団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

大雪。行くか、引き返すか。

2014年02月18日 | Weblog

 大変なおもいをして妻の勤務に支障をきたさないようにとハワイから帰国できたら、今度は大雪ときた。相変わらず早とちりの私はテレビの天気予報士たちが「弾丸低気圧」と連呼するのを聴いて、“弾丸”というからには相当な速さで進む低気圧なんだな、と受け止めていた。妻と話していて、“弾丸”ではなく、南の岸と書く“南岸低気圧”だと知った。最近、聞き間違いが多い。ソチの冬季オリンピックでの“キン(金)”と“ギン(銀)”聞いただけでは区別がつかない。その都度、間違いに変に納得してしまう自分が情けない。

  2月15日関東地方の交通網は大雪と強風のために大混乱となった。ずっと楽しみにしていた高校の同窓会が正午から新橋の居酒屋で開かれる予定だった。

 その日の朝、妻の出勤は情報に振り回された。改札で電車が来ると言われホームへ出たが結局来なかった。私の「もしや」のカンが働き、駅の駐車場で待機していた。妻に電話をかけた。「1時間20分遅れだって」と途方にくれていた。「車で送るから外に出て」と言った。新幹線は平常運転していた。幸い私が住む町には積雪もなく道路も閉鎖されていなかった。新幹線駅のある近辺の道路にも積雪はなかった。妻を無事新幹線駅まで送ることができた。

  帰宅するとテレビやラジオでは甲信越地方と関東地方各地の大雪による被害が次々と報告されていた。その後、何とか勤務先に行きついた妻から「駅から病院まで信じられないくらいの積雪があり、雪の下部は水になり歩きづらく滑る危険にハラハラしながら靴も靴下もスラックスもビショビショになった」とメールで報告してくれた。私を気遣って「こんな日に東京に出てくるなんていう気がしれない。まだ出かけていなければ家にいたほうが絶対にいいよ。そうしてくださいね」と結んだ。

 とにかく同窓生に会うのをずっと楽しみにしていた。あの人にもその人にもこの人にも会いたいと彼らの顔がちらつく。東京で本当にあんな大雪が降ったのかを見たいという好奇心もうずいた。パソコンで交通情報を調べた。東海道新幹線なら東京まで行けそうだ。東海道本線も動き出したようだ。ずぶぬれになってもよい支度をして、靴下の予備を持って家を出た。奮発して往復、新幹線の切符を買った。約7千円だった。年に一度だし、普段会えない人たちに会えるのだから、金にはかえられないと思い切った。妻からメールが入った。「まさか出かけていないでしょうね」 まさかの予想は見事に当たっていた。私はすでに新幹線に乗り換える駅に向かうやっと運行再開した東海道本線の電車の中にいた。

 新幹線のホームに立った。一年に数回しか鳴らない携帯電話がカバンの中で震えた。まさか妻が私が家を出たのを察知して電話で東京行きを阻止しようとかけてきたのか。出た。同窓会の幹事のM君だった。「今日の会中止になった」 それを聞いたのと同時に“こだま”が入ってきた。

 同窓会が中止なら東京へ行く理由はない。「家に帰ろう」と開いた“こだま”のドアの前で踵を返して階段に向かった。改札で事情を正直に話した。「すでに改札を通っているので払い戻しには手数料が加算されます。それでもよろしければそこの窓口へ行ってください」「それでもよろしいです。ありがとう」

 手数料と言っても驚くほどの額ではなかった。東海道本線は間引き運転だったが運行を回復し始めていた。窓から太平洋が見えた。少し青空も出てきた。ぽっかり穴が開いたような気持だった。大雪で多くの人々が大変なめに遭っている。ハワイから帰ってくるときの苦労と比べたらまだマシだ。妻に同窓会が中止になったとメールした。

 「私が言った通りでしょう。幹事はまともな決断をしたと思う。偉い」と安心してくれた返事が昼休みになった妻から届いた。妻の言う通り。現場からの直接情報は一番信頼でき、有り難いものだ。これから増えつつある災害や変動や騒動は、夫婦で自分の家を起点として考えて、あらゆる決断を下していきたい。


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