孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾総統選挙・予備選  民進党は現職と前首相が接戦 10~14日の世論調査で決定

2019-06-09 23:41:30 | 東アジア

(台湾の民主進歩党の政見発表会の開始前、握手する蔡英文総統(右)と頼清徳前行政院長。中央は卓栄泰・党主席=8日【6月8日 共同】)


【各候補とも、中国との距離の取り方が軸】

連日のように台湾総統選挙に関する与党・民進党および野党・国民党の動きに関する報道を目にしますが、総統選挙自体は、まだしばらく先の来年1月で、現在進行しているのは両党内における予備選挙に向けた動きです。

 

アメリカ大統領選挙ほどではないにしても、かなりの長期戦です。

 

****台湾の行く末占う総統選が早くも激化****

台湾では、来年1月に予定されている総統選挙に向けた動きが激しくなっている。

与党民進党は、蔡英文が現職の総統であるが、同氏の不人気ぶりに、頼清徳・前行政院長(首相)も出馬を表明、両者の調整がつかず、候補者決定が当初予定されていた4月から、5月、6月へと延期される事態となっている。

 

民進党の候補者選出は世論調査によって決めることになっているが、蔡英文は頼清徳の後塵を拝しているようである。

さらに大きな話題となっているのは国民党の予備選挙の行方である。朱立倫・元党主席や王金平・元立法院長も出馬の意向を持っているようだが、目下のところ、昨年11月の統一地方選挙で民進党の牙城である高雄市で市長に当選した韓国瑜、4月に出馬を表明した鴻海(ホンハイ)精密工業会長の郭台銘が有力のようである。

 

韓国瑜は「韓流」と呼ばれるブームを起こした人物であり、郭台銘は著名で力のある経済人である。

ただ、郭台銘は、中国との関係で懸念が高まっており、支持率を下げている。鴻海工業は日本のシャープを買収するなどしている世界的なIT企業であるが、中国本土に多くの工場を擁している。中国本土に半導体工場を作る動きもある。

 

そこで、郭の立候補によって生じるかもしれない中国からの干渉・圧力の可能性が問題となる。郭が台湾の総統になるようなことがあれば、同氏は中国の意向に従わざるを得ないだろう。台湾の有権者は、そのことを理解しつつあるように見える。

 

なお、郭は、2014年の「ひまわり学生運動」(馬英九総統(当時)の親中政策に異を唱える学生、市民らが立法院を占拠するなどした)に際し、「民主主義で飯は食えない」「民主主義はGDP拡大の助けにならない」などと述べた。

韓国瑜は高い支持率を保っている一方、高雄市長に当選したばかりで総統に転身するのは裏切りではないかとの批判が強まっている。これに対し「当選したら高雄で総統としての執務をする」などと言っている。選挙戦が進むに従って、こうした素人的な言動が問題となる可能性はあると思われる。

次期総統選に向けて、各候補にとり、中国との距離を如何にとり、如何なる関係を保つか、また、米国、日本との間でいかなる方策を取り、関係を強化するかなどが、喫緊の課題である。

民進党の両名の対中政策は、その時その時で表現の違いはあるが、基本的に、92コンセンサス(1992年に「一つの中国」で中台が合意しているとされる)を認めず、「独立」という現状を維持するというものである。

これに対し、国民党側は92コンセンサスを認め、中国との「平和条約」に前向きである。郭台銘については、上述の通り、中国との近さが懸念材料となっており、中国寄りであるとの印象を払拭しようと躍起になっている。

 

郭は5月初めに92コンセンサスについて、「一中各表」(一つの中国。その内容は中台がそれぞれ解釈する)でなければならず「中華人民共和国と中華民国の二つの国を意味すると考えている」と述べた。

 

国民党はかつて「92コンセンサス、一中各表」を両岸政策の基礎としてきたが、中国側は「一中各表」を認めたことはなく、国民党は最近「一中各表」をあまり言わなくなっている。

 

韓国瑜は、安全保障を米国に、技術を日本に、市場を中国に頼りたい旨、述べたことがある。韓は3月下旬に訪中し、中国の国務院台湾事務弁公室主任(閣僚級)との会談をするなどしている。中国は、台湾の中央政府の頭越しに台湾の地方のリーダーへの接触を強めている。それに乗るような行動は、中国への警戒が弱いことをよく示していると言えよう。

いずれにせよ、中国側が総統選挙にネット等を通じた厳しい情報戦を従来以上の規模と強さで仕掛けることは間違いないであろう。

 

今年1月には習近平が、台湾を「一国二制度」の枠組みで統一すること、台湾の統一には武力行使を辞さないこと、などを明言した。次期総統選挙は今後の中台関係、ひいては地域の安定と平和をも大きく左右する重要な選挙である。もちろん現段階で帰趨を言うことは不可能であるが、ますます目が離せなくなってきている。【531日 WEDGE

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(王金平・元立法院長はその後予備選撤退を表明しています)

 

【「私は台湾独立を主張する政治家だ」との発言もある頼氏 対中姿勢明確化で追い上げる蔡氏】

ほぼ上記記事で現状は網羅されていますが、若干の補足・追加を。

 

まず、現職・蔡英文総統と頼清徳・前行政院長(首相)の一騎打ちとなっている与党・民進党の情勢。

 

民進党は昨年11月の統一地方選で大敗し、支持率が低迷する蔡英文氏の苦戦が続いています。

 

予備選挙は世論調査の数字で決まる仕組みですが、従前は中国対応を含めて何かと煮え切らない(よく言えば現実的)不人気な蔡英文総統に対し、対中国でより独立色を強く打ち出す頼清徳氏が大きくリードしていました。

 

****台湾、民進党の頼氏が中国批判 6月総統選予備選に名乗り****

台湾で来年1月の総統選に向けて与党、民主進歩党(民進党)の公認候補に名乗りを上げている頼清徳前行政院長(首相)が2日、中国当局が1989年に民主化運動を武力弾圧した天安門事件を批判するシンポジウムに出席し「台湾が中国にのみ込まれることを許さない」と述べ、中国の習近平指導部に対抗していく姿勢を表明した。

頼氏は台湾独立志向が強く、中国との対話姿勢を示す最大野党、国民党の候補者をけん制した形だ。民進党の候補者を決定する今年6月の予備選を控え、世論調査などで、頼氏は蔡英文総統より高い支持率を維持している。【62日 共同】

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頼氏は行政院長在任中に、立法院での答弁で「私は台湾独立を主張する政治家だ」と明言し、話題になりました。

(当然、中国は反発)

 

もちろん当選した場合、現在の中台情勢にあって、いきなり台湾独立を宣言するということもないとは思いますが、学者肌で波風立てる言動は避ける蔡氏よりは、中国との対立は鮮明化するでしょう。

 

****中国との「平和協定」は災難 台湾・頼清徳前行政院長インタビュー****

来年の台湾総統選挙への出馬を表明している与党・民進党の頼清徳、前行政院長(首相に相当)が東京都内で産経新聞のインタビューに応じ、「中国による統一攻勢が強化され、台湾の主権と民主主義は危機的な状況にある」との認識を示した。

 

その上で、野党・中国国民党が意欲を見せている中国との平和協定締結は「大きな災難をもたらす」と一蹴し、反対する立場を強調した。(中略)

 

来年1月に投票が行われる総統選については、民進党と国民党の対中政策が真っ向から対立しており、「中国の統一工作を受け入れるか否かを決める最も重要な選挙だ」と危機感を見せた。

国民党の有力候補は相次いで中国と「平和協定」を締結する意向を示している。頼氏は、中国が1951年にチベット政府と締結した協定を守らず、チベット人が弾圧されている現状を指摘。「平和協定は台湾にとって災難にほかならない」と力説した。

頼氏は自身の対中政策について、「国家の安全を守る態勢を増強したい」と述べ、対中国の「反浸透法」や「反併呑(へいどん)法」の立法を推進していく考えを明らかにした。

頼氏は行政院長に在任中、立法院(国会)で「私は台湾独立を主張する政治家だ」と答弁したことがあり、その主張が中国の武力行使を招くと警戒する声もある。これに対し、頼氏は「私が言う台湾独立とは、中国による浸透と併呑を阻止することだ」とし、総統選で当選しても「台湾の独立を(新たに)宣言することはない」と説明した。(後略)【512日 産経】

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蔡英文氏側は頼氏に、現職を優先して出馬を辞退するよう要請していましたが頼氏は拒否。

そこで、予備選挙の時期を延期して時間を稼ぎ、現職の強みを生かして露出を高め、何とか支持率を高める作戦に。

また、世論調査方法についても、蔡氏に有利となる方向で変更するなど、なりふり構わぬようにも見えます。

 

一定に蔡英文氏側の作戦が奏功して、現在は蔡氏の支持率が頼氏に並んだ、あるいは調査によってはリードしたとの報道も。ただ、全体としてはまだ頼氏がリードしているとも。いずれにしても接戦となっています。

 

蔡英文氏の支持率は、中国への対応を明確化し、同性婚などでの指導力を発揮する形で、反転上昇傾向にあります。ただ、先行する頼氏に届くかどうかは微妙な情勢です。

 

****台湾総統選は「米中代理戦争」の様相****

(中略)

反中を競い合う民進党二候補

蔡氏の支持率は、二〇一八年十二月に就任以降最低の二四%を記録した後、上昇に転じた。きっかけは、今年一月一一目に発表した対中政策に関する談話。

 

同日に中国の習近平国家王席が演説で、台湾に「一国二制度」の導入を呼びかけ、これに蔡氏が反論した。

 

一国二制度は「台湾の絶対的多数の民意が断固として反対」と表明し、中国との対話は「圧力や威嚇を用いて台湾人民を屈服させる企てであってはならない」と牽制した。

学者出身の蔡氏はそれまで摩擦やトラブルを避ける穏当な姿勢を貫いてきた。対中政策も「相手を刺激しない」ことを優先し、談話や演説で激しい言葉を避けた。これに対し、民進党の支持者から「顔の見えない政権」「中国に弱腰だ」と不満がくすぶっていた。

 

蔡氏は昨年十一月の統一地方選挙での民進党惨敗を受け「このままでは再選は厳しい」と周辺に説得され、従来の姿勢を転換。中国や政敵を厳しく批判するように変貌した。

 

自ら実現したい政策も周りの意見を気にせず、積極的に取り組み始めたことも奏功している。

 

蔡氏は今年四月に訪米した際、米国の要人らに中国の脅威を訴えた。トランプ政権が掲げるインド太平洋戦略について「台湾も積極的な役割を果としたい」と呼応し、中国当局を激怒させた。

五月に成立した法律で認められた同性婚も、長年、台湾の世論を二分する争点だった。

 

昨年十一月に実施した野党主導の住民投票では、反対多数の結果だったが、蔡氏は強いリーダーシップを発揮する。「国際社会の先進的な価値観を積極的に受け入れるべきだ」と力説し、迷う民進党所属議員の背中を押して立法を主導した。

法案に反対した国民党は、中国の伝統的な儒教にある「子孫の繁栄」「家庭の安定」を理由に挙げた。同性婚をめぐる攻防の根底にも、欧米と中国の価値観の対立があり、米中対立の断層が内政に投影されたと見ていい。(後略)【「選択」6月号】

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8日はレビ演説会も開かれたようですが、“2人が公開の場で顔をそろえるのは、3月に予備選への参加を届け出て以来、初めて”とのこと。10~14日には世論調査が行われますので、“初めてで、最後”でしょう。

 

****蔡氏・頼氏、公認争い接戦 民進党、近く決定へ 台湾総統選予備選****

来年1月の台湾総統選に向け、与党民進党は8日、党予備選への参加を届け出た現職の蔡英文(ツァイインウェン)総統(62)と、前行政院長(首相)の頼清徳氏(59)によるテレビ演説会を開いた。

 

党は10~14日に世論調査を行い、その数字をもとに今月半ばにも公認を決める。事前調査では、2人が激しく競り合っているという。2人が公開の場で顔をそろえるのは、3月に予備選への参加を届け出て以来、初めて。

蔡氏は政権を担った3年間について、「目指してきた政策の方向性に誤りはない。成果は徐々に出ている」と述べ、再選への支持を訴えた。こ

 

れに対し、頼氏は昨秋の統一地方選で民進党が敗れたことを挙げ、「人民はすでに結論を出している。再び失敗を繰り返すのか」と突き放した。

焦点になる対中政策をめぐっても、2人の主張はぶつかった。国際法学者だった蔡氏は中台関係の「現状維持」を訴える穏健派だ。一方の頼氏はより独立派色が強いとみられている。

蔡氏はこの日、「国際的な視野を持ち、情勢を把握して、交渉できるリーダーが必要だ」と主張。頼氏は「台湾が中国にのみ込まれて、第二の香港、第二のチベットになるわけにはいかない」と訴えた。

台湾メディアなどの支持率調査で、蔡氏は当初、頼氏にリードを許していたが、最近は積極的なテレビ出演や視察が奏功し、一部調査では頼氏を上回っている。蔡政権下で導入した所得税の減税効果が、有権者に実感され始めていることも影響している。

頼氏は今年1月まで政権ナンバー2の行政院長を務め、蔡氏を支える立場だった。しかし、3月になって突然、出馬を表明。党本部や蔡氏に出馬を取り下げて副総統候補になるよう説得されたが、応じなかった。

総統選は有権者の直接投票だ。2大政党に位置づけられる野党国民党の予備選には、昨年の統一地方選で同党大勝の立役者となった韓国瑜・高雄市長(61)や、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘会長(68)が参加。国民党の公認候補は7月中旬ごろに決まる。【69日 朝日】

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【国民党 人気の韓国喩氏は日本の戦争責任を追及する立場】

長くなるので、国民党の方は簡単に。

 

出馬表明時、一時的に人気を博した鴻海(ホンハイ)精密工業会長の郭台銘氏ですが、さすがに中国本土の関係が強すぎて、支持も低迷しているようです。

 

“中国全土に工場を展開している郭台銘氏は、中国側の「一つの中国」の方針の受け入札を表明。米中貿易戦争による中国国内の景気後退は「台湾企業にとって、中国進出のチャンスだ」とく。”【「選択」6月号】

 

中国全土に工場を展開している郭台銘氏が、中国政府の意向に逆らえるとも思えません。万一、郭台銘氏が台湾総統になれば、台湾は「第二の香港」になるでしょう。

“「郭台銘総統」誕生が世界にもたらす“嫌な結末””【520日 加谷 珪一氏 JB Press

“ホンハイ・郭台銘が「台湾版トランプ」になり得ない理由”【510日 立花 聡氏 WEDGE Infinity

 

現在、有利な立場にある高雄市長・韓国瑜氏については、以下のようにも。

 

****人気の韓国喩氏は「反日」****

(中略)一八年、民巡党の牙城だった高雄市の市長選に立候補した時は「落選確実」と熔印を押された。

それでも「八百屋のおやじ」と自称し、お笑い芸人のような軽妙な話し方がネットで話題に。瞬く問に人気が沸騰し「韓国喩現象」と言われるほどブレークした。

韓氏はエリートではなく、同じく国民党の馬美九氏が総統を務めていた時期も冷遇された。にわかに人気を博したことは、米国のトランプ大統領の当選と同じように、世界各国で見られる右寄りのポピュリスムの流れに乗っただけとの見方もあり、その人気がいつまで続くのか予断を許さない。

中国の李克強首相の母校、北京大学の大学院に留学した経験をもつ韓氏は、習政権による台湾への外交、軍事的な圧力について「対話で解決すべきだ」と繰り返してきた。今年三月に訪中し、中国政府の台湾政策部門トップと会談。

 

中国各地に高雄産の果物などを売り込む「台湾のトップセールスマン」を自任し「政治より経済が大事」との持論を前面に掲げて挑む。

ただ韓氏は、民進党候補と異なり、日本にはやっかいだ。日本の戦争責任を追及する立場で、若い時から対日戦争賠償を求める運動に関わってきた。(後略)【「選択」6月号】

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【第三の候補をうかがう台北市の柯文哲市長】

1月の本選に向けては、上記の民進党・国民党候補以外に、台北市の柯文哲市長も出馬の意向を示しています。

 

外科医から市長に転じ、無所属政治家として支持を集める柯氏は「私の目的は2大政党に不満を抱く人々の受け皿になることだ」と述べています。

 

中国との関係については、民進・国民の中間路線。

 

“米中どちらにも与せず、台湾独白の道を歩むべきだという何氏の主張には「現実的ではない」との批判も聞かれる。だが、民巡党と国民党の長年の対立に飽きた有権者の間から、高い支持が集まっていることも事実だ。”【「選択」6月号】

 

最大の「親日国」である台湾、中台関係の動向は日本を含めた東アジア全体に大きく影響しますので、台湾総統選挙の今後の動きが注目されます。


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