私に御呼ばれは年に数回あるのみだ。私は趣味“御呼ばれ”と広言しているほど御呼ばれ大好き人である。海外で生活していた時はほぼ毎週、御呼ばれとお招きの繰り返しであった。日本人であってもなくても、呼んで呼ばれては常識だった。
日本に帰国しても多くの客を招いている。しかしどんなに私が趣味“御呼ばれ”と宣伝してもほとんど御呼びの声がかからない。私の人徳のなさとあきらめている。
日本では食料品のほとんどを完成品として購入できる。このことが御呼ばれの障害になっているようだ。加えて完全主義完璧主義者が多く客を招くのに粗相がないようにそれは神経を使う。そこで冠婚葬祭の行事の多くのように専門業者に丸投げしてしまう。家庭に他人を呼ぶことを避けたがるのは、身内主義と自分の家を誰にも公開したがらない家庭と家を最後の砦とする文化でもある。
私は新聞の“首相動向”という日本国首相の一日を記載する欄の愛読者である。日本国の首相がいったいどんな生活をしているのか興味津々だ。多くの政治屋さんが国会議員として名を連ねているが、その日その日の動向を知ることが出来るのは首相だけである。特にどんな人々が首相に“御呼ばれ”されているのかを知りたくてたまらない。できればメニューはさておき、誰と飲食を共にしたかは知りたい。首相には首相官邸という城のような公邸が用意されている。しかし公邸での設宴はなく、料亭や有名レストランが使われる。不思議な光景である。
新年早々の5日早朝築地の中央卸売市場の初競りで青森県大間の222キロの黒マグロが何と1億5千5百40万円で落札された。翌6日その落札のニュースに合わせるようにドンピシャのタイミングでテレビ東京が『洋上の激闘!巨大マグロ戦争2013』の中でこの途轍もない値段がついたマグロが漁獲される一部始終の映像を放送した。あの過酷な漁を見れば、どんな値段でも部外者は文句が言えない。偶然であったかも知れないが、これはまさにアッパレなテレビ東京の特ダネ番組だったと言えよう。落札価格にはビックリ仰天したけれど、私の日常の生活では100円1000円が主たる金銭感覚となっているので、マグロの値段は額が大きくて実感がなかった。別世界のことと、それ以上関心を持たなかった。しかし7日の朝刊の首相動向の欄をみて自分の目を疑った。『6日【午前】来客なく、私邸で過ごす。【午後】1時30分から44分、すしチェーン店「すしざんまい」経営の木村清「喜代村」社長。45分、私邸発。・・・』
まず何故、と考えた。これは“御呼ばれ”なのか“押しかけ”なのか。首相公邸でなくて、何故、安倍首相の私邸なのか。疑問は深まるばかり。新聞の報道というのは、読者が知りたいと思う肝心なことに触れることが少ない。記者に読者の多くを占める庶民の感覚がない。それでもどこかの新聞が、マグロを落札した木村社長と安倍首相との関係を報じていると思い、探したがどこの新聞も扱っていなかった。
私の憶測は、安倍首相が木村社長に密かに安倍政権の経済政策への景気づけにとんでもないほど高額で黒マグロを初競りで落札してもらった、である。真実が何であれ、世間では、日夜あの手この手が暗中飛躍する。裏舞台でどんなことが進行しているのかをすっぱ抜いて、読者に伝えるのが新聞の役目だと私は考える。記者クラブにたむろして、公的な記者会見だけでそのような記事は書けない。取材相手と一緒に食べたり飲んだりしないと無理だろう。
“御呼ばれ”や“お招き”を私が好きなのは、その場でしか聞けない話を面と向かって、たくさん聞けるからである。質問も即座にできる。人は一緒に食べたり飲んだりする状況で心を開きやすくなる。安倍新首相の日程記事に公邸で、普段、日の目を見ない多種多様な人々との飲食を含む“お招き”がもっと増えることを望む。私も私なりに“お招き”を続けてたくさんの話をこれからも聞いていきたい。