最近、何だか知らないが「みんな私が悪いのよ」の心境に陥りやすい。うつうつとした心境の日が続いている。
子供の頃、「空があんなに青いのも、電信柱があんなに高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんなあたしが悪いのよ」をよく聞いた。誰かが他の子を何かの事で咎めると、咎められた子がこう切り返す子がいた。険悪な空気が、この返しで爆笑に変わったのを覚えている。だれかの歌だったかもしれないと思って、ネットで調べてみた。まず“みんな私が悪いのよ”と入れた。神楽坂はん子の歌に『みんな私が悪いのよ』があると出てきた。歌詞を読んでみると、恋愛に関するものだった。「青い空」も「赤い郵便ポスト」も「高い電信柱」も出てこない。そこで今度は“青い空、赤い郵便ポスト”で検索。あった。しかし諸説ありとあるが、思った通りに落語家が言ったことに間違いなさそうだ。
緊急事態宣言を菅首相が会見で発表するたびに、私は落語を聴いて耳直しをしたくなる。古今亭志ん生、三遊亭圓生、立川談志。最近の落語家では、春風亭市之助がお気に入り。春風亭市之助は金曜日の午前中にラジオ番組を持っているので、欠かさず聴いている。週刊朝日でコラム『ああ、それ私よく知っています。』を載せているので、それも読んでいる。
先日『通販』という題で書いていた。ラジオを聴いていると、放送局は、通販会社かと思う程、商品を宣伝する。出演者、自局のアナウンサーであったり、タレントが「私も使っているのですが…」と付け加える。いったいお宅にはどれだけの商品があるの?と聞きたい。
春風亭市之助が次のように書いた:「私も週一ではあるがワイド番組で商品をオススメしている。アナウンサーさんのリードに相槌を打つだけなのだが、これが難しい。スタジオの向こうではスポンサーの眼光鋭く、かなりのプレッシャーなのだ。たまに『純金製大判小判』なんて高額商品がやってくる。なんでも投資目的で購入するらしい。己の実生活とあまりにかけ離れていて、本番で思わず「誰が買うんだろう」と呟いてしまったら、案の定「それはちょっと」と注意1。『白髪染めクリーム』のときは「嫌な臭いがしない」という触れ込みだったが、臭いをかいで「くさっ……あ……くないっ!!」で、注意2。『カズノコ醤油漬』のときは美味し過ぎて延々と「ポリポリポリポリ……」。「喋ってください(笑)」とふられ「尿酸値上がっちゃう!!」と言ったら睨まれた。すぐさま「……くらい美味しいっ!!」と褒めたら「手遅れでーす」というディレクターさんからの一声。」(週刊朝日)
春風亭市之助は正直だ。毒舌でもなく、政治のことにも触れない。耳障りなしで私に、ちょうどいい噺家なのだ。日本にはいろいろ優れた芸術がある。落語もその一つである。芸術を育てるのは、民衆である。そんな優れた民衆でも、残念ながら政治家を育てられなかった。政治屋ばかりを作り出した。コロナという国難にぶち当たって、その弊害が噴き出した。
「日本の首相が口下手なのも、コロナをロックダウンできないのも、ワクチンを国内で開発できないのも、みんな私が悪いのよ」