映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

たみおのしあわせ

2008年08月03日 | 08年映画
 銀座シネ・スイッチで「たみおのしあわせ」を見てきました。

 自分の一人息子が結婚して一年も経っていないという主観的・私的事情が影響しているのでしょうか、この映画の基本的シチュエーションにいたく共感、最初から最後まで大いに面白さを感じてしまいました。
 特に、前半部分における原田芳雄の父親とオダギリジョーの息子との掛け合いは、ソウだソウかも知れないと台詞の一々を受け止めることが出来ました。

 ソレが、突如として「屋根裏の散歩者」的な画面になったと思ったら、「休暇」で好演していた小林薫の登場で、局面がガラリと変わりアレッと驚かされます。
 その線で突っ走るのかなと思いきや、大竹しのぶと原田芳雄との密会を小林薫が天井から覗くという設定では、これはエロチックなシーンを求めても無理だなと思っていたら、案の定、ほんの入り口でオシマイです。

 ですが、小林薫は、“洋行”帰りのオカシナ服をまといつつ、一方で大正時代の「相対会」めいたグループを密かに結成しながら、他方で原田芳雄から大竹しのぶを奪い取るという離れ業をやってのけます。小林薫は、「休暇」の時とはまた全然異なる実に味のある演技をしていると思いました。

 また、原田芳雄は、大竹しのぶとの関係が冷え込んでいく中で打つ手がなく困っているうちに、息子の結婚式を迎えることになりますが、そこに大竹しのぶより前の愛人である石田えりも招待しています。いくらなんでもソコまでは、と観客に意外に思わせるところが、監督・脚本の岩松了氏の腕のサエでしょう。

 それに、ウダツの上がらない父親役を原田芳雄は実にうまく演じています(前作の「歩いても歩いても」では、実年齢よりも10歳くらい上の役柄で、チョットそぐわないところもありましたが、この作品ではピッタリです)。
 ラストで、原田芳雄は、息子の結婚相手に交通事故で亡くした自分の妻の面影を見出して惹かれてしまうという困難な事情にあるところ、映画「卒業」のダスティン・ホフマンばりな荒業でその状況を切り抜け、ついには、映画「フィールド・オブ・ドリーム」的に、妻(母親)を追いかけて民雄と一緒になって草むらの中に入っていくわけですが、この幕切れも、トテモよく出来ていると思いました。

 麻生久美子は、「純喫茶磯辺」のウエイトレスと同じように、余り捉えどころがない役ながら、ヨク演じていると思います。なにしろ、今時、こんな美人がお見合いの席に登場するなど普通は考えられないでしょうし(裏の事情があるらしいことは、ごく簡単に触れられています)、まして婚約者の父親に自分のネームが入ったネクタイを送ることなど、どうかしています。

 そういったことで言えば、民雄についても、なぜいつまでも父親の下で燻って地方で生活しているのかわかりませんし、大体どこでどんな風に働いているのか良く分かりません、それにこの若さで数多くのお見合いをこなしているというのもよく分からないことです。

 こうした性格のはっきりしない役、父親を疎ましく思いながらも些細なことまで気を使う今時の青年の役を、オダギリジョーは、非常にうまく演じていると思いました。

 全体として、プティいい加減でどうしようもない人物ばかり登場するわけで、私はだからこそ面白いと思ったのですが、逆に「巧映画批評」の渡まち子氏になると、「これほどの豪華キャストなのに、作品にまったく好感が持てないのは、登場人物全員がイヤな奴だからか」と述べて20点しか与えません。そんなに真剣に受け止めなくともと思いますが、マア人により、好き嫌いはあるのでしょう!

 こうして、今や脂の乗り切っている俳優・原田芳雄を基点にすると、是枝監督の「歩いても歩いても」とこの映画とを比較でき、前者が大層まじめな映画なら(原田芳雄―阿部寛―YOU)、こちらはそのおふざけ版とも言えるでしょうか(原田芳雄―オダギリジョー―麻生久美子)。ベクトルの方向は反対に向いているにしても、いずれも非常によくできた面白い映画だなと思った次第です。