団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

田村正和

2021年05月20日 | Weblog

 大相撲夏場所も残すところあと4日となった。いまだ勤務医として遠距離通勤している妻のために相撲を録画している。私はひいきの関取の取り組みの結果が気になるがじっと我慢する。駅へ妻を迎えに行って、帰宅してから一緒に観る。妻は晩酌しながら、ヤジを飛ばす。「元大関なんでしょう。ダメだよ引いちゃ。こんな相撲とってたら大関に戻れないよ」「キャバレーに行ったんだって。どうりで今場所あんたおかしいよ。相撲になってないよ。余計なことに気を取られているから。もう」 妻は仕事でのストレスをテレビ画面に言いたい放題して解消しているかのよう。私は舞の海のつまらない解説や北の富士や鶴竜以外の口が回らない下手な元関取の解説を聞くより、妻の興奮しているが的を得た放言を聞いているのが好き。

 ふと昼間の『徹子の部屋』で観た、今年の3月に77歳で亡くなっていた、田村正和の追悼再放送版を思い出した。田村正和が「趣味はなにもありません。散歩をしています。楽しいです。夕方になったらカミさんと食事して、ニュース番組を見て、そして寝る。健康的な毎日ですよ」田村正和の人柄に触れることができた気がした。家族のことなど私生活を一切明かさずに通した。渥美清や高倉健のいきざまと通ずる。仕事と私的生活を見事に切り離している。私はこういうタイプの俳優が好きだ。田村正和の生活が目に浮かぶようだった。

 私と田村正和、私たち夫婦と田村正和の夫婦。比べることなどできない。でも趣味もなく、散歩が好きで、夕方カミさんと一緒に食事して、テレビを観て、寝る、と聞けば私と同じじゃんと思ってしまう。田村正和の奥さんが、私の妻のように相撲を興奮して言いたい放題するかは知らない。それでも私たちとさして変わらない生活に共感をおぼえる。

 田村正和は希少な俳優だった。彼は自分が俳優になれたのは、親の坂東妻三郎の七光りであると認めていた。そのうえで独自の芸風を培った。何より私が偉いと思うのは、彼は仕事以外で絶対に食べるところを他人に見せなかったということだ。テレビでチャラチャラ芸人やにわか芸人や局アナが、大口開けて、むさぼるように喰うのは、観ていて不愉快極まりない。田村正和は、変わり者だったのかもしれない。それでも「自分は自分の人生やりきった」と言う田村正和と背筋をぴんと張った眠狂四郎の姿と決めゼリフが重なる。「冥途の土産に円月殺法、ご覧にいれよう」 合掌。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする