AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

5735:ブラックコーヒー

2021年11月13日 | ノンジャンル
 Paoさんは編成の大きなクラシックが好きである。特にマーラーが好きで、お宅にお伺いすると交響曲第5番の第1楽章がまずかかることが多い。しかし、ブルックナーは聴かないようである。また、協奏曲も好きで、特にロマン派に属する作曲家の協奏曲が好きである。

 なので、まず取り出したCDはマーラーの交響曲第5番であった。指揮は2016年に惜しまれながら亡くなったピエール・ブーレーズである。

 第1楽章は、約13分間。ガルネリ・メメントはマーラーの壮麗な交響曲を破綻なく鳴らす。小型2ウェイであるので、地響きのような低域は難しいが、自然な低音で不足感を感じることはない。

 「頑張ってる感はないね・・・自然な感じかな・・・意外と良いね・・・アンプをもっと良いものに換えると、化けると思うけどな・・・」

 Paoさんはヴィンテージが嫌いなようである。我が家のアンプは1950年代に設計・製造されたMarntzの古い真空管アンプである。Paoさんの矛先はそれらに向けられる。

 「アンプといえば、少し前にMark LevinsonのML-6を試聴してきたよ。John Curlが設計したプリアンプで、彼の理想形を妥協せずに追求したプリアンプなんだ。コンディションも素晴らしく、さすがという音を聴かせていたよ。彫りの深い音像と定位の良さがあって、思わずNO.26Lから買い替えようかと思ったけど、フルレストア済みで価格が100万円を超えていたので、どうにか思いとどまった。」

 Paoさんのお勧めは「オールド・レヴィンソン」やcello。最新のハイエンドアンプではないが、「しっかりとフルレストアしてあると、切れがあってエネルギッシュな音がする・・・」と評されていた。

 続いてヴァイオリン協奏曲をかけた。ヴァイオリンはルノー・カプソン。協演はパーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団である。

 これは三つの楽章を通して聴いた。「ヴァイオリンはさすがに良いね・・・ソナスファベールというとヴァイオリンっていうイメージ通り・・・」と、Paoさんもまずまずの好印象を持たれたようであった。

 CDのラストはピアノ。R・シュトラウスのピアノソナタ第2番である。演奏はグレン・グールド。グレン・グールドがR.シュトラウスの作品に深く傾倒していたことはよく知られている。ロマンの香りが色濃く残るピアノソナタ第2番は、グールドにとって生涯最後の録音となった。

 一種異様な美しさに彩られているピアノの響きは、グールドの唸り声とともに、狭いリスニングルームに高く響き渡った。

 その後雑談タイムに移行した。「ML-6、買えばよかったかな・・・しかし今は年金だけで生活する身だからな・・・100万円を超えてくると、どうしても慎重になってしまって・・・逡巡しているうちに売れてしまったよ・・・まあ、NO.26Lも良いプリだから、敢えて変える必要もないんだけどね・・・」Paoさんは、いまだに少し後悔されているようであった。

 最後にTANNOY GRFも聴いてもらった。我が家のGRFはモニターシルバーが搭載されている古いものである。製造されたのは1950年代半ばである。モノラルの時代であるので1台づつで販売されていた。

 かけるのはもちろんアナログ。しかも1950年代録音のモノラルレコードである。私のとても好きなヴァイオリニストの一人であるローザ・ファインのレコードを選択した。レーベルはMELODIYA。

 ペラペラの紙質の共通ジャケットに入っているレコードをDELPHI6のターンテーブルにセットした。針先がゆっくりと盤面に降りていった。

 流れ出したのはモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番である。三つの楽章全て聴いた。約20分間、流麗なローザ・ファインのヴァイオリンの音色が室内の空気を豊饒なものにしてくれた。

 「この手のものは、正直良さがわからん・・・」Paoさんは、こういった古いレコードの世界には全く興味を持てなかったようである。

 「オーディオマニアの方には、無理な方が多いです・・・ブラックコーヒーのようなものですからね・・・苦みがまず舌にきますから・・・」と返答しておいた。

 その後は、私の仕事の分野である相続税の相談も受けて、幾つかのアドバイスをした。Paoさんは、帰り際に「アンプ、やっぱり換えたほうがいいよ・・・」と再度追加することも忘れなかった。 
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