孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コソボ  総選挙終了後、サチ首相に紛争当時の臓器密売関与疑惑

2010-12-18 21:04:08 | 国際情勢

(1999年7月 帰還したアルバニア系住民の復讐によって放火されたセルビア人住宅 兵士はNATO指揮下でコソボの治安維持にあたるKFOR(コソボ治安維持部隊) 憎しみと復讐の連鎖は今も続いています。
“flickr”より By Northfoto
http://www.flickr.com/photos/northfoto/3859052874/ )

【「勝利は我らのものだ」】
コソボでは12日、08年にセルビアから独立して以来初の総選挙(120議席)が行われました。同日の出口調査でサチ首相率いる与党がトップと判明。サチ首相は公式発表前の同夜に、支持者を前に「勝利は我らのものだ」と勝利宣言しました。ただ、単独過半数には届かないため、今後は連立協議が焦点となります。

****コソボで総選挙、与党が第1党維持 単独過半数は届かず****
コソボで12日、2008年にセルビアからの独立を宣言して以来、初の総選挙(定数120)があった。13日に発表された公式開票結果(開票率99%)によると、サチ首相率いる与党・コソボ民主党が得票率33.5%で第1党を維持したが、単独過半数には届かなかった。連立交渉が焦点となるが、難航しそうだ。

AFP通信によると、サチ政権から離脱したコソボ民主同盟が23.6%で第2党につけ、隣国アルバニアとの統一など民族主義的政策を掲げる新党・自己決定運動が12.2%で第3党に躍進した。
総選挙はもともと来年後半に予定されていたが、今年9月に辞任したセイディウ大統領の後任選びを巡り民主党と民主同盟が対立。サチ内閣不信任案が可決されて議会が解散、選挙が前倒しになった。
今回の選挙はコソボ民主化の試金石とも位置づけられたが、コソボ北部のセルビア系住民居住区では、独立宣言に反発するセルビアの指示で多数の住民が投票をボイコットした。欧米の選挙監視員からは「深刻な不正があった」との声も出ている。

コソボの独立宣言にはセルビアのほかロシア、中国などが反発し、国家承認は日米など約70カ国にとどまる。国際司法裁判所が7月に独立宣言を「国際法に違反しない」と判断したことを受け、セルビアは関係改善に傾きつつあるが、コソボ国内の政情不安が続けば対話が遅れると懸念されている。経済面でも失業率は48%に達し、国内産業の育成が急務となっている。【12月14日 朝日】
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サチ首相 臓器密売に関与か?】
選挙戦は、EUや北大西洋条約機構(NATO)への加盟、失業対策、汚職撲滅をめぐって行われましたが、選挙終了後、サチ首相をめぐる衝撃的な疑惑が浮上しています。
セルビアと争った1990年代末のコソボ紛争時、サチ首相はアルバニア系武装組織「コソボ解放軍」の政治部門指導者でしたが、セルビア人らから臓器を摘出して密売する組織に関与していたとの疑惑です。
今後の連立協議、セルビアとの関係改善にも影響しそうです。

****コソボ首相に臓器密売疑惑 紛争時セルビア人から摘出か****
コソボのサチ首相が、セルビアと争った1990年代末のコソボ紛争時、セルビア人らから臓器を摘出して密売する組織に関与していたとの疑惑が浮上、欧州47カ国でつくる人権擁護機関の欧州会議(本部・仏ストラスブール)の委員会は16日、加盟国に真相解明を求める決議を採択した。AP通信などが伝えた。
この疑惑は2008年、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)の元主任検察官が著書で指摘。これらの情報を基にスイスの国会議員ディック・マーティー氏らが09年に現地調査し、欧州会議に報告書を提出した。

報告書は98~99年のコソボ紛争時、コソボで多数派だったアルバニア系武装組織「コソボ解放軍」が、セルビア人らを隣国アルバニアに拘束して腎臓などの臓器を摘出し、海外の闇市場で売買したと指摘。当時、コソボ解放軍幹部だったサチ氏らが主導的に関わったなどとしている。
来年1月下旬の加盟国による会議でも、報告書について議論される予定という。
サチ氏は16日に記者会見し「ばかげた中傷だ。真実と正義は我々にある」と反発。マーティー氏の告訴も検討しているという。
コソボ独立を認めていないセルビアは、国際司法裁判所が7月に独立宣言を「国際法に違反しない」と判断したことを受け、コソボとの関係改善に動きつつあったが、セルビア人らの臓器密売疑惑が浮上したことで、セルビア国内の反コソボ感情が強まる可能性もある。【12月18日 朝日】
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コソボ紛争においては、セルビア側の「民族浄化」や「収容所」などの非人道的行為が意図的なメディア戦略でクローズアップされたこともあり、「悪者」セルビアのイメージが定着し、NATO軍によるセルビア空爆、コソボ独立へと至っています。
しかし、戦争ですから一方だけが悪者・・・ということはなく、コソボ側にも同様の“非人道的行為”はあったことも後日指摘されています。

2001年のヒューマン・ライツ・ウォッチは次のように報告しています。
“コソボ解放軍は複数の虐待行為の責任がある。その中には、セルビア人や、セルビア人の国家に協力しているとみられたアルバニア人に対する殺害も含まれる コソボ解放軍はまた、紛争終結後のセルビア人、ロマ、その他の非アルバニア人の少数民族、そしてアルバニア人の政敵に対する攻撃の責任がある。(…)広域的かつ組織的なセルビア人、ロマ、その他少数民族の家屋への放火、正教会の聖堂や修道院への破壊行為、人々を家、故郷から立ち退かせることを目的とした迫害や脅迫、(…)コソボ解放軍の構成者らは明らかにこれらの多くの犯罪に対して責任がある。”【ウィキペディア】
今回の疑惑もそうしたコソボ解放軍の一連の行為の一つとして位置づけられるものです。

みんな知っていたが、政治的判断から沈黙を選んだ
報告書を提出したスイスの上院議員ディック・マーティー氏は「当時、西欧諸国や国際機関の上層部はコソボで捕虜の臓器が密売されている事実を知りながら、政治的判断から沈黙を選んだ。そのことにショックを受けた」と語っています。

****サチ首相の臓器密売関与をめぐって****
欧州評議会法務人権委員会のメンバーであるマーティー氏が行った調査によると、コソボのハシム・サチ首相はセルビア軍と戦った「コソボ解放軍 ( KLA ) 」の一派である犯罪組織のリーダーだった。この組織は1999年6 月から2000年にかけ、麻薬やセルビア人捕虜の臓器を密売していた。

法的な調査の必要性
マーティー氏は、今回の調査の結果、セルビア人捕虜は頭を撃たれて殺害され、体から臓器、特に腎臓を摘出された事実が明らかにされたが、今度はこれを法的に証明する時期が来たと述べ、
「すでに十分な資料が出揃った。これに基づき、第3者が法的な調査を綿密に行うべきだ。特に目撃者や証人が真実を語れる環境を作りだすことが大切だ」 と強調した。
さらに、「この調査は真実追究への糸口になっている。このままこの犯罪を『推測』の状態に放置しておくわけにはいかない」と語った。(中略)

西欧諸国の諜報部員の沈黙
以上に加え、マーティー氏がショックを受けたのは、当時国際機関や西欧諸国の諜報部員やコソボの警察はこうした臓器や麻薬密売の犯罪がコソボ解放軍によって行われている事実を知りながら、コソボ地域に政治的不安定を引き起こすことを恐れ、口をつぐんだことだった。
「初め、質問をした何人かの人々の目の中に、事実を述べる恐れを感じ取った。しかしすぐに、多くの西欧諸国の諜報部員がこのことを知っていることに気付いた」
「実はコソボの警察も知っていた。また一般の人も『確かに知っていた。しかし政治的理由で黙っている方が良いと思ったか黙っているように義務付けられた』と証言した」とマーティー氏は言う。

また、西欧諸国の沈黙は、1999年の北大西洋条約機構 (NATO ) の介在の仕方に起因するとマーティー氏は見る。「西欧諸国はコソボへ直接介入したが、コソボに駐屯するセルビア軍への攻撃は空爆にした。従って陸上のオペレーションを実際に行うコソボ解放軍は西欧諸国にとって絶対に必要な『味方』になった。そのため、コソボ解放軍による臓器密売などの事実には目をつぶった」

コソボの反応
14日にマーティー氏の調査報告が欧州評議会のサイトに掲載されて以来、サチ首相は、調査を「スキャンダラスで、とんでもないデタラメ」と決め付け、「これはコソボのイメージを覆すために作られた。今後あらゆる政治的、法的手段を使って真実に光を当てていく」と述べている。
さらに「世界は攻撃を仕掛けてきたのは誰で、コソボでの犠牲者は誰だったかを知っているはずだ。犠牲者と攻撃者を同等に見て、歴史を変えようとする傾向はまちがっている」と付け加えた。

セルビアの反応
一方、セルビアの戦争犯罪担当検事たちは、自分たちが提供した資料が調査に役立ったことに満足したと14日発表し、「長年、臓器密売の調査を行ってきたわれわれにとってこの日は記念すべき日になった」と語った。
彼らによれば、コソボが行った臓器密売の犠牲者はおよそ500人に上り、うち400人がセルビア人捕虜で、残り100人が非アルバニア系の捕虜だという。

しかし、コソボの最大日刊紙「コハ・ディトレ ( Koha Ditore ) 」の編集長は「これは単にサチ首相の問題に留まらない。同時に ( 戦争に介入した ) 西欧諸国の問題でもあり、1999年の介入の仕方でもある。さらに、この調査は、1999年以降に起こったこと( 臓器密売など ) はたとえ何であれ、戦争そのものやセルビアがコソボで行ったことよりもっと重要な犯罪だと言っているかのようだ」と話す。
北大西洋条約機構は当時、コソボ内のセルビア軍に対し78日間に渡る空爆を行った。【12月17日 swissinfo.ch】
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今朝のTVのニュースでサチ首相は、「当時、コソボ解放軍の軍服を着て悪事を働いていた連中もいたが、我々はそうした連中とは関わりはない」といったような主旨のコメントをしていました。


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