孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ウィキリークス」に踊るイラン関連情報  核ドミノからハメネイ師病状

2010-12-03 21:07:03 | 国際情勢

(2007年3月 サウジアラビアを訪問したアフマディネジャド大統領(左)を迎えるサウジのアブドラ国王
“flickr”より By historymike47 http://www.flickr.com/photos/64803582@N00/410605638/ )

外交機能を麻痺させかねない「ウィキリークス」】
内部告発サイト「ウィキリークス」が公表したアメリカ外交文書によって、様々な情報が溢れだしています。

“サルコジ仏大統領が「怒りっぽく、独裁主義的」と切り捨てられた。ベルルスコーニ伊首相は「無責任で虚栄心が強く、現代欧州の首脳として無意味」と断言されている。
ロシアのメドベージェフ大統領については、今も権力基盤が強いプーチン首相との関係を、「プーチンが(主人公)バットマンで、メドは相棒のロビン」とハリウッド映画になぞらえた。
アフガニスタンのカルザイ大統領は「極めて弱い人間」で「事実に耳を傾けない」。北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は「体がたるんだ年寄り」で「精神的、肉体的なトラウマを抱える」と描かれている。”【11月30日 朝日】

この類は皆(本人は別にして?)が普段から思っていることで、特段の目新しいことではありませんが、やはり公にされるというのはまた違った影響もあります。
国家間の関係でなく私的な人間関係でも、にこやかに挨拶して別れたあと「いけすかない野郎だ・・・」と内輪で話す・・・といった類はごく普通の話で、その内輪の話が相手に伝わるとなると関係は崩壊しかねません。

外交交渉はテブールの下での足の蹴飛ばし合いでもありますので、その部分が公にされると交渉自体が機能しなくなることもあります。そして情報はますます厳重に管理され国民から遠いものにもなりかねません。
非核三原則のような国民に公約している事実と反する密約が存在するとか、紛争による被害がどの程度になっているという国民に知らせるべき事実を政府が隠ぺいしているとか、そういった情報の公開と、「ウィキリークス」が垂れ流す外交交渉過程での内部のやり取りに関する情報とは、違った意味合いがあるように思われ、「ウィキリークス」の一律的な情報公開には、外交機能を麻痺させかねない懸念を感じます。

【「ヘビの頭を斬りおとす必要がある」】
アメリカの外交問題の大きなテーマがイラン対策ですので、「ウィキリークス」でもイラン関係の情報が多く公表されています。
その中で、スンニ派アラブ諸国のシーア派イランに対する敵愾心が目立ちます。

“英紙ガーディアンによると、サウジアラビアのアブドラ国王が米国にイラン攻撃を再三求めていたことや、ヨルダンやバーレーンの当局者も軍事手段を行使してでもイランの核開発を阻止するよう訴えていたことなど、公電からはイランに対するアラブ諸国の強い懸念が伝わってくる。”【11月29日 時事】
“サウジアラビアのアブドラ・ビン・アブドルアジズ国王が米政府に対し、イランの核開発を防ぐためには「ヘビの頭を斬りおとす必要がある」と述べ、イランへの攻撃を迫っていたことが明らかになった。”【11月29日 AFP】

このあたりは、「まあ、そんなところだろうな・・・」という感があります。
イスラエルのネタニヤフ首相は29日、機密公電で、アラブ諸国が米国にイラン攻撃を要請していたと暴露されたことを念頭に、中東諸国の指導者が公の立場とは異なり、核開発を続けるイランを脅威と感じていることが明らかになったと指摘しています。【11月30日 時事より】

更に、核ドミノやサウジアラビアの中国への働きかけも
****ウィキリークス:サウジ、エジプト 「核開発」米に警告*****
内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が暴露した米外交公電で、イランが核兵器開発に成功した場合について、サウジアラビアとエジプトの両国首脳が自国も核開発に着手する可能性があることを米国に警告していたことが分かった。シーア派国家イランの核保有をきっかけに、サウジ、エジプト両国など対立するイスラム教スンニ派の中東各国による「核ドミノ現象」が懸念されており、裏付けられた形だ。
今年2月のリヤド発公電によると、サウジのアブドラ国王は、イランが核兵器開発に成功した場合には自国を含む地域のすべての国が同じ行動を取ることになると、ジョーンズ米大統領補佐官(当時)に述べた。
また08年5月のカイロ発の公電では、エジプトのムバラク大統領は、米下院議員との会談の中でイランが核兵器開発能力を整えた場合の対処を尋ねられ、独自の核兵器開発計画を始める事態を強いられるかもしれないと話していた。【12月3日 朝日】
*****************************

****サウジ:中国に「イラン核阻止働きかければ原油安定供給****
内部告発サイト「ウィキリークス」の米公電暴露で、サウジアラビアがイランの核開発阻止の行動を中国から引き出すため、原油の安定供給を提示していたことが判明した。今年2月の複数の米公電によると、サウジ政府幹部はイランが「核兵器開発」を目指していることを確信。今年1月に訪問した中国の楊潔チ(よう・けつち)外相に、「開発阻止を働きかければ原油を安定供給する」と伝えていたという。
中国は原油輸入先であるイランへの制裁には慎重姿勢を維持している。サウジは米国にイラン攻撃を何度も促すほど警戒感が強いことも判明しており、エネルギーをテコに対イラン包囲網への中国取り込みを図った模様だ。米国には、イランが核武装すればサウジを含む中東諸国が一斉に核軍備レースに突入するとも伝えたという。

公電によると、アラブ首長国連邦(UAE)の政府幹部は対イラン軍事行動発生を「時間の問題」と見ており、防衛のための武器供与を加速するよう米国に強く要請した。また、クウェートの政府幹部は、イランは秘密核施設を保有するかもしれず、西側諸国の軍事行動でも開発は止められない可能性があるとの分析を提示。攻撃はペルシャ湾岸諸国や米軍基地へのイランの反撃を生み、大きな被害が生じかねないとの懸念を示した。【12月1日 毎日】
***************************

日本についても、東アジア情勢いかんで核武装に・・・といった類いの情報がありますが、実際の日本国内の実情とは異なるものがあります。アラブ諸国の反応に対する断片的な情報を文字通り鵜呑みにするのもまた誤りをおかす危険があります。
ただ、アラブ諸国がイラン核開発に非常にナーバスになっていることは窺えます。

末期の白血病?】
個人的に、今回の「ウィキリークス」公開イラン情報で一番目にとまったのは、ハメネイ師の病状に関するものでした。
****イラン最高指導者は末期がん」 ウィキリークス公開の外交公電*****
2010年11月30日 17:40 発信地:ロンドン/英国
イランの最高指導者、アリ・ハメネイ師は末期がんで「数か月以内に死亡」する可能性もあると、内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が公開した2009年8月の米政府外交公電で述べられていた。英紙テレグラフが伝えた。
テレグラフ紙によると、この公電は駐イスタンブール米領事が送ったもの。ハメネイ師がまれなタイプの白血病と診断されていると、イランのアクバル・ハシェミ・ラフサンジャニ元大統領と近いビジネスマンが述べたという。
公電が送られた当時は、ラフサンジャニ氏がマフムード・アフマディネジャド大統領の再選を阻止しようと画策していた。アフマディネジャド氏は公電の直前の6月に大統領に再選されたばかりで、テヘランでは再選をめぐり大規模な抗議デモも起きていた。

公電によると、「(この情報の)結果、ラフサンジャニ氏は(最高指導者を選出する権限がある)専門家会議内部でハメネイ師に挑戦するのをやめ、『自然のなりゆきにまかせる』ことにした」という。「最高指導者の死去後に、ラフサンジャニ氏は専門家会議が自分を最高指導者に指名するよう画策する考えだ。それが成功すれば、アフマディネジャド氏に辞任を求め、大統領選挙を行うつもりだ」と公電は述べていた。
強硬派のハメネイ師は国政の最高権力を持ち、たびたび米政府の政策を批判している。ハメネイ師の死期が近いとの確度の高い情報があったとすれば、外交関係に根本的な転換をもたらしただろう、とテレグラフ紙は指摘した。
いまもハメネイ師ががん治療を受けているとのうわさは頻繁に浮上するもの、29日にはレバノンのサード・ハリリ首相と会談するハメネイ師の写真が公開されている。【11月30日 AFP】
*****************************

本当にハメネイ師の病状が思わしくなく、ラフサンジャニ氏に交代するようなことが起これば、最近権威が失墜している最高指導者とは言え、イラン情勢は大きく変化する可能性があります。
ラフサンジャニ元大統領はカネにまつわる話も多く、清廉潔白な政治家とは言い難いところがありますが、経済重視の現実的政治家で、アフマディネジャド大統領との対立、民主化運動勢力との協調などを示していました。
しかし、情報から1年以上が経過した今現在もハメネイ師は公務をこなしていますので、どうやら“ガセ”だったようです。“米国の情報収集能力に疑問も出ている”【11月30日 毎日】との指摘も。
あるいは、ラフサンジャニ氏の動きを抑えるためにアフマディネジャド大統領周辺から意図的に流されたデマだったのか・・・

イラン保守派の内部抗争
アフマディネジャド大統領をめぐる権力争いについては、政敵ラフサンジャニ氏よりは、保守派内部からの批判の方がより現実的かも。
アフマディネジャド大統領の経済運営、その支持基盤である革命防衛隊の勢力台頭に対しては、保守派内部にかねてより対立があると言われています。

****身内も大統領に不満爆発、弾劾計画が浮上****
アハマディネジャド大統領を弾劾せよ・・・・イランの国会で最近、そんな動きが高まっていたことが明らかになった。
既に4人の議員が大統領を非難する書簡を護憲評議会に提出し、検討に向かっていたが、最高指導者ハメネイ師から「政府と国会は協力せよ」という命が下ったことから、見合わせることになったらしい。
今回の一件でイラン政府内、とりわけ保守派内部の亀裂が深まっていることが露呈した。提出された書簡は、大統領が法の実施を遅らせたり、国会による政府予算の監督を廃止するよう強要するなど、14件の法律違反を犯したと訴えている。
この書簡がアハマディネジヤドにどの程度の打撃を及ぼすか予想するのは難しい。閣僚は間違いなく、団結してアハマディネジャドを支持するだろう。
しかし一部の保守系新聞によれば、アハマディネジャドを国会に召喚しようという動議には40人もの議員が署名している。しかも、彼らは街頭でデモを繰り広げる一般市民ではない。アハマディネジャド自身が率いる保守派内部の政治家たちだ。
もはや閣僚を味方に付けるだけでは足りないかもしれない。【12月8日号 Newsweek】
***************************

****経済制裁、イランに打撃=最高指導部に亀裂も―米国防長官*****
ゲーツ米国防長官は16日、ワシントン市内で講演し、イランの核開発問題について、国連や各国独自の経済制裁がイランの予想以上に打撃を与え、最高指導者ハメネイ師が制裁の影響を過小評価したアハマディネジャド大統領に対し、不信感を抱き始めていると指摘した。
ゲーツ長官は、ハメネイ師は制裁がイラン経済に与える影響について、アハマディネジャド大統領がうそをついているのではないかと疑念を抱き始めている幾つかの証拠を得ていると述べた。アハマディネジャド大統領はこれまで、「制裁は紙くず」と強気の姿勢を内外に示してきた。【11月17日 時事】
**************************

ハメネイ師の不信は今に始まった話ではありませんが、結局はアフマディネジャド大統領周辺の革命防衛隊勢力に支えられている形になっています。
なお、経済制裁によってイランでは密輸ビジネスが「カネのなる木」となっており、その密輸を取り仕切っているのが革命防衛隊勢力だとの指摘もあります。

イラン、アフマディネジャド大統領の核開発問題等に関する外交姿勢も、多分にこうしたイラン国内の争いに影響されている側面があります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする