孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「武器貿易条約(ATT)」採択見送り 今後は国連総会で採決の見通し

2013-03-30 21:16:22 | 国際情勢

(「武器貿易条約(ATT)」制定を求めるアムネスティ・インターナショナルによる支持行動 “flickr”より By Arms Control Association http://www.flickr.com/photos/armscontrolassociation/8580190801/

【「Tシャツやおもちゃ、トマトなどの取引を規制する国際基準があるのに、武器貿易にはない」】
通常兵器がテロや市民の虐殺に使われないよう国際取引を規制する「武器貿易条約(ATT)」の制定を目指す国連交渉会議が3月18日から行われていましたが、報じられているように合意目前で採択が見送られることになりました。

ATTは戦車や戦闘機、ミサイルなどの通常兵器に加え、小銃などの小型武器について輸出入を管理する仕組みです。各国の履行体制も築いて無秩序な取引を無くし、テロや虐殺で使われないようにすることがその目的とされています。

“武器の国際取引をめぐっては「法の欠如」が長年指摘されており、特に小型武器による被害は深刻で、犠牲者は毎年70万人以上とされる。アルジェリアやマリなど北アフリカ諸国では、リビアのカダフィ政権崩壊に伴って武器が武装勢力に流れ、地域情勢の不安定化をもたらしている。” 【3月20日 朝日】

「Tシャツやおもちゃ、トマトなどの取引を規制する国際基準があるのに、武器貿易にはない」(潘基文事務総長)という現状に対し、武器取引に関する初の国際ルールを制定しようというものです。
紛争・内戦は世界中で起きていますが、武器・弾薬の供給に一定の歯止めがかかれば、その戦火も下火となり、犠牲者も減少するであろうことは容易に想像できます。

国連では2006年から日本や英国などが主導して交渉が始まり、昨年7月には、規制対象の武器の範囲などで合意できず時間切れとなり、これを受けての再交渉でした。

幅広い合意が得られた最終案
27日には議長の最終案が示されました。
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最終草案によると、武器の対象範囲として大型兵器7種類と小型武器を明記。国連安保理制裁決議の禁輸措置に違反したり、大量虐殺や戦争犯罪に使われると分かっている場合などは、輸出入や積み替え、仲介といった移転行為が禁止される。

また輸出に限定した「リスク評価」として、国際人道法や国際人権法の重大な違反、テロや組織犯罪関連の国際協定の違反行為につながる危険性がある場合は、輸出を許可しないとしている。

米国が対象として明記することに反対していた武器の弾薬の移転には一定の規制が加えられることになったが、輸出の記録や報告義務の対象からは外れた。
一方で、中南米やアフリカ諸国が強く希望していた武器の闇市場への流出防止措置が盛り込まれた。
また、条約を理由に防衛協力を無効とすることができないとするなど、「抜け穴」となりかねない条項もある。(後略)【3月28日 毎日】
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また、条約発効に必要な批准国数は、当初草案の65カ国から50カ国に引き下げられています。

最終案はメキシコやノルウェーを中心とする厳しい規制を求める積極推進派、幅広い条約への参加を重視する英国や日本といった国々、双方の意見を取り入れており、これで合意がなされるのでは・・・との期待感が広がっていました。

【「全会一致方式」のため採択できず
****北朝鮮、シリア、イランが反対、武器貿易条約の採択見送り 国連総会決議を検討****
通常兵器がテロや市民の虐殺に使われないよう国際取引を規制する「武器貿易条約(ATT)」制定を目指す国連本部での各国間交渉が28日、北朝鮮やシリア、イランの反対で決裂し、条約の採択は見送られた。条約採択には「議場の総意」が必要。
採択が見送られたことで、4月上旬に開かれる国連総会で、同条約を国連決議として賛成多数で採択する案が検討されている。

この日、北朝鮮代表は議場演説で、「バランスの取れた条約ではない」と一蹴。シリアのジャファリ国連大使も「見かけだけの条約にすぎない」と述べ、シリアの反体制派に武器が流れ込む“抜け道”があることを批判した。

条約の最終案は27日に示され、規制対象の武器について戦車や戦闘機、戦艦など大型武器7分野と、銃などの小型武器と明記した。大量虐殺などにつながるとの情報がある場合には、これらの移転を禁止するといった内容だ。条約発効に必要な批准国数を当初草案の65カ国から50カ国に引き下げるなど、採択しやすい内容となっていた。

条約の制定は日本や英国などが主導してきたが、昨年7月に行われた各国間交渉は時間切れで決裂した。
今回は、ノルウェーやメキシコなど“積極推進派”が厳しい内容の条約成立を目指す一方、多数の加盟国を募りたい日本などが推進派と慎重派との仲介に立ち、調整を続けていた。【3月29日 産経】
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会議は全会一致方式で行われており、北朝鮮やシリア、イランの反対があれば採択できません。
各国の利害がぶつかる国際問題で“全会一致”などそもそも無理があるように思えますが、こうした方式になったのは交渉に消極的だったアメリカを引き込むための措置だったようです。

****武器貿易条約:交渉失敗 「全会一致方式」があだ****
国連本部で28日まで開催された武器貿易条約(ATT)の最終国連会議は、イラン、北朝鮮、シリアの3カ国が条約案の合意に反対し、昨年7月の会議に続いての失敗に終わった。
もともとは、世界最大の武器輸出国・米国を条約策定に参加させるために導入された決定の「全会一致方式」があだとなった形だ。

ATT交渉開始は、06年採択の国連総会決議で決まった。英国の呼びかけに日本やオーストラリアなどが応じ7カ国が共同提案した。当時のブッシュ米政権はATTに反対だったが、09年発足のオバマ政権は国際協調や国連重視の姿勢を示すため、支持に転じた。

一方で、オバマ政権は交渉会議での全会一致方式での決定を要求した。米国に都合が悪い内容が条約案に盛り込まれた場合、多数決で押し切られないよう、「拒否権」を担保したといえる。09年の総会決議は同方式を採用した。

昨年7月と今回の会議の交渉現場では、条約支持派内の温度差が浮き彫りになった。英国と日本などは、多くの国を参加させて条約に普遍性を持たせるためには妥協も必要との立場。メキシコとノルウェーは、強い規制にこだわる積極推進派の代表だった。

それでも今会議では双方が歩み寄り、妥協派の外交官からは27日、「合意の可能性は高い」との声も上がった。8年越しの交渉が妥結間近となった最終日の会議場では、安堵(あんど)感からか、笑顔で記念撮影をする外交官らの姿もあった。だが、イラン、北朝鮮、シリアが反対を表明。会議場の雰囲気は徒労感に変わった。

今回の条約案はそのまま国連総会に持ち込まれ、多数決で採択される見通しが高い。予定される共同提案国には英国、日本、ノルウェー、メキシコなど妥協派と積極推進派、米国も名前を連ね、交渉会議では難航した一致団結が実現している。【3月29日 毎日】
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今後は国連総会の多数決で
今後については、記事にもあるように国連総会に持ち込まれ、多数決で採択される見通しです。
それなら最初から総会でやればいいのに・・・という気もしますが、全会一致方式のもとで可能な限りのコンセサスを求めるというプロセスによって、若干の国を除いて幅広い合意が得られたことはそれなりに意義があったと言えます。

もちろん国連総会で成立したとしても、内戦・紛争やテロ組織に流れる武器が完全にコントロールされるものではありませんが、少なくとも何の規制もない現状に比べればはるかに前進と言えるのではないでしょうか。
「抜け穴」的な部分については、今後更に交渉を重ねて改善していけばいい話です。

なお、“ニューヨークの国連本部で開かれている武器貿易条約(ATT)の制定交渉で21日、銃規制に反対する米国のNGO6団体の各代表が演説し、ATTは米市民の銃所持や自己防衛の権利を侵害すると懸念を表明した。一方、賛成派からは「ATTは武器の国際取引が対象。米国の国内問題を持ち込まないでほしい」と戸惑いの声があがった。”【3月22日 朝日】といった場面もあったようです。


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