私が住む集合住宅では、大規模修繕が12月から本格的に始まった。まず北側の1階と2階の境目の外側に建物からせり出した3メートル幅の植栽部分をコンクリートで固める。型枠がめぐらされた。コンクリートが流し込まれ順調に工事が進んでいた。
12日の朝、昨夜振り出した雨がまだ降っていた。窓からまだ暗い北側のコンクリートを流し込んだせり出しを見た。まるでプールのように水が溜まっていた。型枠に排水口を作らなかったに違いない。雨が降ることを想定していなかったのだろう。妻を駅に送ろうと玄関のドアを開けた。何か水と薬品が混じったニオイがした。普段はまったく人の気配はない。我が家は集合住宅の2階にある。1階は玄関ホールになっていて、表玄関からは道路へ、裏の2か所から駐車場に出ることができる。我が家の玄関を出てすぐ右側にエレベーターの乗降口がある。エレ ベーターのドアの前に「使用禁止」の看板が置かれていた。私たちはいつもエレベーターを使わない。歩いて階段をおりた。踊り場があり、そこで階段が北から南へ方向転換する。その踊り場は水浸しになっていた。踊り場からおりていくとエレベーターの前に12月の管理組合の総会で理事長になったばかりのTさん夫妻がいた。エレベーターの床が外されモーターがある2メートル下の場所にエレベーター会社の人が何やら作業をしていた。理事長夫妻が事の説明をしてくれた。午前3時ころエレベーター会社から理事長宅に電話があり、エレベーターに浸水している警報が届いたのでこれから行くと言われた。エレベーターの所に来てみると、玄関ホール、踊り場から下の階段、エレベーター付近が水浸しになっていた。理事長夫妻は、床用水切りワイパーで水を玄関から外へかきだしていた。妻はさきの総会で副理事長になっていた。妻の電車の時間があるので、お詫びして駅に向かった。
11日の夜、駅へ妻を迎えに行った。妻が車に乗り込んですぐ、雨が強く振り出した。車を駐車場に止め、家に向かった。階段を上り、踊り場のシャッターをおろした。その時外を見ると雨粒が跳ねて踊り場の中まで飛び込んできていた。私は妻に言った。「台風やゲリラ豪雨になれば、ここからきっと水が入ってくるよ」 その時雨が一晩中降り続けるとは思わなかった。何か胸騒ぎしたり、嫌な予感を持ったら、もっと賢明な行動をとるべきだと反省した。
それにしてもエレベーターに設置された警報装置とやらは、優れた機能である。深夜3時にエレベーターの下の床に設置されたモーターにつけられたセンサーがちゃんと浸水を感知してそれを会社の管制部へ送信した。送信するだけなら機械ならできるであろう。会社の管制室の当直が送信された警報に対応したのも感心した。昨今、人為的なミスによる事故が多い。私たちが眠っている間でも、機械や人々が24時間体制で守ってくれているのは、心強い。 世の中は、機械化、電子化、人工知能化により複雑化高度化するばかり。その進化の速度に管理運営する人間がついてゆけなくなっている。今回のエレベーター浸水の騒動も、施工会社がもっと注意深く手立てを取っていれば起こらなかったであろう。私が胸騒ぎを、嫌な予感を施工会社かこの住宅の管理会社に機敏に伝えていたならと悔やむ。
「一方はこれで十分だと考えるが、もう一方はまだ足りないかもしれないと考える。そうしたいわば紙一枚の差が、大きな成果の違いを生む。」松下幸之助