団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

思い込み

2013年01月07日 | Weblog

  年末の大掃除で私は換気扇を担当した。台所の壁は脚立に上がらないと私の手が届かない。

  脚立を設置した。まずフィルターを外す。私は、ほとんど油を使う天ぷら、油炒めなどの料理をしない。にもかかわらず、フィルターはちょうど換気扇のファンの円形そのままの大きさの油ジミを浮かばせていた。フィルターは化学繊維が綿アメのようなスカスカの布状のものだ。換気扇の4隅にある鈎状の突起に押し込んで止められている。力にまかせてはがそうとすると鈎がフィルターに喰いこんでしまう。すでに8回の大掃除でコツを得ている。フィルター用のプラスティックの枠を外す。この枠はネジで止められていず、プラスティックの伸縮性を利用して換気扇に挟み込んでいるだけなので難なく外せる。換気扇本体が現れる。

  我が家の換気扇は、スイッチを入れると縦に格子状の空間が開き台所の空気が家の外へ送り出される。フィルターのおかげで、換気扇そのものの汚れは少ない。押し込み式の空気導入部分を外す。拡げた新聞紙の上に置く。次に換気扇のファンを外す。ファンは真ん中にある円柱上の受け軸にナットで止められている。受け軸から突き出たネジ切りされた軸からファンを引き抜く。ファンもフィルターの効果であまり汚れてはいない。薄っすらと粘ついている程度である。

  外せるものを外したあとの換気扇の空洞の掃除に入る。あちこちに受け枠やツッパリがあり、私の手や腕の侵入を邪魔する。外からどう攻めるか策を練る。まず新聞紙でざっと汚れを拭き取る。たいした空間ではないが、障害物が動作を遅らせる。よく絞った重曹の入った洗剤を含ませたスポンジで軽く丁寧に拭く。仕上げに絞った雑巾で全体を拭き取る。20分ぐらいでキレイになった。

  脚立を下りて新聞紙の上に並べられた外された換気扇の部品の掃除を始める。水に浸してもいいものは、洗剤を入れたバケツに漬ける。フィルター枠、換気扇のファン。10分後タワシやブラシで枠とファンを洗う。よく拭いて乾かした。乾いた枠に新しいフィルターを取り付けた。

  脚立に上がり、まずファンを取り付けようとした。すんなり取り付けられると思っていたファンがきちっと入らない。入らなければ頭にナットねじが付けられない。見えるのはほんの数ミリの受け軸である。「押してもダメなら引いてみな」「引いてもダメなら押してみな」 パニック。やることなすこと、ことごとく効果が出ない。「落ち着け。観察、観察」私は自分に言い聞かせる。去年だってちゃんとできたではないか。なぜ、今年できないのか?忘れてしまったからだ。何を忘れているのか。忘れていることがわからない。思い込みは油断である。「観察」こういう時は観察することだ。そして遂に受け軸の切り込みを指の感触から見い出した。切込みがあるということは、ファンのネジ穴に、受け軸の切込みを受ける出っ張りがあるはず。数十回繰り返すうちに「カチッ」と嘘のようにはまった。ファンの頭からナットをはめ込む十分な先が出ていた。ナットをねじ込みファンを固定した。

  スイッチを入れる。換気扇の表面の格子状のすき間がカチッと開き、フィルターがピタッと換気扇の表面に吸われ張り付く。キレイに掃除したことも喜びだが、ファンと受け軸の装着の仕方をすっかり忘れ、それをゼロから考え試し、やり遂げた満足感が心地良かった。「あきらめない」 新しい一年もしつこく粘り強く生きる。思い込みをできるだけ避けよう。私の新年への再起動へのスイッチが大掃除のおかげでつながった。

“過去への旅は、妄想と誤った記憶と名前のすり替えで混迷する”

 詩人リーチ

 

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