孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  “西”エルサレムをイスラエルの首都と認定 イスラエルは不満

2018-12-18 22:40:11 | パレスチナ

(東エルサレムに含まれる、ユダヤ教・イスラム教・キリスト教の聖地でもある旧市街)

【トランプ大統領のエルサレム首都宣言から1年 パレスチナ各地の抗議デモ等で死者は約280人、負傷者は3万5千人超】
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの「首都」と宣言してから、12月6日で1年が経過しました。

“パレスチナ自治政府の保健省によると、この1年に起きた各地の抗議デモでイスラエル軍の銃撃などによる死者は約280人、負傷者は3万5千人を超えた。死傷した市民や遺族が心身に負った傷は深い。”【12月7日 朝日】

****首都宣言1年、深まる傷 エルサレム巡りデモと鎮圧の応酬****
(中略)
■車いすの息子、イスラエル兵が射殺した
(中略)昨年12月15日、(2008年4月、イスラエル軍の無人機による空爆で両足を失った)長男のイブラヒムさん(当時29)は宣言への抗議活動に車いすで参加した。パレスチナの旗を振り、手でVサインをし、「エルサレムはパレスチナの首都」と訴えていたところ、イスラエル兵に頭部を銃撃されて死亡した。パレスチナの「抵抗の象徴」と英雄視された。(中略)

■1歳、頭に砲弾破片 除去できない
(中略)トランプ氏の宣言から2日後の昨年12月8日夜、イスラエル軍がガザ市を空爆した。宣言以降、イスラエルへロケット弾攻撃を続けるガザ地区の武装組織に対する報復だった。

砲弾はイスラム組織ハマスの軍事施設に命中。倒れたコンクリート柱が、ユセフちゃん一家のアパートを直撃した。

ユセフちゃんは頭を30針縫う大けがを負った。1年経ち、傷が少し残る顔で笑顔も見せた。だが、頭の骨折は完治せず、今も残る砲弾の破片はガザの病院では除去できない。恐怖感から夜中に泣きやまなくなる。

モナさんも左腕と背骨を骨折して、左腕は今も自由に動かない。「トランプ氏の無責任な宣言のせいで、私たちは心身に一生の傷を負った」

■米の和平仲介を拒否
エルサレムの帰属をめぐっては1993年のオスロ合意などで「イスラエルとパレスチナの交渉で解決されなければならない」とされている。米国の歴代政権は「二国家共存」に配慮し、商都テルアビブに大使館を置いてきた。

だが、トランプ米政権は5月に米大使館をエルサレムに移した。中米グアテマラも追随。豪州やブラジルなども移転を検討する姿勢を示した。

経済面で米国に依存していたり、指導者がイスラエルを支持するキリスト教福音派の信者だったりするケースが多いが、日本を含む多くの国は「移転しない」と明言している。

パレスチナ自治政府は、首都宣言でエルサレムの帰属問題がイスラエルとの和平交渉の議題から外されたと非難し、米国が仲介する和平交渉は拒否している。

トランプ政権はパレスチナに対する圧力を強めている。8月には国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の完全停止を表明。米国は全体の約3割にあたる約3億6千万ドル(約400億円)を出す最大の支援国だった。

一方でトランプ氏は、中東和平を「最難関のディール(取引)」と呼び、仲介に意欲を見せる。8月下旬の演説で大使館移転を誇った後、「イスラエルは非常に大きなものを手にしたのだから、高い代価を払わなければならない」と述べた。【12月7日 朝日】
*******************

【西岸地区・東エルサレムのイスラエルとの微妙な関係と最近の不穏な動き】
毎週金曜日にガザ地区イスラエル境界で行われているパレスチナ難民の帰還を求めるデモは多大な犠牲者を出していますが、ここのところは大規模な衝突には至っていないようです。

ガザ地区を実効支配するハマスなど武装勢力とイスラエルとの間では、11月に激しいロケット弾と空爆の応酬がありましたが、エジプト等の仲介もあって、一応収まっています。(イスラエルでは、ハマスとの停戦に抗議する強硬派がネタニヤフ首相に反発し、政権が不安定化していますが)

普段、メディアでは激しい衝突が起きるガザ地区が取り上げられることが多いですが、西岸地区も不安定なことでは変わりありません。

西岸地区および東エルサレム(1967年の第三次中東戦争によってイスラエルが占領。パレスチナ自治政府は東エルサレムをヨルダン川西岸地区エルサレム県に含まれるとして領有権を主張し、パレスチナ独立後の首都と規定しています。)とイスラエルの微妙な関係を示す記事が2件。

1件目は、クリスマスには「聖誕教会」ミサが必ず取り上げられる聖地ベツレヘム。

****聖地ベツレヘム、先行きに不安=「占領下の観光」に限界―パレスチナ****
イエス・キリストが生まれた場所とされる世界遺産の「聖誕教会」があるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムはクリスマスシーズンを迎え、欧州などからの外国人の姿が目立つ。

観光客や巡礼者の数は堅調に推移しているが、現地の人々の表情は必ずしも明るくない。イスラエルの占領下にある西岸での観光は常に政治に翻弄(ほんろう)され、先行きに不安を抱えているためだ。
 
ベツレヘム市当局によると、2018年の年初から年末までのベツレヘム訪問者は120万人を超える見通し。昨年12月はトランプ米大統領がエルサレムを「イスラエルの首都」と認定。これに反発するパレスチナで情勢が悪化するとの懸念が広がり、観光に打撃を与えた。

今年のシーズンは大きな政治的混乱もなく、治安は安定している。
 
ただ、ベツレヘムでの宿泊客は今年、40万人前後にとどまるという。観光客の多くはイスラエルからの日帰り。自治区内での消費は限定的で、訪問者数の割に経済活性化に結び付かない。

ベツレヘムのサルマン市長は「イスラエルの観光業者はイスラエルの利益になるよう、観光客を自国のホテルに滞在させる」と不満を漏らす。イスラエルとの和平の動きが停滞する中、来年以降の情勢にも不透明感が漂う。
 
一方、ベツレヘムを訪れるにはイスラエルにいったん入国する必要がある。同じアラビア語を話す中東各国のキリスト教徒の自由な往来が認められれば訪問客の大幅増が見込めるが、実際はイスラエルとの関係から不可能。

パレスチナ解放機構(PLO)当局者は「観光は占領者であるイスラエルの政策に大きく左右される」と語った。【12月12日 時事】 
*******************

2件目は、東エルサレムでの(イスラエルとしての)「選挙」の話題。パレスチナ人にも選挙権があり、立候補することもできますが・・・。

****(特派員メモ エルサレム)選挙権あっても****
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの「首都」と宣言して1年になる。ここでは、東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置づけるパレスチナ自治政府と、東を占領して市全域を「統一首都」とするイスラエルが長年帰属を争ってきた。
 
今秋、市長選と議会選があった。東エルサレムにはパレスチナ人30万人超が住む。イスラエル国籍がなくても「統一首都」の市長と議会の選挙権はある。

市人口の4割近いが、自治政府は「選挙権を行使すればイスラエルの主権を認めることになる」と投票拒否を求め、投票は低調だ。
 
今回は東エルサレムのパレスチナ人が議会選挙に初めて立候補した。「イスラエルに税金を払っているのに、東西の行政サービスの格差は目に余る。平等な権利を」と主張したが、パレスチナ人の脅迫にも遭って落選した。
 
東エルサレムに住み、イスラエル企業で働くパレスチナ人の友人も投票しなかった。「自治政府の行政は届かない。でも、イスラエルの占領は認められず、パレスチナ人であることは捨てられない」と心境を語ってくれた。【12月13日 朝日】
******************

こうした微妙な状況を背景に、最近は不穏な事件も起きています。

****パレスチナ人が発砲 イスラエル人2人死亡****  
ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地近くのバス停で13日、パレスチナ人の男がイスラエル人に向けて発砲し、2人が死亡した。ロイター通信などが報じた。

イスラエル軍の広報担当によると、パレスチナ人の男はバス停近くにいた兵隊や民間人に対して発砲し、現場から逃走したという。イスラエル当局は行方を追っている。2人の死亡者以外にも2人が負傷した。

英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)によると、ヨルダン川西岸では他のバス停でも9日にパレスチナ人の銃撃で妊婦を含む7人が負傷し、妊婦の赤ちゃんが死亡する事件が起きている。【12月15日 産経】
******************

また、西岸地区各地でのパレスチナ人の抗議活動・治安部隊との衝突に対し、“ユダヤ人入植者は黙ってテロの対象にはならないとして、警戒、警備を始めたとのことです(彼らは多くの場合武装しており、アラブメディアは自衛の範囲を越えて、意図的にパレスチナ人を攻撃していると非難してきた)”【12月14日 「中東の窓」】といった動きも。“自衛の範囲を越えた”行動が、衝突の引き金になることも懸念されます。

【モリソン豪首相 国内ユダヤ票獲得のためエルサレム政策転換 国内外の批判もあって“西”に限定】
国際政治面で最近注目を集めたのがオーストラリア・モリソン首相による西エルサレムの首都認定発言。

****オーストラリア、西エルサレムをイスラエルの首都と認定****
オーストラリアのスコット・モリソン首相は15日、同国は西エルサレムをイスラエルの首都と認めたと発表した。ただし、和平が実現するまで大使館をテルアビブから移転させる予定はないという。

一方でモリソン首相は、将来、和平協議でエルサレムの地位が確定した暁に東エルサレムを首都とするパレスチナ国家を樹立するという大きな目標に向けても尽力している。

モリソン首相によると、西エルサレムの首都認定は中東の「自由民主主義」を支援するというオーストラリアの国益にかかわるもので、国連に狙いを定めたものでもあるという。

モリソン氏は、国連でイスラエルが「虐げられている」と主張している。【12月15日 AFP】
*****************

トランプ大統領の宣言以降も西側諸国での目立った動きがないなかで、モリソン首相のエルサレムに関する発言が表面化したのは、国際政治というより、極めて国内政治の観点からでした。

****************
豪州は中東和平実現に配慮し、エルサレムをイスラエルの首都と認めず、テルアビブに大使館を置いてきた。

だがモリソン氏は10月、唐突に大使館の移転検討を表明。直後の下院補選で与党自由党の候補が敗れれば下院で過半数割れするため、ユダヤ系の票を狙った動きと指摘された。

野党労働党は「過半数を維持するために外交政策を変えようとしている」と批判していた。(中略)

「首相がとにかく選挙に勝ちたいと必死になった、とても異例の展開」(与党・自由党元党首のジョン・ヒューソン豪州国立大教授)だった。

結局、与党は補選で敗れ、モリソン氏は厳しい政権運営を強いられている。【12月18日 朝日】
******************

もちろん、どの国も自国の国内政治が根底にあっての外交政策ではありますが、ユダヤ系票を獲得したいがために唐突にエルサレム問題を持ち出すというのは、パレスチナ問題の重みを考えると、いささか見識を疑うところがあります。

ただ、モリソン首相の発言がトランプ大統領と異なるのは、イスラエルの首都として認めたのは“西”エルサレムであり、パレスチナ自治政府が将来の首都として領有権を主張している“東”については、自治政府側の主張に沿う方向での内容にもなっています。しかも、大使館は移転させない・・・。

10月時点での発言をフォローしながらも、不見識との批判・国際政治への影響を考えてバランスをとったようにも見えます。

****豪、イスラエル大使館の移転見送り 米政権追随に批判****
オーストラリアのモリソン首相は15日の演説で、「検討する」としてきたイスラエル大使館の商都テルアビブからエルサレムへの移転について、イスラエルとパレスチナの「二国家共存」の和平が実現するまで見送る、との方針を示した。

米トランプ政権に追随する大使館の移転検討は内外から批判が出ていた。自身の体面を保つために完全な撤回を避けつつ、国際社会に理解を求めた形だ。

モリソン氏は、国会などイスラエルの政府施設が集まる西エルサレムを「イスラエルの首都と認める」と述べた。一方で「東エルサレムを将来の首都としたいパレスチナの熱望も認める」とも語った。

移転問題の棚上げの傍ら、将来の二国家共存の姿を提示してみせたモリソン氏だが、演説後に「豪州の声は大国ほど大きくない」とも認めた。(中略)

移転表明に対し、パレスチナ解放機構(PLO)幹部のハナン・アシュラウィ氏がモリソン氏に「和平の可能性を損なう」との書簡を送って不快感を示したほか、イスラム諸国も批判。隣国インドネシアは豪州との経済連携協定(EPA)の合意延期をちらつかせていた。

パレスチナ解放機構(PLO)の和平交渉責任者エラカート氏は15日、「エルサレム全域が和平交渉の議題として残っている」とし、「豪州は二国家共存を進めるために何もしていない」と批判する声明を出した。

エルサレムの帰属を巡っては、ロシアも昨年、同様に西エルサレムをイスラエルの首都、東エルサレムを将来のパレスチナの首都とするとの立場を示した。

トランプ米政権はエルサレムをイスラエルの「首都」と宣言し、今年5月に大使館を移転した。中米グアテマラと南米パラグアイが追随して大使館を移転したが、パラグアイは9月、前政権の決定を覆して大使館のテルアビブへの再移転を決めた。【12月18日 朝日】
****************

【“西”に限定したオーストラリア決定にイスラエルは冷ややか】
記事にもあるように、(あまり大きな話題にもなりませんでしたが)アメリカ・トランプ大統領の以前に、ロシアは昨年4月に世界で初めて西エルサレムをイスラエルの首都と公式に認定することを表明しています。

ロシアは2国共存案に基づいて、東エルサレムをパレスチナが目指す新国家の首都とし、西エルサレムをイスラエルの首都と認めたのです。この際、アラブ諸国からの目立った抗議や反論はなかったとも。

今回のモリソン首相の発言は、ほぼロシアと同じ内容にも見えます。

アメリカ以外の多くの国が認めていないエルサレムについて、たとえ“西”でもオーストラリアがイスラエル首都と認めたことは、パレスチナ自治政府は不満のようですが、“西” に限定した今回のモリソン首相発言に対しては、イスラエルも冷ややかな評価のようです。

****イスラエル首相、豪による西エルサレムの首都認定に不満****
イスラエルのネタニヤフ首相は16日、オーストラリアが西エルサレムをイスラエルの首都と正式に認定したことに対し、不満を表明した。(中略)

豪州のモリソン首相は15日、同国として「イスラエルの国会や多くの政府機関がある西エルサレムを、イスラエルの首都と認定する」と表明。イスラエルとパレスチナの和平協定に基づき、東エルサレムをパレスチナの首都とすることを支持すると改めて確認した。

これに対しイスラエル外務省は、豪州の表明を「正しい方向への一歩」と述べ、冷ややかに反応。ネタニヤフ首相は16日の閣議前に「外務省が声明を発表した。わたしがそれに付け加えることは何もない」と述べ、詳細に触れることを拒否した。

同国のハネグビ地域協力大臣は会見で、より率直に豪州を批判。「遺憾ながら、この前向きなニュースの中で彼らは過ちを1つ犯した」とし、「(エルサレムの)街は西と東に分割されているわけではない。エルサレムは1つで、統合されている。イスラエルによる支配は永遠だ。わが国の主権は分割されることも損なわれることもない。豪州が早急に、過ちを正す方法を見つけるよう願う」と話した。【12月17日 ロイター】
*******************

【ヨルダン パレスチナとアメリカの関係修復に意欲】
モリソン首相も「豪州の声は大国ほど大きくない」と認めるオーストラリアより、中東情勢に影響力を持つのがヨルダン。そのヨルダンがパレスチナとアメリカの関係の修復に意欲を示しています。

****ヨルダン外相単独会見、米・パレスチナの関係修復に意欲****
ヨルダンのサファディ外相が16日、首都アンマンで朝日新聞と会見し、中東和平について「米国なしで解決に向かう可能性は非常に少ない」と断言した。

トランプ米大統領が昨年12月にエルサレムをイスラエルの首都と宣言して以来、パレスチナは米国の仲介を一切拒否している。サファディ氏は和平実現には米国の関与が不可欠との認識を示し、両者の関係修復に乗り出す考えを示した。

ヨルダンはパレスチナ難民約220万人を含むパレスチナ系が人口約1千万人の約7割を占める。一方で、イスラエルと国交があり、米国から多額の軍事・経済援助を受ける親米国だ。トランプ政権は中東和平の実現に向けてヨルダン側の協力を求めている。

サファディ氏はトランプ氏の首都宣言とそれに続く米大使館のエルサレム移転について、「エルサレムの地位は(パレスチナとイスラエルの)交渉議題だ」とクギを刺したうえで、「ヨルダンは(パレスチナとイスラエルの)議論を始められる土台づくりをしている」と述べた。(後略)【12月18日 朝日】
******************

トランプ大統領の「最難関のディール(取引)」実現に、ヨルダンが一役買う・・・ということでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする