AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

6669:質量

2024年06月04日 | ノンジャンル

 国立市にある名曲喫茶「無言歌」の店内に入り、窓際のテーブル席に座って、「本日のコーヒー」を注文すると、窓の外からは雨の音が響き始めた。

 「そういえば、今朝テレビで観た天気予報では、夕方に雷雨があるかもしないと言っていたな・・・」と思って、窓の外の様子を窺っていると、雨が急激に強くなってきた。

 すっかりと暗くなった空には雷も光った。

 雨の音は、とても激しいものになり、店内にかかっているレコードの音もほとんど聞こえないほどであった。

 激しい雨は30分ほど続いたであろうか、潮が引くように、雨は小止みになっていき、やがて止んだ。

 雨が激しく振っていた間は店主はレコードをかけるのを諦めて、かかっていたレコードをジャケットに戻した。

 雨が止んだのを確認して、店主は新たに1枚のレコードをレコード棚から取り出した。

 そのレコードをジャケットから取り出して、YAMAHA YP-400のターンテーブルにセットした。

 YAMAHA YP-400は1974年の発売である。駆動方式はベルトドライブ方式を採用している。

 店主はトーンアームをレコードの上までもっていき、「PLAY/STOPボタン」を押した。すると、アームがゆっくり降りていき、針先がレコードの盤面に到達した。

 トーンアームは金属製のJ字型トーンアームを採用しており、その表面は過ぎ去った年月の長さにかかわらず、綺麗に輝いていた。

 ヘッドシェルに取り付けられているカートリッジはMM型のSHURE M75-6SMである。

 その針先が盤面に達すると「ぼつっ・・・」と乾いた音が、PIONEER CS-E700から発せられた。

 薄い色合いの茶色のサランネットに覆われているPIONEER CS-E700は、明るい色合いの天然ウォールナットの突板仕上げで、外観がとても落ち着いている。

 このスピーカーも1970年代前半の製品である。 

 しばしの静寂の後に店内に流れ出したのは、バッハの無伴奏ヴァオリン・ソナタ第3番であった。

 

 ジャケットを確認するとヴァイオリンはヴィクトル・ピカイゼンであった。1971年の録音である。レーベルはETERNA。

 先ほどの豪雨の激しく重々しい雨音がまだ余韻として残っているかのように思える「無言歌」の店内に厳粛な雰囲気の無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番が流れ始めた。

 あの雨の直後だからであろうか、心の奥に染み込む度合いがいつもよりも深いように感じながら、この曲を聴き進んだ。

 重音を多用した美しい序奏である「Adagio」が終わると、次は長大なFugaである。

 店内には他に客はいなかった。最後の第4楽章「Allegro assai」が終わるまで、テーブル席に静かに佇んでいた。激しい雨が降り続いた30分間とこの無伴奏曲が流れた30分間・・・どちらの時間も同じような質量を持っているかのように感じられた。

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