団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

『しんがり』 清武英利著 講談社刊

2014年04月11日 | Weblog

『しんがり』(清武英利著 講談社 1800円税別)を一気に読んだ。ズシンと腑に落ちた。

 友達や知人に「読んでみて」と本を紹介されたり、贈られたり、貸してもらうのは私の大きな喜びである。そして読み終わった後、何故その人が私にその本を読ませたかったのか、ガッテンできれば尚嬉しい。私が話せない外国語しか通じない異郷で、突然流暢な日本語で話しかけられたような気持になる。同じ言葉で意思疎通ができる安心は、日頃考えていたり感じていることが似通っていると共鳴するのに近い。今回紹介された『しんがり』はそんな本だった。

 私は組織で働いた経験が少ない。少ないけれど組織に対する警戒心は強い。高校生時代、カナダに留学するための準備ということで軽井沢のアメリカ人宣教師の運営する聖書学校で英語を学んだ。宗教関係の組織ではあったが、そこには人間が持つ差別、矛盾、打算、保身、高慢、追従、いじめ、裏切りなどの感情がもつれ絡み合っていた。今考えればオウム真理教のサティアンのようなところだったと思う。口でどんなに清廉潔白と神聖なる偉大なる存在を唱えても、実生活でそれが豊かに反映されていなければ虚しい。学校以外の組織に身をおいた初めての組織が私の組織への偏見を形成した。私は66歳になった今でも組織に恐怖感を持っている。この本を読んで更にそう思う。反面、組織の中にも勇気を持って毅然と事実を調査分析して責任を取ろうとする組織の人々がいることに思いもかけぬ感動を覚えた。胸が熱くなった。

 『しんがり』は1997年に破たんした山一証券の清算業務を成し遂げた12人の物語である。この本を読みながら書き出したメモである。

①    「事実を知ることは、寂しいものだ」と嘉本は思う。事実は頑固者で、調査するものをじっと待ち受けているが、出会ったところで歴史は後戻りしない。暴走営業の末に会社は崩壊し、元首脳たちは会社が消滅したからこそ、ようやく口を開いた。250ページ

②    嘉本はいつものように録音機を使わなかった。その人が本当に語ったことでも、その言葉が必ずしも真意であるとは限らない。口から出たそのことよりも、その人が本当に言わんとすることのほうが大事だ。真意を聞き出すことこそが自分たちのヒアリングなのだ。 255ページ

③    会社という組織をどうしようもない怪物に喩える人は多い。しかし会社を怪物にしてしまうのは、トップであると同時に、そのトップに抵抗しない役員たちなのである。262ページ

④    ―――たぶん、会社という組織には馬鹿な人間も必要なのだ。いまさら調査しても、会社は生き返るわけではない。訴えられそうな時に、一文の得にもならない事実解明と公表を土日返上、無制限残業で続けるなど、賢い人間から見れば、馬鹿の見本だろう。しかし、そういう馬鹿がいなければ、会社の最期は締まらないのだ。 267ページ

  馬鹿バンザイ。この本を理研の調査委員会の委員の方々に読んで欲しいと強く願う。著者の清武さんは元読売巨人軍球団代表である。行間に清武さんの解任追放劇の真相説明が見え隠れする。


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