孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・ミンダナオ  台風被害で死者470名超、更に拡大も  難航する和平交渉

2012-12-06 21:16:03 | 東南アジア

(12月2日 国際宇宙ステーションがとらえた台風24号の映像 宇宙からは美しくも見えますが、地上では地獄です。 “flickr”より By NASA: 2Explore http://www.flickr.com/photos/nasa2explore/8241228681/

昨年12月に続く台風被害
4日にフィリピン南部ミンダナオ島に上陸した台風24号は、5日朝には南シナ海に抜けましたが、今年最悪の被害を出しています。
現在報じられている死者は470名ですが、行方不明者も数百名おり、被害は更に拡大しそうです。

****フィリピン台風被害、死者470人超す****
フィリピンを直撃した台風24号(アジア名:ボーファ)による死者の数が475人に達した。同国の災害対策当局が6日、発表した。

被災者の捜索および救出活動を指揮している陸軍幹部が6日明らかにしたところによると、ミンダナオ島東岸で258人の遺体を確認した他、南部ニューバターン州とコンポステラバレー州モンカヨで191人が遺体で見つかったという。
行方不明者の数は少なくとも377人に上っており、現在も捜索活動が続けられている。また、約18万人が家を失い、学校や体育館などに避難しているという。

コラソン・ソリマン社会福祉開発相は、国連の国際移住機関(IOM)に避難所の開設支援を要請。一方、米国と日本が緊急支援を申し出ている。【12月6日 AFP】
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フィリピンでは、昨年12月に21号台風(国際名:ワシ)がミンダナオ島・ビサヤ諸島に千数百名以上の死者、行方不明者など大被害をもたらしていますが、台風の勢力としては、今回の24号台風の方が大きかったようです。もっとも、台風被害は台風の強さ以上に、そのコースによります。

****台風24号、フィリピン・ミンダナオ島に上陸****
非常に強い勢力を持つ台風24号が4日早朝、フィリピン南部のミンダナオ島に上陸した。沿岸部を中心に鉄砲水や土砂崩れの恐れがあるとして、災害対策当局が警戒を呼び掛けている。

上陸に先立ち、当局は台風の進路に当たる漁村の住民らに避難を指示した。海上では波の高さが15メートルを超え、沿岸部は台風接近とともに雨と風が激しさを増した。
上陸時の最大風速は約49メートル。3日には一時、風速67メートルを超える「スーパー台風」に発達していた。これは、昨年12月に同じ地域を直撃し、多数の死者を出した台風21号の最大風速の2.5倍に相当する強さだ。

昨年の台風では深夜に発生した鉄砲水で村落全体が流されるなど甚大な被害が相次ぎ、1200人以上が死亡、数十万人が家を失った。同国では災害対策の不備が被害につながる傾向が目立つ。今年8月にはマニラ首都圏が豪雨による洪水に見舞われ、80人以上が死亡。10月に襲った台風23号では中部で少なくとも27人の死者が出た。【12月4日 CNN】
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フィリピンの場合は、特にミンダナオ島のように防災対策も十分でない地域は、ある程度の自然災害は前提とした暮らしでしょうが、さすがに数百人規模の犠牲となると話は別です。

台風常襲地域鹿児島に住んでいる者としては、台風のニュースは気にかかります。
ただ、昔は鹿児島は毎年のように直撃を受けていましたが、最近はあまり大きな台風に襲われることもなく過ぎています。これも気候変動の影響でしょうか。
ミンダナオ島についても、“熱帯の気候であるが、北西太平洋に発生した台風はルソン島やヴィサヤ諸島へ向かうためミンダナオ島にはまれにしか上陸しない。このためフィリピンの他の地域に比べ台風の被害は比較的少なく、農業などにとり有利となっている”【ウィキペディア】との記載もありますが・・・。

予断を許さない和平交渉の今後
今回台風被害は主にミンダナオ島島南部のようですが、ミンダナオ島西部・スールー諸島はイスラム系住民が多く、長く反政府武装勢力が活動する地域ともなっています。
この地域は、そうした治安の悪さもあって、フィリピンの中でも最も貧しい地域となっています。

反政府武装勢力のひとつ「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」とフィリピン政府の間で和平の枠組みについて合意したという話は、10月8日ブログ「フィリピン ミンダナオ島反政府勢力との和平枠組み合意が成立」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121008)で取り上げました。

しかし、その後の状況については日本メディアでは目にする機会が少なく、交渉はあまり進展していないように見えます。
そもそも、10月の“枠組み合意”はあくまでも交渉のスタートを意味するもので、一旦合意したものの憲法違反との最高裁判断で破綻した08年の合意文書署名以前の状況にようやく戻ったということです。内容的には08年当時より曖昧なようです。

***ミンダナオ和平 解決ではなくスタートだ****
永石雅史(名古屋大学特任教授)

フィリピン政府と反政府イスラム武装勢力の最大勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」が10月、和平へ向けた枠組みに合意した。日本の新聞は紛争解決を楽観する論調だったが、この合意は単なる「枠組み合意」であり、「和平合意」ではない。40年あまり続いている紛争の解決へ向けて双方がようやくスタートラインにたったに過ぎない。

和平への最大の懸案が「先祖伝来の土地問題」である。MILFは先祖伝来の土地であるミンダナオ島で、独自の法律、教育、行政事務などをおこなう自治権を主張、双方は幾度となく行われた和平交渉を踏まえ、2008年8月、先祖伝来の土地問題に関する合意文書に署名する予定だった。

しかしミンダナオに利権を持つ有力氏族や、反アロヨ大統領派の抵抗によって最高裁へ署名の差し止め要求が出され、署名式はキャンセル、合意文書も結局、違憲とされた。双方の紛争は激化し、一時は60万人とも言われる国内避難民が発生するまでになった。

その後、日本をはじめとする国際社会の努力や、当事者の間の紛争疲れもあり、09年12月にいったん停戦合意が結ばれた。昨年8月には、アキノ大統領とMILFのムラド議長による歴史的なトップ会談が日本で開催され、和平交渉が進展して現在に至っている。

ただ今回の枠組み合意は、いわば4年前の合意文書署名以前の状況に戻ったに過ぎない。天然資源の配分は枠組み合意には盛り込まれず、双方の主張には依然、温度差がある。
さらに現在の「ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)」を廃止し、新たな自治政府「バンサモロ」を設立するロードマップが枠組み合意では示されているが、4年前の合意文書では国民投票を前提としつつも自治政府の領域も明記され、枠組み合意より具体的だった。
双方の課題は依然として山積しており、ミンダナオに利権を持つ有力氏族が新自治政府設立に対してどう反応するかも予断を許さない。

加えてMILFの一部強硬派勢力が、執行部と政府との和平交渉の方針に反対して離脱、分離独立闘争を続けるとしている。今後の和平交渉次第では離脱した強硬派勢力が拡大する可能性も否定できない。もちろん今回の枠組み合意がミンダナオ和平にとって喜ばしい第一歩であることは間違いない。
日本政府としても、これまで粛々と実施してきた元紛争地域での復興・開発事業や、和平交渉におけるオブザーバー参加を継続していくことが必要なのは言うまでもない。ミンダナオ和平はまさにこれからが正念場である。【12月1日 朝日】
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MILF側からは改憲の必要性が指摘されていますが、“アキノ政権は柔軟に対応すれば改憲をしなくても合意履行は可能と当てのない楽観論を展開するのみで実現性の薄さに危惧を持たれている”とも報じられています。

****難航】ミンダナオ和平 MILF交渉団長が改憲を主張****
フィリピン政府と反政府武装勢力『モロ・イスラム解放戦線=MILF』の和平合意を巡って早くも暗礁に乗り上げる動きがあった。

アキノ政権は細部を詰めないままに和平合意としていて、特に2016年までに創設される予定の自治政府『バンサモロ』に関して、円滑な自治政府設立には改憲が必要とMILF和平交渉団長のイクバル【写真】から指摘がなされている。
しかし前アロヨ政権時代に一度は認めた自治政府設立がその後の最高裁で現行憲法に『違反』するとの判決が下された経緯があって、MILFの望むような形では、再び最高裁による違憲判決が出る可能性がある。

改憲に対しては根強い反対論が議会、カトリック宗教界、世論の中にあって1992年~1998年のラモス政権以来、議論は止まったままである。
これに対してアキノ政権は柔軟に対応すれば改憲をしなくても合意履行は可能と当てのない楽観論を展開するのみで実現性の薄さに危惧を持たれている。

また、双方の利害がぶつかる域内の資源配分を巡ってMILF側は最低でも75%以上を要求していて、この面での交渉も難航が予測されている。

こういった問題は何度も過去に蒸し返されていて、歴代の政権が変わる度にイスラム勢力に対する扱いが違うことにも要因がある。
例えばエストラダ政権はイスラム武装勢力に対して強硬な完全掃討方針で動き、次のアロヨは180度転換の懐柔策で対処、アキノはアロヨの路線を引き継ぐ形で和平成立に動いているが、中身は進歩無く功を急ぎ、任期の切れる2016年までにと展望のない目論みでいる。

こういった問題は政府側だけではなくMILF側にも言えて、ミンダナオ島住民不在の権力闘争にしか見えないのも事実である。【11月12日 フィリピン・インサイドニュース】
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和平の成果が出るまでには、まだ紆余曲折がありそうです。

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