団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

本を買う

2022年04月13日 | Weblog

  今年のアカデミー賞で国際長編映画賞に『ドライブ・マイ・カー』が選ばれた。その映画に出演していた女優三浦透子に関する記事の中に次のような記述があった。「…幼い頃から絵本や童話に興味を示す読書好きで、祖父に書店へ連れて行ってもらう度に、数学関連と思われる専門書から、小説やアート系の本まで10冊ほど買い込んでいました。」

 

 私が育った家庭は、貧しかった。しかし父は、本だけは買ってくれた。小学高学年の時、父の知り合いの本屋に私がツケ(まとめて後払いする)で本が買えるようにしてくれた。それは高校生になるまで続いた。条件はどんな本を買っても良いが、読み終わったら父に内容を話すことだった。伝記や童話がだんだん変わって、年鑑や図鑑になった。毎晩、寝る前に寝床で年鑑や図鑑を開いた。お陰で中学の社会科は、得意科目になった。国語も好きになった。

 

 離婚して私が二人の子供を引き取り育てた。小学6年生と1年生だった。ある日、二人の子供を本屋に連れて行った。一人に3千円渡して、好きな本を買うように言った。どんな本を買うかによって、何に興味を持っているか知りたかった。読んだ本の内容を話すようにも言った。二人とも親に幼い心をズタズタにされていたが、本を読むことによって、別の空間を見つけたようだった。

 

 二人の子供は、今、それぞれ家庭を持った。長男には、男の子二人、長女には男の子一人いる。本当は、三浦透子の祖父のように、孫をそれぞれ本屋へ連れて行って欲しい本を買い与えたい。残念ながらその機会が持てなかった。孫たちは、3人ともサッカーをやっている。とても私と時間を過ごすことなどできない。機会があれば、図書券を贈ることにしている。

 

 図書券の他に、読んでおいてもらいたい本があれば、私から送っている。内容を直接話してもらいたいが、それはできない。中学生以上の孫には、本の内容と感想を400字以内にまとめて送ってもらっている。最近では、遠藤周作の『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。』新潮文庫400円(税別)を送った。

 

 長男から珍しく郵便封書を受け取った。中に大学生になった孫の学業成績書なるものが入っていた。長男が「1年次の成績を送ります。父親の時よりずっと優秀です。」とあった。難病を患い、高校を入院のため休学して、出席日数が不足して卒業が危ぶまれた。長男の喜びが良くわかる。長男と孫は、同じ大学。そういえば、長男は毎学年終了前、大学から単位不足で留年する可能性があるので、親から厳しく注意して欲しいと言って来たものだ。アルバイトと同好会を学業より優先していた結果だった。ギリギリ留年することなく卒業できた。

 

 長女の子と電話で話した。新学年の祝いに図書券を送ったことの返礼だった。「今度何年生になるの?」と質問した。「5年生」と答えた。私は、彼がてっきり小学2年生から3年生になると思っていた。そうコロナのまるまる2年間がすっかり私の中から抜けていたのだ。もう2年会っていない。私が老いて呆けたせいもある。

 

 祖父が呆けても、孫たちはそれぞれが育っている。孫たちからの読書感想文は、彼らの成長を感じられる嬉しい便りである。

 


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