映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

黄金花

2009年12月06日 | 邦画(09年)
 「黄金花/秘すれば花 死すれば蝶」を銀座シネパトスで見ました。

 たまたま夜開催される会合までに時間的余裕があり、かつうまくマッチするのがこの映画しかないというだけで映画館に飛び込んでしまいました。
 観客数はせいぜい5人程度と、至極侘しい限りの館内でしたが、飛び込みで見た映画にしてはまずまずの出来栄えではないか、と思いました。

 この映画は、美術監督として名高い木村威夫氏が手掛けた長編第2作目のもの、木村氏は今年91歳になるわけですから、2008年に公開された新藤兼人監督の『石内尋常高等小学校 花は散れども』―監督95歳の最新作―に次ぐ、高齢の監督による映画作品と言えそうです。

 さて、新藤監督の映画は、小学校時代の恩師との関係をメインにしながら、自分の小学校時代から若手シナリオライターとして自立するまでを独特のリアルタッチで映し出しています。
 他方、こちらの「黄金花」は、むしろ老人ホームで暮らす植物学者の有様が、他の老人仲間との関係のうちに描かれ、その中に監督自身の若かりし頃の思い出がかなりデフォルメされてファンタジックに映像化されています。
 両者のはらむベクトルは反対方向(垂直と水平、リアルとファンタジー)とはいえ、結局のところ、今では失われている良きものを描き出そうとする姿勢は同じではないか、と思いました。

 その良きものとは、新藤監督の映画の場合、たとえば恩師の類い稀なる人間性の大きさといえるかもしれませんが、木村監督では、自然との調和のとれた生き方といったものでもあるでしょう。
 この映画の冒頭に、必要以上の自然薯を人が掘り起こすと、山の神の怒りを買って山から湧き出てた水が枯れてしまうものの、それを元の土の中に戻すと再び水が湧き出すといったシーンがあります。おそらく、このシーンが映画全体を象徴していると思われます。
 ただ、これではあまりにも直接的すぎて、逆に観客の失笑を招いてしまうかもしれません。ですが、著名な牧野富太郎まがいの植物学者を原田芳雄が演じると、こんなシーンもなぜか説得力を持ってしまいます(今年の原田氏の出演作「ウルトラミラクルラブストーリー」「たみおのしあわせ」「歩いても、歩いても」が思い出されます)。
 それに、狩野芳崖描く悲母観音的な雰囲気をもった松坂慶子(発話障害を持った介護士長)が映画に登場すると、「黄金花」というタイトルも生き生きとしてきます(松坂慶子は、今年は「インスタント沼」などに出演していました―「大阪ハムレット」はDVDで見ました―)。

 ただ、老植物学者(原田芳雄)が思い出す青年時代の「戦後闇市」時代のシーンは、木組みに白いビニールを被せたものがいくつか置いてあるセットが設けられているだけですから(木村監督の得意とするところでしょう!)、中々分かり難いものとなっています。
 とはいえ、「悔恨」なしには思いだせない青年時代の話が中心になるので、こうした抽象的な映像もわからないでもありません。

 この「悔恨」は「老人」にとって鍵となる感情でしょう。植物学者が暮らす老人ホームの同居人は、皆何かしらの「悔恨」を伴う思い出を持っているようなのです。例えば、口の減らない老女「おりん婆さん」(絵沢萠子)は、堕胎を繰り返してしまったことを酷く悔やんでいたりします。

 ですが、こうした続きからはありきたりの結論に行き着きそうなので、このあたりで止めておきましょう。この映画には、つまらない結論を言い立てるには惜しいような小さなエピソードが、いろいろちりばめられているのですから!

 映画ジャッジの評論家では、服部弘一郎氏だけがこの映画を取り上げていて70点を与えています。
 とはいえ、服部氏は、「こうしたエピソード並列型の映画の場合、各エピソードをつなぐ大きなストーリーラインを設定しておくことが多い」が、この作品では「エピソード相互の結束がもっと緩やか」で、「各エピソードは「線」で固定されることなく、立体的に積み上がっている」とか、この映画は「老人たちの「過去」と「現在」の葛藤や相剋」を「とことんまで突き詰めた作品かもしれない」として、「人間は「今」を生きながら、じつは「過去」を生きている」とか述べていますが、そういわれても……という感じの評論です。

 なお、この映画には、松原智恵子が「小町婆さん」という役で出演しているところ、「婆さん」とはいえ吉永小百合と同年であり、かつ昔の風情を依然として保っているのには、いろいろな意味で驚かされました!



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2 コメント

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松坂慶子賛江 (クマネズミ)
2009-12-07 06:41:28
 KLYさん、コメントありがとうございます。
 おっしゃるように、松坂慶子については、20歳台の映画や「蒲田行進曲」の小夏役もよかったですが、「大阪ハムレット」のお母ちゃん役はモットよかったのではと思いました。
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こんばんは。 (KLY)
2009-12-07 00:45:29
コメントありがとうございます。
各俳優に関しては、みなさん日本を代表する方々ですから、今更演技云々などということはないのですけども、こうしたある種前衛的、バレエで言うところのコンテンポラリー的作品の解釈は非常に難しいですね。
しかしこれを御歳91歳の監督が演出されたことに驚きを隠せません。
余談ですが、松坂慶子さん、若いときは非常に美人な女優という印象だけだったのですが、おばさん(失礼!)になってからは実に味のある女優になられたと思います。
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