おっさんひとり犬いっぴき

家族がふえてノンキな暮らし

ゲーム理論に学ぶ

2022-08-14 08:53:25 | 日記
 日高敏隆さんの本の中に、「『道徳』の由来」という文章があり、学者さんならではの興味深い話が紹介されていた。

 1930年頃、ローレンツという学者が「動物は同類どうしでは殺し合いをしない」と指摘して以来、殺し合い抑制システムが動物には備わっていると考えられていた。例えば、オオカミの例では、順位をめぐって争う時、到底相手に敵わないと感じた1匹は、自分の急所である自分の首筋を相手に差し出して、さあ咬んでくれというばかりの姿勢を見せる。この降伏の姿勢を取られると、勝者はそれ以上相手を攻撃できなくなってしまう。進化の途上で組み込まれた心理的抑制の仕組みだというのである。そうして生物は「種の保存」を果たして来たらしい。

 こういう抑制の仕組みは、より強い武器を持っている動物ほど特に発達しているという。そうでなければ、同類殺しによってとっくにその種は滅びてしまうだろうからだ。その点、相手を殺せるような牙も爪も毒も持ち合わせていなかった人間は、そのような殺し合い抑制システムを発達させることがなかったため、同類殺しを避ける道徳的な装置は備わっていないという。

 ところが、最近になって、動物の世界もそんなに道徳的ではなく、子殺しなどはかなり頻繁に起こっていることがわかってきた。そこで、抑制システムとは別の理由があるのではないかと研究され始めたわけだが、あるゲーム理論による解析が、わかりやすい解答を与えてくれた。

 ある闘争が起こる時、強気の戦術で自分が勝つか大ケガをして動けなくなるまで徹底的に闘う派と、相手がエスカレートしてきたらさっさと引き下がる弱気の戦術派のふたつを想定する。で、勝ったらプラス、負けたらゼロ、大ケガをしたらマイナス、闘争に費やす時間がかかるとマイナスといった具合に点数をつける。で、いろいろと闘わせた結果、平均得点を比べると、強気の戦術派がマイナス、弱気の戦術派がわずかだがプラスになる。つまり、わずかな得点だが、着々と稼いでいく弱気の戦術派が生きていく上で確実な方法だということになった。

 この理屈で言えば、わざわざ本能に組み込まれた殺し合い抑制システムなど持ち出さなくても、自分にとって何が一番得になるかを計算すれば、動物にとって同類の殺し合いなど百害あって一理なしだということになのである。

 ロシアによるウクライナ侵攻やウクライナの徹底抗戦に、このことを当てはめて考えようとは思わないが、僕たちの実生活においても、どこまでも強気の判断というのは、案外動けなくなるような大ケガに繋がることが多い。それよりも、弱気の戦術で、やばいとなったらさっさと身を引く生き方を選ぶほうが、着実にポイントを稼いでいくということになるのかもしれない。派手さはないが、チリも積もれば山となる。
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