映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ビルと動物園

2008年08月10日 | 08年映画
 「ビルと動物園」を渋谷ユーロスペースで見ました。

 30歳になろうかという坂井真紀を、アルバイトでビルの窓拭きをしていた大学生が一目ぼれをしてしまうというだけのストーリーで、これまた邦画の最近の傾向に沿ったもの(たいした事件は何も起きない)といえそうです。

 とはいえ、この映画は評価できないなと思いました。
 問題は、この映画を製作した監督がまだ若すぎて(33歳)、脚本を映画学校などで教わったとおりに作っているのではないかと思えてしまう点です。
 
 例えば、できるだけ余計な台詞を省いてしまおうとして、喫茶店で二人が動物の写真を見ている場面から、イキナリ動物園が舞台のシーンに切り替わってしまうのです。
 一般の映画であれば、この間に、「次の日曜日はどうしましょうか?」「動物園でも行こうか?」「それなら、お弁当を作ってきましょう」「じゃー9時に駅で待ち合わせよう」などといった他愛もない会話が考えられるところです。
 ですが、不必要といえば不必要で取るに足りない会話だからといって、そんなものでも省略されることが数回続くと、見ている方は落ち着かなくなってきます。
 さらに、そんなに急くのであれば、さぞかし後半部分においては大事な会話のシーンが待っているのかなと期待すると、アニはからんや格別なことは何も起こりません。

 それに、坂井真紀の方は、会社の上司と不倫関係にありながらこのところはソレがうまくいかなくなっているとか、地方にいる父が都市に出てきて見合いを迫るとか、それらしい現実が付加されていきます。ところが、相手の大学生は21歳の音大生となっているだけで、リアリティが殆どありません。例えば、教員資格を得るために故郷の小学校で教育実習をしますが、音楽の先生は懐かしがってくれるものの、そのほかの人たちは一切誰も現れません。ですから、この大学生の家族がどうなっているのかなど現実的なことは何も分からないままなのです。

 何も起こらない日常生活を重視するというのであれば、主な登場人物の姿くらいはくっきりとわかるように描き出さなくては、全体が茫漠となりただ霞んでしまうだけの映画になってしまうのではないでしょうか。