孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

東アフリカ  過去60年で最悪の干ばつ、避難先で餓死者

2011-07-11 20:24:32 | 世相

(1992年ソマリア 世界最高の戦争写真家といわれているJames Nachtweyの作品 状況は現在も改善されておらず、むしろ大規模な飢饉が懸念されています。 “flickr”より By Photo Tractatus http://www.flickr.com/photos/photo-tractatus/4698746162/in/photostream/

一部地域は飢饉の瀬戸際
エチオピアやソマリアといった東アフリカは、内戦などの政情混乱もあって、これまでも飢饉が絶えなかった地域ですが、“過去60年で最悪の干ばつ”に見舞われ、大規模な飢饉が懸念されているとの報道がありました。
普段から貧困に苦しむ地域での“過去60年で最悪の干ばつ”ということですから、その悲惨さは想像を絶するものがあります。

****東アフリカ、過去60年で最悪の干ばつ 飢饉がせまる*****
東アフリカは「アフリカの角」を中心に過去60年で最悪の干ばつに見舞われており、約1000万人が何らかの影響を受けているとする報告書を、国連人道問題調整事務所(OCHA)が28日発表した。一部地域は飢饉(ききん)の瀬戸際にあるという。
 
報告書によると、雨季に雨が少なかったことに加えて食料価格が高騰したため、ジブチ、エチオピア、ケニア、ソマリア、ウガンダなどでは深刻な食糧不足に陥っている。
食料価格は現在も上昇を続けており、ケニアの一部地域では穀物価格が過去5年間の平均を最大80%も上回り、エチオピアでは消費者物価指数が約41%も跳ね上がった。
家畜のウシやヒツジが死ぬ確率も平年より高くなっており、一部地域では死亡率が60%に達している。その結果、栄養不良の割合も増え続けている。

■難民増加にも拍車をかける
干ばつに関連した避難民の数も増加しつつある。内戦が続いているソマリアでは、干ばつが引き金となり、今年に入って月に平均1万5000人がケニアやエチオピアなどの隣国に避難している。
一方でジブチやエチオピアも干ばつの影響を受けているため、難民の流入はこれらの国々の食糧事情をさらに悪化させることになりかねないという。
OCHAは、こうした状況にかんがみ、食糧援助を増やすよう支援国に求めている。【6月29日 AFP】
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避難先で飢えにより死亡する人が後を絶たない
上記記事にもあるように、難民を受け入れる国自体が食糧不足に苦しんでおり、避難先での餓死者が多数発生している状況です。

****ソマリア干ばつ深刻化、数千人が近隣国へ流入の末に餓死*****
ソマリアが、ここ数十年で最悪の干ばつに見舞われている。この数週間で数千人が隣国のケニアやエチオピアへ流入しているが、避難先で飢えにより死亡する人が後を絶たない。定員9万人のケニア・ダダーブ(Dadaab)難民キャンプには現在、38万人以上のソマリア難民がひしめき合って暮らしている。【7月11日 AFP】
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日本を含め各国との決して余裕のある状態ではないですが、餓死者が後を絶たない状況を改善すべく、世界食糧計画(WFP)などの国際機関を中心にした国際社会の支援・協力が求められています。

【「飢餓撲滅」のミレニアム開発目標、達成困難
国連は2000年にミレニアム開発目標を採択していますが、その目標のひとつが「飢餓に苦しむ人々の割合を半減させる」というものです。
しかし、その割合は近年横ばい状態で、目標達成は困難と見られています。

****進まない「飢餓撲滅」、ミレニアム開発目標の達成困難に 国連****
国連は7日、加盟国が2000年に採択したミレニアム開発目標が掲げる2015年を達成期限とした8つの目標の進捗状況に関する報告書を発表し、「極度の貧困と飢餓の撲滅」の進捗状況については、よしあしが入り混じった状況だとの見方を示した。

第1段階での達成目標の1つである「飢餓に苦しむ人々の割合を半減させる」については、その割合は1990年時の20%から2005年に16%まで減った後、2007年まで横ばいが続いている。このような傾向と、経済危機や食糧価格の高騰を踏まえると、途上国の多くの地域において、この目標の達成は困難だと報告書は指摘している。
 
特に「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸東部では、60年来で最悪の干ばつで約1000万人が飢餓状態にあると警告。さらに、世界の貧困人口は大幅に減っているのに対し、世界全体での飢餓人口は劇的な減少には至っていないと懸念を示した。
世界食糧計画(WFP)が年内にも、途上国における食糧政策の見直しを行う予定だという。

一方、世界の貧困率については、世界銀行のデータから、2015年までに目標の23%を大きく下回る15%を達成できる見通しだと、報告書はまとめている。特に中国を中心とする東アジアでの貧困解消が目覚しく、中国では2015年に貧困率5%以下を達成できる見込みだという。【7月11日 AFP】
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先進国は飽食の時代
一方で、自分たちの生活のまわりを見渡すと、TVにはグルメ番組が溢れ、ときに大食い競争とか早食い競争も。
“食べ放題”を掲げる飲食店も多く、コンビニやスーパーの店先では、賞味期限切れ商品が山のように廃棄されていきます。

****食料の3分の1が無駄に廃棄されている」、国連報告書*****
国連食糧農業機関(FAO)は11日、世界で毎年生産される食料のうち3分の1に当たる約13億トンが無駄に廃棄されているとする報告書を発表した。
この13億トンという数字は、世界の年間穀物生産高の半分以上にあたる。報告書によると、発展途上国では不作やインフラの不備などに起因した食料不足が問題になっているのに対し、先進国では小売業者や消費者がまだ食べられる食料を廃棄する傾向が見られる。欧米諸国で消費者が無駄に廃棄する食料は1人あたり年間95~115キロにのぼっているという。

報告書はまた、「各種調査によると消費者は外見よりも安全性や味を重視している」のに、先進国の小売業者は食料品の外見を重視しすぎていると指摘。

■「増産」よりも「無駄にしない」ことが得策
先進国ではさらに、特大のインスタント食品が生産されたり、レストランで「食べ放題」ビュッフェが提供されるなど、消費者は必要以上の食料を口に入れるよう仕向けられていると指摘する。
その一方で、世界の飢餓人口は9億2500万人以上にのぼっている。報告書は、「天然資源が限られていることをかんがみると、増え続ける世界人口の食を確保するには食料の増産よりも無駄にする食料を減らす方が効率的だ」と強調している。【5月12日 AFP】
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一方で大勢の餓死者が発生し、他方で多くの食料が無駄に廃棄されていく・・・国家単位に構成されている現在社会の仕組み上、いたしかたない(と思いたい)現実ではありますが、ただ是認してしまうには後ろめたい現実です。
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マレーシア  選挙制度改革と公正な選挙を求める大規模な抗議デモを厳しく鎮圧

2011-07-10 20:23:30 | 国際情勢

(7月9日 クアラルンプール 大規模な反政府デモが行われ、1700名程度の拘束者が出ています。“flickr”より By Viraj 180°  http://www.flickr.com/photos/virajphoto/5918392716/ )

国王「デモは国家分裂につながりかねない」】
最近あまり報道がなかったマレーシアから、大規模な反政府デモで多数の拘束者が出たことが報じられています。

****マレーシア1700人拘束 選挙制度改革求めデモ****
マレーシア国営ベルナマ通信などによると、首都クアラルンプールで9日、選挙制度改革と公正な選挙を求める大規模な抗議デモがあり、約1700人が警察当局に拘束された。
デモは、早ければ年内とされる次期総選挙をにらんだもので、野党が後押しし、複数の非政府組織(NGO)で構成する「ブルシ(マレー語で清潔)2・0」が組織した。

元高等裁判所判事のインド系女性が代表のブルシは、ナジブ政権に(1)不在者投票制度の対象を拡大する(2)選挙期間を21日以上とし、有権者が候補者などを適切に判断できるようにする(3)国営メディアは野党の主張を公平に扱う-など、8項目を要求している。

政府はブルシとデモを違法とし、警察当局は催涙ガスを発射し放水して、デモの鎮圧を図った。ナジブ首相は、デモ参加者は少数派であり、マレーシア人の大多数はナジブ政権を支持しているとの見解を示した。
デモを前に、ミザン・ザイナル・アビディン国王は3日、デモは国家分裂につながりかねない、と遺憾の意を表明。デモを呼びかけたとしてすでに、野党議員らが逮捕されていた。【7月10日 産経】
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今回のデモ参加者は07年に行われた反政府デモと同様に1万人を超えた模様です。なお、警察は5000~6000人としており、デモ主催者側は5万人を集めたと主張しています。
野党第1党の人民正義党を率いるアンワル元副首相はデモ参加中、足にけがをしたそうですが、身柄は拘束されていないようです。
早ければ年内にも行われるとされている次期総選挙を前に、今回こうした強硬措置を講じたナジブ政権への批判が強まることを指摘する向きもあります。

マレー系、中国系、インド系住民が、マレー系や少数民族の優遇策“ブミプトラ政策”のもとで微妙なバランスをとる多民族国家マレーシアですが、今回のようなデモが違法とされて鎮圧され、“国家分裂につながりかねない”と意識されるあたりに、この国をまとめている政治体制の強権的側面も窺えます。

揺らぐ支配体制
マレーシアでは、経済成長を牽引する一方で、強権的支配で“開発独裁”とも言われたマハティール元首相が統一マレー国民組織(UMNO)を率いて長く安定した権力を維持していましたが、57年の独立以来政権を握り続けているUMNOの腐敗や利権体質を批判する国民の声も大きくなってきました。

03年にマハティール元首相の後を継いだアブドラ前首相は、そうした腐敗・利権体質の一掃を掲げましたが実現できませんでした。
マレー系住民の優遇政策“ブミプトラ政策”も、政権に近い人たちの既得権益として利用された面もあり、非マレー系住民だけでなく、マレー系中間層の反発も招くようになりました。

こうした国民不満が噴き出す形で、08年総選挙では与党UMNOが大敗、アンワル・イブラヒム元副首相を中心とする野党勢力が大きく議席を増やしました。
アンワル元副首相は、かつてはマハティール首相(当時)の後継者と目された人物ですが、アジア通貨危機時に首相と対立。98年に同性愛行為と職権乱用で訴追され、6年間投獄された経緯があります。同性愛行為については、その後逆転無罪となり釈放され、08年の下院補選で圧勝、政界に返り咲いています。

危機感を強めた与党側は、09年3月、アブドラ前首相からナジブ氏に党総裁交替、4月にはナジブ氏が新首相に就任して体制立て直しを図りました。
ナジブ首相は、第2代首相ラザク氏の長男で、第3代首相フセイン氏のおいにあたり、白血病で急死した父に代わり、76年に史上最年少の22歳で下院議員に当選。その後国防、財務相など主要ポストを歴任するなど“政界のプリンス”と呼ばれる政治家です。
性格的には、マハティール元首相や野党指導者アンワル氏のような強烈な個性はなく、「怒り方を知らない」と言われるほど温厚とか。【09年4月3日 毎日より】

そうした温厚な人柄に加え、これまで優遇されていたマレー人の特権を一部縮小する新政策が国民の支持を受ける形で、ナジブ政権は安定を取り戻し、アンワル元副首相を中心とする野党側の攻勢も決め手を欠く状態が続いています。

しかし、マハティール元首相のもとで確立された強権支配的体質への批判がなくなった訳ではなく、09年8月には、「国内治安維持法(ISA)」の撤廃を求める野党支持者のデモ隊と治安当局の衝突が報じられていました。

****マレーシアで治安維持法撤廃求めるデモ、600人逮捕****
マレーシアの首都クアラルンプールで1日、裁判なしで無期限に身柄を拘束できる「国内治安維持法(ISA)」の撤廃を求める野党支持者のデモ隊と治安当局が衝突。警官隊が放水車や催涙ガスでデモ鎮圧を図り、約600人が逮捕された。
デモは野党指導者のアンワル元副首相が主導し、最大で1万人が参加。首都で行われたデモとしては、過去2年間で最大の規模となった。
アンワル元副首相は、デモ隊を前に演説し「われわれはきょう、残酷な政権の下の残酷な法律と闘うため、ここに集まった」と述べた。「国内治安維持法」は過去に野党の弾圧目的に利用されたとされている。
クアラルンプールの警察長官は、589人が逮捕された、と述べた。
一方、政権側は強硬な姿勢を崩しておらず、閣僚の1人は、現政権が続く限り、国内治安維持法の撤回はあり得ないとの認識を示した。【9年8月3日 ロイター】
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【「人種を優遇するのではなく、困っている人を助けることが大切だ」】
今年4月に来日したアンワル氏は、次期総選挙で「政府・与党連合の不正や妨害さえなければ政権交代が実現する」との強気の見方を示しています。

*****マレーシア政権交代 「妨害なければ実現*****
来日中のマレーシアの野党指導者アンワル・イブラヒム元副首相(63)が20日、朝日新聞記者と会見し、近く予想される総選挙について「6月か7月と考え準備している。政府・与党連合の不正や妨害さえなければ政権交代が実現する」との見通しを示した。

野党陣営は2008年3月の総選挙で大躍進し、57年の独立以来続く与党連合の支配を揺るがした。次回総選挙は初の政権交代が実現するかどうか、注目されている。(中略)

公約についてアンワル氏は「ガバナンス(統治のあり方)を変える。政権の腐敗体質を一掃し、これまで存在しなかった法の支配と公正な選挙、報道の自由を保障する」と話した。
マレー系住民を優遇する「ブミプトラ政策」は廃止の方針という。「人種を優遇するのではなく、困っている人を助けることが大切だ。特にインド系の多くが困難のなかにいる」

先月、アンワル氏が女性と密会する場面という映像がインターネット上で公開された。かつて異常性行為で起訴されたのに続くスキャンダルの流布が波紋を広げ、指導者としての資質を問う声が野党連合内の不協和音につながっている。アンワル氏は、ビデオに映っているのは自分ではないと細かく反論し、「野党を束ね、聴衆を集めることができるのは自分だけだ」と危機を乗り切る自信を見せた。【4月22日 朝日】
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エジプト  拡大する軍の暫定統治への不満 今後を左右するムスリム同胞団の動向

2011-07-09 21:02:37 | 国際情勢

(2月7日 カイロのタハリール広場 ムバラク政権を崩壊させた民衆蜂起において、ムスリム同胞団は当初、当局との長い対立の歴史から、政府から激しい弾圧を受けるリスクを懸念して、反政府デモへの肩入れには慎重でした。“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5428013162/

革命は評価しながら「以前よりひどい」との失望感も
民主化を求める住民の運動でムバラク政権が崩壊したエジプトでは、軍最高評議会が暫定統治する形で、今後の民主的政治体制確立に向けて模索を続けていますが、先の民主化運動を武力弾圧したムバラク前政権幹部の処分が進まないことに一部国民の間では不満が高っています。

これに対し、軍最高評議会もムバラク大統領の起訴などで、国民の不満をなだめようとはしています
****エジプト前大統領起訴 デモ隊へ発砲命令 息子も不正蓄財で****
エジプトの検察当局は24日、反政府デモで2月に退陣したムバラク前大統領(83)を、デモ隊への発砲を命じた罪などで起訴した。民主化プロセスが不透明な上、経済が一向に上向かないことなどへの不満が強まっている同国では27日、「第2の革命の日」と銘打たれた大規模デモが計画されており、全権を掌握する軍としては、その直前に起訴を発表することで国民の不満緩和を図る狙いがあるとみられる。

検察当局はまた、ムバラク被告の有力後継候補と目された次男ガマール氏と長男アラア氏らも不正蓄財の罪などで起訴した。裁判期日は決まっていない。
ムバラク被告は4月に拘束を受けた後も東部シナイ半島の保養地シャルムエルシェイクの病院に滞在。国民の間では、軍部が被告の名誉を守ろうとしているとの疑念が強まっていた。【5月25日 産経】
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しかし、軍に逮捕され、軍法会議で収監された市民は5000人に達し、革命で死亡した犠牲者への補償も遅れていることから、軍最高評議会による暫定統治への不満・批判は強まっています。

****エジプト:軍政に不満高まる 収監市民5000人に*****
ムバラク前大統領を辞任に追い込んだ「革命」後、軍が暫定統治するエジプトで、軍に逮捕され、軍法会議で収監された市民が5000人に達し、革命で死亡した犠牲者への補償も遅れていることから、軍政への不満が高まりつつある。革命は評価しながら「以前よりひどい」との失望感が広がっている。
革命前後に警察や軍警察に逮捕された市民の家族と支持者らは数日おきにデモを行い、釈放を訴えている。今月中旬もカイロ市内で数百人が集結した。(中略)

軍法会議法は、市民の審理を軍施設での犯罪に限るが、暫定政府は治安維持のため市民にも適用している。活動家は「無差別に逮捕され、弁護士もなく短期間で判決が下されている」と批判。軍は今月初めの声明で「不明朗な逮捕は調査する」としたが、具体的な進展はない。

一方、革命で死傷した市民への補償も遅れている。(中略)
暫定政府が発足させた「事実調査委員会」によると、「革命」中の市民の死者は846人に上る。暫定政府は2月、死者に補償金5万エジプトポンド(約70万円)と年金を出すと発表したが、支払いは一部にしか行われていない。【5月29日 毎日】
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前政権幹部の処分が進まないことに、一部国民の不満が爆発
こうした軍政への不満を背景に、先月28日から首都カイロでは大規模デモが再発し、治安部隊との間で多くの負傷者を出す混乱が広がっています。

****エジプト:カイロでデモ、1000人負傷 治安部隊衝突、前政権幹部の訴追要求****
エジプトの首都カイロ中心部で28~29日にかけ、治安関係者の訴追を求める数千人のデモ隊と治安要員が衝突し、国営中東通信などによると1000人以上が負傷した。2月にムバラク独裁政権を崩壊させた民衆蜂起以降、首都での大規模騒乱はおおむね収束していたが、蜂起を武力弾圧した前政権幹部の処分が進まないことに、一部国民の不満が爆発した形だ。

内務省やデモに参加した複数の市民団体によると、衝突はタハリール広場で28日夜に始まった。2月の蜂起で死亡したデモ参加者の追悼集会を巡って混乱が発生したのがきっかけとみられる。
治安部隊は催涙ガス弾やゴム被覆弾を発射し鎮圧を図ったが、デモ隊側は石や火炎瓶を投げて反撃した。一度の衝突での負傷者数としては、先の蜂起以来、最悪となった。

エジプトではムバラク政権が崩壊し、軍最高評議会が暫定統治している。先の蜂起に対する弾圧で830人以上が死亡し、ムバラク前大統領らは参加者に対する殺人罪で起訴されたが、蜂起を主導した若者団体などからは「(前政権幹部に対する)訴追のペースが遅い」などと批判が出ていた。【6月30日 毎日】
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千人を超える負傷者というのは、その数字が本当なら“騒乱状態”と言ってもいい規模ですが、やや誇張もあるのかも。それにしても激しい抗議の動きがあることは事実で、きのう8日にも再度、大規模デモが起きています。
今回デモには数万人が参加、2月の蜂起以降では最大規模のデモとなっています。

****カイロ中心部の広場で大規模デモ 改革遅れに不満****
エジプトの首都カイロ中心部のタハリール広場で8日、ムバラク前政権崩壊後の改革の遅れに不満を募らせる市民たちの大規模なデモがあった。2月の民衆革命を主導した若者グループや、最大の野党勢力で革命後に合法化された穏健イスラム勢力・ムスリム同胞団などが参加。前政権を支えた元高官らの訴追などを求めて気勢を上げた。
広場の周辺では6月末にもデモがあり、治安部隊と衝突して千人を超える負傷者が出た。【7月9日 朝日】
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全国的組織力を持つ唯一の勢力
注目されるのは、高い動員力を持つ穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団も参加していることです。
ムスリム同胞団はイスラム原理主義を掲げるものの、社会奉仕活動などに力を入れ、比較的穏健な路線といわれています。しかし、パレスチナのハマスの母体となったように、その中から過激な思想・行動を生みだす存在でもあります。

宗教政党を禁じたエジプトでは非合法組織でしたが、ムバラク政権時代は当局監視下に置かれる形で一定の活動を容認されてもいました。選挙には無所属の形で立候補し、実質的な野党第1党の立場にありました。
ムバラク政権後の2月には、9月に予定される議会選に向けた合法政党として「自由公正党」を設立、旧政権与党が解散された状況では全国的組織力を持つ唯一の勢力であり、今後のエジプト政局を左右する影響力を持つ存在として注目されています。
イスラム主義を警戒するアメリカ政府も同胞団との接触を開始したとことを、クリントン米国務長官があきらかにしています。

内部の意見対立が表面化する動きも
こうした情勢で、ムスリム同胞団によるイスラム主義の台頭を懸念する声が国内外に強いことを考慮して、同胞団は次期大統領選挙には候補者を立てないことを決定していますが、組織決定に反して大統領選に出馬する動きが出ています。

****ムスリム同胞団の幹部、エジプト大統領選に出馬の意向*****
エジプト最大の野党勢力で、民衆革命後に合法化された穏健イスラム勢力ムスリム同胞団の幹部らが今秋にも予定されている革命後初の大統領選に無所属で立候補する意向を示した。一定の支持を得ることも予想され、世俗勢力からは、社会のイスラム化が進むことへの懸念も広がっている。

同胞団は、急激なイスラム化を望まない世論に配慮して、次の大統領選には候補者を立てないと発表していた。出馬を表明したのは医療組合幹部などを歴任した医師アブデルメナム・フトゥーハ氏(59)ら。同氏は宗教、性別による差別に反対し、政教分離を説くなど、進歩的な立場を取る。同胞団は、組織の決定に違反したとして19日に同氏を除名した。
フトゥーハ氏は地元メディアに対し「私はすべてのエジプト人のための候補者だ。同胞団メンバーを含む多数の支持を得る自信がある」と語った。

同胞団に近い元大学教授で弁護士のムハンマド・アワ氏(68)も出馬を表明している。アワ氏はキリスト教徒との対話組織を創設した経歴を持つが、衛星テレビで「教会内には武器がある」などと発言。イスラム過激派サラフィー主義者らが革命後に起こしたキリスト教会への攻撃をそそのかしたとの批判もある。
全権を握る軍最高評議会が最近実施した世論調査によると、アワ氏は民主化運動指導者エルバラダイ氏(国際原子力機関前事務局長)の33%に次ぐ、22%の支持を集めた。フトゥーハ氏は現時点では7位(2%)にとどまっている。

同胞団は9月に予定されている革命後初の人民議会選挙を前に、イスラム的な価値を重んじる合法政党自由公正党を今月、正式に設立。同胞団政治部門の権限を同党に移管した。党として大統領選の候補者は擁立しないが、特定の候補を支援する見通しだ。宗教政党を禁じる憲法規定があるため、副党首やメンバーにキリスト教の一派コプト教徒を入れるなど市民政党の形態を取っている。究極の目標とされるイスラム法(シャリア)の導入は求めず、穏健色を前に出して支持基盤の拡大を目指している。【6月24日 朝日】
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また、同胞団の若手団員を中心に、現指導部の組織運営への不満が表面化しています。

****ほころぶ鉄の統制 エジプト・ムスリム同胞団、若手が反旗 相次ぎ新党****
エジプトの次期総選挙でカギを握るとみられるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団で、複数の若手グループが公式政党とは別の新党を次々と結成し、指導部に公然と反旗を翻している。若手団員らは、現指導部による上意下達の組織運営を「旧態依然」と批判、究極的には同国の「イスラム国家化」を目指しているとされるイデオロギーをめぐる溝も表面化しつつある。

同胞団は今年2月、9月に予定される議会選に向け、「自由公正党」の設立を発表した。しかし、組織内では「若手の声が反映されていない」との反発が拡大。これまでに、同胞団を脱退した元幹部イブラヒム・ザーファラーニ氏の「ナフダ(復興)党」や、若手中心の「エジプト潮流」「リヤーダ(先駆け)党」などの新党が誕生し、他の既存野党やリベラル勢力との連携を模索し始めた。

同胞団ではこのほか、一部若手の支持を集める有力メンバー、アブドルムネイム・アブールフトゥーフ氏が6月、指導部の反対を押し切り大統領選出馬を表明した。同氏は、2007年にリークされた同胞団の政党綱領案に「女性やキリスト教徒は大統領になれない」とする文言が含まれていたことなどに強く反発、指導部の主流派と対立し、09年末に指導部でのポストを失った人物だ。

エジプトの独立系紙によると指導部は同氏支持の団員ら4千人を処分、ラシャード・バイユーミ副団長は産経新聞の取材に「組織決定に反する者は追放だ」と語気を強め、新党への合流者が増えることへの警戒をあらわにした。
これに対し若手グループと近い同胞団の中堅メンバー、ハイサム・アブーハリール氏は「従わなければ処分すると脅す手法はムバラク前政権と同じ。指導部はいまや、組織内だけでなく社会全体から浮いた存在だ」と批判し、インターネットなどを駆使しネットワークを広げる現在の若手団員のメンタリティーとは相いれないと語る。

理念の面でも溝がある。総選挙で躍進を目指す同胞団は最近、米国との接触も否定しないなど現実路線を強調してはいる。だがその一方で、指導部からはしばしば、「盗みを働いた者は、シャリーア(イスラム法)に従い手を切り落とすべきだ」(マフムード・エッザト副団長)といった、急進的な「イスラム国家化」を志向する発言が飛び出し物議を醸している。

ただ、若手らも程度の差こそあれ、「イスラムの価値観を広める」との目的は共有しており、指導部との違いは必ずしも明確ではない。組織内で支持が広がるかどうかもなお不透明だ。
にもかかわらず“造反”が相次ぐのは、非合法化されていた同胞団を厳しい監視下に置いた前政権の崩壊後、団員がおおっぴらに活動できるようになったことで内部の意見対立が表面化しやすくなったためだ。
同胞団の「鉄の統制」に生じたほころび。元同胞団員で組織の歴史に詳しいアブドルラフマン・アヤーシュ氏は「同胞団の改革を目指していた勢力が組織を去ったことで、指導部が一層、硬直化する可能性もある」と話している。【7月8日 産経】
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05年の選挙での大躍進当時に比べ、近年その力が低下しているとも言われているムスリム同胞団ですが、次期大統領選挙への独自候補擁立を見送ったのは、こうした組織内部の求心力低下を反映した選択だったのかも。
いずれにしても、ムスリム同胞団の動き如何で、民主化運動の帰結としての今後のエジプト政治におけるイスラム主義の影響の濃淡が変わってきますので、同胞団の今後の動きが注目されます。

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パキスタン  著名ジャーナリスト殺害について、米軍トップがパキスタン政府関与と発言

2011-07-08 21:08:23 | 国際情勢

(ISI犯行が疑われるジャーナリストのサリーム・シャフザド氏殺害について抗議するパキスタン記者 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5788354480/

【「パキスタン政府が(殺害を)許可した」】
これまでも再三取り上げているように、アメリカにとってアフガニスタンでの対テロ戦争遂行のうえで、北西部国境地帯がイスラム過激派の温床となっている問題や物資補給路の問題で、パキスタンの協力は必要不可欠ですが、パキスタン国内の反米感情や国軍(特に軍統合情報局(ISI))とイスラム過激派のつながりなどで、両国関係はとかくギクシャクしがちです。

5月末にパキスタンの著名なジャーナリストが暴行の痕を残した遺体で見つかった事件について、きのう7日、米軍トップがパキスタン政府の関与を指摘、新たな軋轢の火種にもなりそうです。

****パキスタン:「記者殺害に政府関与」 米軍トップが指摘*****
米軍トップのマレン統合参謀本部議長は7日、パキスタンの著名なジャーナリスト、サリーム・シャフザド氏(40)が5月末に何者かに殺害された事件について「パキスタン政府が(殺害を)許可した」と語った。パキスタン政府報道官は8日、「極めて無責任な発言」と批判した。シャフザド氏は、国際テロ組織アルカイダなどのテロ集団とパキスタン軍との関係を明らかにする報道で知られ、殺害直後からパキスタン軍情報機関(ISI)による犯行説が浮上していた。ただマレン氏はISIの関与を裏付ける具体的な証拠は持っていないと述べた。【7月8日 毎日】
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米軍トップとしての立場ですから、“ISIの関与を裏付ける具体的な証拠は持っていない”とは言いつつも、それなりの根拠があっての発言でしょう。

遺体の顔と体には拷問の痕 疑われるISI犯行
サリム・シャハザド氏の事件については、下記のとおりです。
****パキスタンで記者殺害 軍とアルカイダの関係を取材*****
パキスタン東部マンディバハウディンの運河で5月31日、情報サイト、アジアタイムズオンラインの記者サリム・シャハザドさん(40)が他殺体で見つかった。パキスタン軍とテロ組織の関係をめぐる記事を執筆、当局に脅されていたという。
地元メディアなどによると、シャハザドさんは5月29日、首都イスラマバードの自宅から市内のテレビ局に車で向かう途中、行方不明になっていた。遺体には暴行の痕があったという。

シャハザドさんはパキスタン軍と国際テロ組織アルカイダやタリバーンなど武装勢力の関係を取材。昨年、軍当局がタリバーン幹部を極秘裏に釈放したと報じた。その後、この件で軍統合情報局(ISI)から脅迫を受けたと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチに伝えていた。先月はアルカイダとパキスタン海軍の関係をめぐる記事を書いていた。【6月1日 朝日】
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これまでの経緯もあって当初から軍情報機関のISIの関与が疑われており、ヒューマン・ライツ・ウォッチも「ISIに拘束されたようだ」としていました。

****記者を拷問する恐怖の情報機関****
5月29日午後6時頃、サイエド・サリーム・シャーザド(40)はイスラマバードの自宅を出た。テレビの政治番組に出演するためだったが、テレビ局には現れなかった。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアリ・ダヤン・ハサンは「信頼できる筋」の情報として、パキスタンの情報機関・軍統合情報局(ISI)に拘束されたようだと語った。
そして6月1日、イスラマバードから約100キロ離れた場所でシャーザドの車と腕時計が発見され、数キロ先の水路で遺体も見つかった。遺体の顔と体には拷問の痕があった。

「国境なき記者団」によると、パキスタンはジャーナリストにとって世界で最も危険な国の1つだ。昨年以降、15人が殺されているという。
シャーザドは身の危険を顧みず取材対象に迫り、記事をものにする記者だった。行方不明になる2日前も、オンライン新聞アジア・タイムズにこんな記事を寄稿していた。
「本紙の調べでは、5月22日にカラチの海軍航空基地を襲撃したのはアルカイダだった。海軍がアルカイダとの関連を疑って拘束した士官の釈放をめぐる両者の交渉が決裂したためだ」

ISIを含むパキスタンの情報機関は、これまでも意に沿わない記者や政治家を脅迫あるいは誘拐してきた過去がある。シャーザドも昨年10月、ISIの本部に呼び出されて以来、自分と家族の身を案じていた。
この呼び出しの翌日、シャーザドはハサンに電子メールを送り、ISI幹部との面会の様子を説明した。
それによるとISI側は、パキスタン当局が2月に逮捕したタリバンの元幹部を釈放したという記事について釈明を要求。「わが国に大恥をかかせた」として記事の撤回を求めたが、シャーザドは拒否した。ハサンによると、シャーザドはその後、「尾行や脅迫電話に悩まされていると話していた」という。

遺体発見後、シャーザドの家族を訪ねると、妻のアニータはショックでベッドに座り込んでいた。部屋のテレビでは、ニュース番組が暴行を受けた夫の遺体の写真を流していた。彼女は言った。「見てください。夫が
どんな目に遭わされたかを」【6月15日号 Newsweek日本版】
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修復に向かっていた米パ関係
アルカイダの最高幹部ウサマ・ビンラディン容疑者が5月2日、首都イスラマバードに近い軍駐屯地アボタバードで米軍特殊部隊に殺害された件で立場を失った形のパキスタンとアメリカの関係は、「分岐点に達した」(クリントン米国務長官)と言われるほど悪化しましたが、ケリー米上院外交委員長やクリントン米国務長官がパキスタンを訪問して関係修復を働きかけ、このところは落ち着きをとりもどす気配もみえてきました。

かねてからアメリカからの批判が強かったISIとイスラム過激派の関係についても、軍幹部を逮捕することで疑念の払しょくに努める姿勢をみせていました。
*****パキスタン:軍准将を逮捕 イスラム急進派を排除アピール****
パキスタン陸軍は21日、参謀本部の高級将校がイスラム原理主義グループに関わっていた疑いが強まったとして、アリ・カーン准将を逮捕したと発表した。陸軍によると、准将は中央アジアにイスラム統一国家樹立を目指す非合法組織「ヒズブアッタハリル」(イスラム解放党)とつながりがあるとみられるという。

ヒズブアッタハリルは暴力に訴えない活動で知られ、英国などに拠点を構える。陸軍報道担当のアッバス少将は「我々は、いかなる規則違反も容赦しない」と語り、軍内部のイスラム急進派を排除する考えを示した。一方、カーン准将とタリバンなど武装勢力との関係は否定した。

国際テロ組織アルカイダの最高幹部ウサマ・ビンラディン容疑者が先月2日、首都イスラマバードに近い軍駐屯地アボタバードで米軍特殊部隊に殺害されて以降、パキスタン軍とテロ組織との協力関係を疑う声が米国などで強まっている。カーン准将逮捕の背景には、こうした疑念を払拭(ふっしょく)したいパキスタン軍の狙いがあるとみられる。【6月22日 毎日】
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また、ウサマ・ビンラディン容疑者が殺害されて以降止まっていた国内イスラム過激派の掃討作戦も再開されました。
****パキスタン:武装勢力掃討作戦を開始 アフガン国境*****
パキスタン軍は4日、アフガニスタンと国境を接する北西部・部族支配地域のクラム管区で武装勢力掃討作戦を開始した。規模は不明だが、地上と空から攻撃している模様だ。5月2日にウサマ・ビンラディン容疑者が殺害されて以降、パキスタン軍が国内で本格的な作戦を実施するのは初めて。

陸軍スポークスマンのアッバス少将は「住民誘拐や、治安当局を狙った自爆攻撃を繰り返す武装勢力の排除が目的だ」と述べた。同管区ではイスラム教スンニ派の武装勢力がシーア派住民を標的にしてきた。最近では、隣接する北ワジリスタン管区からパキスタン人のタリバンや、アフガン人の「ハッカーニ・ネットワーク」など武装勢力が流入しているとされ、今回の軍事作戦は、治安悪化を防ぐ狙いとみられる。【7月5日 毎日】
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こうした時期に米軍トップによってなされた、記者殺害へのパキスタン政府関与に関する発言が、どのような影響を与えるか、どのような意図でなされたのか気になります。
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温暖化  ラクダと石炭、そして有機被膜太陽電池

2011-07-07 21:32:32 | 世相

(バングラデシュの水上学校のボートにも太陽光パネルが。バングラデシュでは、人口約1億5000万人のうち6割が電気のない生活をしており、大きなインフラを必要としない太陽光パネルの普及を図っています。その結果、今年6月には太陽光パネルを導入した世帯数が100万世帯に達したそうで、2014年までに250万世帯への導入を目指しています。 “flickr”より By The Earth Awards http://www.flickr.com/photos/theearthawards/4812831798/

オーストラリアの野生ラクダ射殺案に、ラクダ科研究開発国際協会が怒る
オーストラリアで野生化しているラクダが温室効果ガスの排出源になっているとして、二酸化炭素(CO2)削減の取り組みの一環でラクダの殺処分が検討されている・・・・というニュースは、6月11日ブログ「オーストラリア  牛とラクダと難民に見る“人道的”ということ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110611)で紹介したところですが、ラクダ専門家が登録するラクダ科研究開発国際協会がこの話に怒っているとか。

****CO2削減のラクダ処分案に抗議、オーストラリア*****
オーストラリアで野生化しているラクダが温室効果ガスの排出源になっているとして、二酸化炭素(CO2)削減の取り組みの一環でラクダの殺処分が検討されていることに対し、ラクダ研究者の協会が4日、正式に抗議声明を発表した。
300人のラクダ専門家が登録するラクダ科研究開発国際協会(ISOCARD)は、ラクダたちは人間が生んだ問題の犠牲になっていると怒りをあらわにしている。

オーストラリアの野生ラクダは、19世紀に入植者が連れてきたラクダが野生化した。現在、アウトバックと呼ばれる辺境地帯を徘徊する数は120万頭に上るが、草原を食べ尽くして植生が失われたり、排出される腸内ガスのせいで、1頭あたり年間1トンのメタンを算出している計算になる。

ラクダの殺処分案は、豪政府のオーストラリア気候変動・エネルギー効率化省が公開した諮問書から浮上したもので、アデレードの広告会社ノースウエスト・カーボンが、ヘリコプターからラクダを射殺するか、群れをまとめて食肉処理場へ送り、食用やペットフードに加工する処分案を提案した。

しかし、アラブ首長国連邦に本部があるISOCARDは、この計算はばかげていると一蹴(いっしゅう)し、「ラクダの代謝効率はウシよりもよほどよい。ウシに比べて20%少ない餌で、20%多いミルクを算出する。またラクダの腸内の細菌叢(そう)は、ウシやヒツジよりも、ブタのような単胃動物に近い。したがってラクダによるメタン排出量の計算方法には疑問がある」と反論した。そして、世界にいる計2800万頭のラクダは植物を食べる生き物全体の1%にも満たないとも主張している。
協会では、野生のラクダは食肉やミルク、皮革などが利用できるほか、観光業にも役立っており、乾燥地帯におけるかけがえのない資源とみなすべきだと述べている。

火力発電と鉱山資源の輸出に依存するオーストラリアは、国民1人当たりの温室効果ガス排出量が世界でも最も多い国の部類に入る。政府は2012年の半ばから、温室効果ガス排出量の多い企業などへの課税を計画している。【7月5日 AFP】
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クジラやインドネシアに輸出される牛など動物愛護に熱心なオーストラリアですので、政府としては“ヘリコプターからラクダを射殺”などといった案を検討している訳ではないでしょうが・・・。
植生破壊と言う点では、ラクダより世界各地の原生林を破壊している人間のほうが責任が大きいのは間違いありませんから、やはり人間の範囲で問題解決をはかるべきでしょう。
それにしても、ラクダ科研究開発国際協会なんてあって、やはり本部はアラブにあるというのがちょっと面白い感じです。

ところで、メタン排出量云々という話で言えば、そもそも生物が呼気として吐き出しているCO2はどんなものでしょうか?地球上の人類が爆発的に増加している現在、その吐き出すCO2量の増加もかなりのものになるのではないでしょうか?こればっかりは削減する訳にはいきませんが。

中国で石炭消費が増加した結果、温暖化進行が止まる?】
温室効果ガスの話は、複雑な変動を伴う自然現象の長期間にわたる問題ですので、なかなか本当のところがわかりにくいという側面があり、温暖化が人間活動によるCO2増加によってもたらされているという定説には懐疑論もあります。

温暖化については、中国の石炭使用がいつも“悪者”としてやり玉にあがりますが、逆に中国の石炭使用で温暖化が阻止されているとの説もあるようです。

****中国が燃やす石炭で温暖化一時止まる、米研究****
1998年から10年間、地球温暖化の進行が止まったのは、中国で石炭消費が増加した結果、大気中の硫酸塩エアロゾルが増え冷却効果をもたらしたためだとする米国とフィンランドの科学者らによる研究結果が、米科学アカデミー紀要(PNAS)にこのほど発表された。
地球温暖化説に対する懐疑論者は、1998~2008年には一定の気温上昇が見られなかったことを根拠に、人間の活動で排出される温室効果ガスが地球温暖化の原因との見方を否定している。

今回、研究を主導した米ボストン大学のロバート・カウフマン教授も、懐疑派の指摘がきっかけで研究を思い立ったとAFPの取材に語った。
カウフマン教授らの研究チームが、気温上昇を防いだ要因と結論付けたのは、石炭だった。
石炭の燃焼量は、急激な経済成長を続ける中国を中心に、過去10年間で急増した。石炭を燃やすと硫黄が排出されるが、カウフマン教授らはこの硫黄の粒子に妨げられて太陽光が地表まで届かず、温暖化を防いだと見ている。

カウフマン教授によると、こうした現象には前例がある。第二次世界大戦後の経済成長期に欧米や日本では温室効果ガスが急増したが、硫黄の排出量も急速に増え、その結果、温室効果ガスの影響が相殺されたという。
研究は、地球の気温が上昇し始めたのは、先進国が硫黄排出量を削減する取り組みを始めた1970年初頭ごろからだと指摘している。

世界の石炭消費量は、03~07年の5年間で26%増加した。うち75%は中国によるものだ。中国は今も世界最大の温室効果ガス排出国であり、排出量も増え続けているが、一方で石炭工場に汚染物質除去装置を設置するなど、ようやく大気汚染の防止対策を始めた。そして、こうした措置を講じたことによって09年から再び、地球の気温が上昇し始めたという。

ただ、大気中の硫黄は一時的な冷却材の役割を果たす反面、酸性雨や呼吸器系の疾患の原因となるなど、数々の有害な影響をもたらす。
このため、地球温暖化を阻止する手段を硫黄に求めることは「毒をもって毒を制すようなものだ」と、カウフマン教授は述べた。「硫黄による温暖化阻止説にも一理あるが、これに満足する人間は少ないだろう。中国のように大気汚染の中で生活することを意味するのだから」【7月6日 AFP】
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石炭の使用で温暖化が阻止され、汚染物質除去装置の設置で温暖化が進行する・・・本当でしょうか?
否定する根拠もありませんので、とりあえずは「フーン・・・」ということで。

【「空白期間」が生じる恐れ
温暖化防止の取り組みは、相変わらず進展がないようです。
****地球温暖化:枠組みづくり ベルリンで閣僚級国際会議*****
京都議定書に定めのない2013年以降の地球温暖化対策の国際枠組みづくりに関する閣僚級の国際会合が3日、ベルリンで2日間の日程で始まった。今年末に南アフリカ・ダーバンで開催される気候変動枠組み条約の第17回締約国会議(COP17)に向け、難航する国際交渉を促進させるのが狙い。日本からは樋高剛環境政務官が出席した。
会合では、地元ドイツのレトゲン環境相と南アのヌコアナマシャバネ外相が共同議長を務め、欧米、アジアなど約35カ国の代表が参加。レトゲン環境相は「ダーバン会議に向け、国際的な課題に対応する準備を進めたい」と語り、ヌコアナマシャバネ外相も各国に「妥協」を促した。

昨年11~12月にメキシコのカンクンで開催されたCOP16は、発展途上国への資金援助や新興国を含む排出削減の検証の仕組みなどの要素を盛り込んだ「カンクン合意」を採択。これに先立つ同年5月、ドイツ・ボン郊外で開催した閣僚級会合が「カンクン合意に道筋をつけた」とドイツ側は位置づけている。
ただカンクン合意後の国際交渉では、途上国への資金援助などで先進国と途上国が対立。COP17での決着は困難との予想が多く、13年以降の温室効果ガスの削減義務がない「空白期間」が生じる恐れが強まっている。【7月3日 毎日】
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世界各国は“温暖化防止”どころではない・・・というのが実情でしょう。
欧州は、ギリシャなどの信用不安に揺さぶられていますし、アメリカは大統領選に突入、日本は震災復興で原発のかわりに火力発電所を再開、中東・北アフリカは民主化問題で蜂の巣をつついた有様・・・といった状況です。

2012年には有機薄膜太陽電池を実用化
化石燃料を減らし、原発も避け・・・・となると自然エネルギー利用となりますが、全くのイメージですが、“風まかせ”の風力より、毎日顔を出すお日様を利用する太陽光のほうがあてになるような感じがします。
風車のような大規模設備も必要なく、どこでも簡便に利用できるのも魅力です。
特に、最近のうだるような暑い日には、この日差しをなんとか利用できないものかと考えてしまいます。

原発再開でもめる日本ですが、菅首相は「太陽光発電のコストが6分の1になれば、原子力とほぼ同等になる」と、その普及に意欲を見せているとか。
*****太陽光コスト、6分の1なら原子力と同等…首相*****
菅首相は7日午前の参院予算委員会で、東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた再生可能エネルギー(自然エネルギー)活用の柱とする太陽光発電について、「(新型のソーラーパネルの開発を)是非とも進めることで、発電コストの6分の1への引き下げを実現したい」と述べ、普及に重ねて意欲を示した。
首相は、「太陽光発電のコストが6分の1になれば、原子力とほぼ同等になるとの自分なりの見通しを持っている」と語った。
首相は5月の訪欧時、太陽光発電のコストを2020年に現在の3分の1、30年には6分の1に引き下げるとの目標を示している。

一方、海江田経済産業相は、運転停止中の原発の再稼働の是非を判断するためのストレステスト(耐性検査)について、「さらなる安心を近隣自治体や県などに持ってもらうためのものだ」と述べ、理解を求めた。【7月7日 読売】
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コストは、技術革新と普及による大量生産で、想像以上に急速に変化するものなのではないでしょうか。
太陽光発電に関するいろんなニュースで、どれが実用面で重要なニュースかは判断できませんが、最近目にした有機被膜電池の話題。

****どこでも太陽電池 - 三菱化学/中ノ森 清訓****
インクのように塗り加熱することで太陽電池とすることができる半導体材料につき、三菱化学が2012年の実用化の目処をつけた。色々な用途が考えられそうで、夢が膨らむ材料だ。

三菱化学が次世代太陽電池として実用化が待たれている有機薄膜太陽電池において、世界最高値となる9.2%のエネルギー変換効率を達成した。
同社によると、これまでの有機薄膜太陽電池の最高値だった8%台で、それを一気に1%も向上させることができたことになる。同社は、エネルギー変換効率を10%にできれば実用化に踏み切れると考えており、今回の成功により2012年にはこの有機薄膜太陽電池を実用化できる見通しという。

この有機系の太陽電池は、現在、普及している無機系の結晶シリコン太陽電池に比べ低価格、安定調達が見込まれている。結晶シリコン太陽電池は原料に高純度シリコンを使っており、日本の場合、その調達を中国からの輸入に全面的に頼っている。一方で、三菱化学が研究開発を進めている有機薄膜太陽電池は、入手しやすい原料を使っており、従来の結晶シリコン太陽電池に比べて、生産コストや原料調達リスクを低く抑えられる。

同社が開発を進めているもう一つの特徴は、印刷技術が利用可能な製造方法という点だ。有機薄膜太陽電池の製造方法としては、大掛かりな製造装置が必要な真空蒸着法が主流とされていたが、同社の製法では、フィルム基板などに印刷して簡単に製造できる。製造装置も比較的小さなもので済み、低コストでの大量生産が可能になる。真空蒸着法では難しかった大面積化も容易だという。

この製法を可能にしたのが、同社が開発した有機半導体材料だ。この材料は結晶化前の前駆体の段階では有機溶媒に溶かしてインク状にすることができる。それをフィルム基板に塗布して加熱すると、この半導体材料が結晶化し、太陽光電池に適した薄膜の半導体特性を持つ。

こうしてできた同社の有機薄膜太陽電池は、薄く、軽く、曲げられるという特徴を持つため、応用範囲が広く、様々なデザインに加工できる。たとえば、同社では「屋根だけでなく、自動車のボディ、家の壁面や部屋の壁紙、カーテンで発電する」といった用途を考えている。

同社によると、衣服でも太陽光発電ができるようになるとのことで、正しく、日のあたる所であれば何でもどこでも太陽電池とすることができるという位の勢いだ。製品に塗るだけなので製品重量も嵩まない。よって、性能だけでなく、物流面でも環境経営を材料として非常に面白いものである。

材料メーカが非常に魅力的な素材を提案してきた。我われが次に問われるのは、こうしたユニークな材料を前にして、どの様に魅力的な製品、サービス、事業を作れるかだ。「どこでも太陽電池」とでも言うべきこの素材なら、色々なことができる気がする。(参考:2011年6月20日 日経ビジネスONLINE 山田久美「日本キラピカ大作戦」)【7月4日 INSIGHT NOW!】
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かつて液晶テレビは「1インチ1万円」と言われていましたが、あっという間に価格が下がりました。
太陽電池も今後の技術革新と大量生産で、一気に低価格になるのでは・・・と、なぜかきょうは妙に楽観的です。
もちろん、そのためには適切な政策誘導が必要ですが、そっちはいささか心もとない感があります。

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スーダン  南部分離独立を前に、難航する石油収入配分交渉

2011-07-06 21:16:35 | 国際情勢

(南スーダン共和国の首都となるジュバの入り口で来訪者を迎える看板 “flickr”より By James Turitto  http://www.flickr.com/photos/jamesturitto/5552850519/ )

アビエイ地区は非武装化、南コルドファン州については包括協定
9日に予定されているスーダン南部の分離独立を前に、日本政府も新国家「南スーダン共和国」を承認する方針を決めています。

****南スーダン共和国:政府、9日に正式承認****
政府は5日午前の閣議で、スーダンから分離独立する新国家「南スーダン共和国」を承認する方針を決めた。独立式典が行われる今月9日に正式承認する。日本の承認国は3月のクック諸島に続き194カ国となる。式典には菊田真紀子外務政務官を派遣する予定。【7月5日 毎日】
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ただ、南北境界で帰属未定の産油地帯アビエイ地区や、それに隣接する南コルドファン州では、中央政府軍と南部自治政府を主導するスーダン人民解放運動(SPLM)系民兵との衝突・緊張が続います。
一応、帰属未定のアビエイ地区については、非武装地帯化するとの合意が南北間で成立、平和維持活動(PKO)にあたるエチオピア軍が展開することになっていますが、まだ完了していないようです。

また、北部最大の原油生産地ですが、南部編入を望む黒人系住民も多い南コルドファン州については、包括協定が6月28日に調印されています。
****南北が包括協定に署名、係争地の和平に向け スーダン****
スーダン政府とスーダン人民解放運動(SPLM)は28日、来月9日のスーダン南部の独立を前に激しい戦闘が続いている南北境界の南コルドファン州について、双方の意見の相違を解決するという内容の包括協定に署名した。

署名者の1人であるSPLMのマリク・アガル氏はAFPに、「停戦については(29日に)話し合いが行われる。この協定は対立終焉(しゅうえん)の序曲さ」と話した。協定は、今後は同州と青ナイル地域の政治・安全保障に関する包括協定を目指すと宣言している。
南コルドファン州では、6月5日以来、政府軍とSPLM系民兵組織の間で激しい戦闘が繰り広げられている。【6月29日 AFP】
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依然続く緊張関係
しかしながら、衝突は依然として収まっておらず、今後の両国関係の火種として残っています。
****スーダン、高まる緊張…南部独立控え産油地域で衝突****
9日に予定されるスーダン南部の分離独立を前に、南北境界線に接する同国中部の南コルドファン州で、北部の中央政府軍と、南部自治政府を主導するスーダン人民解放運動(SPLM)系民兵との衝突が相次いでいる。
中央政府のバシル大統領は、SPLMとの対決姿勢を強化。すぐに南北の全面衝突につながる可能性は低いとみられるものの、スーダンは緊張をはらみながら南部独立の日を迎えることになりそうだ。

南コルドファンは、2005年まで続いた第2次内戦で激戦地となった州のひとつ。南部の多数派と同じ黒人系住民の中にはSPLM支持者が多く、南部への編入を望む声もあるとされる。だが、同州は北部最大の原油生産地であり、中央政府としては決して手放したくはない地域だ。

同州では5月の知事選で、SPLM系有力者が与党・国民会議党(NCP)系の現職に僅差で敗北、これに反発するSPLM系民兵と中央政府との衝突に発展した。中央政府軍は空爆を含む攻撃を実施し、国連の推計によると、これまでに約7万人が州外などに避難している。
南北は戦闘中止でいったんは合意したものの、バシル氏は今月1日の演説で「反乱者を一掃する」と宣言、現在も散発的に戦闘が起きている可能性がある。

バシル氏が同州で強硬姿勢をみせる背景には、民兵の動きを放置すれば、さらなる「領土分割」につながりかねないとの懸念があるからだ。隣国エジプトのスーダン専門家は「バシル氏はすでに国土の約37%にあたる南部を失う屈辱を味わった。ここで弱腰をみせれば、権力基盤が揺らぐ可能性もある」とみる。
また南北間では、南部独立後の石油収入の配分をめぐる協議が難航しており、南部に強い態度に出ることで協議を有利に進めたいとの思惑もあるとみられる。

南北はこのほか、油田地帯である中部アビエをめぐっても衝突。6月にアビエを非武装地帯化するとの合意が成立したものの、平和維持活動にあたるエチオピア軍の展開は完了しておらず一触即発の状態が続いている。【7月5日 産経】
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北部・バシル政権にとっては“国土の約37%にあたる南部を失う屈辱”ということになりますが、南部スーダンにとっては、北部との良好な関係は必要不可欠です。
確かに南部には油田はありますが、精製施設や輸出港へと続くパイプラインは北部管理下にあります。
バシル政権が南部の分離独立を許容したのも、精製施設やパイプラインをおさえていることで、石油からの収益の相当部分を今後とも確保できるとの判断があったからとも見られています。

難航する石油収入配分交渉
当然ながら、南部独立後の石油収入の配分をめぐる協議は難航しています。
このあおりで、南部では北部からの石油供給が減らされ、石油不足の状況に陥っているとのことです。

****南スーダン共和国:石油不足、独立に影****
アフリカ大陸で最大の国土を持つスーダン(首都・ハルツーム)。その南部が9日、ジュバを首都に独立する。アフリカ54番目の新国家の名前は「南スーダン共和国」。ジュバの街で、独立に向けて交錯する人々の期待と不安を追った。

(中略)建設中の新空港ビル。舗装中の幹線道路。インフラ整備でわく街並みに、携帯電話ショップや中華料理屋の真新しい看板が並ぶ。そのにぎわいは、記者が訪れた昨年春とは比べものにならないほどだ。国家の誕生を新たなビジネスチャンスにしようと、内外の投資家が熱い視線を注いでいるという。(中略)
 
スーダンは1954年、英エジプト共同統治に対して自治政府を樹立。翌55年、第1次南北内戦が始まった。72年に停戦したが、政府は83年、イスラム法による統治を提唱。キリスト教徒の多い南部は猛反発し、第2次南北内戦へと突入した。戦闘による死者は200万人にも達し、20年余りを経た05年、ようやく包括和平合意にこぎつけた。
だがその記念すべき独立を目前に控えた街の盛り上がりは、住民投票で分離独立が決まった今年1月に比べ、いま一つだ。ジュバ中心部には新国家の国旗やポスターがあふれているが、「歓喜一色」という雰囲気ではない。
   ◇  ◇
人々の心に暗い影を落とす問題がある。ジュバでは今年3月以降、石油不足から発電所の稼働が制限され、電力がほとんど供給されない状態が続いている。
多くの市民は電気なしの生活を強いられ、商店は自家発電機を回して営業。携帯電話の「充電屋」も登場した。フル充電にかかる費用は、約1ドル。ガソリン価格は1リットルあたり5スーダンポンド(約2ドル)にまで高騰している。米国際開発庁(USAID)によると、南部市民の半数以上は1日1ドル以下で暮らす貧困層。電気、ガソリンの不足は、市民生活を直撃している。

スーダンといえば、1日に原油約50万バレルを生産するアフリカ第6位の産油国だ。南部はなぜ、独立を目前に控えたこの重要な時期に、石油不足に悩まされているのか。南部・暫定自治政府の鉱山・エネルギー省幹部は取材に対し、その理由をこう打ち明けた。「北部からの石油供給が激減し、発電施設を稼働させるための十分な燃料を確保できない」。
南北分離後、最大の課題であり「火種」になるとされるのが、この石油問題だ。南部には油田の4分の3が集中するが、精製施設や輸出港へと続くパイプラインは北部にしかないからだ。

05年の和平合意に基づき、南北は石油収入を暫定的に折半してきたが、南部独立に際し、北部のバシル大統領は引き続き「折半」もしくはそれに相当する「パイプライン使用料」を要求。「支払わなければパイプラインを封鎖する」と強気の構えだ。一方、油田の大半を抱える南部は、北部の「取り分」を少しでも減らそうと抵抗し、折り合いはついていない。
北部による今回の石油供給の制限は、パイプラインと精製施設を握る「北部との連携」なしに南部の繁栄はありえない、という北側のメッセージでもある。

◇周辺国支援「将来」のカギ
南北が石油収入をめぐり対立を激化させるのは、それが「命綱」に他ならないからだ。80年代、米企業が南北の境界付近に位置するアビエイ地区で初めて油田を発掘。その後、北部の輸出港ポートスーダンへのパイプラインが完成し、経済の重心は農業生産から石油収入へと移った。現在、原油輸出は政府収入の5割、輸出収入の9割以上を占めている。

北部はその軍事力を駆使し、南部との交渉を優位に運ぼうとしている。今年5月下旬、北部政府軍はアビエイ油田地帯に侵攻し、制圧。南北双方は先月、同地区の非武装化に合意したが、北部は圧倒的な軍事力の優位を見せつけた形だ。

だが一方で、南部の窮状を救おうとケニアなど南部周辺国は最近、多数の給油車をジュバに送り込んでいる。キリスト教徒を主流とするケニアには、同教信者の多い南部スーダンとの絆を深め、イスラム教徒の多い北部をけん制したい思惑がある。ケニアからの給油車は連日、ジュバを中心にガソリンスタンドや大型発電施設を回る。国境を越え、遠路届けられた燃料がいま、独立を待つジュバの街を支えている。

商店を営むチェンゴ・デンさん(35)は電気の供給減により営業時間を短縮、売り上げも落ちたという。だが、思い描く「南部の未来」は明るい。「将来、北部に石油の供給を頼る機会は減るはず。南部の新政府がケニアなど周辺国と良い関係を築けば、問題はきっと解決できる。問題ないよ」【7月5日 毎日】
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これといった産業もない南部が石油収入に頼るのはわかりますが、地下から湧き出る収益を巡る利権争いが国の政治を腐敗させ、混乱のもとになることも多々あります。
新たな国家にとって一番大切なのは、石油収益ではなく、公正な統治システムであり、住民の生活向上を目指した地道な取り組みであることを忘れないように願いたいものです。

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北朝鮮  食糧事情悪化に国際支援 EU、厳格な横流し防止の監視も要求

2011-07-05 21:45:41 | 国際情勢

(北朝鮮への食糧支援は、本当に困窮している住民の手に渡るのか確証がないことが、国際社会の支援を鈍らせています。写真は07年のもの。どういう経路でかはわかりませんが、韓国からの支援米を入手した平壌市民 “flickr”より By Kernbeisser http://www.flickr.com/photos/kernbeisser/1582350478/ )

WFPの緊急支援も遅延
今年2月~3月に行われた国連世界食糧計画(WFP)と食糧農業機関(FAO)の北朝鮮調査の報告書で、北朝鮮の厳しい食糧事情が明らかになり、国際社会に救援が求められています。
報告書は、都市部世帯の60%が、共同農場で働く親せきから食糧支援を受けていることや、北朝鮮住民が食事量を減らして食糧不足に対処している実態を指摘、29万7000トンの穀物と13万7000トンの栄養強化食品などを610万人の北朝鮮弱者住民に提供すべきだと勧めています。【4月20日 聯合ニュースより】

一方、国連世界食糧計画(WFP)の対北朝鮮緊急食糧支援事業は資金不足のため遅延している状況のようです。
****WFPの対北朝鮮食糧支援、資金不足で遅延****
国連世界食糧計画(WFP)の対北朝鮮緊急食糧支援事業が資金不足のため遅延していると、米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)が5日に報じた。
WFPの報道官はRFAのインタビューに応じ、29日に発表した北朝鮮への食糧配給はまだ始まっておらず、31万トンの食糧が必要だが、現時点では栄養強化菓子を作る穀物8000トンを保有するにとどまっており、まずは資金を確保しなければならない状況だと伝えた。

WFPは先月29日、約31万トンの穀物で食品と栄養強化菓子を作り、食糧難が深刻な両江道と咸鏡南道を中心に住民350万人に向こう1年間提供していく緊急支援事業を施行すると発表していた。
同報道官は、この緊急支援事業の発表は、すぐに食糧を配給するという意味ではなく、国際社会の基金確保に向け、緊急支援事業の内容を公開したものだと説明した。

また、北朝鮮内で食糧分配を監視する要員を59人まで増やすとしたことに関しては、現在の監視要員は12人で、59人に増やす可能性はあるとしながらも、「資金が十分確保できていないなかで、どう増員するのか」と指摘した。【5月5日 聯合ニュース】
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アメリカ 軍事転用を警戒
北朝鮮の食糧困窮は今に始まった話ではなく、当然ながら、住民生活を無視して先軍政治を強行してきた金政権の無謀な政治の結果ですが、さりとて困窮している住民を放置することもできません。

こうした事態に、アメリカは5月末にキング北朝鮮人権問題担当特使が食料援助の必要性を調査するチームを率いて訪朝しました。調査チームには対外援助を担当する国務省の国際開発局(USAID)のメンバーも同行しました。
アメリカは2008年、北朝鮮に対する50万トンの食糧支援を決めましたが、食糧分配の監視をめぐって対立。17万トンは渡されたものの、支援は2009年8月から中断しています。【5月22日 聯合ニュースより】

****北朝鮮の幼児4割、栄養失調 米調査団「予想より良好****
5月末から6月にかけて北朝鮮を視察した米政府の食糧支援調査団が、北朝鮮の幼児の4割が栄養失調状態などとする分析を進めていることがわかった。米政府が韓国側に伝えた。ただ、米政府は食糧事情は予想よりも良好としており、支援を行うかどうかの結論はまだ出していない。

外交関係筋などによれば、調査団が北朝鮮の6郡で5歳以下の幼児約170人を調べたところ、4割が栄養失調だった。北朝鮮は軍などへの支援物資横流しを防ぐ監視態勢を受け入れる考えを米国に伝えたが、米側は依然警戒する考えを変えていないという。

国連機関の呼びかけに応じた各国の食糧支援はロシアの5万トンが最高。米政府は、先週調査を終えた欧州連合(EU)や韓国と支援を巡る事前協議を行う考え。韓国側は米国が支援に踏み切っても、栄養補助食品など軍事転用が難しい物資のごく少量にとどまると予測している。

一方、韓国も米国が食糧支援に踏み切る場合に備え、民間による人道支援を引き続き認める方針だ。玄仁澤(ヒョン・インテク)統一相は15日、国会で「支援物資が住民に正確に渡るよう透明性を強化しながら、人道支援を続ける」と報告した。【6月22日 朝日】
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EU 「あらゆる配送の段階で監視する」】
4月、アメリカの調査チーム派遣が発表された同時期に、アメリカ財務省は、北朝鮮の武器輸出入業者「グリーン・パイン・アソシエーティッド」社の商取引に協力したとして、北朝鮮の金融機関「バンク・オブ・イーストランド」(別名ドンバン銀行)を新たに金融制裁対象に指定したと発表しています。
食糧支援という“アメ”と、金融制裁という“ムチ”で、北朝鮮をなんとか国際交渉のテーブルに引き出そうというところでしょう。

アメリカに続いてEUも、EU執行委員会傘下の欧州委員会人道支援事務局(ECHO)に所属する職員5人を6月に北朝鮮に派遣して、食糧事情の調査を行っています。
この調査を受けて、EUは北朝鮮に1千万ユーロ(約11億7千万円)分の食糧を緊急支援すると発表しています。ただし、支援食糧が軍などに横流しされないように厳重に監視するとしています。

****EU、北朝鮮に65万人分の食糧支援 横流し監視****
欧州連合(EU)の欧州委員会は4日、北朝鮮に1千万ユーロ(約11億7千万円)分の食糧を緊急支援すると発表した。主に北部と東部の65万人が対象で、食糧が横流しされないよう厳重に監視することで北朝鮮側と合意したという。

欧州委は6月に専門家を北朝鮮に派遣し、病院や配給所などを視察。食糧事情が急速に悪化していることを確認した。4月から6月にかけて1人当たりの配給量が約6割も減り、1日に必要な栄養価の5分の1しか得られていないという。
欧州委は国連の世界食糧計画(WFP)の協力を得て、特に栄養失調で入院中の5歳未満の子どもや、妊婦、乳幼児を抱える母親、老人らに行き渡るようにする。ゲオルギエバ欧州委員(人道援助担当)は「人々が飢えで死ぬことのないよう、あらゆる配送の段階で監視する」とした。(ブリュッセル=野島淳) 【7月4日 朝日】
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“(EU執行委のシャーロック)報道官は、北朝鮮がEU側との約束を破って食糧を軍に転用した場合、すぐに支援を中断することを強調した。何度かに分けて配分することで軍転用に対するチェックを行っていくという。
また、支援食糧が北朝鮮の港に到着した時点からEU執行委と国連世界食糧計画(WFP)の関係者が、軍に転用されないかを徹底的に監視するという。”【7月5日 聯合ニュース】

軍兵士の食糧事情も困窮
北朝鮮では、一般住民だけでなく、「春先になると50%が栄養失調になるだろう」といった、軍兵士の食糧事情悪化も報じられています。

****食糧確保できず、兵士の士気低下…北朝鮮の内部映像公開****
ジャーナリスト集団「アジアプレス・インターナショナル」が、北朝鮮国内でひそかに撮影したという映像を公開した。厳しい食糧事情を明かす兵士の証言も収められ、映像を分析したアジアプレスの石丸次郎氏は「『先軍政治』を掲げながらも軍に配分する食糧を十分確保できず、兵士の士気が低下していることがうかがえる」と指摘した。

映像は北朝鮮在住の取材協力者が今年1~4月に撮影したもので、アジアプレスが23日に記者会見を開いた。
北西部の平安北道で接触した20代の男性兵士は「配給はあるが、情けなくて何を食べているか言えない。春先になると50%が栄養失調になるだろう」と証言。この兵士は上官のために山菜採りをしていたという。
平安北道で行商人の女性が市場管理員に「軍糧米」の供出を強要される場面を隠し撮りした映像や、平壌郊外の市場でコメや穀物などを軍に寄付した住民の名前が「援軍美風の先駆者」として掲示されている映像もあった。【6月28日 朝日】
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ロシア 小麦5万トンを支援
すでにロシアは、5月18日、人道支援として小麦5万トンを近く北朝鮮に送る方針を発表しています。
ロシアは、フラトコフ対外情報局長官と金正日総書記との会談で、2国間の経済協力のほか、韓国も加えた天然ガスのパイプラインや鉄道、送電施設の建設も協議したとも報じられています。【5月19日 読売より】

中国 中国式の社会主義的市場経済モデルを推進
北朝鮮の後ろ盾である中国に関しては、5月、金正日総書記が訪中していますが、ここ1年間で3回目の方中であり、「北朝鮮側にかなり緊急な事情があるかもしれない」とも憶測されています。【5月22日 産経より】
中朝間では、北朝鮮が海外資本に開放している特区「羅先経済貿易地帯」を有する羅先特別市と中朝国境を流れる鴨緑江の中洲の島・黄金坪を市場経済原理を適用する拠点産業ベルトにする案を本格的に進めていると伝えられています。黄金坪では、中国主導によるインフラ整備が本格化しているとも。

****金総書記の訪中で中朝密着誇示、中国依存度深まる****
中国を訪問している北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は25日、胡錦濤国家主席と首脳会談し、中国首脳部が大挙出席する夕食会にも出席した。首脳会談では食糧支援と経済協力の活性化、中国企業の北朝鮮投資拡大などについて、踏み込んで協議したと伝えられた。(中略)

中朝は今回の金総書記の訪中と首脳会談を通じ、堅固な友好関係が今後も持続することをアピールした。そうしたなかで外交専門家らは、友好な中朝関係の裏側に、北朝鮮の中国依存度がさらに深まるという現象が定着したと指摘する。

北朝鮮は核実験などで国連から制裁を受け、国際社会から孤立している。外交的にも相当部分で中国に頼っているのが実情だ。食糧援助を含む各種援助も中国から受けている。また、米国主導の経済制裁が続くうえ、韓国とは韓国哨戒艦撃沈、延坪島砲撃事件の後、開城工業団地を除くすべての経済交流が途絶えた。北朝鮮が頼ることができるのは中国しかなく、中朝の経済協力強化は、経済的な面でも北朝鮮の中国依存度の深刻化につながっているとの指摘も多い。

中国は、改革開放を通じ世界第2位の経済大国に成長したということに、大変な自負がある。世界金融危機の発生後は米国の経済システムを非難し、中国式の社会主義的市場経済モデルが、より経済発展に適格だとの主張を掲げている。
中国はこうしたプライドを基に、北朝鮮との経済協力を推し進め、北朝鮮にさまざまな助言を行う可能性が高い。北朝鮮がその助言通りに開放を進めれば、貿易、投資部門で両国間の経済的なつながりはさらに拡大する可能性がある。

ただ、中国が膨大な資本、市場、技術を有するのに対し、北朝鮮は人員、鉱山、農水産物などを除いては比較優位を持つものがさほど多くない。国連の制裁などで資本調達も難しい。中朝の経済協力が活性化されれば、中国企業の投資資本に対する依存度が高まるものと予想される。【5月26日 聯合ニュース】
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中国は北朝鮮にこれまでも中国式の社会主義的市場経済モデルを実行するように働きかけてきたと言われてもいますが、北朝鮮側に本格的に改革・開放経済を受け入れる意思があるのかどうかはわかりません。
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サウジアラビア  インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化

2011-07-04 20:35:22 | 世相

(クウェートへの出稼ぎのため、ドバイ空港に到着したインドネシア人家政婦 “flickr”より By plmgt2000 http://www.flickr.com/photos/38121265@N02/3506556989/

サウジへの労働者派遣を一時中止
インドネシアからサウジアラビアへの出稼ぎ家政婦の扱いを巡って、両国の関係が悪化していることが報じられています。

****インドネシア:サウジに厳重抗議 家政婦の斬首刑通告なく*****
インドネシアのユドヨノ大統領は23日、サウジアラビアで雇用主を殺害したインドネシア人家政婦に対し、事前通告なしに斬首刑が執行されたことを受け、「国際関係上の規範と礼儀を破った」としてサウジ政府に「厳重に抗議する」と述べた。国民向けのテレビ演説で発言した。

大統領は演説で、これまでも待遇改善のためにサウジへの労働者派遣を制限してきたと強調。すでに同国内で死刑が確定している26人のインドネシア人労働者について、事件や裁判の経緯などを調べる「タスクフォース」を新設する方針を明らかにした。
インドネシア政府は22日、サウジへの労働者派遣を一時中止する措置を発表。8月1日から実施し、サウジ政府がインドネシア人労働者の人権保護に関する覚書に署名するまで続けるとしている。

07年にサウジ人雇用主を殺害し、死刑が確定している別のインドネシア家政婦のケースでは、雇用主の遺族が200万リヤル(約4300万円)の賠償金で減刑に応じるとしており、インドネシア外務省は支払いに向けた手続きに入った。この家政婦はレイプされそうになったため殺害したと正当防衛を主張している。【6月23日 毎日】
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インドネシア当局によると、18日に処刑されたこのインドネシア人家政婦は、サウジアラビア人の雇い主にインドネシアへの里帰りの許可を求めたが認めてもらえなかったため、雇い主を殺害したと供述していたとそうです。【6月23日 AFPより】

暴力が原因と見られる死亡例も多数
サウジアラビアで雇用主と外国人家政婦の問で事件が起きたのは、今回が初めてではありません。
昨年は、路上でインドネシア人家政婦の遺体が発見されています。唇をはさみで切られるなどの暴行を受けた家政婦もいます。サウジアラビアで働く外国人家政婦は長年、雇い主による虐待を繰り返し訴えてきています。【7月6日号 Newsweek日本版より】
暴力が原因と見られる死亡例も多く、遺族らは真相究明と遺体の早期送還を求めています。

****インドネシア:家政婦遺族ら真相究明を*****
「あんなに元気だった妹がなぜ。真相を知りたい」。イエニさん(35)がサウジで働いていた妹エルナワティさん(18)の訃報を聞いたのは今年2月。妹は15歳だった08年8月、サウジのハイルに出稼ぎに行った。

直後から携帯電話で雇用主の妻による暴力を訴えた。睡眠時間は約3時間。仕事は多く、失敗すると何度もたたかれた。帰国は許されず、雇用主の友人にレイプされそうになったこともある。今年1月、「死んだら両親をよろしく」と携帯電話のメッセージが届いた直後、連絡が途絶えた。外務省に保護を求めたが、対応してもらえなかったという。

一緒に働いていた家政婦によると2月10日、それまで3日間食事を与えられず、逃げようとしたところを雇用主の妻に見つかり、その友人の男性にホースで胸などを何度も強く打たれた。血を吐いて倒れ、病院で息を引き取ったという。病院からは同13日、「自殺した」と連絡があった。大使館に遺体引き取りを依頼したが、「調整中」としていまだに実現せず、同時に求めた実態調査も「地元警察に依頼した」と返答があっただけだ。

民間団体「ミグラント・ケア」によると、雇用主の暴力が原因と見られる死者はサウジだけで少なくとも100人以上。約半数は遺体がインドネシアに返還されていない。同団体のアニス事務局長は「政府は対応が遅すぎる。労働者保護と遺体送還をきちんと定めた覚書を一刻も早く締結すべきだ」と主張する。

インドネシア外務省報道官はエルナワティさんのケースについて「病院の検視が終り次第送還される」と説明。他のケースについては「要望があった際は大使館を通じてサウジ側に送還を依頼してきたが、遺族が望まないことも多い」と話した。【6月28日 毎日】
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アラブ社会には、アジア人に対する偏見がある
問題が大きくなるにつれ、出稼ぎ家政婦の労働実態に関する報道も増えています。
****インドネシア:「奴隷だった」オマーンから帰国の元家政婦*****
サウジアラビアで雇用主を殺害したインドネシア人家政婦が6月中旬、死刑となったのをきっかけに、出稼ぎ労働者に対する虐待への批判が高まるインドネシア。
「まさに奴隷だった」。2カ月前に中東オマーンから帰国した元家政婦ルスナニさん(47)は毎日新聞の取材に、その実態を証言した。

サウジ、クウェート、オマーン。ルスナニさんはこれまでに計3回、中東諸国に出稼ぎに行った。「雇用主や家族の暴力は当たり前。サウジで斬首刑になった女性と私の境遇はとてもよく似ている」と打ち明けた。
3人の子供の教育費を稼ぐためだった。夫とは離婚。いずれの国でも、雇用主から虐待を受けたり、給与の不払いを経験した。「何度も復讐(ふくしゅう)したいと思ったが、私は殺さなかった。お金のため、と自分に言い聞かせ、子供のことを考えて耐えた」

09年5月、アラブ首長国連邦のアブダビへ。他の家政婦と一緒に「マネキンのように並べられ、8000サウジリヤル(約17万円)でオマーンの政府高官に買われた」。仕事は炊事、洗濯、掃除に庭の手入れ。睡眠時間は、平均すると約3時間程度。10年4月に雇用主が失業してからは、特にその妻からの虐待が激しくなり「仕事が遅い」と木の棒や素手で殴られ、賃金の支払いも滞った。
「大金を払ったのだから、あんたは私のモノ。何をしてもいいの。政府や法律なんて関係ない」。妻は何度もそう言ったという。手紙を出すことも電話をかけることも許されず、外出もできない。「インドネシアに帰らせて」。そう頼むたびに、暴力を受けた。

4月中旬、キッチンで妻が「新しいナイフはどこ」と尋ねた。思い出せずに探していると、自分で見つけた妻がルスナニさんの首にナイフを突きつけ、「帰ることばかり考えているから忘れるんだ。だったら先に首だけ帰してやる」と叫んで力を込めた。あごが切れ、血が流れた。
翌朝、雇用主から不払い給与13カ月分のうち4カ月分の約520万ルピア(約4万9000円)だけ渡され、そのまま放り出された。
今も棒で殴られた右腕がしびれ、力が入らない。虐待された記憶がよみがえり、恐怖と怒り、悔しさで涙が止まらなくなる。末っ子の長男はまだ高校生。大学生の長女と約束したパソコンは今も買えていない。 

 ◇アジア人への偏見も
インドネシア大のスリスティオワティ・イリアント教授(女性・ジェンダー学)の話
中東諸国は一般に、渡航手続きの規制が緩い。出稼ぎ労働者の多くは地方の貧困層で、年齢などで規定に満たない場合も少なくない。書類を偽造し、渡航をあっせんするアラブ系移民の業者もあり「行きやすい」ことが背景にある。

一方、インドネシア人の大半はイスラム教徒で「アラブ」は預言者ムハンマドを生んだ聖地であり、雇用主はその末裔(まつえい)と考えることが多い。富裕層への憧れもあり、「アラブ人は豊かで善良」とのイメージも根強い。

だがアラブ社会には、アジア人に対する偏見がある。アラブ人と非アラブ人、富者と貧者を区別し、男尊女卑の文化も色濃く残る。最上位はアラブ人男性で、アジア人女性は最下位に置かれる。同じアジア人でも、フィリピン人の多くは看護師など医療部門で働くが、インドネシア人の女性は家政婦中心で最下層と見なされ、差別意識が虐待などを助長している。【7月4日 毎日】
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【「労働者の代わりは他にいくらでもいる」】
この問題に対するサウジアラビア側の反応は、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」と、やや非情なものがあります。
****サウジアラビア:インドネシア労働者などへのビザ発給停止*****
サウジアラビア労働省は29日、インドネシアとフィリピン人労働者への労働ビザ発給を7月2日から停止すると発表した。国営サウジ通信(電子版)などが伝えた。両国は労働者保護についてサウジ政府を批判、規制強化を求めており、これに対抗する措置とみられる。

インドネシア政府はサウジで雇用主を殺害した同国人家政婦が6月18日、事前通告無しに斬首刑にされたことを受け、8月1日以降のサウジへの労働者派遣停止を発表。フィリピン政府は労働者の待遇改善を求め、最低賃金を月210ドルから400ドルに引き上げるようサウジ政府に要望したが、今年5月に拒否されている。

サウジ労働省報道官は、ビザ発給停止は両国が提示した「採用条件」を受けての措置であり、すでに別のアジア、アフリカ諸国からの受け入れ準備を進めていると述べた。
サウジではインドネシア人約150万人が家政婦や油田労働者として従事し、毎月1万5000人程度が渡航している。フィリピン人も約120万人がサウジで働いているが、雇用主による暴力や性的虐待、給与不払いなどが問題となっている。

サウジ当局者は地元メディアに対し、労働者の派遣停止でインドネシア側が被る損失は16億ドル(約1285億円)に上ると見積もり、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」と発言。サウジ側に影響はないとの見方を示している。【6月30日 毎日】
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こうした出稼ぎ労働者の処遇に関する問題は、別にサウジ・インドネシア間だけでなく、出稼ぎ家政婦の問題だけでもありません。
オイルマネーで潤う中東には、バングラデシュなど多くの貧しい国々から建設業などに多数の労働者が集まっており、その労働条件・生活環境に関する問題はよく目にするところです。

同じアジアの中にあっても、シンガポールや香港などへの出稼ぎ労働者の処遇が問題になることもあります。
また、インドネシアからの出稼ぎ家政婦に関しては、経済的に優位にある隣国マレーシアへの出稼ぎで、やはり暴行などの問題があって両国関係が悪化したりもしています。

“よくある話”と言ってしまえばそれまでですが、経済的に劣後した国からの出稼ぎ者の弱い立場に付け込んだ、理由のない優越感の発散は、暴力をふるう側の国家・国民の品位を貶めるものです。
サウジアラビアも、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」などと大人げないことを言わずに、改善に努めてもらいたいものです。
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中国  共産党以外の民主党派、共産党支持を受けない独立候補の現状

2011-07-03 21:32:56 | 世相

(2月20日 上海 “ジャスミン革命”の呼び掛けに、繁華街に学生ら約50人が集まりましたが、警官が排除し、若者3人を連行しました。 “flickr”より By ~囧~  http://www.flickr.com/photos/chaneagle/5718105643/ )

【「新たな政党を創設する必要はない」】
中国は“事実上”の共産党一党支配の政治体制ですが、“形式的”には共産党以外の政党が認められてはいます。
ただ、その実態はよくわからない部分もあります。
VOA記者がその点を記者会見で質問した際の、共産党側の回答内容が以下の記事です。

****中国に新しい政党は必要ない」、統一戦線工作部が記者会見で明言―中国****
2011年6月29日、中国共産党中央対外宣伝弁公室の行った記者会見で、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の記者が中国で新党が創設される可能性について質問し、中国共産党中央統一戦線工作部のスポークスマンがこれに答えた。新華社通信が伝えた。

VOA記者が、中国の民主党派の党員総数や、民主党派が任意に党員を増やせるのか、党員数に上限はあるのか、新たな民主党派を創設することは可能なのか、発言の権利は保障されているかなどについて質問した。

これに対し、中央統一戦線工作部の張献生(ジャン・シエンション)報道官は、改革開放政策が始まった頃には民主党派の党員は6万人程度だったが、現在は84万人を擁するまでに増えていると答え、民主党派は共産党の友党として政権に参与しているとした。

また、中国には共産党以外に、現在8つの民主党派があるが、それぞれ科学技術や教育、文化、スポーツなどの分野からの党員で構成され、共産党を含めた9つの政党で現在の中国の各社会階層をカバーできているとし、「新たな政党を創設する必要はない」と強調した。(翻訳・編集/岡田) 【6月30日 China Record】
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8つの民主党派は、“それぞれ科学技術や教育、文化、スポーツなどの分野からの党員で構成されている”ということで、政策上の差によるものではないようです。
(思想はもちろん)政策上の違いによる政党ではなく、専門分野代表であれば、「新たな政党を創設する必要はない」との発想にもなりますが、日本や欧米の民主主義に関する常識とは乖離があります。

日本や欧米の常識からすれば、新党の必要性を決めるのは国家でも共産党でもなく、その必要を認める国民・有権者の意思です。
経済システムでは資本主義(それも弱肉強食的で、産業革命当時のような、むき出しの資本主義)を採用したかに見える中国ですが、政治的特異性は相変わらずです。

【「人民の集会、結社、言論、出版の自由を完全に認めよ。それがなければ、いわゆる選挙権は紙の上の権利にすぎない」】
北京で1日に開かれた中国共産党創設90年祝賀大会で、胡錦濤国家主席が行った講話の骨子のひとつに“経済改革に加えて政治体制改革を推進し、人民の政治参加を拡大する”ということがあげられています。
共産党以外の政党と同様に、共産党や政府系団体が指定する候補としてではなく、自由な立場で民代表大会選挙へ立候補することも“形式的”には認められていますが、“事実上”の問題としては、相当に高いハードルがあるようです。

****中国共産党、独裁脅かす独立候補続々…政治的抑圧に限界****
「私は世界中で一番情けない父親だ」
「父の日」を翌日に控えた6月18日、中国の著名ジャーナリスト、李承鵬氏(43)は自身のブログで綴(つづ)った。

理由はこうだ。中国では地方の人民代表大会(議会)選挙が5年に1度実施される。李氏は、故郷の四川省成都市武侯区で今夏行われる人民代表大会選挙への立候補を表明した。すると、長男(10)が参加しているジュニアテニス選手育成プログラムを支援する地元企業が突然、「あなたの息子を支援リストから外したい」と連絡してきたという。

李氏の立候補を阻止したい共産党当局が企業に圧力をかけたのが原因だ。共産党や政府系団体が指定する候補としてではなく、自由な立場の「独立候補」として出馬表明したことが当局の逆鱗(げきりん)に触れたらしい。
李氏は、サッカー賭博の内幕を暴くなどスポーツ界の不正を追及してきた。今回、多数の住民からの推薦を受け、法律で保障された被選挙権を行使しようとしただけなのに、家族にまで迷惑を掛けてしまったことに大きなショックを受けた。
「テニス少年の息子に何と説明すればよいのか…」。李氏は戸惑いながらも立候補を取り下げるつもりはない。

中国の省や市レベルでは間接選挙で代表(議員)が決まるが、市の下部レベルの区、県、郷では直接選挙が実施されている。また選挙法には、政府認定の政党、団体から指定された有権者だけでなく、10人以上の住民から推薦された有権者も出馬できると規定されている。
当局は、こうした点を根拠の一つに「中国の選挙は民意を反映している」と主張する。

しかし実際には、住民10人以上の推薦を得た「独立候補」が当選するのは極めて難しい。条件審査の段階で“問題点”を指摘され、候補者資格を与えられない人がほとんどだ。
ただ、今年の地方選挙で李承鵬氏のように「独立候補」として立候補手続きを進めているのは、約200万という全議席に対し少なくとも数十万人に上ると伝えられる。前回選挙に比べ10倍増の伸びだ。当局がこれに対応しきれるのか、ふたを開けてみないと誰にも分からない。

「人民の集会、結社、言論、出版の自由を完全に認めよ。それがなければ、いわゆる選挙権は紙の上の権利にすぎない」民主活動家の言葉ではない。1944年2月2日付の「新華日報」に掲載されたもので、新華日報は当時、中国共産党機関紙だった。共産党は40年代、中国国民党による独裁政権をたびたび批判していたのだ。
しかし49年に権力を握ると、こうした主張を引っ込め、国民の政治的権利を奪っていく。

一方で、78年の改革開放政策以降、社会の価値観は多様化した。近年の高度経済成長により地方にも中間層が生まれ、インターネットの普及を背景に、自分の権利を主張し政治に参加しようという意欲が、大都市だけでなく地方の住民の間でも高まりつつある。
民意を反映させようとせず、国民の不満を強権で押さえ込む状況が続けば、北アフリカや中東のように大規模デモ、騒乱が起きかねない。共産党政権が中国版「ジャスミン革命」を恐れる理由がここにある。
共産党結党から90年。一党だけですべての国民の利益を代表しようとする政治体制は限界に来ている。数十万の「李承鵬」の存在がそのことを象徴している。【7月2日 産経】
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【「独立候補というものに法的根拠はない」】
上記記事は、共産党一党支配体制の限界が近づきつつあるとの主旨ですが、現実には共産党による締め付けは未だに厳しいものがあります。“独裁脅かす独立候補続々”という見出しは、いささか強調しすぎのきらいも。

****挑む非共産候補、阻む当局 中国の地方選****
6月29日午前5時過ぎ。まだ薄暗い中、中国江西省新余市渝水区の農村地帯で、村の幹部らが赤い投票用紙を手に家々を回っていた。この日は、区の人民代表大会(人代=議会)選挙の投票日。用紙には4人の候補の名が印刷され、幹部は「後ろの3人に印を付けるように」と指示した。

選挙には、道路建設に伴う立ち退き問題で政府を相手に補償を求める男性が、共産党の後押しを受けない「独立候補」として立候補を表明していた。だが、男性の名前は用紙に印刷さえされていなかった。
印刷された4人はいわば党公認候補。選挙の形を作るため、定数より多い候補者をそろえた。多くの住民は「どうせ知らない名前ばかり」(38歳女性)と言われるままに投票した。

「区人代の代表になりたいんです」。4月半ばの日曜日。同区の国有製鉄工場団地で、夕食を終えてくつろぐ人たちに向かって劉萍さん(46)は声を上げた。
劉さんは昨年、約30年勤めた製鉄工場から早期退職を迫られた。地元裁判所に不当解雇を訴えたが無視され、北京の裁判所に訴え出ようとして拘束された。

「庶民の声はどこにも届かない」。絶望を深めていた時、選挙で声を上げようと思い立った。
だが、演説を始めると警察官が駆けつけ、「公共秩序騒乱罪になるぞ」と脅した。地区の選挙弁公室の主任は「わきまえろ。お前は一度勾留された人間だ」とののしり、党の選挙でもないのに「我々は共産党の指導の下、党の規則で動くのだ」と言い放った。
劉さんは投票日の前後5日間、警察に拘束され、候補者名簿からも外された。約600人が自由記入で劉さんに投票したが、当選には1ケタ足りなかった。

中国の各地で、5年に1度、直接選挙で選ぶ県・郷級人代選挙が始まった。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は1日の共産党創立90周年の重要講話で、「政治体制改革を積極的かつ穏当に推進する」と表明。一定の民主化を進める考えを強調した。だが、かけ声とはほど遠い現実が「独立候補」を阻んでいる。【7月3日 朝日】
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上記【朝日】は続けて、上記の劉さんのような行動を受けて、ネットに出馬宣言する動きが広まっていることを報じていますが、当局側の警戒感も増しているようです。

****ネットに出馬宣言 中国で続々****
「マイホーム、就職、社会保障。問題解決のために働く代表が必要です」
中国浙江省杭州市に住む徐彦さん(27)は5月26日、ブログで区人民代表大会選挙への立候補を宣言した。ネットで劉萍さんの活動を知り、衝撃を受けた。

劉さんが立候補体験をつづった簡易ブログの登録読者は一時4万人を超えた。貧富の格差の拡大などで不公平感が強まる中、「選挙を通じて社会を変えよう」との志を持つ人たちがネットでつながり、プログで独立候補として立候補を表明する動きが相次ぐ。(中略)

5月以降、共産党の後押しを受けない「独立候補」は、メディアが確認した人だけで100人近い。
長年、人代選挙を観察してきた「世界・中国研究所」の李凡所長(61)は「この段階でこれほど多くの人が立候補宣言するのは前代未聞」。前々回の2003年は約100人、06~07年の前回は数万人だった独立候補の数は今回、数十万人に上ると見る。

党・政府は波及警戒
胡錦濤国家主席は07年の第17回共産党大会の政治報告で、政治体制改革の必要を強調し、「民主選挙を実施し、人民の知る権利、参政権、発言権、監督権を保障する」とうたった。1日の重要講話では、「我々は人民の秩序ある政治参加を不断に拡大する。すべての権力は人民にあり、法にのっとった民主選挙の実施を保障する」とした。

独立候補たちは、弾圧を受けた過去の民主化運動と一線を画す。「憲法で保障されている権利を行使するだけ」との立場で、政府や共産党を否定するわけではない。ある候補者は「大多数の人々が望んでいるのは安定だ」と語る。

それでも、民主化の実践に対する警戒は根強い。「独立候補というものに法的根拠はない」
6月8日、国営新華社通信が、全国人民代表大会常務委員会幹部の発言を配信した。今月から本格化する各地の選挙を前に立候補の動きが広がっていた時期で、ブームを牽制する意図は明らかだった。
以後、独立候補に関する国内の報道がぱたりとやんだ。広東省のメディア関係者は 「『この話題には触るな』との指示がでた。風向きが変わった」と語る。

独立候補の数は増えているものの、実際に当選するケースはほとんどない。98年に湖北省潜江市の人代に当選し、ほかの独立候補たちに経験を伝えてきた姚立法さんが20日、消息を絶った。
劉さんはこう語る。「地方には私たちの主張を既得権益への挑戦と受け取る人々がまだまだいる」

李所長は「今の中国は暴動が起きない日の方が少ない。庶民の不満が高まっているのに、訴えるすべがあまりに少ないからだ」と指摘。「政治改革は待ったなしだ。党や政府が庶民の声をせき止めようとするなら、矛盾は増すだけだ」と話す。【7月3日 朝日】
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国民の幅広い声を政治に反映させ、社会の安定を確保するためには、共産党以外の政党、独立候補の存在が必要不可欠に思えますが、その常識が通用しないところが中国共産主義の共産主義たるゆえんでしょうか。

コメント (1)
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タイ  明日3日総選挙 衰えぬインラック人気

2011-07-02 20:10:55 | 国際情勢

(7月1日 雨の中、支持者への最後の訴えを行うタイ貢献党の首相候補インラック・シナワット氏 “flickr”より
By Ratchaprasong 2  http://www.flickr.com/photos/ratchaprasong2/5892871526/ )

インラック氏「最低でも250議席は取る」】
これまでも何回か取り上げてきたタイの総選挙は、明日3日に行われます。
タクシン元首相派のタイ貢献党がタイ初の女性首相候補として担いだタクシン氏の実の妹、インラック・シナワット氏(44)の人気で、野党のタイ貢献党が優位に戦いを進めている状況は変わっていないようです。
注目は、第1党が予想されているタイ貢献党が単独過半数を確保できるかどうかにあります。

****タイ:下院総選挙…3日に投開票*****
タイのタクシン元首相派と反タクシン派の対立に一応の政治的決着を付ける下院総選挙が3日、投開票される。タクシン派野党「タイ貢献党」が第1党の座を確保するのは確実な情勢で、定数の半分の250議席に近付けばタクシン派の2年半ぶりの政権復帰の可能性が強まる。一方、同党の議席が与党「民主党」と僅差となる200台前半にとどまれば、政権の行方は、選挙後の少数政党との連立交渉に持ち越される。

総選挙には計40政党が参加し500議席(比例区125、選挙区375)を争う。貢献党と民主党が2大政党で、当初は両党は互角とみられた。だが貢献党がタイ初の女性首相候補として担いだタクシン氏の実の妹、インラック・シナワット氏(44)が人気を集め、終盤戦の世論調査では民主党の地盤の首都バンコクでも貢献党が優位に立つ。
インラック氏は「最低でも250議席は取る」と自信を示す。議席は選挙管理委員会の選挙違反の有無の調査を経て確定するが、貢献党が250議席を上回ればタクシン派の政権復帰は確実となる。

一方、民主党が善戦した場合、計100議席前後を獲得するとみられる少数政党との連立交渉が鍵を握る。タイ政界では伝統的に第1党に連立交渉の優先権があるものの、貢献、民主各党の獲得議席が僅差となれば、両党はそれぞれの閣僚ポストなどをエサに、少数政党に対する激烈な綱引きを演じるとみられる。

有権者は約4730万人。3日午後3時(日本時間同5時)に投票が締め切られ即日開票される。深夜には大勢が判明する。【7月1日 毎日】
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アピシット首相「タクシンという毒を取り除く好機だ」】
劣勢にまわった与党・民主党側は、政策論争よりもタイ貢献党批判、タクシン批判に重点を置いた戦いを行っていますが、それがうまく効果をあげていないとの指摘もあります。

****タクシン派批判 タイ与党強める*****
総選挙、あす投開票
総選挙の投開票日が3日に迫ったタイで1日、タクシン元首相を支持する野党・タイ貢献党と、反タクシン派の与党民主党がバンコクで最後の大規模集会を開いた。劣勢が伝えられる民主党は、選挙戦終盤からタクシン派批判を激化させ、選挙後の和解への議論は置き去りとなった。

民主党は世論調査などで劣勢が鮮明になってから、「タクシンという毒を取り除く好機だ」(アピシット首相)などと、政策論争よりもタイ貢献党批判に主眼をおいた。ダクシン派と軍の衝突などで死者約90人が出た昨年の騒乱の責任は、武装集団を率いたタクシン派幹部にあると名指ししてきた。

選挙戦について朝日新聞が1日、2007年の前回選挙で民主党が36選挙区中27選挙区で勝利したバンコクで有権者50人に取材したところ、民主党支持者の中にも「彼らはうそばかり」(67歳男性)、「批判以外にすることがあるはずだ」(57歳男性)などと、今回はタイ貢献党支持や無投票に考えを変えた人たちがいた。

タイ貢献党は選挙後の政局安定を目指し、「和解」を強調してきた。タイ貢献党のナタウット候補は「民主党に感謝する。彼らの攻撃のおかけで、タイ貢献党は多くの人から同情を得ている」と話す。【7月2日 朝日】
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恩赦は「兄のためには行わない」】
野党タクシン派のタイ貢献党が政権を獲得することになれば、現在海外逃亡中のタクシン元首相の恩赦・帰国問題が焦点になりますが、首相候補でもある妹のインラック・シナワット氏は現在のところ、タクシン元首相の帰国・復権につながる恩赦は行わないと発言しています。

****タイ総選挙:インラック氏が会見 タクシン氏の恩赦行わず****
7月3日投票のタイ総選挙で、優勢を保つタクシン元首相派野党「タイ貢献党」の首相候補、インラック・シナワット氏(44)が27日、毎日新聞などと会見した。実兄で海外逃亡中のタクシン元首相の「操り人形」との見方を否定し、タクシン氏の帰国・復権につながる恩赦も「兄のためには行わない」ことを強調した。

インラック氏は「私は兄から経営やビジョンを学んだ。私の思考回路は兄と同じ。だが指導者としての意思決定は自分自身で行う」と訴えた。恩赦についても「(タクシン、反タクシン派の間の)国民和解のための手段。(現政権が設置した)国民和解委員会と協議して決めるが、兄のためには行わない。選挙後も兄は海外にとどまる」などと述べ、首相に就任しても兄の帰国・復権に取り組む考えのないことを強調した。
選挙戦でインラック氏は「タクシン色」を払拭(ふっしょく)することで国民の幅広い支持獲得を狙っており、こうした姿勢を反映した発言とみられる。

また「少なくとも議席の過半数を獲得する」と単独で政権樹立が可能な下院での過半数確保に自信を示した。国政の最優先課題については「国民は生活費の上昇に苦しんでいる。物価上昇を抑え生活を改善する」と表明。タイ初の女性首相候補として「国民和解へ向け、非暴力の象徴である女性が首相になるのはよいこと」とアピールし、「夫と子供は私の立場を理解し、支持してくれている」と話した。【6月27日 毎日】
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実際、政権を握ればいろいろと話は出てくるのでしょうが、国民和解のためには慎重に判断してもらいたいところです。

【「政権を担えるのならば、どの政党とも協力しなければならない」】
与野党の政権争い以外で興味深いのは、5年前のクーデターを指揮して軍事政権をつくったソンティ元陸軍司令官が、今回総選挙にイスラム政党を率いて立候補していることです。
更に“面白い”のは、クーデターでタクシン元首相を追放したソンティ氏ですが、選挙結果によってはタクシン派との連立もありうるとか。

****タイ総選挙に軍の元トップ出馬 5年前のクーデター指揮****
3日投開票のタイ総選挙に5年前のクーデターを指揮したソンティ元陸軍司令官(64)が立候補している。タクシン首相(当時)を追い落とし、多数の死者を出す社会対立のきっかけをつくった元軍トップの政界進出の動きに、表立った批判は見られない。

■批判の声、少数
南部ヤラーのイスラム学校で6月27日朝、イスラム教徒のソンティ氏は5千人を超える生徒や教師に語り始めた。
「(イスラム教徒が多数を占める)最南部3県では暴力が広がり、教育の水準も低い。陸軍司令官や(クーデター後に権力掌握した)民主改革評議会議長としては問題解決できなかった。痛感したのが政治の関与だ。だから立候補した」

同氏はイスラム教徒の政治家が結成した「祖国党」の党首に2年前に就任。今回、最南部3県を中心に、選挙区、比例区合わせて87人の候補者を擁立した。与党・民主党とタクシン派のタイ貢献党の2大政党が競う中、キャスチングボートを握ることを目指す。

クーデターの主導者が、政党党首として民主主義の根幹である選挙に参加することへの批判は皆無と言って良い。「奇妙な出来事」(タマサート大法学部のパリンヤ教授)、「茶番」(チュラロンコン大のティティナン安全保障国際問題研究所所長)といった指摘は少数にとどまる。
タクシン元首相の支持者からも異論は聞こえない。「反独裁民主同盟」のティダ代表代行は「政治への参加は歓迎だ。クーデターが国民に支持されていないことや軍服を脱ぐと無力であることを実感する良い機会だ」と皮肉を交えて話す。

こうした状況についてパリンヤ教授は(1)クーデターを指示したのは守旧派のプレム元首相で、ソンティ氏は操られていたとの見方が強い(2)貢献党の敵は民主党で、ソンティ氏の政党ではないと見られている、と解説する。

■連立の可能性も
批判や異論がない半面、貢献党が勝利しても過半数に届かない際の連立相手として祖国党が取りざたされている。
これに関しても「クーデター首謀者と反クーデターの政党が手を組む荒唐無稽(こうとうむけい)な話だが、タイでは対立する政党が連立を組むのは珍しくない」(市民運動家のスピンヤ氏)と言う。
パリンヤ教授も「タイを前進させるためには全当事者が選挙結果を受け入れ、街頭デモなどを起こさないことだ」と指摘。一つの選択肢として、「タクシン氏とソンティ氏が手を組むことは十分考えられる」と話す。

ソンティ氏は朝日新聞のインタビューに応じた。
――クーデターは民主主義を否定するものだ。主導者がなぜ選挙に出るのか。
 「タイはクーデター以前に議会独裁主義に陥り、民主主義は破綻(はたん)していた。我々は民主主義を維持するために改革に踏み切った」
 「対立が政治混乱を招き、国の発展を遅らせてきた。愛国者の一人として状況を変えたいと考えた」
―選挙後にタクシン派の貢献党との連立の可能性を示唆しているが、矛盾しないのか。
 「選挙結果は国民の意思である以上、政権を担えるのならば、どの政党とも協力しなければならない」(後略)【7月1日 朝日】
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もともとタイの各政党はイデオロギー色が少ないこともあって、選挙後に政党を鞍替えするなども珍しくないなど“柔軟”な傾向がありますが、タクシン元首相を追放した責任者とタクシン派政党が手を組むというのも、非常に“柔軟”な発想です。
仏教徒とイスラム教徒の対立で多くの死者を出しているイスラム教徒が多いタイ最南部3県は、タクシン批判が強く、民主党側が優位な地域ですから、地盤的にもタイ貢献党とは競合しないということもあるのでは。
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