孤帆の遠影碧空に尽き

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台湾  ワクチン確保に苦慮 中国が独企業との契約妨害?

2021-05-27 23:36:55 | 東アジア

26日、台北市の民主進歩党本部で話す蔡英文総統【5月27日 SnkeiBiz】)

 

【蔡英文総統「中国の介入のために今も契約ができていない」】

これまで新型コロナ感染をほぼ完璧に封じ込めてきた台湾がここにきて感染拡大に見舞われていること、ワクチン確保が遅れていることが住民の不安を大きくしていること、そうした事態にあって中国がワクチンの提供を申し出て台湾に揺さぶりをかけていることについては、5月19日ブログ“台湾 コロナ防衛“優等生”で感染急拡大 不足するワクチン 揺さぶる中国 アメリカは?”で取り上げました。

 

新型コロナ防衛で支持率を大きく上げた蔡英文総統ですが、感染拡大・ワクチンパニックでその支持率が低下しています。

“蔡総統の支持率、45.7%に低下 2期目最低、コロナ拡大影響”【5月25日 毎日】

 

台湾は中国のワクチン提供に関し「偽善は必要ない」などと拒否。「中国政府が邪魔しなければ、国際社会からワクチンを購入できる」としていました。

 

今、台湾が言うところの「中国政府の邪魔」が大きく取り上げられています。

 

****台湾・蔡総統、中国のワクチン輸入妨害を指摘 「介入で契約できず」****

台湾の蔡英文総統は26日、新型コロナウイルスワクチンの輸入を中国当局に妨害されているとの認識を示した。与党・民進党の会合で、独ビオンテック社との間で一度はワクチンの購入で合意したものの、「中国の介入のために今も契約ができていない」と述べた。

 

ビオンテック社製のワクチンを巡っては、台湾でコロナ対策を統括する陳時中・衛生福利部長(衛生相)が2月、500万回分の契約が頓挫した理由として、中国の介入を示唆。中国側は、台湾が中国を中傷していると反発していた。

 

台湾メディアは、中国メーカー「上海復星医薬」がビオンテック社から台湾での販売代理権を取得したことが、中国当局の介入を招いたと報じた。

 

台湾では新型コロナの感染が急速に拡大し、ワクチンの確保が課題となっている。【5月26日 毎日】

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【台湾を標的にした中国ワクチン外交 台湾の自主開発路線】

この「中国政府の邪魔」「中国の介入のために今も契約ができていない」という問題は、後程もう少し詳しく見ていくことにして、中国側の対応について概観すると、かねてより推進してきた「ワクチン外交」が、台湾へのワクチン供与だけでなく、台湾と関係を持つ国々への働きかけという面でも効果をあげています。

 

一方の台湾は、アメリカからの支援を期待するのと同時に自主開発を進めているとのことです。

 

****台湾を「中国ワクチン」で揺さぶる習近平 自主開発に賭ける蔡英文****

台湾での新型コロナ拡大を受け、焦点に急浮上したのがワクチン不足の問題だ。中国製ワクチンの提供を呼びかけた習近平政権、対中依存を望まず自主開発と米国の支援に期待をかける蔡英文政権。ワクチンをめぐる駆け引きが、米中新冷戦と台湾の未来を睨みながら、激化している。(中略)

 

「重要な防疫物資は国産化」という方針

台湾は新型コロナ流行当初からワクチン自主開発の方針を明確に掲げていた。それは台湾なりの「自助」重視の考え方に基づく。(中略)

 

中国から常に強い圧力を受け、WHO(世界保健機関)にも参加できないなど、国際社会で孤立を強いられてきたゆえのサバイバル戦略であった。

 

昨年秋、台湾企業の「メディゲン・ワクチン・バイオロジクス(高端疫苗生物製剤)」と「UBIアジア(聯亜生技開発)」の2社に対してワクチン開発の許可を与え、現在、実用化に向けた治験が第2フェーズの最終段階に入っている。

 

従来の方針では第3フェーズが完了する今年夏以降の本格供給開始を想定しており、医療従事者や高齢者などについては、海外製造の輸入ワクチンで対応する方針だった。

 

ただ、台湾内の感染状況が落ち着いていたため、医療従事者も一般市民もワクチン接種の希望が低く、ワクチンの輸入にそこまで高い優先度を置いていなかったようだ。これまでに英アストラゼネカのワクチンが約70万本輸入されている程度で、接種率は1%程度にとどまっていた。

 

ところが、今回の感染拡大で状況が変わり、「疫苗荒(ワクチン不足パニック)」と呼ばれるほど世論の関心が一気に高まった。そのなかで、政府のワクチン入手の遅れを責める声も上がり始めている。

 

中国が各国に迫る「ワクチン or 台湾?」

そこにつけ込むように、中国政府は5月17日、「台湾の中での人為的な政治的障壁を取り除き、台湾同胞がワクチンを入手できるようにすることが不可欠だ」との声明を発した。「人為的な政治的障害」という言葉で、かねてから中国ワクチンを断っている蔡英文政権の姿勢を暗に批判し、揺さぶりをかけたのである。

 

中国では現在、5億回超のワクチン接種を国内で行い、人口の30%が受けた形になっている。海外にも35億回分のワクチンを輸出・援助しており、これは全体のワクチン製造の4割にあたる数量だ。

 

中国にとってワクチンは外交的な影響力拡大のための非常に大きな武器になっており、蔡英文政権への揺さぶりのチャンス到来と見ているようだ。台湾が国交を有する中南米のホンジュラスやパラグアイに対しても、ワクチン提供と交換条件で、台湾との国交断絶を含めた「代償」を求めているとされる。

 

この中国の動きに呼応する形で、対中関係の良好さを売りとする野党国民党の孫大仙立法委員は、「中国の製造するワクチンがWHOやCOVAXの認証も得ているのなら、台湾は中国から購入すればいいのではないか」「米国は台湾のワクチン取得を助けると言っているが、具体的にどんな行動があるのか」と批判を強めている。また、中国製ワクチンの受け入れを求める国民党系の地方首長も現れている。

 

強さを誇ってきた民進党政権の傷を広げ、1年半後の統一地方選や2 年半後の総統選挙につなげたいという狙いもある。

 

アメリカは台湾支援に乗り出すか

蔡英文総統も、ここでなんとかワクチンの入手を進めないと、世論対策的にも感染症対策的にも厳しい局面を迎えてしまう。

 

台湾は、対中関係とは対照的に、最近急速に関係を深めている米国との交渉に乗り出した。

蔡英文総統の側近である蕭美琴・駐米代表は米国政府とワクチン提供の交渉に入っており、すでに「米国から前向きな対応があった」ことを自身のFacebookで明らかにした。

 

また、コロナ対策の指揮をとる陳時中・衛生福利部長は5月21日、米国のハビエル・ベセラ厚生長官と電話会談を行った。台湾側の発表によれば、米国はワクチン取得に関して台湾を支援することを表明したとされている。

 

米国では国内へのワクチン供給に目処がついたことで、これまで発表していた6000万回分に加え、新たに2000万回分のワクチンについて、途上国を中心とした外国に提供する考えを明らかにしているが、そのなかに台湾も含めるよう交渉していると見られる。

 

また蔡英文総統は、台湾製ワクチンの開発も加速させることを表明した。

 

もともと台湾のワクチン開発自体が米国との関係が深いものだ。

台湾でワクチン開発を進めている前述の「高端」「聯亜」は、米国立衛生研究所が抽出したコロナウイルスのスパイクタンパク質の抗原を提供されている。(中略)

 

蔡英文政権は、この台湾製ワクチンについて第3フェーズを特例的に省略させ、早期供与の開始を示唆している。

 

台湾では、到着時期はまだ固まっていないが、アストラゼネカとモデルナに2000万回のワクチンを発注しているという。陳時中・衛生福利部長は、6月中に200万回分のワクチンが海外から到着し、8月末には台湾製のワクチンを含めて1000万回分のワクチンが調達できる見通しであることを明らかにした。こうした形で、台湾の人口2300万人にほぼ行き渡るだけの供給量を確保したい構えだ。

 

それまでは、蔡英文政権は中国の揺さぶりをしのぎつつ、当面の感染状況をまずは抑え込まなくてはらない。だが、感染者数がなかなか下方に向かわないのが現状だ。

 

これまでコロナの抑え込みを高い支持率につなげてきただけに、ここで万が一大きく転んでしまえば逆に強い反発と失望を招きかねない。台湾のコロナ対策は、米中新冷戦も絡みながら、いままさに正念場を迎えようとしている。【5月27日 Foresight】

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【台湾世論の中国産ワクチンへの拒否感 中国企業を通したビオンテックワクチン供給は?】

中国産ワクチンについては、中国との関係強化を主張する国民党関係やその支持者の一部を除いて、台湾世論は「拒否感」を持っているようです。

 

****中国、ワクチン提供の意向 台湾が反発「統一工作の一環だ」****

(中略)蔡政権が強気な背景には台湾の民意がある。民間会社が3月上旬に実施した世論調査によると、中国製ワクチンの接種を受けたくないと答えた市民は76・1%に達した。民進党支持層では92・5%が、対中融和路線を取る野党・国民党の支持層でさえ46・7%が接種を望まなかった。(後略)【5月26日 毎日】

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これには、中国の「統一工作」への反発に加えて、かねてよりの中国製品の品質に関する強い不信感も背景にあります。

 

ただ、「中国産ワクチン」ではなく、前出のように独ビオンテック社から台湾での販売代理権を取得している中国メーカー「上海復星医薬」からのビオンテック社ワクチン(いわゆるファイザーワクチン)の購入となると、また少し事情が変わってくるのかも。

 

中国は上海復星医薬を通じてワクチンを提供する用意があると表明しています。

 

****ワクチン調達巡り中国が「政治戦」、台湾当局が非難****

台湾の複数の当局者はロイターに対し、中国が台湾に新型コロナウイルスワクチンを提供する用意があると表明しているが、誠実な申し出ではないとし、政治的な理由で台湾のワクチン調達を妨害しているとの認識を示した。

台湾は、ドイツのバイオ医薬会社ビオンテックから新型コロナワクチンを購入するのを中国が妨害していると主張。中国は、ビオンテックと販売契約を結んでいる中国の上海復星医薬を通じてワクチンを提供する用意があると表明している。

ただ、台湾は上海復星医薬を通じたワクチンの調達を拒否。透明性が不足しており、中国が関連情報の提供を拒んでいることを理由に挙げている。

台湾のある高官はロイターに対し、中国がワクチン提供を巡って、既存の情報交換ルートを利用していないと指摘。中国は台湾を「分離・弱体化」させるため「政治戦」を仕掛けており、ワクチンを提供する意思はないとの見方を示した。

同高官は「台湾がワクチンを輸入するには一定の手続きが必要で、彼らに(ワクチンを提供する)意思が本当にあるのなら、何をしなければならないか分かっているはずだ」と述べた。

台湾当局は、ビオンテックのワクチン調達に中国が介入していることを数カ月間にわたって公表していなかったが、同高官は公表が必要だと感じるようになったと発言。

「ワクチンは政治ではない。だが、ワクチンの政治化を世界で一番よく知っているのは中国本土だ」と述べた。

台湾の治安当局関係者もロイターに、中国は台湾のワクチン調達を妨害するため「多数の措置を講じている」と指摘。「(資金力を背景に対外進出を図る)ドル外交に似ている。ドルがワクチンに変わっただけだ」と述べた。

中国国務院の台湾事務弁公室は、コメント要請に応じていないが、ワクチン提供の申し出は誠実なもので、台湾は政治的な障壁を築くべきではないと繰り返し主張している。

台湾の中央流行疫情指揮センターは、上海復星医薬を通じたワクチン提供に関する中国国営メディアの報道について、情報が不足しており、ワクチンが台湾の基準を満たすか知るすべがないとロイターに述べた。

上海復星医薬のコメントは取れていない。

一方、台湾の最大野党・国民党は、上海復星医薬を通じてワクチンを調達すべきだと主張。同党幹部は会見で、同社のワクチンは「100%」ビオンテックのワクチンであり、なぜ与党が購入を拒否するのか分からないと述べている。【5月27日 ロイター】

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上海復星医薬を通じてのビオンテックワクチンということになると、品質の問題はなくなり、政治的な判断がメインとなります。(情報が不足しており、ワクチンが台湾の基準を満たすか知るすべがない云々は表向きの話でしょう)

 

【昨年3月に成立していたビオンテックと中国企業の「中国」市場での販売契約】

そもそも、ビオンテックはどうして台湾を含めた中国市場での販売を中国企業・上海復星医薬に委ねたのか?

台湾問題をどのように認識していたのか? 中国市場という「大きさ」に魅惑されて、台湾の問題に目をつぶったのか?・・・という疑問がでますが、ビオンテックと上海復星医薬の契約は最近の話ではなく、1年以上前に成立した契約のようです。

 

****ドイツ企業、新型コロナウイルスのワクチン開発で脚光****

(中略)バイオンテック(本社:マインツ)は、3月17日に米製薬大手ファイザーとCOVID-19ワクチン「BNT162」の共同開発と中国以外の地域における流通にかかる提携を発表した。

 

ドイツを皮切りに、欧州、米国、中国で2020年4月下旬から臨床試験を開始できるように研究開発を加速させる。中国市場では上海復星医薬と提携し、同国での治験と商品化を共同で行う。(後略)【2020年03月25日 JETRO

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1年前の段階で台湾がどのようにビオンテックと交渉していたのかは知りませんが、自主開発路線もあって、おそらく大きな動きはなかったのではないでしょうか。

 

台湾へのワクチン供給が今のように強く意識されない段階で、中国以外はファイザー、中国は上海復星医薬による独占的供給が契約されたというのは、まあ、常識的な取引だったのかも。

 

その「中国」というのがどの範囲を意味するのかが政治的には大きな問題ですが、一般的な商取引では、中国の主張する「一つの中国」原則に沿って行われるのでしょう。

 

こういう商取引の知識は皆無ですが、いったんビオンテックと上海復星医薬の間で「中国」市場における独占的販売権の契約が成立したら、そこに台湾があとから割って入るのは難しいようにも思えます。

 

基本的には、そういう契約上の問題であり、中国政府が台湾の契約を妨害している云々ではないのかも。

 

ただ、台湾側の下記報道を見ると、そういう「一つの中国」に関わる問題ではなく、何らかの「契約外の問題」が起きたために・・・ということのようです。

 

****独ワクチン交渉頓挫、書類に「わが国」表記で=台湾コロナ指揮官****

新型コロナウイルス対策を担う中央感染症指揮センターの陳時中(ちんじちゅう)指揮官は27日の記者会見で、ドイツのビオンテック社とのワクチン購入に関する交渉が頓挫した背景に、契約に関する報道資料にあった「わが国」という表記について意見の食い違いがあったと明らかにした。

同社のワクチンを巡っては、蔡英文(さいえいぶん)総統が26日、「中国の介入によって現在も契約できていない」と述べていた。

陳氏によれば、昨年12月末には双方とも契約内容を確認。報道資料も今年1月初めに同社が確認を済ませ、「契約成立を全国民に発表するはずだった」。だが同社が突如、報道資料の「わが国」という表記を「台湾」に変更するよう要求。すぐに応じたが、1月中旬になって購入量やスケジュールを見直すよう求められたという。

陳氏は、同社との交渉は実際には合意に達していたとした上で「双方が話し合っている際に、契約内ではなく、契約外の問題が起きた」との見方を示した。【5月27日 フォーカス台湾】

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このあたりの事情はよくわかりません。

 

台湾のワクチン確保が今後も滞るようであれば、ワクチン供与申し出という中国の揺さぶりが大きな効果をあげそうです。

逆に、自主開発なり、アメリカからの調達なり、中国やビオンテックによらずにワクチン確保ができるのであれば、中国の「不当な介入」を批判することは、蔡英文政権側の政治的ポイントになるのかも。

 

コメント
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