インターフォンが鳴った。表示盤に「集合玄関」 受話器を取り上げる。「宅急便で~す」の元気な声。いつもの青年かな、と思いながら「解除」のボタンを押す。「」
わが家は1階にある。地下が玄関ホールなので元気な青年は小さな荷物の時は、あっという間に家のドアに達する。私は印鑑を手にドアの前に立ってチャイムが鳴るのを待つ。「ピンポンピンポン」
いつもの青年だった。尋ねもしないのに「和歌山からあら川の桃が届きました」とニコニコ顔で言う。最初は抵抗があった。中身を言うなよ。これだってプライバシーだよ。あら川ってどういうこと。でも今は許容の境地に達している。それは青年の底抜けな明るさと仕事に打ち込んでいる熱い姿が私の気持を変えたのだろう。あら川を調べると和歌山県の桃で有名なブランドだった。今では青年が来るたびに、さて今日は何と荷物を説明するかと楽しみになった。
宅急便は日本が世界に誇れるビジネスだ。国土が凝縮されて適度にまとまっている。インフラ整備も進み鉄道、道路、海路、空路の便が良い。明治以降郵便制度も普及浸透した。真面目で几帳面な国民性のお蔭で安全で正確な信頼にたる制度となった。ただ残念なことに独占事業ゆえに官僚的になりすぎた。その独占的領域にクロネコヤマトの創始者小倉康臣が参入してきた。小倉は幾多の困難妨害を乗り越えて郵便事業の隙間を補完する宅急便という新分野を築き上げた。小倉の本を読むといかに日本が官>民であるかわかる。
海外生活で苦労した一つは郵便事情が悪いことだった。日本の宅急便を羨ましく思った。郵便制度そのものが機能していない国がまだたくさんある。カナダにいた時、封筒に小切手や現金を入れれば、まず相手に届くことはなかった。日本でも郵便に関して事故事件は発生するが、ごくわずかである。これほどまでに信頼できる郵便制度を築き上げたのは、郵政に携わった先人官僚のお蔭であろう。クロネコヤマトの小倉がその欠点を補い更に現在の宅急便制度に進化させた。
最近宅急便会社のネット会員になると便利なサービスを受けられるようになった。宅急便が到着するとわかっていても以前は時間がわからず家を留守にできない事があった。いまではネットで事前に配達時間を知らせてくれる。変更することも可能だ。宅急便会社の再配は大きな損失になる。ネットなどの活用で無駄をなくすことができ、更に宅急便は進化する。アメリカの通販会社ではドローンでの宅配を近いうちに始めるという。どこに住んでも不便が解消されそうだ。
和歌山の親戚から送られてきたあら川の桃の箱を開けた。部屋に甘い桃の香りが拡がる。桃は私が好きな果物の一つである。しかし私は桃の皮に触るのが苦手だ。その瞬間を考えただけで肌にサブサブエボが出る。桃を食べるのは好きだが皮は剥けない。水で桃の皮の毛を落として皮ごと食べればと思って以前試したら、歯が皮に触れた途端、全身にサブサブエボが出た。今では桃の皮に何の抵抗も感じない妻がキレイに皮を剥いてくれる。