団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

ここはどこ?

2010年04月28日 | Weblog
「あら、先生お久しぶりでございます。お元気でいらっしゃいましたか?」 身なりの良い、痩せた背の高い女性が、杖を脇に座っている70歳はゆうに越している小柄な女性に話しかけた。ただの挨拶かなと思った。ところがこの二人、井戸端会話のように「○○さん入院されて手術受けられたことご存知ですか?」「まあ、あんなにお元気でしたのに」 中々終わりそうもない。ここは町立図書館の閲覧室であって談話室ではない。私の他に男性2人、女性一人が読書中だった。日本人は“先生”という言葉に弱い。弱いというか、先生に意見してはならない、と信じ込んでいる。身なりもそれらしく、風格もある。分別があって当然の年齢に充分達している。しかし中々、“先生”と言葉丁寧な“山の手婦人”の会話は、途切れない。遂にはお互いのご子息、お孫ちゃんの留学だか海外赴任のお話に移った。電車の中なら、私も興味を持って「フンフン、なるほど、それからどうした」と聞き耳を立てるのだが、ここは図書館の閲覧室だ。

 「お話は別な場所でお願いします」と私は懇願した。先生と呼ばれていた老婦人の手が杖に伸びる。私は、手打ちにされるのかと身を固くした。中々の鋭い眼力。私のショボショボ目に久々の敵意が飛び込んだ。背の高い婦人が「申し訳ございません」とばかに「ん」に鋭いハネテン口調で答えた。冷たい。シベリアの寒気団並みの心のないお言葉。周りの男性女性に助けを求めるような私の弱気の流し目。「だから触らぬ神に祟りなしなのに」の視線が無視を決め込んだ顔の傾き角度にのせられて帰ってきた。できればカウンターにいる図書館職員がもっと早く注意してくれれば、と後悔した。壁の「私語はご遠慮ください」「図書館内で他の方の迷惑行為を禁じます」「置き引きに注意!」を上の空で私の目が追って読んでいた。キツイ両婦人の視線に身をさらし、じっと推移を見守った。背の高い婦人が深々と先生に何度もお辞儀して「失礼しました」と私を見据えて出て行く。私は読みかけの本を脇に置き、会釈を紳士然と返した。

 日本で他人に意見するのは難しい。年齢、職業、学歴、男女の性別、服装がその条件を満たさなければならないらしい。悪いことは悪い。素直な心で他人の忠告を聞ける態度を身につけたい。もっとあっけからんと飄々と、人々と共生したいものである。結局私は、本を読む集中力を失くした。その本を借り出すことにして、“先生”と他の方々に頭を下げ閲覧室を出た。図書館から外に出ると久々に陽の光が眩しい。気持ち良さそうなので、歩いて家に帰ることにした。アメリカの漫画『スヌーピー』でライナスが言った「人類は好き、人間は嫌い」が、行き交う人々を見ながら頭をかすめた。
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