしている、借りときな。」と言って下さった。
そしてここへ転居した時には、ベコベコになっていた浴室への入り口の床や、押入の板などを補修していただいた。ついでに余った板で、お風呂場の腰掛け用の板も作ってもらった。
そうそう、元からあるこの家のお風呂は、一人用なのかとても小さく、でも洗い場は広いので、宮澤さんにステンレスの浴槽(二人一緒に入れる大きさ)を安く調達して頂いて、僕らはそのお風呂を(元からある浴槽にその板を置いて腰掛けにし)8年間使ってきたのだった。
おもと(万年青)と言う縁起物の植物も、引っ越し祝いに下さって庭に今も植わっている。
奥様は特に大工仕事の助手をするわけではないのだが、常に宮澤さんの仕事場について歩いて、色々なお宅や周辺を見て回られるのがお好きとおっしゃっていた。
宮澤さんは、以前は自分で建築会社を経営していたそうだが、(おそらく誠実に正直にやり過ぎた結果)倒産させてしまったとかお聞きした。
それで、彼は一人大工となったのだ。
昔気質の誇り高き頑固親父職人である。
僕がわずかな手間賃を出すと、「ありがとうございます」と最敬礼して受け取って下さったのが忘れられない。
僕はそれからずっと、いつの日か彼にもっと大きな仕事を頼みたいと思ってきた。
1、2度御夫妻のご自宅にもうかがったことがあったし、ホームセンターでは何度かお会いして「元気でやってますか?」「相変わらず鳴かず飛ばずで」などと立ち話をしたものだ。
その後は娘さんの自宅も一人でお建てになったとか。1級建築大工技能士、職業訓練指導員の資格もお持ちだった。
年賀状も毎年やりとりしていたけれど、そう言えば今年は来なかった。
今回やっといい家が見つかりつつあり、彼に見てもらってサンルームかウッドデッキのお仕事を依頼しようかと、きっと喜んで下さるのではないかと思っていたのだが、一ヶ月遅かった。
それが悔やまれてならない。
さて明日の建物調査を控えて、肝心の大工さんがいない。
それで、久留里のSさんを思い出した。(今度の家は久留里のそば)
この方は本業は神主だが、絵の先生でもあり、こいけが以前近くの公民館でのSさんの絵画教室を受けて以来の個人的おつき合いの方。
このおじさんも偉い変わり者で、神主なのにクリスマスにはイルミネーションやったり、暮れには保育園を借りて、毎年弦楽四重奏のコンサートを催したりと、町の顔役である。
(この方にもずっと借家探しをお願いしてきた。)
それで急いでSさんのご自宅へうかがうと、ちょうど出入りしている大工さんもおられて(!)、とんとん拍子に明日の調査を引き受けて下さった。
そう言えば、今度の家は山を背にした小さな神社の真横。Sさんはそこの担当ではないがよく知っているとか。
また、今度(ってまだ決まったわけではないが)の家は、大手建設会社施工のプレカット工法による2×4住宅なんだけど、そのプレカット工場の地鎮祭もやったとか。驚き。
う~んタイミングだなぁ。
いよいよこの物件、縁があるような気がしてきた。
これも宮澤さんのお導きかと思う。
もしあの家を本当に買うことになったら、必ずや(8年こいけと使った)宮澤さんの浴槽も持参し、なんらかの形で今後も利用させて頂くことを誓った。
万年青も掘り上げて植え替えようと思う。