団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

蛇篭

2022年03月02日 | Weblog

  私が住む集合住宅の前を流れる川が、去年7月の豪雨で土手が決壊した。12月になってやっと修復工事が始まった。工事は、3月末まで続く。川沿いの道路は、私の散歩コースだった。現在、集合住宅の前から200メートルくらいが通行止めとなっている。川の上流に向かう道路しか通れない。パワーシャベル、クレーン車などが入って大掛かりな工事が進行している。遠回りして川の反対側から工事現場を眺めるのは、散歩の楽しみになっている。

 

 去年の豪雨で岸壁はもちろん、道路の半分が崩れてしまった。道路の下の下水管や水道管もむき出しになった。幸いなことに下水管や水道管が被害を受けることはなかった。住む集合住宅に支障は生じていない。私が住む集合住宅側にある川沿いの道路は、桜並木になっている。去年の岸壁の決壊で、桜の木が3本根こそぎ流されてしまった。川岸の堤防に植えられた桜などの樹木は、防災法で今後植えることはできなくなった。ぽっかり桜並木に穴が空いてしまった。決壊した場所は、川の流れから2メートルくらい盛り土のようになって幅が4,5メートルあったので、花見の時期になると大勢の人たちが、そこで、お弁当や酒を楽しんでいた。

 

 工事を見ていてネパールでの出来事を思い出した。住んでいた首都カトマンズから車で2時間くらいの所にカカニというヒマラヤ山脈を見渡せる丘がある。日本から長男が大学の友人を連れて訪ねてくれた。彼らを案内してカカニへ行った。帰り道、道路が土砂崩れで通行止めになった。3時間以上車の中で待った。車が止まった場所から土砂崩れの場所が見えた。約200メートル先だった。Uの字の大きなカーブだったので、現場が真正面に見ることができた。大勢の男性が鉄の長い棒を使って道路上に崩れ落ちた岩を谷に落としていた。あの調子なら全部片づけるのに何日もかかるかもしれないと不安になった。妻を迎えに行く時間は、すでに過ぎていた。だんだん暗くなってきた。突然土砂崩れの場所から作業していた男性たちがいなくなった。そのすぐ後、「ドッカ―ン」とものすごい音がして煙と土砂があたり一面に飛び散った。ダイナマイトで爆破したのだ。それから数十分で車が動き始めた。案の定、妻はオカンムリ。心配させてしまった。返す言葉がなかった。全員無事に戻れて良かった。

 

 日本政府は、ネパールの道路や河岸の防災に、蛇籠を取り入れての援助活動を積極的に行っていた。蛇篭とは、金属の網の中に石を詰めて大きなブロックにする。それを河岸や道路脇に積み上げる。とても評判が良かった。後日、カカニの丘に行った時、土砂崩れで足止めされた現場がたくさんの蛇篭を使って修復されていた。それを見て日本の海外援助が役に立っていると実感できた。

 

 私が住む集合住宅の前の決壊現場で蛇篭は使われていない。大きな2メートル四方のコンクリートのブロックを深く掘った川床からダムを造るように約10メートルの高さに積み上げている。裏の1メートルほどの空洞に生コンを詰めている。ものすごい工事費であろう。近代工法には圧倒される。同時に、昔の人たち建設機械も金属製品もない時代に、竹の籠にひとつひとつ石を詰めこんで、護岸を築いていた。その忍耐力、強靭さ、しぶとさに感服する。

 

 愚かな人間は、人間が築き上げた建造物を、わざわざ戦争を起こして、人間が作った兵器でぶち壊している。自然災害で私たちは、多くのものを失い、その都度、復興させている。それを知っていて、なぜ自ら人間が築いたもの造ったものを壊すのか。

 

 武田信玄「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」 戦争はモノを壊すだけではない。人を殺す。

 


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