孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国漁船・尖閣領海内接触事件 台頭するニューパワー 難しい外交交渉

2010-09-13 19:24:23 | 国際情勢

(尖閣諸島 “flickr”より By atomurover http://www.flickr.com/photos/92795479@N00/286277015/in/photostream/)

【強硬姿勢に転じた中国】
尖閣諸島付近で日本の海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突した事件では、中国側の対応が日増しに強硬になっているように思われます。

****中国漁船・尖閣領海内接触:中国、強硬姿勢に 「海洋権益」で主導権狙い****
沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)付近で日本の海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突した事件で、中国は強硬姿勢に転じた。党代表選を前にした民主党政権を揺さぶり、東シナ海のガス田開発など海洋権益争いで主導権を握る思惑がありそうだ。

丹羽宇一郎駐中国大使を未明に呼び出した戴秉国国務委員は「情勢判断を誤らず、賢明な政治判断を」と日本側に漁船、漁民の解放を迫り、さらなる対抗措置を打ち出すことを示唆した。
中国外務省は中国人船長の逮捕、拘置決定への対抗措置として、今月中旬に予定されていた東シナ海ガス田開発の条約締結交渉を延期した。中国は首脳レベルでの原則合意から事務レベルの交渉入りまで2年以上も渋っただけに、今回の事件は交渉を延期するのには「渡りに船」だった。赴任したばかりの丹羽大使を4度も呼び出したことも事実上の対抗措置だ。
丹羽氏は民主党政権が政治主導を掲げて任命した経済界出身の民間大使。同じ問題で、中国側に4度も呼び出された新任大使の交渉能力や民主党の任命責任が問われる事態にもなりかねない。

中国側が想定する次の対抗措置としては(1)日中の係争海域に巡視船を派遣する実力行使(2)防衛分野など両国交流の凍結(3)駐日本大使の本国召還--がありそうだ。
実力行使は予想外の事故に発展する危険性があり、交流凍結や大使召還の措置は問題が長期化する恐れもある。

 ◇中国で世論あおる報道も 逮捕の船長祖母「憤死」など
中国主要メディアは全般的には事件を抑制的に報じているが、中国人船長の祖母が事件を知って「憤死」したと伝えるなど世論をあおる内容も散見される。日中両国が情勢判断を誤らず、事件を収拾できるかどうかは双方の国内事情にも影響されそうだ。
中国中央テレビは船長が拘置されている石垣島に記者を派遣。12日のニュースでは丹羽大使の呼び出しの経緯や、石垣島からの記者のリポートなどを繰り返し報じた。
一方、国営新華社通信は12日、在日中国大使館員が石垣島を訪れ、中国漁船の船員らと会ったと報じた。大使館員は船員たちの健康状態などをチェックし、彼らのために食料や水、医薬品を購入。船員たちに「中国政府は日本側に解放を促す努力を惜しまない。政府が一刻も早く問題を適切に処理することを信じてほしい」などと伝えたという。【9月13日 毎日】
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【民族主義傾向の強いネット世論】
こうした中国側の強硬姿勢の背景には、自国利益を声高に主張する「世論」の存在があり、中国政府としても「弱腰」を見せられないという事情があるようにも思えます。
“中国の国際情報紙「環球時報」が運営するウェブサイトの世論調査では、「釣魚島に軍艦を派遣すべきだ」との意見が約98%にのぼっている。”【9月12日 産経】
“中国系香港紙・文匯報は11日、「日本の釣魚島侵略」を非難する論評を掲げ、「福建省に配備したミサイルは日本海軍(海上自衛隊)に対処できる」と警告した。” 【9月11日 時事】
“非中国系香港紙の東方日報は11日の論評で中国政府の姿勢を「軟弱」と批判。「中国は釣魚島海域に軍艦を派遣すべきだ」と主張した。”【9月11日 時事】

“今回の事態は領土問題が絡んでいるため、2005年4月の反日デモ当時よりも、重大な要素があると中国筋は言う。既に、ネット上には、「海軍を派遣し、小日本を粉砕せよ」といった過激な反日言論があふれている。
中国外務省には、日中間の紛争が起こる度に、対日外交を批判する投稿が殺到するのが常だが、今回も例外ではない。民族主義傾向の強いネット世論を満足させ、街頭デモなどを抑えるためにも、中国外務省は強硬姿勢を取らざるを得ない面もある。”【9月11日 産経】

【中国政府はもはや一枚岩の組織ではない】
****中国で台頭するニューパワー、外交にも影響 シンクタンク******
2010年09月08日 20:44 発信地:ヘルシンキ/フィンランド
中国で一般市民など新たに台頭した外部勢力が、中央政府の影響力を著しく高めているとした報告書を、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6日、発表した。国際社会への積極参加を求めるこうした勢力は、中央政府の外交政策決定にも、少なからず影響を及ぼしているという。
同研究所で中国問題を担当するリンダ・ヤコブソン氏は、フィンランド・ヘルシンキでAFPの取材に応じ、「今では党幹部でさえ、多様な意見を考慮せざるをえない状況だ」と話した。

新たな外部勢力とは、国家機関のみならず民間団体、地方自治体や有識者からメディアやネットコミュニティを通じた一般市民まで幅広い。こうした人びとからの「声」は、ある程度、党幹部の耳にも届いているという。
中央政府における政策決定は依然として非公開であり、共産党や人民解放軍などの既存勢力に対し、新勢力の意見が、どの程度まで政策決定に反映されているのかは定かではない。だが、ヤコブソン氏は多方面からの意見を聞き入れざるを得ない中国政府は、もはや一枚岩の組織ではないことは明らかだと指摘した。
台頭著しい新勢力は、党中央部との個人的なコネといった従来のチャンネルだけでなく、新聞への投書、ブログ、公の場での演説、テレビ討論会など、多様な場で意見を表明し、中央政府への影響力を強めている。
これらの開かれた媒体によって、中国は、ある程度の多元性と公な議論を容認する国家へと変遷を遂げつつあると、ヤコブソン氏はみている。
また、報告書は、これらの新勢力は、国際社会において自国利益を強く保護する態度を中国政府に求める傾向があり、中国は今後、より積極的に国際社会に関与していくだろうと予想している。

その一方で報告書は、グローバル経済への過剰依存を嫌う政局内の保守派との駆け引きに、新勢力が巻き込まれる可能性も指摘。 一例として、「欧米的価値観の流入は、人権、透明性、アカウンタビリティ(説明責任)問題について、中国共産党による一元管理を困難にする」との国家安全省の懸念を紹介している。
こうしたことからヤコブソン氏は、欧米諸国は中国が抱いている「より開かれた中国は、国を脆弱(ぜいじゃく)化させる」との不安を取り除くような態度で接することが望ましいと話した。【9月8日 AFP】
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共産党一党支配の政治体制にあって、メディアやネットを通じた一般市民の「声」が反映すること、中央政府もそれを意識した行動をとらざるを得ないことは、基本的には「民意の反映」という点で好ましい変化ではありますが、困ったことに、そうした「声」は往々にして、(自分たちの考える)“筋”をとおすことを求め、妥協を排し、自国利益追求を過激に主張するものになりがちなことです。
特に、日本絡みの問題になると抑制が利かなくなる面も。

【従来の外交が困難な現代】
こうした、巷の過激な「声」に突き上げられる形で、「折り合いをつける」妥協・譲歩が難しくなることは、日本を含めて他のいわゆる「民主主義国」でも同様傾向があります。
結果、お互いの国に振り上げた拳をおろせる所を見失うことにも。

仙谷長官は船長以外の乗組員14人を帰国させ、漁船も中国に戻すことを明らかにしており、すでに乗組員は13日昼、中国側が用意したチャーター機で沖縄県の石垣空港から帰国の途についています。
これで事態が沈静化の方向に向かえばいいのですが・・・。

互いの相反する主張を、場合によっては「玉虫色に」「うやむやに」「曖昧に」する形でもとりあえずの落とし所を探るのが従来の「外交」ですが、すべてを国民にオープンにされることが求められる現代ではそうした「外交」は困難になってきています。外交的妥協ができないなら、あとは・・・。


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