孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  抗議行動激化、犠牲者増大 揺らぐアサド政権に関係国の思惑

2011-04-23 20:40:57 | 国際情勢

(当然ながら、政府を支持する勢力もあります。 写真は首都ダマスカスで3月30日に行われたアサド政権支持のデモ 動員がかけられたのかはともかく、かなり大規模なデモのようです。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5576431732/

無差別発砲の「虐殺」】
民主化ドミノの嵐が吹きまくる中東・北アフリカにあって、シリアでも、当初盤石とも思われていた強権支配のアサド政権が激しい抗議運動にさらされ大きく揺らいでいます。
前回、シリアの状況を取り上げたのは3月31日ブログ「シリア 拡大する混乱 アサド政権の先行き不透明」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110331)でしたが、その後の状況は更に悪化しています。

****シリア:死者は88人に 反体制デモへの治安部隊の発砲****
シリアで23日、前日の大規模な反体制デモへの治安部隊の発砲による死者が88人に達した。ロイター通信が伝えた。死者は今後も増える模様。参加者が撮影したビデオなどによると、治安部隊は警告もなく無差別に発砲している。死者には70歳代の老人や7~10歳の少年も含まれる。シリアに飛び火した中東の民衆革命は大量の死者を出す「虐殺」に発展した。

デモは22日のイスラム教金曜礼拝後、首都ダマスカスなど全土でくまなく発生し、参加者は十数万人規模に達した。シリアの人権活動家によると、なお20人が消息不明になっており、死者数は100人を超える恐れもある。先月から始まったデモの死者数は累計で300人を超えた。
参加者の証言によると、南部イズラでは治安部隊が無差別にデモ隊に発砲。弾丸が「雨のように」注がれたという。他の都市では秘密警察がデモ参加者をビルなどから狙撃したとの証言もある。

シリアからの亡命者がロンドンで組織する「人権委員会」は今回の弾圧を「虐殺」と非難した。一方、国営シリア・アラブ通信は、イズラで「覆面をした男たちが政府施設の護衛に発砲し、通行人が巻き添えになった」などと伝え、デモの死者がテロ集団の襲撃の結果だとの情報を伝え、国内の鎮静化を図っている。
中部のホムスでは今週初め、デモに対する治安部隊の発砲による死者の葬儀に数千人が集まり、さらなる弾圧を招いた。今回も死亡したデモ参加者の葬儀で、市民と治安当局の新たな衝突が起きることが予想される。【4月23日 毎日】
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デモ→弾圧→犠牲者→葬儀のデモ→弾圧・・・・という連鎖で混乱が拡大しています。
治安部隊の隊長が「一人も残すな」と指示したとの証言も報じられています。【4月23日 読売】

非常事態解除でも事態悪化
アサド政権は48年間続き強権支配の象徴として批判されてきた非常事態法を解除することで、一定の譲歩を示していますが、その効果は疑問視されていました。
****シリア:非常事態解除を発令 48年ぶり、自由拡大は疑問****
シリアのアサド大統領は21日、63年から48年間続き強権支配の象徴として批判されてきた非常事態法を解除する大統領令を発布した。国営のシリア・アラブ通信が報じた。国内各地に広がった民主化要求を受けた措置だが、政治的な自由の拡大につながるか疑問視する向きがある。
今回の措置は19日に閣議決定された。政治囚訴追に使われてきた最高治安法廷を廃止し、禁止されていたデモを一定条件下で許容する大統領令も出たが、民主化勢力からは「デモを規制する運用がなされる可能性がある」との懸念も出ている。(後略)【4月21日 毎日】
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人権団体は、22日へのデモへの対処が、非常事態法解除後のアサド政権の「テストになる」と注視していましたが、結果は「虐殺」ということで、更に国民の怒りが拡大しそうです。

中東各勢力の利害の“結節点”】
3月31日ブログでも取り上げたように、中東情勢におけるシリアの存在は大きく、現在のパワーバランスを維持したいイスラエルやアメリカなどの意向もあって、これまではアサド政権への国際的批判は強くなされてきませんでした。

*****政権転覆」に警戒感 シリア 周辺国、地域不安定化を懸念*****
反体制デモに武力弾圧を強めるシリアのアサド政権について、アラブ諸国だけでなく敵対関係にあるイスラエルや米国さえも「体制転覆」シナリオの封印にかかっている。イランやレバノン、パレスチナ問題に深く関与し、各勢力の利害の“結節点”となってきたアサド政権が崩壊すれば、地域が一気に不安定化しかねないとの警戒感があるためだ。

「アサド大統領は改革者だ」。クリントン米国務長官は27日、こう述べて現時点でのシリアへの介入を否定した。そこには、リビアに軍事介入したばかりで、戦線を拡大したくないとの思惑のほか、同盟国イスラエルの事情も見え隠れする。
シリアは1980年代以降、イスラエルとの正面からの対立を避けるため、隣国レバノンでイスラム教シーア派組織ヒズボラを支援。その半面、ヒズボラが自らの統制下を離れることがないよう、勢力伸長に歯止めをかけてきたとされる。(中略)
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの関係も同様の構図で、ヒズボラやハマスを脅威ととらえるイスラエルにとってシリアは、自国の安全保障の「安全弁」(28日付イスラエル紙ハアレツ)の役割も果たしてきたといえる。(後略)【3月31日 産経】
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ただ、さすがにここにきて、アメリカ・オバマ政権もアサド批判を明確にしています。
****シリア:オバマ米大統領 アサド政権の武力弾圧を強く非難****
シリア政府の反体制派デモに対する武力弾圧について、オバマ米大統領は22日、「常軌を逸した暴力的な鎮圧法で、直ちにやめねばならない」と強く非難する声明を出した。
声明は「米国は最も強い言葉で非難する」と記し、これまで以上にアサド政権をけん制する内容となった。

大統領は新たな武力弾圧を「非常事態法を廃止し平和的なデモを許すとしたシリア政府の動きが本気でなかったことが示された」と指摘。米国が再三、アサド大統領に対し改革の履行を求めてきたにもかかわらず、政権側が「シリア国民の権利を尊重することを拒絶し、弾圧の道を選んだ」と非難した。
さらに、アサド大統領が市民弾圧に際し、同様の手法をとってきたイラン当局の協力を求めたとも指摘。アサド大統領に対し「直ちに対応策を変え、国民の声に耳を傾けるべきだ」と求めた。
一方、ヘイグ英外相は22日、「デモ参加者の殺害は受け入れがたい」と強く批判。シリアの治安当局に自制を求め「平和的に抗議活動する市民の権利を尊重すべきだ」と要求した。【4月23日 毎日】
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レバノン、サウジ、アメリカそしてイラン
もっとも、こうした公式の発言とは別に、関係国の水面下での動きには複雑なものもあるようです。
下記は、レバノン、サウジアラビア、アメリカの動きを報じたものです。
****シリア:アサド政権と米国などで「情報戦*****
民主化要求デモの拡大と当局による弾圧が続くシリア情勢で、アサド政権と米国などが対立する「情報戦」の様相が強まっている。当局が「外国勢力の支援を受けた武装集団が混乱を起こしている」と主張する一方、米国などが「治安当局による弾圧だ」と非難する構図。反体制派の蜂起で内戦状態に陥っているリビアや、大統領退陣要求デモの弾圧で混乱が続くイエメンと同様の状況に陥っているといえそうだ。

国営シリア・アラブ通信は19日、国内各地で発生しているデモを「保守的イスラム主義者による武装蜂起」と断言する内務省声明を配信した。(中略)当局側は「外国に操られた武装集団の犯行だ」と反論し、治安部隊側に死傷者が出ていることを強調している。
同通信は14日には、「テロリストグループの告白」を配信。(中略)レバノンの国会議員の指示で行動し、資金や武器、移動用車両の提供も受けたという3人の「告白」の詳細は英語でも配信された。
だが、名指しされた国会議員は関与を否定。この議員が所属するハリリ前レバノン首相の会派「未来運動」も「我が派に対する組織的な情報工作が行われている」と反発した。

シリア側の主張には、イスラム教スンニ派であるハリリ氏の後ろ盾とされるサウジアラビアをけん制する意図もにじむ。
シリアでは国民の7割を占めるスンニ派を、アサド大統領も所属する少数派アラウィ派が支配している。デモ参加者は政治的自由の制限や当局者の腐敗に不満を持つスンニ派国民が中心だ。スンニ派国家のサウジがレバノンのスンニ派を使ってシリアに揺さぶりをかけているとの見方は、シリア当局内に根強いようだ。

一方、米国務省のトナー副報道官代行は19日、ホムスの事件は「兵士が平和的デモに発砲した」と指摘。武力弾圧を止めるようシリア政府に求めた。
ただ、米ワシントン・ポスト紙によると、内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した09年4月の米公電で、米政府が在英シリア反体制派のテレビ局に資金援助をしていたことが判明。米側もシリア民主化の情報戦をしかけていた疑いがある。(後略)【4月20日 毎日】
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ウィキリークスによるアメリカの反体制派TV局への資金援助は、06年から総額6百万ドル(約49億円)規模とのことです。
****米、シリア反体制派を極秘援助 ウィキリークスで判明****
米紙ワシントン・ポストによると、米国務省が2006年から総額6百万ドル(約49億円)規模の資金援助をシリア反体制派にしていることが、告発サイト「ウィキリークス」の公電で判明した。

資金はロンドンを本拠とするシリア反体制派の衛星テレビ局「バラダテレビ」や、シリア国内の反体制派に渡っていたという。バラダテレビは09年4月に開局し、シリアの民衆デモを中心に報じている。
同紙によると、シリア反体制派への資金援助は、アサド政権とほぼ断絶状態にあったブッシュ政権(当時)が決めた。だが、シリアとの関係修復を始めたオバマ政権に代わっても資金の流れは続き、少なくとも昨年9月まで援助があったという。一方、シリア側も資金援助に気づいたとみられ、09年4月には駐ダマスカスの米国外交官が「援助を再考する必要がある」との公電を出している。【4月19日 朝日】
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一方、イランのアサド政権支援の報道もあります。
“米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、米政府当局者は先週、シリアでのデモ隊の鎮圧や監視に使われている装備をイランが提供しているとの見方を示したという。”【4月27日号 Newsweek】

アメリカの本音は・・・
アメリカ、レバノン、サウジアラビア、イラン・・・など入り乱れての奇々怪々ですが、恐らく実態はもっと複雑なのでしょう。
いずれにしても、世界の厄介者カダフィがどうなるか・・・という問題より、中東のカギを握るシリア情勢の今後は中東情勢にとって遥かに大きな影響があります。
デモ弾圧批判にもかかわらず、やはりアメリカ・イスラエルの本音は、これ以上の混乱でアサド政権が揺らぎ、中東のパワーバランスに不確定な空白が出来ることは困る・・・というところではないでしょうか。



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