(グアヤキル(南米エクアドル)で3月30日、路上で倒れた男性の遺体のそばに立つ女性たち=ロイター【4月3日 朝日】)
【「あの人を呼吸器から外したい。そればかり思ってしまった。ほかの人に使いたくて。」】
とても胸が痛む記事。
****ニューヨークの若い医師、いきなり神の役を振られ 誰を救い誰を諦める****
「チーム700!」と院内スピーカーから呼び出しが響く。急変対応チームが今すぐ必要だという意味だ。ニューヨーク市クイーンズ地区のエルムハースト病院で、誰かが心肺停止状態になったのだ。
いつもなら、「チーム700!」と呼び出しがかかるのは、せいぜいが週に一度あるかないかだ。しかし昨日は、12時間シフトの間に9回、「チーム700」が呼ばれた。私が話を聞いた若い医師によると、急変した患者は誰も助からなかった。(中略)
ここでは、息ができずにあえいでいる人のみ、ベッドが与えられる。(中略)
患者の半数は正式な入国手続きをしていない移民で、英語ができない。レストランの従業員であり、ホテルの客室清掃員だ。そういう人たちだ。インターネットの情報には「つながって」いない。感染予防に他人と適度な距離を保ちましょうという「社会的距離」の呼びかけは、この人たちに届かなかった。
そういう人たちが集まる病院の救急外来は、大変なことになっている。30代前半の研修医によると、運ばれてくるほとんど全員が、気管挿管を必要としている。人工呼吸器が必要なのだ。いつもならそれは集中治療室(ICU)の仕事だが、ICUはとっくに手一杯だ。
救急患者には、血圧を維持する薬も必要だ。それはいつもなら専門の看護師の仕事なのだが、看護師が足りない。なので、専門訓練を受けていない人間がやらなくてはならない。(中略)
通常なら、相手が感染症の患者かもしれないと思えば、医療スタッフは個人用防護具(PPE)を身につける。そして、その患者の診療が終わればPPEを脱ぐし、使い終わったPPEは焼却される。しかし今のエルムハーストでは、まずPPEを身につけることからシフトが始まり、1日中ずっと着けたままだ。診察する全員が感染しているのだから。
1日中ずっと着ているからという、それを理由に、PPEの不足はやや緩和された。新型ウイルスとの戦いでこの病院が国内初の最前線となり、大きく注目されたことで、備品はしきりに届くようになった。
それでも若い研修医は、ひとつのN95マスクを、数日は使い続けなくてはならないのだという。
だとすると、近所のほかの病院は? 必要な備品は手に入るのだろうか。(中略)
「私が一番不安になるのは、人工呼吸器を誰に使うかです。患者さんが亡くなる、そのこと自体が問題なのではなく。死を前にしてどう対応するか、私たちは訓練されてますから。亡くなる人数も同じです。それよりも、いつもなら諦めない患者さんを諦めなくてはならない、それが問題なんです」
高齢者介護施設から搬送された男性患者について、話してくれた。到着の時点ですでに人工呼吸器がつながれていて、「慢性的に呼吸器が必要」な状態だった。回復の見込みは最初から決して良くなかった。けれどもこの時の彼女には、目に前にいる患者よりも、そこにある人工呼吸器しか見えなかった。
「あのとき私たちはあまりに、人工呼吸器がどうしても欲しくて。必死で。あの人を呼吸器から外したい。そればかり思ってしまった。ほかの人に使いたくて。あの患者さんから外したかった」
医者としてのキャリアの入り口で、まさか自分が神を演じることになるとは。若い彼女は、こんな事態はまったく予想していなかった。【4月4日 BBC】
*********************
【権力者に真実を語るとどうなるかを示す恐ろしいメッセージ】
とても不可解なニュース
****解任された米空母艦長、乗組員の声援受け下船****
艦内で新型コロナウイルスの感染が広がった米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」の艦長を解任されたブレット・クロージャー大佐が、大勢の乗組員の声援を受けながらグアムに停泊中の同艦を去った。3日に公開された動画で明らかになった。
空母から撮影された動画の中で、クロージャー大佐は乗組員らに短くあいさつした後タラップを一人で歩いて下船し、埠頭(ふとう)で待っていた車に乗り込んだ。乗組員らは甲板で手拍子をしながら「キャプテン・クロージャー、キャプテン・クロージャー」と声を上げた。
セオドア・ルーズベルトは3月にベトナムを5日間公式訪問してダナンに寄港。その後、数十人の乗組員が新型ウイルスに感染していることが判明し、同空母は3月28日にグアムの米海軍基地に到着した。
3月31日に米国の2紙が、乗組員4800人をできるだけ下船させ、その大半を隔離するよう国防総省の上層部に求めたクロージャー艦長の書簡について報じた。これに怒った米国防総省は今月2日、クロージャー艦長を解任した。
ダナン寄港は外交上重要で国防総省上層部の承認を得ていたにせよ、新型コロナウイルスの影響について同省で懸念が高まっていた中、あえて乗組員が感染するリスクを取って寄港に踏み切ったクロージャー大佐を批判する向きもある。
民主党と無所属の上院議員17人のグループは、国防総省の監察官にクロージャー艦長の解任について調査するよう求めている。
米大統領選でドナルド・トランプ大統領の対抗馬となる最有力候補となっている民主党のジョー・バイデン前副大統領は、クロージャー艦長の解任は「権力者に真実を語るとどうなるかを示す恐ろしいメッセージ」だと述べた。【4月4日 AFP】
********************
艦長の乗組員の生命を重視した判断の何が国防総省を怒らせたのか・・・よく理解できないところもありますが、以下のようにも。
*******************
(艦長の)クロジャー氏は解任の数日前、乗組員の命を救うためには決然たる行動が必要だと海軍上層部に訴える書簡を作成。
米国の国防当局者3人がCNNに確認したところによると、書簡には「我々は戦争状態になく、水兵らは死ぬ必要がない。直ちに行動を起こさなくては、我が軍の最も信頼のおける資源である水兵を適切に保護できなくなる」と記述されている。
これに対しモドリー氏(海軍長官代行)は、クロジャー氏が懸念を提起したこと自体は正しいとする一方、同氏が「極めて稚拙な判断」を示し、自身の懸念を記した書簡を20〜30人と広範囲に送付したことで混乱を招いたと指摘した。
書簡の内容は米紙サンフランシスコ・クロニクルに掲載された。モドリー氏は同紙で初めて書簡を見て驚いたとしながらも、メディアへのリークがあったかについて情報は持っておらず、解任理由でもないと説明。
ウイルスの感染拡大という対応困難な局面で、プロとしての行動が最も求められる時にそれができなくなるまで状況の進行を許したことが要因だと語った。【4月4日 CNN】
********************
中国で、武漢の状況について当局の公表前にSNS上で警鐘を鳴らした医師が処分され、その医師は結局感染し死亡。国内外で大きく取り上げられるようになってから、名誉回復されましたが・・・・
また、武漢で感染が拡大した理由について、中央政府の権力者のご機嫌を損じないようにとの行動に終始した地方政府の姿勢があったとも。
アメリカ・トランプ政権はそのような中国の対応を激しく批判していますが、今回のアメリカのクロジャー氏は解任は、そうした中国と同レベルではないかとの疑念も感じます。
【遺体が路上に放置される遺体を警察や軍が回収】
とてもショッキングなニュース。
****埋葬追いつかず路上に 警察・軍、遺体回収始める エクアドル 新型コロナ****
南米エクアドルで新型コロナウイルスの感染が急速に広がり、死者の火葬や埋葬が追いつかない状態となっている。なかには、遺体が路上に放置されるケースもあり、警察や軍が回収を進め始めている。
「路上に遺体が置かれるなんて、これまで見たこともなかった。医療システムだけでなく、葬儀の仕組みも崩壊した」。エクアドル葬儀社協会のセバスチャン・バロナ代表は1日、朝日新聞の電話取材に語った。
エクアドルは人口1700万人ほど。同国保健省の発表によると、1日午後までに確認された新型コロナウイルスの感染者は2758人で、98人が死亡した。商業都市のグアヤキルのあるグアヤス県だけで、死者は63人にのぼる。
しかし、これは感染が確認された人数だけで、実際の死者数はもっと多いとみられる。
バロナ氏によると、以前はグアヤキル市内の最大墓地に1日平均30~40体を運び、火葬していた。だが最近は160体ほどを運び、それでも遺体の回収が追いつかない。火葬する設備も足りず、土葬する場合も少なくないという。バロナ氏は「運んでいる遺体には感染確認中だったものが少なくなく、遺族は新型肺炎の症状があったと言っている」と語る。
現地報道では、家族が死者からの感染を恐れたり、埋葬できなかったりするため、遺体が路上にも置かれるようになった。
また、路上で暮らしていた人が亡くなる例も相次いでいるという。グアヤキルの警察によると、3月23~30日に308体の遺体を路上から回収した。
こうした状況を受け、モレノ大統領は3月30日、「すべての死者に尊厳ある埋葬をする」と表明。保健省やグアヤキル市は3月31日、病院3カ所の入り口にコンテナを設置し、警察や軍が家庭から遺体の引き取りを始めた。現在、450体が回収待ちだという。【4月3日 朝日】
**********************
死者の火葬や埋葬が追いつかない状態、遺体が路上に放置されるケースも・・・とても「感染者は2758人で、98人」という公表数字の状況には思えません。
【爆発的な感染拡大が懸念されるアフリカ 西アフリカではIS、更に新型コロナで食糧難も】
感染の犠牲者は、メディアで話題になるアメリカや欧州以外でも世界各地に広がっているようです。
特に懸念されているのが、難民キャンプや貧困国の巨大スラム街、そしてアフリカ。
こうした地域では手を洗う水すら十分に確保されていません。
****WHO、アフリカの新型コロナ拡大に懸念 「阻止の可能性縮小」****
世界保健機関(WHO)のモエティ・アフリカ地域事務局長は26日、サハラ砂漠以南(サブサハラ)の約半数の国では新型コロナウイルスの感染拡大を食い止める望みはあるが、可能性は小さくなっていると懸念を示した。
アフリカでの感染拡大はアジアや欧州に比べて遅いが、ロイターのまとめによると、感染者は40カ国以上で約2850人、死者は73人に上っている。
モエティ氏は「事態はかなり劇的に進んでいる」とし、「各国はさらなるウイルス感染拡大に備えつつ、封じ込めに取り組む必要がある」と述べた。
域内では新型コロナ対策として南アフリカが3週間の外出禁止策を導入したほか、ケニアは夜間外出禁止令を発令した。【3月27日 ロイター】
*********************
アフリカ諸国はエボラ対応で一定の経験値が蓄積されていること、各国が迅速な入国制限などの対応をとったことなどを評価する指摘もあるようですが、どうでしょうか?(南アフリカでも、ケニアでも、政府の強硬な新型コロナ対策に抵抗する一部市民と政府の間で対立が生じるなど、治安の悪化も懸念されています。)
****ブルキナファソ4閣僚が感染 国内の感染者は西アフリカ最多****
西アフリカ・ブルキナファソで、外務・協力相や鉱山・採石相など閣僚4人が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。ロイター通信が21日、政府報道官の話として報じた。
国内の感染者は西アフリカ最多の64人。ブルキナファソ北部ではイスラム過激派の襲撃が頻発し、新型ウイルスの流行前から政府が十分に機能していない。【3月22日 共同】
******************
上記のニュースは、アフリカにおけるコロナ対策の実態を示しているようにも思われます。
****アフリカ各国の「新型コロナ」対応は意外に迅速****
(中略)通念上は、一般市民の感染、死亡が先行するように思われたが、政府の要職なる人物が最初の犠牲者となったことは何かを意味しているように思われた。
無論、政府の要職にある人物は、外遊の頻度も高く、諸外国からの訪問者との接触が多いことが背景要因としては考えられるものの、アフリカにおける感染に関する検査の能力不足と、援助関係者を含む外国からの訪問者と、政治エリートの検査が優先されざるをえないという事情があったと考えられる。
実際、アフリカにおいては2月までは、新型コロナウイルス感染の検査ができる機関は、南アフリカと西アフリカのセネガルにしかない状況であった。現在は40カ国にまで拡大はしている。
こうしたアフリカでの感染拡大に関して、自らエチオピアの保健相と外務相を歴任して、現在WHOの事務局長として、今回の新型コロナウイルス感染症対策を指揮するテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、ブルキナファソの議会の第1副議長の死亡を受けた3月19日のジュネーブでの記者会見で、アフリカ大陸に「最悪の事態に備える」よう呼び掛けた。
また、この会見の中では、アフリカにおける感染者の数値について、「おそらく見逃されている感染者や、報告されていない感染者がいるだろう」と指摘している。
今回の新型コロナウイルスでは発症が抑えられる傾向にあるともされる若年層の人口比率の高いアフリカにおいては、無症状の感染者が水面下で拡大している懸念を払拭できない。
今後の課題
新型コロナウイルスは、その感染経路を考えると、人口が密集し、水道などの設備が不足するようなアフリカ都市部のスラムにひとたび感染者が出ると、爆発的な感染拡大が懸念される。
実際、BBCの取材に応じている、ケニアの首都ナイロビにあるケニア最大のキベラ・スラムの人々の声にも示されているように、アフリカの都市部には、人口密集地域であることに加え、清潔さを保つための水道やせっけんが不足している住民が極めて多い。
これは、紛争に伴う強制移動を余儀なくされている難民や国内避難民キャンプにも当てはまる。しかも医療体制についても、南アフリカのように比較的高い水準の体制を整えている国もあるが、住民1000人当たりの医師の数も日本の2.4人に対し、アフリカではその10分の1以下の0.2人にとどまる(世界銀行統計)。
こうしたことから、重症化する患者が増大することが現実のものとなれば、医療崩壊は免れない。今後、アフリカなどの途上地域への医療支援などが新たに課題となってくる。(後略)【4月3日 東洋経済ONLINE】
**********************
悪いことに、ブルキナファソなど西アフリカはIS系のイスラム過激派が台頭し、住民の生命・生活が脅かされている地域でもあります。
そこに追い打ちをかけるような新型コロナの感染拡大。
学校の休校は先進国では教育や親の負担の問題ですが、西アフリカでは子供たちの命を支えてきた給食が途絶えるということを意味します。
****550万人に食料危機拡大の恐れ 西アフリカ、感染拡大で拍車****
世界食糧計画(WFP)は4日までに、イスラム過激派の襲撃が相次ぎ国内避難民が急増する西アフリカのブルキナファソ、マリ、ニジェールで約390万人が食料危機に陥っていると発表した。今後、新型コロナウイルス流行や気候変動で約550万人に増える恐れがある。
WFPによると、各国は感染予防のため全学校を閉鎖しており、給食がほぼ唯一の栄養源だった児童に影響が出かねない。物流が止まるなど経済も打撃を受け、WFPは「継続的な支援がないと、事態が制御不能になる」と訴えている。
各国では、国際テロ組織アルカイダやISに忠誠を誓う勢力が台頭している。【4月4日 共同】
*******************