孤帆の遠影碧空に尽き

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イラン  容赦ない鎮圧行動で国民不満を抑え込む

2019-11-29 23:14:10 | イラン

(【11月29日 BBC】 走る車の中から撮影された、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している様子)

 

【最高指導者ハメネイ師  外国勢力と結びついた「悪党」による「極めて危険な陰謀」】

ガソリン価格を引き上げ(補助金削減)に端を発したイランでの反政府抗議行動は、アムネスティ・インターナショナルが少なくとも143人が死亡した報告しているように多大な犠牲者を出しましたが、抗議行動を「極めて危険な陰謀」とする最高指導者ハメネイ師は「完全に鎮圧した」としています。

 

****反政府デモは「極めて危険な陰謀」、既に鎮圧=イラン最高指導者****

イランの最高指導者ハメネイ師は27日、約2週間続く反政府デモについて、「極めて危険な陰謀」によるものだと主張したうえで、デモを完全に鎮圧したと明らかにした。

政府が11月15日に予告なしにガソリン価格を引き上げたことがきっかけで始まったが、即座に政治問題に焦点が移りデモ参加者は指導部の交代を要求している。

イラン政府は、国外追放者に加え、米国やイスラエル、サウジアラビアなどの外部勢力と結びついている「悪党」によりデモが過激化したと主張している。

ハメネイ師のウェブサイトによると、同師はデモ鎮圧に加わった民兵組織「バシジ」との会合で、極めて危険な陰謀はイランの人々により鎮圧されたと強調した。

ラハマニファズリ内相は、国内の約731の銀行、70のガソリンスタンド、140の政府機関が放火され、治安部隊の拠点50カ所以上が攻撃を受けたと明らかにした。また、約20万人がデモに参加したという。国営イラン通信(IRNA)が報じた。

国会の安全保障委員会メンバーによると、7000人が逮捕さえた。ネットニュースサイト、Entekhabが伝えた。

イラン政府はデモ参加者と治安部隊の衝突などで死亡した人の数を公表していないが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今週、少なくとも143人が死亡したとの見方を示した。【11月28日 ロイター】

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最高指導者ハメネイ師は、当初から政府のガソリン価格引き上げを支持する姿勢を表明していました。

 

保守強硬派に近いとされる最高指導者ハメネイ師だけでなく、穏健派とされるロウハニ大統領も抗議行動を厳しく批判していました。(政策責任者としては当然ですが)

 

****イラン大統領、社会の「不安定」容認しないと警告 抗議デモ受け****

ガソリンの値上げに対する抗議デモが起きているイランで、同国のハッサン・ロウハニ大統領は17日、イランは社会の「不安定」を容認しないと警告した。2日間の抗議デモでは2人が死亡、数十人が当局により拘束され、インターネットへのアクセスも制限された。

 

ロウハニ師は「抗議を行うのは国民の権利だ。だが、抗議行動は暴動とは違う。われわれは社会の不安定を容認すべきではない」と明言。抗議デモの発端となったガソリンの値上げを擁護した。イラン政府は急激な景気悪化の中、ガソリンの値上げを社会福祉費用に充てる計画だとしている。

 

抗議デモは15日のガソリン値上げ発表の数時間後に起こった。政府の発表によると、1か月当たり60リットルまでのガソリン価格は、これまでの1リットル1万リアル(約26円)から1万5000リアル(約39円)に引き上げられ、60リットルを超えると3万リアル(約78円)になる。

 

抗議デモでは、道路が封鎖されたり公共物が放火されたりし、複数の負傷者が出て、数十人が拘束された。

 

デモ発生の翌日にはインターネットへの接続が制限された。インターネット監視団体ネットブロックスの16日のツイッター投稿によると、「イランでは現在、インターネットがほぼ全土でシャットダウンされている」という。 【11月18日 AFP】

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アメリカの制裁によって財政的に追い詰められている状況ではガソリン価格引き上げは止むしということ、および抗議行動を放置しては体制の危機につながりかねないということで、穏健派・保守強硬派ともに価格引き上げ強行・抗議行動の「鎮圧」の方向で一致したということでしょうか。

 

政府は、現金支給の懐柔策も。

 

****イラン、国民に現金支給…反政府デモ沈静化狙う****

イラン政府は19日、国民の約7割に当たる低・中所得層に対し、1世帯当たり月額最大205万リアル(実勢レートで約1900円)の現金支給を始めた。過激化した反政府デモを沈静化する狙いがある。

 

イランの推計人口は約8200万人で、地元メディアによると、現金は19日、約2000万人の世帯の銀行口座に振り込まれた。数日中に、さらに4000万人の世帯にも支給されるという。

 

政府は財源について、「ガソリン用の補助金の削減分を充てる」と説明している。

 

一連のデモは、政府の補助金カットでガソリン価格が値上がりしたことへの反発が発端となった。ガソリン価格の高騰は産業界への影響が大きく、高止まりしている物価のさらなる上昇を招く可能性が高いため、「少々の現金支給では国民の不満は収まらない」(外交筋)との見方もある。【11月19日 読売】

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【米国の制裁によって経済が疲弊し、若者を中心に社会不安につながりつつある】

国民の不満の背景には、生活苦があります。

 

****イランデモ、死者100人超か ガソリン値上げ、若者「生活苦しい」****

ガソリン価格の値上げを機に、イランでは異例の激しい反政府デモが15日から続いている。死者は100人を超える可能性がある。イランと敵対する米国の制裁によって経済が疲弊し、若者を中心に社会不安につながりつつある。(中略)

 

制裁、経済悪化の一途

(中略)イランでは17年末にも物価高に抗議するデモが起き、20人以上が死亡した。この時に発端となった地方都市のデモは、ロハニ政権と対立する勢力の関与が疑われる政治的なものだった。だが、今回はそうした組織的な関与や政治色は乏しい。

 

イランの経済専門家は「米国の制裁で原油収入が激減し、政府の財源が苦しくなる中で、ガソリン値上げは理論的には正しい。だがタイミングが最悪だった」と指摘。「輸送費が高騰して、あらゆる物の価格が上がり市民の不満は増大するだろう」と分析する。

 

ガソリンはこれまで、政府の補助金で1リットル1万リアル(実勢レートで約8円)だったが、1カ月で60リットルまでは1万5千リアル(約13円)に、それ以上購入した場合は3万リアル(約25円)に値上がりした。イランでは、平均月収が3万円程度。平均的な家庭ではガソリンは月100リットル以上は消費するとされるため、影響は大きい。

 

また、公共交通機関が十分には発達しておらず、移動は自家用車やタクシーなどの車に頼らなければならないのが実情だ。政府は貧困層を中心に1世帯で月額最大205万リアル(約1860円)の現金支給を始めた。だが、市民の不満を抑えられるかは不透明だ。【11月21日 朝日】

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また、こうした苦しい市民生活を強いている状況で、シリアやレバノンなど各地の親イラン勢力支援のために多額の資金を使っていることにも批判の矛先が向けられました。

 

【「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」】

問題は「鎮圧」の仕方で、「狙撃」を含むデモ参加者への容赦ない暴力が使用されたようです。

その先兵となったのが、おそらく、冒頭記事で最高指導者ハメネイ師が会合をもったことが報じられている民兵組織「バシジ」でしょう。

 

****イラン各地のデモ、流血の鎮圧 映像流出でネット遮断****

建物の入り口を挟んで撮影された映像では、血を流して歩道に横たわる10代少年を女性が見つめているように見える。その脇を走って通り過ぎる人たちに、機動隊員が警棒をふりかざして殴りかかる様子も見える。

 

南部シラーズで撮影された別の映像では、倒れて動かなくなった男性を集まった人たちが助けようとしている。煙が充満した道路で、大勢が後退していく。怒鳴る声、悲鳴、銃声が聞こえる。

 

もうひとつの映像は、首都テヘランを走る車の中から撮影されたもので、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している。女性が叫んでいる。


 

こうした映像が国外に流出するのを恐れて、イラン政府は11月初めに8日間以上もインターネットを遮断した。石油価格急騰に対する抗議行動が、国内各地で広がる最中のことだ。

 

今ではインターネット接続は一部復活し、それに伴いソーシャルメディアには政府の強硬な取締りによる流血沙汰の動画が再び出現し始めた。

 

その内容は恐れられていたよりも残酷で、苛烈だ。抗議に参加して命を失った人たちについても、どういう人で、なぜ犠牲になったのか、それぞれの物語が浮上しつつある。

 

錯綜する情報

イラン当局は死傷者数について、公式発表は何もしていない。しかし、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルが入手し、信頼できると判断した情報によると、11月15日に抗議デモが始まって以来、少なくとも143人が死亡している。

 

同団体によると、デモに参加して死亡した人のほとんどは、治安当局による意図的な銃器の使用によって犠牲になった。それ以外では、1人が催涙ガスを吸引後に死亡し、1人が殴打されて死亡したという。

 

アムネスティーはツイッターで、「イランによるインターネット遮断ほどロジスティック的に複雑な対応はかつてなかったと、デジタル技術の専門家たちは言う。どうやらイラン当局は、自分たちがこうやって政府庁舎の屋根から丸腰の抗議者を狙撃している様子を、私たちに見せたくないようだ」と動画を投稿した。


 

アムネスティーは実際の死者数は143人よりはるかに多いと見ている。イラン国内の活動家や当局筋はBBCペルシャ語に対して、200人以上だと話している。

 

一方でイランの外交官は先週、こうした数字は「憶測」に過ぎないと反発し、「欧米の組織」が「根拠のない主張」をしていると批判した。

 

ハッサン・ロウハニ大統領は国内の抗議について、イランに敵対する国々が仕組んだ計画に沿って「反政府分子」が引き起こしたものだと話している。

 

しかし、イラン国民がスマートフォンで撮影した動画の多くは、生々しく残酷で正視するのが難しいが、見ればイラン政府の公式見解に疑念が生じる。

 

デモ鎮圧に使われることの多い民兵組織「バシジ」や治安部隊が、無防備な抗議者を路上で痛めつけたり、至近距離で群衆に実弾を打ち込む様子などが、こうした動画には映っている。

 

「数千人が負傷か拘束」

イランの保健当局が広く献血を呼びかけていることからも、デモ鎮圧によって数千人が負傷した可能性がうかがえる。

 

病院関係者はBBCペルシャ語に、負傷した抗議者を探して治安部隊が病院を捜索していると話した。1人の医師によると、当局は患者の包帯をめくりその下に銃創がないか確認している。銃で撃たれた傷があると、その場で逮捕されてしまうという。

 

イランの司法当局は22日、イラン革命防衛隊が「騒乱の指導者や中心的存在」を約100人逮捕したと発表した。デモに参加したものの、器物損壊などの犯罪行為とは関係ない多くの人は釈放されたという。

 

一方で、イラン国内の消息筋はBBCペルシャ語に、拘束された人数は数千人に上ると話している。

 

一部の都市では、軍の兵舎やスポーツ競技場が学校が、収容施設として使われている。そうした学校に近い高層ビルに住むジャーナリスト、アリネジャド・マシフさんはツイッターで、収容者が手荒く扱われている様子の動画を投稿。

 

「政府は事態を抑えられなくなると恐れる余り、抗議デモが続く間、テヘランの学校を休校にして、『雪』のせいにした。けれども実際には、このビデオが示すように、抗議者の逮捕に学校施設を使った。イランの独裁者はこの戦いで敗れる」と書いた。


 

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、抗議参加者たちは「国外と関係する」と主張するものの、情報省は議会に、拘束されたほとんどは貧困家庭出身の無職な若者だと報告した。

 

「物乞いのように暮らす」

(中略)

集まった動画には、政府や国を支配する聖職者や治安部隊のシンボル、あるいは銀行やガソリンスタンドを標的にする抗議の様子が映っていた。

 

デモの中心地はもっぱら国の西側、イラク国境沿いにあるクルド系の町村や、テヘラン、カラジ、シラーズといった主要都市の近郊に集中していた。いずれも、国内でとりわけ失業率の高い地域だ。

 

シラーズではデモ隊が、「ガソリンの値段が上がる、自分たちは貧乏なのに」と繰り返していた。

 

テヘラン近郊のマラルドでは、「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」と大勢が繰り返していた。

 

イスファハーンのデモ隊は、「ガザを拒否する。レバノンを拒否する。自分たちはイランに命を捧げる」と唱えていた。


 

中東におけるイランの活動をめぐり、不満があるのは明らかだ。革命防衛隊は中東各地で、民兵組織の武装や訓練、報酬の支払いに何十億ドルと費やしている。イランの国境を越えて敵と戦わなければ、敵はテヘランの路上にまでやってくるというのが、その大義名分だ。

 

しかし、国内各地で抗議するイラン国民は、その資金は国内と国民の未来に使われるべきだったと主張する。

 

ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランの核兵器開発をめぐる国際合意から離脱し、イランの石油生産と金融業を制裁で狙い撃ちにした。

 

米政府の制裁に加え、国内に横行する汚職とお粗末な経済運営のせいで、イラン経済はいまや破綻寸前だ。それでも政府は、従来の方針を変えようとしていない。

 

被害者は何を

イランの国営メディアや治安部隊に近い新聞各紙は、抗議に参加する人たちをごろつき、ならず者として描写し、公共の施設を荒らして略奪するのが目的だと伝えた。

 

しかし、犠牲者の遺族たちからBBCペルシャ語が聞いた内容は、別の状況を物語っている。

40歳のファティマさんは2人の子供の母親だった。テヘラン近くのデモで亡くなった。遺族によると、ファティマさんは失業とインフレに抗議してデモに参加した。

 

西部ケルマンシャーのアルミン・カデリ君は10歳だった。遺族によると、パンを買いに外出して、命を落とした。

 

被害にあった家族の多くはBBCペルシャ語に対して、自分たちの家族は経済危機への怒りを表明しようと家を出たのだと話した。政府当局はそれに、銃弾で応えたのだと。【11月29日 BBC】

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穏健派とされるロウハニ大統領は、こうした「鎮圧」をどう見ているのか?支持しているのか?

イランには保守強硬派も穏健派もない。あるのは強権支配体制だけだ・・・と言われることもありますが、今回の事態をを見ると、「やはり、そうなのかな・・・」という感も。

 

【国外への情報提供者の逮捕 アメリカは情報提供を求める】

なお、上記のようなデモ情報を国外に知らせた者への追及も強まっています。

 

****イラン、「CIAに関与した」8人を逮捕 デモ情報を国外へ共有****

国営イラン通信は27日、「米中央情報局に関与し」、ガソリン価格の値上げをきっかけとした抗議デモに関する情報を国外へ送っていたとして8人を逮捕したと報じた。

 

IRNAは情報省の防諜(ぼうちょう)機関トップの話として、逮捕した500人超のうち「最近発生した暴動に関する情報を集め、国外に送ろうとしていた」8人を特定し、逮捕したと報じた。うち6人は「暴動に参加して命令を実行していた」とみられるという。

 

イランの大敵である米国は、インターネット規制をくぐり抜けるよう人々に求め、写真や映像など抗議デモに関する大量の情報をイランから受け取ったと明かしている。

 

マイク・ポンペオ国務長官は26日、「イラン政府の不正に関する2万近くのメッセージや映像、写真、メモを(記号化メッセージアプリ)テレグラムを通じて受け取った」と述べた。 【11月29日 AFP】AFPBB News

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アメリカは受け取った情報をもとに、ここぞとばかりにイラン批判を強めるのでしょうが、その情報を発信した多くの者が厳しい弾圧を受けることにもなっています。

 

イランを追い込んで体制転換に・・・というのがトランプ政権の描くシナリオですが、体制転換の可能性は少なく、おこりうるのは厳しい弾圧、多くの犠牲者、困窮する市民、強権化する政治です。

 

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