孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾統一地方選  与党・国民党の「崩落」 政治参加する若い世代と「台湾人としてのアイデンティティ」 

2014-11-30 21:35:13 | 東アジア

(台北での柯文哲氏勝利を喜ぶ支持者 “”より By *dans https://www.flickr.com/photos/dans180/15724176897/in/photolist-pXuvYe-phBjFm-phABf5-pXae2P-qeAQ54-qeqveV-phB6vy-pXb4wx-pX2K9E-pXa3qD-qepuQv-pX3UNY-qewJcN-qeAtNx-pX8XS2-pXc59K-qeqAjp-pX1Tiq-qeA4GX-pX8SED-qezzXi-pXb2LZ-pX2NB9-phQHMe-qeqyTt-qcj1Go-pX9S6F-qci5WY-pXkLdA-qeRjZC-qeRjVj-qeRjUN-pXuw3c-qeqbHM-phHQ2H-pXjYvL-qeyD52-pX1JTG-pX8q9y-qeCDW4-qeqkA6-phHvy1-qetXKi)

【「崩落」・「落盤」】
台湾の2016年次期総統選の前哨戦と位置付けられる統一地方選が29日に行われました。

選挙前から与党・国民党の苦戦は予想されていましたが、実際、これまで国民党が地盤としてきた台北で野党が支持する新人無所属候補が国民党大物の二世候補を破るなど、「崩落」・「落盤」などとも形容される国民党の惨敗、野党・民進党の躍進という結果になりました。

****与党・国民党が大敗=台北市長は無所属新人―台湾地方選****
台湾の2016年次期総統選の前哨戦と位置付けられる統一地方選の投開票が29日行われ、与党・国民党が地盤の台北、台中で敗北した。

馬英九総統は同日夜、党本部で記者会見を開き、「皆さんを失望させて申し訳ない」と大敗を認め、江宜樺・行政院長(首相)は責任を取って辞任した。

人口の約7割を占める6直轄市のうち、最大野党・民進党が桃園、台中、高雄、台南の4都市を押さえた。民進党は次期総統選での政権奪還に向けて勢いがつきそうだ。一方、国民党が勝ったのは新北のみとなり、現有の4ポストから大幅に減らした。

事実上の首都である台北は民進党が支援した無所属新人の医師、柯文哲氏(55)が国民党の連勝文氏(44)を破り初当選を果たした。

無所属の台北市長は初めてとなる。中部の台中は民進党新人の林佳龍氏(50)が4選を目指した現職の胡志強氏(66)の当選を阻んだ。

直轄市を除く16県市の首長選でも国民党の当選は5ポストにとどまり、民進党の9ポストを下回った。国民党は、直轄市に次ぐ人口規模を持つ中部の彰化県や北部の基隆市、新竹市なども失った。

中央選挙委員会によると、全体の得票率は民進党が47・6%、国民党が40・7%、無所属が11・7%。投票率は67・6%だった。【11月30日 時事】 
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台湾の首都はどこ?】
台湾、「中華民国」の中国・大陸との関係での微妙な立ち位置は今さらのことではありますが、“事実上の首都である台北”という表現にもそのあたりの事情があらわれています。

台湾の首都は台北に決まっているじゃないか・・・とも思うのですが、「中華民国憲法は首都を南京に定めている」という話もあって、つい1年前の国会で「首都はどこなのか?」という議論がなされています。

****中華民国の「首都は台北」 内相が認識表明/台湾****
内政部の李鴻源部長はきょう、中華民国の首都は台北だとの考えを示した。台湾では教育部の公文書に「中華民国憲法に基づき、わが国の首都は南京」だとする記載があったことから一部で波紋が広がっていた。

これは立法院内政委員会で国民党の立法委員(国会議員)の「首都はどこか」とする質問に対して回答したもので、李部長(=写真)は中華民国憲法では首都の位置が規定されておらず、中央政府の所在地が首都だとし、現在の中央政府所在地は台北であることから首都は台北だとの認識を明らかにした。

中華民国の首都をめぐっては、教育部が今月2日、小中学校の地理・歴史教育で使用する地図や地球儀などの教材で、台湾と中国大陸の色の表示、首都などを表す記号は教科書と一致させるのが望ましいとして、国公立学校などに通達した際、公文書に「首都の表示に関し、中華民国憲法に基づき、わが国の首都は南京とする」と書かれていたことからインターネット上を中心に議論が起こっていた。

教育部の幹部職員は3日、1946年の中華民国憲法制定前にあった「訓政時期約法」には首都を南京とする記載があったと釈明したが、憲法自体にはその規定がされていないと認めた上で、1997年に教育部が打ち出した地理教科書編集審査の規則では首都の記号は台北に置き、「中央政府所在地」と明記するとしており、これについては公文書上にも書かれていたが、「南京」の説明部分が簡略化され過ぎていたとして陳謝した。

また、李部長は1949年12月に中央政府を台湾に移転した際、場所を台北とする命令が出ていたと発言の根拠を強調している。【2013年12月4日 フォーカス台湾】
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中国共産党政権と台湾国民党政権が両国(両岸)関係の基本枠組みとする「ひとつの中国」という虚構がもたらす混乱のひとつです。

【「台湾全土が変わり始めた」】
台湾が建国以来引きずる過去のしがらみではありますが、今回選挙では「台湾の政治文化を変えよう」という若い世代を中心とする新しいうねりも現れています。

****台湾は変わる」歓声 統一選 若い世代の思い、うねりに****
■二大政党の構図に風穴
今回の選挙で吹いた風を象徴するのは、東京都知事選に相当する大規模選挙の台北市長選だ。台北は国民党が政権党として公務員、軍人、教員らの強固なネットワークを築き、圧倒的優位を保ってきた。組織に頼らない無所属候補が24万票の大差をつけて当選した衝撃は大きい。民選移行後、無所属候補が当選するのは初めてだ。

「台北から台湾の政治文化を変えよう」と訴えた柯氏を後押ししたのは、「公民」と言われる人たちだ。馬政権への不満が高まる一方、民進党も政権時代の失敗で失望を招き、政党不信が高まった。

こうした中で有権者として実際の行動で政権に不満をつきつけようという動きが強まり、3月には学生らが立法院(国会)を占拠する「ひまわり学生運動」が発生。これが無党派の若い世代を中心に政治への関心が高まるきっかけとなった。

台湾では、中国大陸で共産党との内戦に敗れた国民党政権が長く一党独裁体制を敷いた。国民党は民主化の動きを弾圧したが、1986年に民進党が結成。90年代以降に民主化が本格化し、2000年には民進党への初の政権交代が実現した。

08年に国民党が政権を奪還し、二大政党が激突する構図が続いたが、無党派層が原動力になって政党を上回る勢いを見せたことで、新たな政治文化につながる可能性もある。

「選挙結果は、台湾の民主的価値と進歩を求める台北市民の決意を示した」。柯氏は支持者の前に姿を見せると誇らしげに語った。「(立法院を占拠した)ひまわり学生運動などの『公民運動』が台湾の新しい政治をもたらした」などと述べ、大きな拍手が起きた。

銀行員の男性(55)は「食品安全問題や腐敗問題で馬英九(マーインチウ)総統や国民党は我々の期待を裏切った。台湾全土が変わり始めた」と語った。学生運動などがきっかけとなり、投票によって不満を表明する人が増えたと見る。

有権者を駆り立てたのは、台湾社会の行き詰まり感だ。給料は上がらず格差が広がる一方、富裕層による投資で不動産は高騰。台北では一般的な家庭が15年分の給料をつぎ込まなければ家を買えないとされる。特に若い世代には大きな圧力がのしかかっていた。

一方、対立候補の連勝文(リエンションウェン)氏(44)は、「子どもたちの声を聞こう」と柯陣営が親の世代に呼びかけると、逆に「父母の話を聞いて投票を」と訴える広告をメディアで展開した。国民党は無党派層の動きを完全に読み誤った形だ。

台湾全体では大きな追い風を受けた民進党だが、政党とは距離を置く公民運動の参加者も多い。民進党としては今後、こうした声の受け皿になれるかどうかが問われそうだ。

中国政府の対台湾政策を担当する台湾事務弁公室は29日、「選挙結果に注目している。両岸の同胞が両岸関係の得がたい成果を大切にすることを望む」との報道官談話を発表した。【11月30日 朝日より】
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台湾では1990年代以降に民主化が進み、自由や民主主義が教育で多く取り上げられるようになりました。
今回選挙で活発に動いていたはそうした教育を受けた世代です。

台北の柯氏支持の運動だけでなく、“町内会長に当たり、地域の「顔役」がつくことが多い村・里長選に、若い世代の立候補が目立つのだ。立法院(国会)占拠の学生運動に刺激され、政治を変えようと動き出した。”【11月24日 朝日】というように、政治全般において若い世代の覚醒・参加が始まっています。

台湾人としてのアイデンティティを理解できていない国民党
こうした若い世代を含めて、台湾では「台湾人としてのアイデンティティ」が強くなっています。

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・・・・いまや、世界のどの国も、中国と武力衝突や深刻な対立を引き起こすことは望まないようになっている。

台湾の独立を強く訴えた陳水扁・前総統は、アメリカから「トラブルメーカー」と見なされ、馬英九はその教訓から「三不政策(中国と統一しない、独立しない、武力行使しない)」を掲げるようになり、台湾が独立する可能性は極めて小さくなった。そして台湾経済はますます中国に依存するようになっている。

しかし、台湾の人々の考え方は、中国側が望むように変化していない。

台湾の世論調査によれば、台湾の地位について、(1)独立すべきか、(2)中国と統一すべきか、(3)現状維持すべきか、という質問に対する回答は、この十年間であまり変化しておらず、現状維持と答える人が相変わらず8割以上を占めている。

しかし、アイデンティティに関する質問で、(1)台湾人か、(2)中国人か、(3)その両方なのか、に対する答えは、この十年で大きな変化が生じた。2000年代半ばには、(1)と(3)がほぼ同数でともに4割強であったのが、今では台湾人と答える人が60.4%、両方と答える人は32.7%、中国人と答える人はわずかに3.5%にすぎない。

また、現状維持すべきという回答の中身についても、よく見ると「現状維持をしながらいずれ独立を目指す」という答えが漸増している。中国との経済関係は深化したが、台湾人としてのアイデンティティはむしろ強化されている。(後略)【11月21日 前田宏子氏 WEDGE】
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こうした若い世代の政治意識、強まる「台湾人としてのアイデンティティ」と完全にずれていたのが国民党重鎮の言動でした。

****古過ぎ国民党、自滅への道****
・・・・実際、この1週間ほどの間に、台湾の若い知識人からは、国民党陣営の最近の発言を聴いていると1940年代後半に逆戻りしたような感じがするという発言が相次いでいる。

当時、国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて台湾に逃れた国民党は、元から現地に住んでいた台湾人に対する弾圧、いわゆる「白色テロ」を繰り返していた。

国民党に長年関わってきた3人の大物がこの1週間、苦戦する連の応援に駆けずり回っている。1人目は、行政院長や国防部部長などを歴任した祁柏村(95、現台北市長・祁龍斌の父でもある。2人目は連勝文の父である連戦(78)、3人目は母親である連方璃(71)だ。

長老3人(と連陣営の一部)の発言で一香気になるのは無神経さと対決的な姿勢だ。
台北の市政に民族的な対立など無関係なのに、その発言は北京あたりで聞かれる論調とよく似ていて、反目感情が強調され、その裏返しとして大漢民族主義がむき出しになっている。

彼らによれば柯は漢民族に対する「裏切り者」であり、「中華民国の首都」を統治する資格はないそうだ。
例えば、連戦に至っては何の先祖まで引き合いに出し、1895年から1945年までの日本統治下で、柯の祖父は日本の植民地統治の協力者だったと非難した(これは事実無根だ)。

もっとひどいのは祁柏村で、日本の統治下で優遇された人たちすべてに非難の矛先を向けた。柯を支持する人たちは日本の統治時代に洗脳されたやからの末裔だとし、元総統の李登輝もそのI人だと決め付けた。連戦や祁柏村を政府の要職に就けたのは李だったのだが。

無神経な発言には驚くしかない。台湾は日清戦争に日本が勝った1895年、下関条約によって当時の清国から「割譲」された。住民に選択の余地はなかったが、その後半世紀間の台湾は、日本の近代的な植民地となった。

もちろん植民地支配に抗して戦い、命を落とした人もいる。体制に順応して富を築いた人もいる。だが大多数の住民は、支配者が誰であろうと生きるのに必死だった。日本統治時代に、台湾入が自らのアイデンティティーを確立していったことも事実なのだ。

「悪い教育で若者は騒ぐ」
日本が第二次大戦で敗れた結果、台湾は「返還」された。新たな支配者となった国民党が財産没収や弾圧、虐殺と強引な「漢民族化」の圧政を何十年も続けたため、多くの台湾入は口本の植民地時代をほろ苦い気持ちで懐かしんだ。

47年には国民党軍兵士が台湾入を大量虐殺した2・28事件が起こり、その後の「白色テロ」によってほぼ1世代の知識層が消滅した。先住の台湾入が抱いていたであろう「自分たちは漢民族と対等だ」という幻想は打ち砕かれ、逆に「台湾族は漢民族とは違う」という対抗意識が強まることになった。

ただ国民党政権は、台湾入も漢民族の国・中国の一員であり、再教育が必要なだけだという扱いを変えなかった。

祁や連戦の発言は、台湾独自のアイデンティティーが維持され、花開き、独自性の深化と異質なものの吸収が共存していた1世紀余りの歴史を完全に無視したものだ。

はっきり言えば、土着と日本と中国の要素をすべて混ぜ合わせた「るつぼ」。それが台湾社会なのだ。 
柯とその支持者(台湾政界の「第三勢力」と呼べるかもしれない)は漢民族であることを否定する日本統治時代の名残・・・国民党陣営はそう決め付けるが、それは的外れでしかない。

いまだに日本の統治時代にある種の郷愁の念を抱く人がいるのは事実(国民党の恐怖政治が拍車を掛けた)だが、当時に戻りたいと考える台湾人などいない。

柯陣営を「日本人呼ばわり」して攻撃する那や連戦夫妻は台湾人の発言を封じ、自らの未来を決める権利を持つ人々を軽視している。

非難の矛先は、圧倒的に何を支持する若者が陳水扁率いる民進党政権(00~08年)で受けた8年間にわたる「不適切な」教育にも向けられた。

連戦は根本的な対立を避けるとする儒教の教えにのっとった漢民族としての教育を受けていないと非難。台湾独立を綱領に掲げた同政権下の教育システムのせいで、学生は年長者を敬わなくなったと嘆く。(後略)【12月2日号 Newsweek日本版】
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中国・民進党ともに新たな関係模索が必要
逆に言えば、連戦氏など国民党重鎮の発言は中国共産党の発言とも重なるものが多く、彼らの間の話が非常にスムーズであったろうことが想像できます。

ただ、中国共産党も、馬英九・国民党政権の不人気は承知ですし、サービス貿易協定締結に対する台湾側の反発について習近平総書記が「国民党は事実と異なるメッセージを送ってきていた」と述べたように、国民党だけに頼ることはできないという認識もあります。

****国民党・馬英九凋落で民進党にも擦り寄る中国****
中国にとっては、言うまでもなく、16年の総統選でも、大陸との関係を重視する国民党から指導者が選出されることが望ましい。

しかし昨今の台湾内部における馬政権に対する支持率低迷を鑑みれば、16年の総統選・立法院選で政権交代が起こる可能性は無視できない。

中国は、以前は独立を掲げる民進党との交流を拒絶してきたが、最近では、民進党との関係構築に布石を打っている。

人気も高く、民進党の若手ホープである頼清徳・台南市長を大陸に招いたり、また張志軍が6月に訪台した際には、大陸への反発が強い南部にも赴き、民進党の実力者である陳菊・高雄市長とも会談を行った。

ただし、民進党が独立を目指す党綱領を掲げている限り、党対党の交流は行わないという方針は変えていない。

民進党が政権をとった場合に備え、民進党との間でも一定の意思疎通を図るべきだという考えがある一方、民進党に対し融和策をとりすぎると「民進党が政権をとっても、中台関係にさして悪影響はない」と台湾民衆が考えるようになってしまう危険がある。

あくまで国民党が政権をとることを望む中国にとって、民進党を無視はできないが、本格的な関係構築に乗り出すことは当面ないと予想される。【11月21日 前田宏子氏 WEDGE】
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政権獲得が近づいた民進党も中国との関係をどうするのか・・・という基本問題を整理する必要があります。
経済的には中国なしに台湾が立ち行かないのは、もはや動かしがたい事実です。

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11月末の統一地方選では、国民党が席を減らすことになるだろう。結果として民進党は有利になるだろうが、その政策が支持されているというわけではない。

08年の総統選で、民進党候補の蔡英文氏が敗北した原因の一つは、対中政策の曖昧さにあった。台湾の人々は、中国との統一は望んでいないが、中国との関係をこじらせ、国際的に孤立したり経済的なダメージを受けたりすることは望んでいない。

民進党内部には、中国との関係構築を目指すべきだという声と、あくまで独立の旗を掲げ続けるべきだという声が存在し、まだ党としての方針が決まっていない。

民進党にとっても、執政党として政権を預けられるという信頼を民衆から得るためには、乗り越えなければならない課題は多い。【同上】
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政治的に台湾を手放せない中国と、経済的に中国との関係を重視せざるを得ない台湾の間で、関係構築が模索されます。


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