(ベトナム北部の農村。実習生の多くはこうした地方の出身だ【11月22日 室橋 裕和氏 文春オンライン】)
【相次ぐ在留ベトナム人の犯罪】
10月末に、群馬県で家畜・果物などを盗み組織的に販売していたベトナム人グループが逮捕されました。
****家畜千頭を盗難…「群馬のボス」率いるベトナム武装集団の闇手口****
ベトナム人の窃盗集団による家畜盗難が相次いでいる。 10月26日、群馬県警は在留期限を超えたとして入国管理法違反で、自称カラオケ店店主レ・ティ・トゥアン容疑者(39)ら男女13人を逮捕した。
彼らが住んでいた太田市内の貸家2棟から、約30羽分の冷凍鶏肉を押収。トゥアン容疑者は「群馬のボス」というアカウントを持ち、SNS上でベトナム人の仲間を募集していた。
さらに同県警は、10月28日にカオ・スアン・トゥン容疑者(27)らベトナム人技能実習生の男4人を屠畜場法違反で逮捕したと発表。4人は太田市内のアパートで、豚を食肉にする目的で解体していたという。
「(中略)彼らは、夜になると北関東を中心に徘徊。家畜や果物を盗んでいたとみられます。監視カメラの映像を分析すると、家畜を運ぶ者、見張り役、運転手と役割が明確に分かれていたようです。
家畜の盗難は今年1月から目立つようになりましたが、被害が届けられたのは5月以降になります。中には、半年間で400頭の豚が盗まれた養豚場もある。警察は170人体制で、捜査に当たっていました」(全国紙社会部記者)
家畜の盗難被害は、今年に入り群馬、埼玉、栃木、茨城の4県で22件にのぼる。被害総額は3000万円以上。群馬県だけで豚719頭、鶏144羽、ナシやブドウなどの果物約9000個が盗まれた。
◆容疑者の部屋から漂う異臭 「近隣住民は、逮捕されたベトナム人の住む住宅から異臭がしていたと話しています。注意しても日本語が通じないようだったとか。家の外で肉を焼き、バーベキューをすることもたびたび。普段は夏でも窓を閉め切り、室内が見えないようにしていたようです。
盗難の目的は、同胞への闇販売がひとつ。在留ベトナム人の数は、中国人、韓国人に次いで約33万人になります。とても強固なコミュニティを築いている。SNSなどによる連絡も密で、販売のマーケットが形成されているんです。今回もコミュニティを利用して、盗んだ家畜を解体し宅配便で日本に住むベトナム人に送っていたとみられています」(同前)
コロナ禍で働き口がなくなり、食うに困っている外国人労働者が増えている。外国人技能実習生のあまりにひどい待遇なども近年問題になっている。盗難事件には、こうした背景があることにも目を向けなければならない。
ただ、どうも本件は様子が違うようだ。警察が押収した中に、肉や果物の他にも危険物が混じっていたのである。 「牛刀の他、モデルガンや金属バット、模造刀も押収されたんです。
この容疑者たちは窃盗を繰り返すグループだっただけでない。トラブルになれば、モデルガンや金属バットで、養豚場のスタッフなど一般人に危害を加える恐れもあったでしょう。
SNSを駆使し、見張り役など役割万端をするなど手口も巧妙。北関東の広い範囲に土地勘もあるため、バックに日本人がいる疑いも強くなっています」(北関東の地元紙記者)
続発する家畜の盗難。今回逮捕されたグループは、氷山の一角なのかもしれない。【11月4日 YAHOO!ニュース FRAIDAY DIGITAL】
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【調整弁として新型コロナ禍で職を失う外国人労働者】
このグループの行為は組織的犯罪行為そのもので、かつ、より暴力的な犯罪に至る危険性もあったようです。
もっとも、一般論で言えば、「凶悪な外国人による犯罪」というだけではなく、背景には多くの外国人をそうした世界に追いやる技能実習生制度の問題、更に新型コロナ禍による困窮という問題が存在していることもまた事実です。
新型コロナ禍でもとから不安定だった外国人労働者の生活は、一層困窮を深めています。
ベトナム人に限った話でもありません。
****外国人、暮らせない フィリピン人76人解雇 三重****
三重県多気町にあるシャープ三重工場で、派遣されて働いていたフィリピン人ら93人が15日付で解雇された。派遣など「非正規」と呼ばれる人や外国人など、雇用環境が不安定な人への新型コロナウイルス不況の影響が深刻化している。
労働組合「ユニオンみえ」によると、解雇された93人は、三重県松阪市にある下請け企業から派遣され、液晶パネルの生産にあたっていた。「業績悪化」を理由とする解雇通知は10月14日付で、うち76人がフィリピン人という。
「家族への仕送りもできなくなる」「16年間も働いた。どうして解雇なのか」
今月12日、津市内の施設で、フィリピン人労働者が県の雇用対策などの担当者に次々と不安を訴えた。(中略)
厚生労働省によると、外国人労働者は、2019年10月末時点で過去最多の約166万人に上った。新型コロナの影響による解雇や雇い止め(見込みを含む)は今月6日時点で7万242人。同省は国籍を「把握していない」としている。【11月16日 朝日】
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雇用の調整弁として、真っ先に外国人労働者が失業を余儀なくされるというのは日本だけでもないでしょうが、それを放置すれば、冒頭のベトナム人グループような犯罪も多発しますし、人道上の観点、あるいは長期的にみて人材を確保するという経済的側面でみても改善が求められます。
現在は、失業して帰国したくても航空便の減便や運賃高騰で帰国できないという事情もあります。
【そもそも問題が多い技能実習生制度】
やはり、多くの者が日本で働く中国のメディアも、日本の技能実習生制度の問題を指摘しています。
****日本でのベトナム人犯罪は「問題ありすぎの技能実習制度のせい」―中国メディア****
中国メディアの中国新聞社は1日、海外華字メディアとの協力媒体である華輿を通じて、日本で発生したベトナム人による犯罪の背景には、問題が多すぎる日本の外国人に対する技能実習制度があると論じる記事を発表した。
記事はまず、埼玉県、栃木県、群馬県で10月末までに発生したベトナム人による家畜などの大量盗難事件を紹介。
ベトナム人が犯罪に手を染めるに至った経緯については、技能実習の期間が終わり帰国するはずだったが、新型コロナウイルス感染症のために多くの航空便が運航を取りやめ、航空運賃が高騰したために日本に留まらざるをえなくなった。しかもコロナの影響で解雇されてしまったため、家畜類を盗み、一部は自分らで食べ、一部はネットで販売したと、ベトナム人側に同情的な論調で報じた。
日本の行政側の動きについては、コロナの影響で解雇されたり、航空便が減らされたことで帰国できない技能実習生が新たな職場で働くことを認めたなどと紹介。行政側の措置は「人道的であることは確か」などと一定の評価をした。
ただし、技能実習生の制度そのものに対しては、外国の労働力が先進的な技術を取得することを助け、母国の発展を支援するための制度として設けられたと紹介した上で、「良い政策だが効果を上げているとは言えず、実際には往々にして安価な労働力を獲得するための手段になっている」と批判した。
また、日本が2019年4月に「特定技能」と称して新たな在留資格を認めたことは、農業や介護など少子高齢化による人手不足に対応するためと紹介。さらに、「特定技能第1号」として在留資格を取得して来日した外国人が20年6月末までに累計5950人だったのに対して、日本政府が予定している技能実習生の24年末までの目標人数が34万5000であり、「特定技能」の受け入れは明らかに少ないと論じた。
記事は、外国人労働者の問題に詳しい日本人弁護士の話を引用して、日本政府はコロナの影響に伴って柔軟な対応したが、あくまでも応急措置であり抜本的な対策ではないと指摘。同弁護士の「日本政府は将来、技能実習制度を根本的に廃止すべきであり、特定技能による在留資格認定制度を完成させるべきだ」との主張も紹介した。
記事は、一連のベトナム人による犯罪は、技能実習制度における問題の「氷山の一角が露呈したものだ」と批判した。【11月2日 レコードチャイナ】
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実質的に単純労働者確保手段となっている技能実習生制度の問題は従前から繰り返し指摘されているところで、あとは行政・政府にやる気があるのかどうか・・・というところです。
【跋扈する悪質ブローカー】
下記のような受け入れ側、あるいは送り出し側の問題も以前から指摘され、「常識」ともなっています。
にもかかわらず改善が進まないということは、行政・政府にやる気がないと考えざるを得ません。
それで問題が起きたら「悪質な外国人」のせいにする、あるいはそういう世論を黙認するというのでは、やはり批判は免れないでしょう。
****相次ぐベトナム人犯罪のなぜ? 「ひとり月500円」「性接待も日常的」……実習生送り出し機関の“悪質な手口”****
ベトナム人による犯罪が相次いでいる。その背景だと語られるのは彼らの労働環境の劣悪さだ。
しかしもうひとつ、実習生を送り出してくるベトナム現地機関にも悪質なものが多いことはあまり知られていない。ベトナム人経営の送り出し機関が、同じベトナム人を搾取し、そこに日本人が寄生しているという図式があるのだ。
◆ ◆ ◆
「まず一度、ベトナムに行ってみませんか?」 人手不足に悩む地方の中小零細企業、とくに建設関連の会社を回っているブローカーは、まずこう切り出すという。
「技能実習生の候補生たちが日本語を学んでいる現場を見てから、彼らを雇うかどうか決めてはいかがでしょう。もちろん渡航費用はこちらでお出しします」
そう誘われて、企業の担当者はそれまで縁もなかったベトナムに向かうことになる。同行するのは営業をかけてきた「紹介会社」などと称する日本人ブローカー、それに地域にある実習生受け入れの組合(監理団体)の日本人担当者だ。
監理団体は英語でいうとアクセプト・オーガナイザー、つまり受け入れ機関だ。この団体が、ベトナム側にあるセンド・オーガナイザー、つまり送り出し機関を通じて、技能実習生を受け入れ、各企業が雇う。送り出し機関はベトナム人の経営だ。
技能実習制度は「海外の送り出し」と「日本の受け入れ」双方があって成り立つものなのだが、そこに悪質なブローカーが寄生していることがベトナムの場合、非常に多い。
そんなブローカーの営業を受けて実習生の導入を検討し始めた企業の担当者は、ベトナムに到着すると、流暢に日本語を話す送り出し機関のベトナム人に出迎えられる。クルマはたいてい、アルファードかヴェルファイア。まず向かうのは「日本語センター」などと呼ばれる学校だ。送り出し機関はたいてい日本語学校を兼ねているが、やはり悪質なところもかなり混じっているという。
「性接待」も日常的…送り出し機関“ベトナムツアー”の実態
教室をのぞいてみれば生徒たちがいっせいに立ち上がり、「ようこそお越しくださいました! いらっしゃいませ! 私たちは日本の技術を学びたいです! 一生懸命がんばります!」 などと、日本語で声を合わせて唱和する。
(中略)校内を回った一行が、校長室や応接室で次に見せられるのは、山のような日本語検定の合格証の束だ。日本語能力試験(JLPT)、日本語NAT-TEST……どれも高得点で生徒たちの優秀さをアピールするが、
(中略)偽造である。ろくに日本語を教えず、書類だけ偽造している送り出し機関が多いのだが、それに気づかず企業の担当者はいたく感心して宿泊先のホテルへと案内される。そこにベトナムの美女たちが待っているのもよくある手口だ。
「好きな子を選んでください」と迫られ、きっぱり断れる企業担当者はあまりいないという。こうして夕食まで2時間ほど、計算されたように空いた時間を部屋で楽しむことになる。その後の夕食や飲みの席は、女性がかいがいしく担当者を世話する。
「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」
(中略)実習生を受け入れる企業は、監理費という形で、実習生ひとり当たり毎月2〜5万円を組合に払う必要がある。このうち一部は送り出し機関にも還流されていく。もちろん話を仲介したブローカーも「分け前」にあずかるのだが、
「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」 などと、極めて良心的なことを言う。監理費や、実習生来日後の研修費などを含めても、日本人を雇うよりはるかに安い。
こうして大満足の視察を終えた担当者は、社長に報告をするのだ。ベトナム人は失踪や犯罪のイメージがあるかもしれないが、私が行った学校の生徒はとても優秀であいさつもしっかりしていて、費用も安いし……。
「じゃあ、20人ばかり入れてみるか」 こうして、送り出し機関とブローカーの巧みな連携で、日本語能力の低い実習生たちが次々と入国してくることになる。
親の土地や田畑を担保に借金を負う実習生たち
ブローカーはもちろん、実習生ひとり当たり月500円の利益で満足しているわけではない。
ベトナム人実習生が日本に旅立つまでの費用は、健全な送り出し機関の場合60〜70万円といわれる。日本語学習や、そのための寮生活、食費、パスポートの取得代金、役所での書類手続きといった費用だ。ちなみにインドネシアやラオスの場合は30万円ほど、ネパールは50万円前後といわれる。物価や、その国の役所の「取り分」によってもさまざまだ。
しかしベトナムでブローカーが絡んだ場合、その額におよそ80〜100万円が上乗せされて、送り出し機関から実習生へと請求される。
「実習生を目指すのはほとんどが、地方の農村の子たちです。もちろんそんなお金は払えない。そこで借金ということになるのですが、送り出し機関を経営するベトナム人は、元銀行員など金融関連の職歴を持った人が多いのです」(Tさん)
彼らのツテでブローカーの利益も含めた150〜200万円ほどの借金を負うことになるのだが、その場合に担保となるのは実習生の実家の土地や家、田畑、それに両親の生命保険だ。
「加えて高額な金利が課されます。まともな送り出し機関であれば年利5%ほどですが、悪質な送り出し機関は20%を超える年利を要求してくる」(Tさん)
ほかに借りる当てもないし、そもそも地方の農村で暮らしていた実習生もその家族も、あまり知識を持ち合わせていない。スマホは持っていてもSNSと動画サイトくらいで、なにかを検索して調べようというリテラシーにも乏しい。
そういう層にあえて営業をかけて「人買い」をしているわけだが、そのため実習生も「なにかおかしい」と薄々感じていながらも、借金の契約を交わしてしまえばもう日本へ行くしかなくなる。
失踪、犯罪へと追い込む仕組み
ベトナム人実習生を受け入れた担当者は、はじめの1か月ほどは彼らの真面目な働きぶりに安心して、胸をなでおろすのだ。
ところが、2か月目には休みがちになる。無断欠勤が目立つようになる。3か月も経つとそれが常態化し、パチンコを覚えて入り浸る者も出てくる。やがて寮の部屋はもぬけの殻となり、失踪してしまう。典型的なパターンだが、実習生は担当者の陰で送り出し機関の金利がどれほどにきついものか、日本で働き返済を始めてようやく気がつき、絶望するのだ。
もちろん日本側の企業が、残業代の不払いや寮費のピンハネなどあの手この手で最低賃金の実習生を食い物にしている実態もあるのだが、加えて送り出し機関の金利が彼らを圧迫する。これはちょっと返せないと感じ、無気力になり、労働意欲を失う。逃亡する。
焦った担当者は送り出し機関の窓口ともなっているブローカーに連絡をするが、親切だった態度は一変し、
「うちは500円しかもらってないんですよ。それでどうしろって言うんですか。それより、まだまだ生徒はいますから、次の入れましょうよ。何人ですか」 とあしらわれるのだ。
それならこちらは組合や警察、入管にも相談をすると返すと、スマホに送られてくるのは、あのとき一夜をともにしたベトナム女性との密会の様子、いわゆる「ハメ撮り」の写真だ。
愕然とした担当者は、社長や組合、入管に頭を下げ、自分の管理不行き届きだと謝罪し、話はうやむやとなり、もうベトナム人は懲り懲りだ、となる。ブローカーや送り出し機関に累が及ぶことはない。(中略)
借金を背負った実習生のリストが出回っている
実習生たちは、あてもなく逃げるわけではない。
日本で知り合ったベトナム人や、同じ元実習生に誘われて、さまざまな仕事に就いていく。在留カードを偽造して、ベトナム人経営の会社に潜り込んでいるケースもあるし、いま問題になっているように窃盗団や薬物売買の組織に取り込まれることもある。
というのも、実習生が日本に着いたときから、いやベトナムで借金をしたときからすでに「これだけの額を借りている人間が、この県のこの会社で来月から働く」といった情報、リストが出回るのだ。これは送り出し機関のベトナム人から、日本に住みグレーあるいはブラックな仕事をしているベトナム人に流され、活用される。
「来日間もないうちから、金利と低待遇にあえぐ実習生に近づき、親密になるベトナム人が必ずいるものです。仕事を放棄し、失踪する実習生はほとんど、こうした連中の誘いに乗ったものです」(Tさん)
借金を背負わされ、犯罪へと追い立てられ、分かり切った結末に追い込まれていく。ベトナム人の犯罪が多発している要因はここにある。その絵図を描いているのは同胞のベトナム人と、実習生を奴隷としか見ていない日本人だ。
自らを搾取した送り出し機関に就職する実習生も
「ベトナムには300〜400の送り出し機関があると言われますが、そのうち半数くらいは悪質なブローカーが関与しているように思います」(Tさん)
こうした厳しい搾取を乗り越えて、借金を返済し、3年間の技能実習を無事に終えて帰国する優秀なベトナム人もいる。日本語や日本で学んだ技術を活かしてステップアップしていくケースもあるのだが、「目立つのは送り出し機関に就職するパターンです」(Tさん)
今度は自分が流暢な日本語で、日本の中小企業の人事担当者を出迎える立場になるのだ。借金を背負わされた側が、借金を背負わせる側へと回る。そんな負のスパイラルがある。
技能実習制度という制度そのものを根本から見直し、悪質な送り出し機関やブローカーを排除する仕組みを作る必要がある。でなければ、ベトナム人による犯罪が日本ではこれからも増えるし、搾取されるベトナム人も減ることはないだろう。【11月22日 室橋 裕和氏 文春オンライン】
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