孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南米・中東などで相次ぐ反政府デモ SNS活用で予想を超えた動きを見せる市民の怒り

2019-10-28 22:40:48 | 国際情勢

(レバノンの首都ベイルートで「人間の鎖」を作るデモの参加者(2019年10月27日撮影)「宗派にとらわれることを拒否するレバノン人の姿を見せることが目的」とも 【10月28日 AFP】)

 

【南米・中東などで相次ぐ反政府デモ】

政府への抗議行動が世界各地で起きていますが、「いつでも、そんなものだろう・・・」という感じの一方で、「でも、なんか最近多いみたい」という感じも。

 

下記のような記事がでるところを見ると、やはり最近は多いのかも。

 

****香港だけじゃない 10月に入って世界中でデモ急増****

10月に入ってから世界各国で抗議運動がかつてないほど相次いで発生している。主要な抗議運動について以下にまとめた。

 

■チリ

期間:10月18日以来。

きっかけ:首都サンティアゴの地下鉄運賃値上げ。

現状:セバスティアン・ピニェラ大統領は運賃値上げを見送り、基礎年金支給額の増額や電気料金の値下げなどの社会政策を実施すると発表。しかし、物価高や社会的格差に対する不満からデモは拡大しており、25日には、約100万人がサンティアゴで同国史上最大とみられるデモ行進に参加した。

死傷者数:死者19人。

 

■ボリビア

期間:10月21日〜。

きっかけ:10月20日に実施された大統領選の開票結果をめぐる論争。この選挙では、現職のエボ・モラレス大統領が4選を決めた。

現状:複数の地域で暴動が発生中。10月23日にはゼネストも実施された。

死傷者数:モラレス氏の支持者と反対派との衝突で負傷者が何人か出ている。

 

■レバノン

期間:10月17日〜。

きっかけ:メッセージ交換アプリを使った通話への課税案。

現状:サード・ハリリ政権は課税案を即時撤回し、緊急経済再生計画を発表。しかし抗議デモは拡大し、デモ隊は政治エリート層の一掃を要求している。

死傷者数:なし。複数の衝突が起き、国家的なまひ状態が続いているものの、デモはおおむね平和的に実施されている。

 

■エクアドル

期間:10月1〜13日。

きっかけ:燃料補助金の廃止。

現状:レニン・モレノ大統領と抗議行動の中心となっていた先住民団体の代表が、12日間続いたデモの終結で合意した。

死傷者数:死者8人、負傷者1340人。

 

■イラク

期間:10月1日〜。

きっかけ:汚職や失業問題、劣悪な公共サービスに対する抗議の呼び掛けがソーシャルメディア上で自然発生。

現状:1週間にわたる抗議運動が治安部隊との衝突に発展。一度は沈静化したが、10月25日にデモが再開され、暴力行為が急増している。

死傷者数:最初の1週間で150人以上が死亡。10月4日だけで42人が死亡した。

 

■その他の抗議運動

 香港とアルジェリアでも、今年に入って始まった抗議運動が現在も続いている。

【10月26日 AFP】AFPBB News

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【南米 左派政権のバラマキ政策で財政悪化、右派政権の財政再建の痛みに国民不満噴出】

地域的に見ると多いのが南米と中東。

 

南米については、左派政権のバラマキ政策で財政が悪化、右派政権に代わって緊縮財政・財政再建に取り組むものの、今度は国民負担が重くなることへの不満が噴出・・・という流れが見られます。

 

****世界で抗議デモ****
中南米国家のエクアドルやホンジュラスでも最近、反政府デモが起こっている。27日に大統領選が行われるアルゼンチン、今年「1つの国、2人の大統領」体制を実施しているベネズエラの社会混乱も深刻だ。

 

ブルームバーグ通信は、中南米全体が「原材料ジレンマ」に陥ったと診断した。

 

中南米は2000年代、原油、鉄鉱石、銅など原材料の価格上昇の時期に政権に就いた左派政府のばらまき福祉政策に慣れている。

 

最近の世界景気の鈍化で原材料の価格が急落すると、福祉の恩恵が減り、景気も以前ほどではなくなった。このような中、緊縮を叫ぶ右派政権が次々に政権を獲得し、庶民との葛藤が避けられなくなったのだ。(後略)【10月22日 東亜日報】

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エクアドル、チリも同様のパターンですし、抗議行動ではないものの、アルゼンチンにおける政権交代も同様の流れでしょう。

 

****大統領選後も、見えぬ経済再建 アルゼンチン現職、IMFを頼り反発招く きょう投開票、政権交代有力****

経済危機に陥っている南米アルゼンチンで27日、大統領選がある。

 

中道右派のマウリシオ・マクリ大統領(60)は財政再建を進めようとしたが、経済成長が実現しなかったうえ、国際通貨基金(IMF)から融資を受けたことで国内の反発が強まって失速。

 

8月の予備選挙では左派が圧勝し、4年ぶりの政権交代が有力視されている。ただ、どちらが勝利しても経済立て直しの道筋は見えてこない。

 

(中略)「マクリがここまでひどいとは思わなかった。IMFと聞くと、2001年を思い出す。マクリを再選させたら、同じことを繰り返すことになる」

 

01年とは、アルゼンチンの過去最大の経済危機のことだ。大規模な暴動や略奪が発生し、財政破綻(はたん)した政府は債務不履行に陥った。当時の経済危機が、IMFの指導に沿った経済改革の末に起きたこともあり、国内ではIMFへの反感が強い。米ウィルソンセンターの調査では国民の56%が「IMF嫌い」とされる。

 

一方、IMFが求めるような財政健全化などの改革を進めなければ、経済成長も見込めない。15年に就任したマクリ氏は、貧困層支援を重視した前政権の政策を見直し、IMFや米国と協調。財政緊縮を進めながら、市場重視の路線を打ち出した。

 

ところが、経済成長が実現しないまま、18年春には米国の金利上昇をきっかけに通貨危機が再燃。マクリ氏はIMFに支援を要請し、史上最大規模となる計563億ドルの融資枠を得たが、マイナス成長に沈む経済に国民の不満は募るばかり。IMFの登場で、さらに反発を招いた。(後略)【10月27日 朝日】

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選挙の結果、予想通り右派現職が敗れ、左派のアルベルト・フェルナンデス元首相が勝利しましたが、副大統領候補としてアルベルト・フェルナンデス元首相を担いでいるのは、バラマキ政策・保護主義で財政悪化を招いたクリスティナ・フェルナンデス前大統領であり、実権を握る彼女のもとで再び財政悪化が深刻化することが懸念されています。

 

****左派フェルナンデス氏勝利 アルゼンチン大統領選****

南米アルゼンチンで27日、任期満了に伴う大統領選が実施された。6人が立候補する中、野党の左派アルベルト・フェルナンデス元首相(60)が現職の中道右派マクリ氏(60)の再選を阻んで勝利し、4年ぶりに左派政権が復活することが決まった。12月10日就任で任期4年。マクリ氏は敗北宣言した。

 

ポピュリズム(大衆迎合)的で財政規律が緩い左派政権に対しては、市場の警戒感が強い。選挙前から通貨ペソが下落を続けており、中央銀行のドル売り介入などで外貨準備高が減少。2001年末のデフォルト(債務不履行)の再現を懸念する声もある。【10月28日 共同】

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【中東 無能力、無責任、腐敗体質に対する長年の国民の不満が爆発】

もともと政情が安定しない中東では、経済問題と長期独裁・民意を反映しない政治の機能不全への不満が根強く、「アラブの春」のようにその不満が噴出することになります。

 

政府がスマートフォンのアプリを使った通話に課税する案を提示したのをきっかけに、17日から全土で数万人規模の反政府デモが続いているレバノン。

 

21日、サード・ハリリ首相がテレビ演説を行い、政府が承認した経済再生計画を発表しましたが、“デモ参加者の間では、発表された再生計画によって腐敗したエリート層が職にしがみつこうとしているとの受け止め方が多く、21日現在、抗議が収束する気配はほとんど見られない。”【10月22日 AFP】とも。

 

以外なのは“デモの規模の大きさに比べ、付随する事件はこれまで5日間で著しく少ない。街頭では、ボランティアがまとまって清掃に当たっているほか、参加者に水を配ったり、応急救護のためのテントを設営したりしている。”ということ。このあたりは、抗議デモも今日的に洗練されてきたというところでしょうか。

 

こうした様相はスーダンでも見られましたが、抗議行動が無秩序化して世論の反発を招き、政権側の弾圧への口実を与えることを防ぐ“知恵”でもあるでしょう。

 

レバノンは宗派のバランスの上に立つ国家ですが、“各派の利害が一致しない時には、長期間の政府不在になったり、各派は専ら自己の利益増進に励む(要する政界総汚職体制)というのが、日常となってきたのが、レバノンと言えますでしょうか”【10月26日 「中東の窓」】とも

 

更に近年はヒズボラの影響力が増大しています。そのことが政治の機能不全をも強めています。

 

****アプリ通話への課税案に猛抗議 レバノンで大規模デモ***

(中略)レバノンには18の宗教・宗派があり、大統領はキリスト教マロン派、国会議長はイスラム教シーア派、首相はイスラム教スンニ派から選出し、一つのグループに権力が集中しないようにしている。

 

だが2018年の総選挙では、イランの支援を受けるシーア派組織ヒズボラが躍進。影響力の強い閣僚ポストを要求するヒズボラに対し、ハリリ氏は対抗できずに押し切られるなど政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)で、指導力を発揮できない状態になっている。【10月21日 朝日】

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レバノン政治において最大の影響力を有するヒズボラは現政権擁護の立場で、“報道によっては、ヒズボッラー要員がデモ参加者に棒等をもって襲い掛かっていると報じるところもあります。” 【10月26日 「中東の窓」】とも。

 

イラクでは、ぜい弱な公共サービスや高い失業率に対する国民の不満を背景に、アブドルマハディ首相が就任してからちょうど1年を迎えた25日から首都バグダッドや南部の都市などで反政府デモが続いています。

 

そのイラクで影響力を持つのが、最大政党指導者で民兵組織も持つサドル師。

サドル師は、反政府の立場を強め、抗議行動を扇動する状況にもなっています。

 

****イラク反政府デモ、前倒しで再開 規模拡大の可能性も****

イラク各地で24日夜、反政府デモが再開された。今月上旬に行われ、死者も出た抗議行動の第2波。デモは同国のイスラム教シーア派指導者ムクタダ・サドル師が支持しており、規模が膨れ上がる可能性がある。

 

上旬の抗議行動は汚職と失業問題に対する非難として始まり、政治改革を要求するデモへと発展。治安部隊の厳しい取り締まりを受けて沈静化した後、苦境に陥ったアデル・アブドルマハディ首相の就任1年に当たる25日に再開する予定だった。

 

しかし、首都バグダッドなどでは予想よりも早くデモが再開。同市では24日夜に数百人が街頭で抗議を行った。

 

イラクのシーア派最高権威アリ・シスタニ師は政府に対し、25日までにデモ隊の要求に回答を示すよう求めており、デモ参加者数は同日中に増加するとみられている。(中略)

 

サドル師は民兵の出身で、最大の議会勢力を掌握する実力者。上旬のデモの際も政府退陣を要求していたが、今週に入ってデモに対する支持をいっそう強く表明し、自身の支持者らの参加を許可した。

 

さらに、サドル師は自身の民兵組織のメンバーに「厳戒態勢」を取るよう指示しており、民兵らが首都バグダッド各地で示威行動を取る可能性がある。 【10月25日 AFP】

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【SNSを活用する反政府デモ 香港をまねるカタルーニャ】

各地のデモ・抗議行動で特徴的なのがSNSの活用。

 

****デモ「SNS時代」 瞬時に連携拡大・見えない主導者****

中東や南米などで大規模な反政府デモが続き、政府が政策の撤回などに追い込まれるケースが相次いでいる。きっかけは様々だが、SNSを介して人々が連帯し要求が拡大するなど共通点もある。情報化が進むなか、予想を超えた動きを見せる市民の怒りに、政権側は苦慮している。【10月28日 朝日】

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特に香港の抗議行動で「SNS」が活用されていることは周知のところですが、スペイン・カタルーニャの分離独立運動は、香港を「お手本」にしているとか。

 

****カタルーニャ独立派、香港がデモ戦術のヒント 空港占拠や暗号化アプリ****

空港封鎖や暗号化メッセージアプリの利用…スペイン北東部カタルーニャ自治州で、独立派の州政治家9人に対し長期の禁錮刑判決が出されたことに抗議するデモの参加者らは、香港の民主派デモの戦術を公然と模倣している。

 

2017年に実施されたカタルーニャ州の独立をめぐる住民投票で主導的立場にあった9人に対し、スペイン最高裁は今月14日、最長13年の禁錮刑を言い渡した。

 

その直後、ロシアで開発されたメッセージアプリ「テレグラム」のユーザー24万人は、スペインで2番目に発着便数が多い州都バルセロナのエルプラット空港へ向かうよう促すメッセージを受け取った。

 

メッセージを送ったのは、設立されたばかりの「民主的津波」と呼ばれる匿名の独立派組織。9月に香港の民主派デモの参加者たちが実行したように、空港を「まひ」させることが目的だった。(中略)

 

「民主的津波」が送ったメッセージの一つの末尾には、ハッシュタグ「#BeWater(水になれ)」が付いていた。これは香港で生まれた迅速で予測不能な抗議戦略を表すスローガンだ。

 

香港の伝説的アクションスター、ブルース・リーの言葉が基になっているこのスローガンは、ツイッターでカタルーニャ全域に拡散している。

 

■「香港を見ろ」

カタルーニャ州のデモ参加者の多くはアイデアを得るために、香港のデモを参考にしている。

 

バルセロナではデモ隊が警察に対して「時々」、レーザーポインターを使っている。6月以降、民主主義と警察の説明責任を求めて数百万人がデモを行っている香港では、よく使われている戦術だ。(中略)

 

バルセロナを象徴するサグラダ・ファミリア教会へ通じる道は18日、独立派団体「共和国のためのピクニック」によって封鎖された。匿名を条件に取材に応じたメンバーは、暗号化メッセージアプリ「テレグラム」の使用は香港のデモ隊を「直接」真似たものだと話した。

 

■黄色いヘルメット

カタルーニャの独立派は、香港で使用されているビラをそのまま使うこともある。警察の放水砲から身を守る体勢を説明する図解は、広東語の記載のままソーシャルメディアで共有された。

 

8月に立ち上がったあるカタルーニャ独立派団体は、自分たちのことを「カスコス・グロクス(黄色いヘルメット)」と呼んでいる。香港のデモ隊と同じ黄色いヘルメットを使用しているからだ。(中略)

 

■中国当局「ダブル・スタンダード」と欧米批判

カタルーニャ独立派が、香港民主派のデモ戦術をヒントにしていることに対し、中国の政府や国営メディアは敏感に反応している。

 

中国の王毅外相は21日に応じたAFP独占インタビューの中で、カタルーニャ、チリ、ロンドンでの最近の抗議デモに触れ、「このところ香港で起きている暴力が、他の場所でも模倣されている」「カタルーニャのデモでは、カタルーニャに第2の香港をつくるとのスローガンが叫ばれ、香港の状況に触発されているともしている。彼らの行動について考えねばならない」と述べた。

 

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は20日の論説で、「香港のデモ隊は、思いがけない方法で世界に革命を輸出している」と言及。さらに「欧米は香港の暴動を支持した代償を払っている。それは世界各地であっという間に暴力をたきつけ、欧米の手に負えない政治的リスクを予感させている」と評した。

 

また中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは23日の論説で、「欧米のメディアや政治家たちは、さまざまな国の抗議デモで参加者が起こす同じ暴力に対して、ダブル・スタンダードで臨んでいる」「欧米諸国の抗議デモで参加者が起こす暴力には騒乱だ、暴動だというが、香港のデモや抗議行動となると『自由のための高貴な闘い』だという。欧米の偽善だ」と主張した。 【10月25日 AFP】

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