孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  景気悪化とインフレーション インフレ率操作の疑惑も

2012-12-12 23:46:12 | ラテンアメリカ

(支持者サービスでしょうか、フェルナンデス大統領(写真右の女性) “flickr”より By Tecnópolis Argentina 2012 http://www.flickr.com/photos/tecnopolis2012/8159455852/)

経済失速
2001年にデフォルト(債務不履行)を経験したアルゼンチンに今も残るデフォルトの影響については、5月29日ブログ「アルゼンチンに見るデフォルトの後遺症」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120529)で取り上げたことがあります。

デフォルトに至った経緯を再録すると、以下のとおりです。
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以前は経済的豊かさを背景に、政治的・軍事的にもラテンアメリカをリードする国であったアルゼンチンですが、フォークランド紛争・政治的混乱・経済失政から1988年にはハイパーインフレーションを招きました。(1989年には対前年比50倍の物価上昇)
90年代には一旦経済は回復したものの、99年のブラジルの通貨切り下げで国際競争力を失い国際収支が悪化、2001年11月14日には国債をはじめとした対外債務の返済不履行宣言(デフォルト)を発する事態に陥り、国家経済が破綻しました。
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その後は、マクロ経済的には10%近い高い成長率を維持して順調な回復していましたが、このところは欧州債務危機と世界的な景気減速の影響を受け、急速に経済が悪化しています。

****2012年第1四半期の成長率が5.2%に減速****
国家統計センサス局(INDEC)は6月15日、2012年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比5.2%と発表した。08年のリーマン・ショックの影響で景気が冷え込んだ後、10年第2四半期に11.8%と回復。それ以降、9%前後の成長を遂げてきたが、11年第4四半期に7.3%と失速した。12年通年のGDP成長率は2%台との見通しが世界銀行から出されるなど厳しい見方もある。【6月22日 JETRO】
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11月2日、ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は、アルゼンチンの経済成長率について、2012年1.5~2.1%、2013年5%との見通しを発表しています。また、11月8日には、IMFは2012年3.1%、 2013年2.6%との見通しを発表しています。

デフォルトの後遺症
デフォルトから10年以上が経過しましたが、日本政府など先進国からの借金は今も返していません。
そのため、国の格付けは、「投資不適格」とされる「B」(米スタンダード・アンド・プアーズ)のまま。海外市場で実質的に国債を発行できない孤立状態が続いています。
国も銀行も長期資金を海外で借りられないため、インフラ投資が出来ず、住宅ローンも存在していません。

デフォルト(借金踏み倒し)の混乱は今も続いており、アルゼンチンの軍用帆船が、訓練航海で寄港したガーナで差し押さえられるという事件も起きています。その後どうなったのか知りませんが・・・。

****帆船「拘束」1カ月=アルゼンチンが債務未払い―ガーナ****
南米アルゼンチンの軍用帆船が、訓練航海で寄港した西アフリカのガーナで突然差し押さえられたまま、1カ月近くも身動きできなくなっている。アルゼンチン政府による債務未払いに対し、憤慨した債権者のヘッジファンドが資産回収に向け、帆船没収という強硬手段に出たためだ。アルゼンチン政府は国連に支援を求めているが、解決の道筋は見えない。

アルゼンチンは2001年、デフォルト(債務不履行)を宣言。過剰債務削減のために債権者が元本の約7割の損失を被る債務交換を実施し、93%の債権者が受け入れた。しかし残る債権者はあくまで全額返済を主張し、交換を拒否。各地で資産没収を狙い、政府側との対立が続いている。

差し押さえられた帆船は、海軍士官候補生など約320人を乗せたフリゲート艦「リベルタ」。10月初旬、ガーナに入港したが、司法当局は債権者の米ヘッジファンドの訴えに応じ、出港を禁じた。アルゼンチン政府にとっては想定外の事態で、海軍責任者らの解任に発展した。

報道によれば、ヘッジファンド側の債権は計3億7000万ドル(約296億円)に達し、出港許可には2000万ドル(約16億円)を仮払いするよう主張。これに対しアルゼンチン政府は「差し押さえは外交特権の侵害」と譲らない構えだ。【10月28日 時事】
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このヘッジファンドは、“これまでにもフェルナンデス大統領のヘリコプターを差し押さえようとするなど何度も法的手続きをとっており、同国政府は「ハゲタカ」と評している”【10月16日 朝日】とのことです。
借金を踏み倒した側から「ハゲタカ」呼ばわりされるのは、ヘッジファンドとしては納得いかないところでしょう。

先月末には、前回のデフォルト処理に関するアメリカでの訴訟から、新たなデフォルトの可能性も取り沙汰されていました。

****アルゼンチンを3段階格下げ=「デフォルトの可能性高い」―フィッチ****
格付け大手フィッチ・レーティングスは27日、アルゼンチンの外貨建ての長期格付けを「B」から「CC」に3段階引き下げたと発表した。CCは一定のデフォルト(債務不履行)が起きる可能性が高いことを示す格付け。

米連邦地裁が21日、2002年にデフォルトとなったアルゼンチン国債の保有者に対する債務返済を命じたことに対し、アルゼンチン政府が反発。この結果、デフォルト後に債務交換に応じた国債保有者らへの支払いも滞る可能性が高まってきたことが理由。【11月28日】
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この件に関しては、ニューヨーク連邦高裁の判断で、とりあえず当面のデフォルトは回避されたようです。

****米連邦高裁、債務支払い命令の効力停止を認める****
米国ニューヨーク連邦高裁は11月28日、連邦地裁が同月21日に行ったアルゼンチンの債務再編に応じなかった債権者への支払い命令に対して、アルゼンチン政府が申し出ていた効力停止を認め、控訴審における当事者双方の口頭弁論を2013年2月に開催すると決めた。これによってアルゼンチンによるデフォルトは当面回避された。【12月3日 JETRO】
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【「実態を隠して適切な政策がとれるわけがない」】
現在の経済問題は景気悪化と、もうひとつインフレーションです。
11月20日は、全国的なストライキが行われいます。

****元祖デフォルト国家アルゼンチンの受難****
経済無策が招いた景気後退とインフレに抗議する大規模ストで公共サービスはマヒ状態

欧州債務危機と世界的な景気減速の影響を受け、アルゼンチン経済が急速に経済が悪化している。11月20日には、国内の2つの労働組合が所得減税と各種手当の増額を求めて全国的なストに突入した。

労働総連盟(CGT)とアルゼンチン労働者セントラル(CTA)は、合計50万人が加盟する労働組合。首都ブエノスアイレスなど全国の都市で、労働をほぼ完全に停止する24時間のストに踏み切った。2001年の債務不履行(デフォルト)宣言以降で最大の規模だ。(中略)

ストには空港職員やトラック運転手、電車の車掌も参加している。そのため、国内線フライトのキャンセルや、バス・電車の運休、多くの幹線道路の封鎖などを招いた。さらに銀行は休業し、通りにはゴミが放置され、多くの公立病院が急患以外の診察を停止した。

今回のストが意味するのは、昨年の大統領選で圧勝し、再選を果たした左派クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領への不満の高まりだと、米ロサンゼルス・タイムズ紙は分析する。とはいえ、今年8月の調査の時点で、すでに大統領に肯定的な見方をしている回答者は35.4%しかいなかった。
国民の怒りの矛先は高いインフレ率や治安悪化、役人の汚職、外貨両替えを規制する政策などに向けられている。ストの直前、11月8日にはこうした問題に抗議するデモが行われたばかりだった。【11月21日 Newsweek】
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急激なインフレーションで通貨ペソの価値は低下していきます。そのためドル建て預金、ドルでの取引も多く行われていますが、ペソ防衛のため政府は国民には外貨購入の規制を強化しています。その一方で、大統領など多くの政治家が多額のドル預金を保有していることが問題になったこともあります。

****アルゼンチン閣僚、こっそりドル預金 国民には購入規制****
外貨不足から、国民による米ドル購入を制限しているアルゼンチンで、フェルナンデス大統領や多くの閣僚に多額のドル建て預金があることが分かり、批判を浴びている。大統領は今月上旬、近日中にペソ建てに替えると表明。閣僚にも同じ対応を呼びかけた。

地元紙クラリンなどが、昨年7月に公開された閣僚資産(2010年分)を基に調べたところ、フェルナンデス大統領が307万ドル、ティメルマン外相が33万ドル、アラク司法相が20万ドル、ブドゥー副大統領が15万ドルなど、現閣僚の多くが多額のドル預金を保有。預金総額の8割以上がドル建てという閣僚も複数いた。
資産公開当時、首相だったアニバル氏は「ペソで預金を」と国民に呼びかけていたが、預金の3割にあたる2万4千ドルの預金があることが報じられると「自分の金だ。したいようにする」と開き直った。

アルゼンチンは、過去にペソの価値が暴落するハイパーインフレを経験しており、ドル建てで貯金する国民が多く、不動産もドルで取引されることが多い。だが、国民がペソでドルを買えば買うほど、国が輸入などに使えるドルが減り、ペソの価値も下がる。

このため、政府は、国民の預金額に応じた外貨購入制限に加え、3月以降、国内のペソ預金者が海外の現金自動出入機(ATM)でドルを引き出せないようにしたり、海外旅行用にドル購入を希望する人に、行き先や旅程、旅費が一括払いか分割払いかなどを事前に届けることを義務づけたりするなど規制を強化。
国民から「政治家や企業経営者がためているドルこそペソに替えるべきだ」と批判の声が上がっていた。【6月15日 朝日】
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こうした政治家のプライベートな面での不適切行為以上に問題なのは、政府が国家施策としてインフレーションの実態を隠ぺいしようとしていることです。

****アルゼンチン、物価の闇 インフレ率操作か、政府に疑惑****
アルゼンチン政府はインフレ率を低く操作しているのではないか。そんな疑惑が消えない。「実態」を独自に公表した民間企業や団体は次々と罰金などの処分を受けた。国際通貨基金(IMF)が求める改善の期限が17日に迫るが、政府は「IMFと戦う姿勢」を鮮明にしており、応じる様子はない。

■補助金で安価演出?
「アルゼンチンでは、ビッグマックが格安」。そんな話を聞いて、首都ブエノスアイレス中心部のマクドナルドをのぞいてみた。
確かに安い。飲み物とフライドポテトがつくセットは、13種類中で最安の26ペソ(約440円)。最も高い商品の半額だ。しかもメニューの一番下に、写真なしでひっそりと載っていた。

「物価上昇を隠すため、担当大臣が企業側に価格を上げないよう指示している」と同国の複数の経済アナリストが話す。ビッグマックの価格は、通貨価値や物価の国際比較でよく使われるためだ。ある店員は「宣伝しないのは、多く売れるともうからないからだと聞いた」と明かす。

ハンバーガーの材料の牛ひき肉はいくらするのか。ブエノスアイレス中央市場の精肉店を訪ねてみると、「公定価格」と書かれたコーナーに、1キロ12ペソ(約200円)の商品があった。一般商品の6割程度の値段だ。だが、品ぞろえは薄く、明らかに白い脂身が目立つ。買い物客は見向きもせず、一般商品だけがどんどん売れてゆく。

公定価格品は、政府の補助金で価格を抑えた商品で、コメや油など数十種類あると言われる。
市内の大手スーパーをのぞくと、トマトが1キロ28ペソ(約470円)していたが、店員に安いものはないかと尋ねると、かなり小ぶりだが1キロ3ペソ(約50円)のトマトが出てきた。これも公定価格品だ。だがこうした品を置いている店はごくわずかだ。買い物に来ていた主婦(69)は「公定価格品は少ないし、たいてい質が悪い。買うことはほとんどない」と話す。

同国の国家統計局(INDEC)が公表する物価やインフレ率の計算に、補助金を入れて安くした公定価格品の物価が使われているのではないか。こうした「疑惑」を同国の複数の経済アナリストが指摘し、「実態を反映していない」と批判している。INDECに取材を申し込んだが、回答は得られなかった。

■民間の統計に圧力
INDECが発表した今年8月のインフレ率(前年同月との比較)は10.0%。だが野党の国会議員有志が民間データを元に発表する「議会指標」では24.2%だ。消費者支援をうたう非政府組織(NGO)コンスミドールリブレが計算した今年1~10月のインフレ率は約19%だった。

違いが明白になったのは2007年からだ。公式のインフレ率が10%を超える時期が続き、当時のネストル・キルチネル政権下で「運営改善」を名目に複数のINDEC職員が更迭された時期と重なる。以後、公式統計では一時、5%台にまで下がった。

一方で最近、民間への締め付けが目立つ。コンスミドールリブレは今年8月、「公表数値が信頼できない」などの理由で、政府から団体資格を停止された。エクトル・ポリノ代表(79)は「都合の悪い情報を隠したいのだろう。裁判で戦う」と話す。民間コンサルタント数社も昨年来、相次いで50万ペソ(約850万円)の支払いや訂正記事の掲載を命じられ、次々に指標の公表を取りやめた。

「議会指標」の公表は、こうした状況を懸念して始まった。民間コンサルタント8社のデータの平均値で、「実態に近い」と評価されている。民間企業や公務員の賃上げ交渉でもこの指標が参考にされている。

■「貧困を隠す狙い」
インフレ率が低いと、どんな利益があるのか。操作を指摘する専門家の多くが挙げるのは、インフレ率によって元本や利率が変わる国債の償還額抑制だ。
中央銀行などによると、同国の債務残高1800億ドル(11年9月末時点)のうち、インフレ連動債は375億ドルと全体の2割を占める。01年の債務不履行(デフォルト)以来、同国は外貨獲得に頭を悩ませており、償還で海外に流出するドルはできるだけ少なくしたい。

ポリノ代表は「貧困の現実を隠す狙いもある」とも指摘する。賃金が現実の物価上昇を反映して上がる一方で公式のインフレ率が上がらなければ、統計上、可処分所得が増える形になるからだ。
IMFは10年以降、アルゼンチンの経済指標の信頼性に疑問を示し、政府に改善を求めてきた。今年2月にも改善を勧告。だが、期限になっても成果が見られないとして、さらに3カ月の猶予期間を与えた。IMFのラガルド専務理事は「改善されなければレッドカードを出す」と制裁をほのめかしたが、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は国連総会の一般演説の場で「いかなる圧力にも屈しない」と反論した。

90年代にアルゼンチンの民営化や規制緩和を推進してきたIMFに対する国民の拒否感は根強い。大統領の強硬姿勢はそんな国民感情を反映しており、専門家の多くは、政府は修正に応じないと見る。ポリノ代表は「IMFと戦うことが大統領の人気を高める可能性もある」と話す。

ブエノスアイレス繁華街の売店で店頭の新聞の見出しを眺めていた男性(62)は「公式統計が実態と違うことは生活していればわかる。でも、外国人投資家への支払いが減るなら国のためになる」と政府を擁護した。だが街では批判的な声が目立つ。タクシー運転手の男性は「実態を隠して適切な政策がとれるわけがない。世界の信頼まで失ってしまう」と嘆いた。 【12月12日 朝日】
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「実態を隠して適切な政策がとれるわけがない」というのが正論でしょう。
フォークランド紛争のイギリスや、IMFを相手にした国民受けのいい対応に終始していては事態は改善しません。
“フェルナンデス大統領自身は、エビータの再来の線を考えているようですが、大衆受けを狙ったポピュリズム的な施策は、かつてのハイパーインフレーションやデフォルトという失敗にもつながります”というのが前回ブログの結論でしたが、今回も同じです。

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