昔偉い指導者がいた。弟子が梯子で高い所で作業をした。指導者は下で弟子の作業を見ていた。作業を終えて弟子が梯子を下りてきた。最後の一段になった時、初めて指導者が口を開いた。「油断するな」
これは小学校3年生と4年生で担任だった小宮山先生が話してくれた話だ。大学まで多くの先生に学んだが、小宮山先生の話を一番覚えている。
連休で妻が5日間の休みを取れた。妻はすでに1回目のワクチン接種が終わっている。この妻の接種が私に大きな希望を与えてくれている。心にスキができている。どこかへ行きたい。あの店のラーメンが食べたい。ウナギもいいな。連休の中で、そうしようと思った。結果、結局5日間ずっと家にいた。車のエンジンをかけることもなかった。妻を何とか説得して外出しようとこころみた。妻が言った。「私がワクチン接種できて、あなたも今月、ワクチン接種の予約も取れた。もう先が見えてきたから、あともうちょっと我慢しよう」 私は小宮山先生のあの梯子の最後の一段の話を思い出した。妻がと小宮山先生が重なった。
テレビのニュースであちこちの行楽地が混雑しているとか、高速道路が渋滞しているとさかんに報道していた。行楽地の人出の中や繁華街での聞き取りがあった。「こんなにたくさん人が出ているとは驚いた」 繰り返されるこの手の聞き取りに腹が立つ。なんでテレビ局は緊急事態宣言が出ている中、それを知っていて外出している人たちにマイクを向けるのか。聞き取りをするべきは、家で緊急宣言が求めている自宅に留まっている人にだろうが。報道の仕方、政府の指導力なさ、行政のいつまでも剥がれない“お上”意識。それでも一般大衆の多くが宣言を守って家に留まっている。連休明け後の数週間に感染者数が増えることが心配だ。
小宮山先生が言う最後の一段が近いうちにやってくる。そう信じている。夜明け前が一番暗い。でも必ず夜は明ける。