孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  ポピュリズムの波を扇動する「テフロン・ドン」 共和党に問われる保守の矜持

2019-07-20 23:06:02 | アメリカ

21世紀アメリカで湧き上がる「送り返せ」コール】

トランプ大統領の演説に合わせて沸き起こった、民主党非白人女性銀4名に対する「送り返せ」コールの大合唱が人種差別的と物議を醸しているのは報道のとおりです。

 

****「送り返せ」コール黙認? トランプ氏弁明 「ちょっとひどいと...****

アメリカ・トランプ大統領の遊説会場で沸き起こった「送り返せ」という差別的な大合唱について、大統領が苦しい弁明。

 

17日、トランプ大統領が遊説先で、白人ではない女性議員4人に対し、「国へ帰ればいい」と演説したところ、聴衆から「送り返せ」とのコールが沸き起こった。

 

これに対し、トランプ大統領は翌日、「コールはすごく大きく、ちょっとひどいと思った。だから、すぐ演説し始めた」と弁明した。

 

しかし、実際のコールは10数秒間続き、大統領はその間、遮ろうとしなかったことから、人種差別的だとの批判の沈静化には至っていない。【719日 FNN PRIME】

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「送り返せ」コールを誘導したのも大統領自身ですし、大合唱を諫めるそぶりもありませんでした。

 

上記記事のような、ウソ、責任逃れを平気で口にできるのが、この人の精神的特徴です。

 

「送り返せ」コールの様子は、21世紀の、しかも、これまで人権・民主主義の守護者を自任してきたアメリカの光景とは思えないよう雰囲気にも思えました。

 

100年前の欧州で、ヒトラーなどの扇動演説に興奮する群衆のようにも。

 

今回標的となった白人ではない女性議員4人は、人種の問題だけでなく、移民を象徴する存在としても(3人はアメリカ生まれですが)憎悪の対象ともなっているように思われます。

 

人種差別であると同時に、移民排斥のうねりでしょう。

 

【ポピュリズムの大波に直面するリベラリズム】

これまで人種や移民に対して寛容な姿勢を示してきたリベラリズム、自由主義に対し、先月末、プーチン大統領が「時代遅れ」と断じたことが話題になりました。

 

****20を前に プーチン大統領「リベラルの理念は時代遅れ」****

ロシア大統領府は、G20大阪サミット開幕直前の27日夜、プーチン大統領がイギリスの経済紙とのインタビューの中で、欧米各国で移民の受け入れなど、いわゆるリベラルな政策が行き詰まっていることを指摘したうえで「リベラルという理念そのものが、もはや時代遅れだ」と批判したことをホームページで公開しました。

 

プーチン大統領は、イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、欧米各国で社会の分断が問題となっている背景について「移民問題が起きた時、多くの人々は、リベラルな政策が機能しないことに気付いた」と指摘しました。

そして、リベラルの理念に基づく政策として、移民の受け入れや多文化主義をあげたうえで、「これらは圧倒的大多数の国民の利益に反するもので、もはや時代遅れだ」と批判しました。(後略)【628日 NHK

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メディアによっては、プーチン大統領の発言を「自由主義は時代遅れになった」と訳しているものも。

 

リベラルと自由主義は概念としては別物でしょうが、イメージしているのは人種や移民に寛容な西欧的価値観でしょう。

 

プーチン大統領が指摘するように、寛容で多様性を重視するリベラルな姿勢は、現実面で大きな混乱を惹起したこともあって、人々の怒りに突き動かされたポピュリズムの大波に直面しています。

 

【ポピュリズムに浸食される保守】

しかし、ポピュリズムの大波に直面しているのはリベラルだけでなく、伝統的な保守主義においても同様でしょう。

 

攻撃されているのはリベラルでも、ポピュリズムによって浸食されているのは保守の基盤です。

 

****リベラルの退潮? 本当に危機に瀕しているのは保守主義だ****

冷戦終結から30年。あのとき世界を包んだユーフォリア(根拠のない幸福感)はどこにもない。世界は、ポピュリズムとナショナリズムが渦巻き、強圧的な政治指導者が国民の称賛を浴びている。

 

何が政治のこうした劣化を招いたのか。リベラルばかりが叩かれる昨今だが、実は、真に危機にあるのは保守主義ではないか。

 

(中略)そういう中で出会ったのが、保守主義の古典、エドマンド・バークの「フランス革命の省察」だった。

 

革命勃発の翌年1790年に出版されたこの本は、革命に対する根本的な批判の書である。だが、単なる伝統擁護、反動ではない。バークは、改革は否定しない。ただ、自由な人間が白紙から理想の政治体制を構築できるという急進思想は、社会に無秩序を生むと考える。

 

既存の制度や慣習が社会を安定させる機能を重視した。現実には、フランス革命はテロルに走り、最後はナポレオンの独裁を生んだ。バークの予言は当たったと言えよう。

 

保守主義とは、特定のイデオロギーではない。政治に対する一種の抑制された態度、経験を重んじるバランス感覚と言えよう。

 

バークが擁護したのは、伝統を尊重しつつ改革を重ねる、名誉革命以来のイギリスの政治体制だった。

 

そういうバークを読んだ私には、大きな疑問が浮かんだ。では、日本における保守主義とは何か。自民党が保守ならば、何を保守しているのか、という問いである。

 

よく知られているとおり、自民党の中には、憲法をはじめとする戦後民主主義の諸改革を占領軍の押しつけと捉え、「戦後体制からの脱却」を唱える有力な流れがある。戦後体制の「保守」ではなくて、「否定」なのだ。戦後体制を「保守」するのは、野党の護憲勢力のほうである。

 

このねじれは、今も消えていない。いや、現在の安倍政権が、予算委員会や党首討論での議論を避けて、国会の軽視する傾向をみると、「保守」の基軸は何なのか、ますます怪しくなる。

 

いまや保守の混迷は、世界に広がる。グローバリゼーションに伴う経済危機や格差拡大が、先進諸国で長らく政権にあった保守政党の基盤を崩しつつあるからだ。(中略)

 

いっぽうアメリカは、保守であるはずの共和党の大統領がホワイトハウスの主となった。しかし、トランプ氏は、「人種差別」と批判される発言を繰り返し、政策の積み上げなど無視して、ひたすらポピュリスト的なアジェンダを追及している。

 

その他の国の保守党も惨憺たるありさまだ。ドイツのメルケル首相のキリスト教民主党は支持率を大きく減らし、フランスでは、保守陣営の柱であった共和党の瓦解が止まらない。旧東欧のポーランドやハンガリーでは、保守主義を通り越して、法の支配を軽視する右派政権が政治を牛耳っている。

 

混乱を象徴する話がある。

628日付の英紙フィナンシャル・タイムズに驚くべき記事が載った。同紙のインタビューに答えて、ロシアのプーチン大統領が「リベラリズムは時代遅れだ」とこきおろしたのである。

 

プーチン氏によれば、多様性を重んじ、移民を受け入れ、性的マイノリティーに配慮するリベラル・デモクラシーは、諸国民の信を失い、もはやイデオロギーとして終わっている、というのだ。

 

これに反論したのが、欧米のエリート層に大きな影響力のあるエコノミスト誌だった。74日号の巻頭論文で、「西側で危機に瀕しているのは、リベラリズムではなく、保守主義だ」と切り返した。

 

同誌は、先ほど紹介したバーク流の保守主義観に立って、議論を展開した。伝統や権威を打ち壊す現在の右からの動きは、これは保守ではない。むしろ、保守を否定する「新しい右翼」だという。

 

グローバルに広がる保守主義のこうした混迷は、今後深刻な影響をもたらすだろう。

 

実務的なバランス思考の保守が退潮し、「新しい右翼」が跋扈するとき、何が起きるのか。保守が本来持っていた伝統や制度への信頼は消えてしまうだろう。

 

社会の絆を失った人々は、扇動的政治家に容易にあやつられる。そのとき、怒りの政治、憎しみの政治が現れる。

 

保守こそが、ナショナリズムとポピュリズムへの防波堤にならなければならないはずなのに、その役目が果たせなくなる。この危機から、日本は自由なのか。このまま政治への信頼が失われ続け、無関心が広がれば、日本もやがて同じ問いを突きつけられるだろう。【719日 GLOBE+】

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【良識的批判をはねかえす「テフロン・ドン」 問われる共和党の保守の矜持】

アメリカ共和党内にも警戒感はあるようです。

 

****共和党が警戒、トランプ氏集会で元難民議員「送り返せ」の大合唱****

元ソマリア難民のイルハン・オマル米下院議員(民主党)をトランプ大統領が支持者集会で攻撃した際に、聴衆の間で「送り返せ」と叫ぶ大合唱が広がったことに、共和党議員が警戒感を強めている。こうした扇動的な呼び掛けが2020年の大統領選に与える影響を心配している。

共和党保守派のマーク・ウォーカー下院議員は、「こうしたことでわれわれが特徴付けられることがあってはならない」と強調。下院の共和党指導部がペンス副大統領との朝食会で、政治リスクの可能性について協議したと明らかにした。

ウォーカー氏や他の共和党議員らは、トランプ氏の支持者らが集会で叫んだ言葉を非難しているが、こうした言葉は、週末のトランプ氏のツイッターに追随したものだ。トランプ氏はオマル氏ら非白人の女性民主党議員4人について、国へ「帰る」べきだと投稿した。

4人はいずれも米国市民で、オマル氏以外は米国で生まれている。

トランプ氏も18日、大合唱との間に距離を置こうとした。ホワイトハウスで記者団に「少し気まずく感じている。私としては気に入らなかったと言いたい。賛成もしないし、もう一度言うが私は言っていない。彼らが言ったのだ」と語って見せた。

18日時点で共和党議員250人のうち40人以上が、非白人議員への攻撃を巡ってトランプ氏を批判している。【719日 ロイター】

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共和党議員250人のうち40人以上が、非白人議員への攻撃を巡ってトランプ氏を批判しているとのことですが、下院での非難決議に賛同したのは4人だけ。

 

トランプ大統領は勝ち誇るように“「共和党がいかに団結しているか分かり素晴らしい」。トランプ氏は16日、「人種差別」発言を非難する決議が下院で可決された際、共和党の造反者が4人だけだったことを誇った。”【717日 共同】とも。

 

例によって、岩盤支持層はもはやトランプ大統領の言動の内容などは気にもしていないようです。

気にしていないというか、リベラルだろうが保守だろうが、既存の“良識”から批判を受けるほどに、既存の秩序を打破する存在として支持を強固にしていくようにも見えます。

 

****トランプ氏は「テフロン・ドン」か 差別的発言でも支持率不変****

(中略)ただ、トランプ氏の支持率は今回の発言以降、ほぼ動いていない。支持者の間では「度重なるスキャンダルでも傷つかない、テフロン加工のように丈夫なドナルド・トランプ氏」の意味を込めて同氏を「テフロン・ドン」と呼ぶケースも増えている。【719日 産経】

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既存秩序の破壊衝動に駆られたポピュリズムは、慎重で、経験・バランスを重視する保守主義とは別物です。

 

選挙に強いという理由でポピュリズムを扇動する「テフロン・ドン」を担ぎ続けるのか・・・・問われているのは保守の矜持でしょう。

コメント
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