Blogout

音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

伊福部昭/海底軍艦

2009年12月30日 18時43分25秒 | サウンドトラック
 今年も「海底軍艦」を観た。この作品は年末の29~31日あたりになると必ずといっていいほど観たくなる作品で、個人的には年末の恒例行事(?)になっている。そもそもこの作品、田崎潤と上原謙の重厚な演技に、高島忠夫と藤木悠の極楽コンビ、藤山陽子と小林哲子というふたりの対照的なヒロインという俳優陣らのドラマ面がすこぶる充実していることに加え、海底軍艦というこれまでにないメカニックのおもしろさが加わり、これに前後する作品と比べると、やや異色な感はあるものの、東宝特撮映画全盛期を彩る名作である。その「海底軍艦」の盛り上げるもうひとつの絶大な魅力は、いうまでもなく伊福部先生の音楽であろう。私は先生つくった映画音楽ならなんでも有難く聴けてしまう人だが、あえて先生の東宝特撮関連の映画音楽のベスト3を個人的に選ぶとすると、それは「ラドン」、「モスラ対ゴジラ」、そしてこれということになるだろう。いや、「ゴジラ」や「地球防衛軍」、「宇宙大戦争」も大好きなのだが.....。

 そんな訳で映画を見終わった後、久しぶりに単体のサントラの方も聴いてみた。冒頭、由々しき事態の発生を告げるような「東宝マーク」の音楽(わずか20秒)からワクワクしてしまう。重厚に進むメイン・タイトル「海底軍艦のテーマ」は、その格調高い音楽の背後から悲愴感を漂わせているところがなんともいい。この映画は神宮司大佐の終戦間際からレールを逸脱してしまった悲劇がドラマの基調にあるので、いたずらに「海底軍艦」のメカニックを礼賛してはならないのだ。この「海底軍艦」のテーマは劇中に何度も登場するが、常にある種の悲劇的感情を伴っているのがポイントになっている。特に後半の「海底軍艦出撃I,II」は劇中はもちろん、音楽単体でも異様に興奮する音楽になっている。
 一方、この「海底軍艦のテーマ」と対をなしているのが「ムー帝国」のテーマだ。非常にエキゾチックな主題で劇中では造語による歌詞までついていたが、「ムー帝国」がこれもまた悲劇的な成り立ちを背負った国という設定だけに、音楽も一方的な悪するのではなく、なにやら儚げで哀感をともなった旋律でつくられるいるのが印象的だが、この両者が交錯しつつ音楽が進行する「挺身隊出動」の音楽はさしずめこの映画の音楽のハイライトであろう。

 あと、あと忘れられないのが、「真琴のテーマ」は一般ドラマで使いそうな先生らしい生真面目で荘厳な曲でこの映画にドラマ的な深みをあたえるものとなった。先生の場合、特撮映画といっても、いつもドンパチ風な音楽をつけるだけでなく、「ラドン」などでもこうした音楽をつけたことはあったし、「宇宙大戦争」では「愛のテーマ」風な音楽を作ってもいる。この「真琴のテーマ」は劇中2回しか現れないものの、先生のこうした音楽の中でもとりわけ印象的なものといってもいいのではないだろうか。ついでに書くとエンドマークのところで流れる「エンディング」の音楽もいい。ムー帝国のテーマが哀しげに演奏されると、やがてこれまでのドラマを全てを閉じるかのようなコーダがつく訳だけれど、先生のいつも手法とはいえ、本当に浄化されるような趣があって感動してしまう(昔の映画は延々としたエンドロールがなかったので、すぐ館内が明るくなって、我々は現実の世界に引き戻された訳だ)。
 という訳で「海底軍艦」を観て、改めてその音楽を聴けば、個人的には完全な年の瀬ムードである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

KEITH JARRETTE / Up for it

2009年12月30日 11時38分14秒 | JAZZ-Piano Trio
 久しぶりにキース・ジャレットを聴いてみた。このところ、たまりにたまった宿題を片付けるようにビル・チャーラップの買い込んであったアルバムを聴いているが、その意味でいうとキース・ジャレットの方もずいぶん宿題がある。考えてみると、例のブルーノートの6枚組以降に、彼、いや彼らが出したアルバムは、Whisper Not"、"Inside Out","The Out-of-Towners","My Foolish Heart" などなど、たいてい購入はしているんだけど、たいてい1回くらいしか聴いて放置か、誰か自宅に訪れて「キース・ジャレット聴かせて!」みたいな時くらいしか聴いていないような気がする。もちろんこのアルバムもそうである。このところ休日の朝というと、ハイドンの交響曲を聴くのが日課のようになっていたのだけれど、さすがにちと飽き気味になってきたので、気分転換に何か....と思ってあれこれ探していたところで、特に理由もなさそうだが、これでも久しぶりに聴いてみようという気になったというところだ。

 さて、このアルバム、2002年のフランスでのライブ・パフォーマンスである。彼らの目下の最新作は2005年のパフォーマンスを収録した"My Foolish Heart" だろうが、これも彼らとしては比較的最近のものといってもいいだろう。演奏は良くも悪しくも「後期スタンダーズ」の音楽である。つまり、初期のヨーロッパ風な叙情から、ビバップ風な趣が強く出てある種の先祖返りをしている。1曲目の「If I Were A Bell」や2曲目の「Butch & Butch 」3曲目「Scrapple From The Apple」あたりの軽快にスウィング感、 6曲目の「Two Degrees East, Three Degrees West」のブルース感覚などはその好例だ。もっともやっているのがこのメンツだからして、ビバップやブルースといったところで、その実はひとたび暴走すると再現がなくなる「限りなくフリーインプロに近い音楽」という感じではあるのだが....。まぁ、その良い例がラストの「枯葉」だろう。彼が演奏する同曲はもう何度目かだが、ここではテーマを演奏、そのままかなり激情的なインプロに突入し、テーマが回帰すると、途切れなく8分以上に渡るフリーインプロにになっいくのだ。もちろんこれで悪くないのだが、この曲のラストから末広がりにプラスされた彼らのインプロというのは、得てしてジャズ・ロック風な8ビートだったり、ラテン風なリズムによっていたりと、ちょっと毛色の変わったパターンで延々とやることが多く、あんまり続くと「もうごちそうさま」といった気分になってしまう。

 という訳で、このアルバム、結局良かったのは「My Funny Valentine」や「Someday My Prince Will Come」といったパラード作品だ。どちらも彼らとしては何度目かの演奏になるし、そもそも選曲そのものがガチすぎるきらいはあるが、この2曲は初期の彼らにみられたヨーロッパ的、思索的な音楽を多少思い出したような演奏で、特に11分にも及ぶ前者は「My Funny Valentine」という、あまりにも有名な曲をインスパイアされ、多彩なフレーズと高いテンションでもって、実に美しい音楽になっている。あぁ、そうか、先ほどこのアルバムを聴いたことについて「特に理由もなさそうだが」と書いたけれど、昨晩聴いたチャーラップの「My Funny Valentine」に感心して、キース・ジャレットの同曲の演奏はどんなだっただろう....などと考えたこと思い出した。このアルバムを聴いた理由は、「My Funny Valentine」だったのである。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蘇慧倫/the Fool

2009年12月30日 00時12分25秒 | 台湾のあれこれ
 DVD「登陸地球演唄会(追得過一切演唱会)」を観たところで、そこでもちらっと話題に出した「the Fool」もひっぱり出してきた。もう何度も書いているとおり、彼女のたぶんのこのアルバムをきっかけにイメチェンをする。それまでの数作(94年の「就要愛了嗎」から97年の「鴨子」あたりまで)では、典型的なアイドル路線からルックス的にも音楽的にも割と楚々とした正統派美人みたいなイメージで売ってきたのだが、おそらく「檸檬樹」や「鴨子」みたいなコミカルな曲が大ヒットしたからだろう。長い髪を切り、おかっぱで素っ頓狂なキャラに変身する訳だ。彼女は女優さんなので、おそらくそいうキャラを演じていたのだろう。結局こうしたキャラクターで、「Happy Hours」「懶人日記」 など、2001年の「戀戀真言」まで突っ走ったものの(ついでに数枚だした広東語でアルバムも全てみの路線であった)、「鴨子」に匹敵するようなヒットも生み出せず、そろそろアイドルを演じるには年齢に限界でも感じたのか、結局、その後数年間というもの歌手家業は事実上の休眠状態になってしまった。

 さて、本作だが、まず一曲目の「黄色月亮」が摩訶不思議でエキゾチックな中華ムードが妙なポップさを漂わせる作品で彼女の代表曲のひとつといっていい仕上がり。ギターバンド風なサウンドを取り入れて彼女にしてロック的な勢いが感じられるタイトル曲もなかなかいい。テクノ+レゲエ風なリズムで歌われる「愛是個」、やはりギターバンド風なサウンドでゆったり歌われる「O2」、「随心所慾」といった曲は新路線で押している感じだが、その一方で「929」はゆるやかな広がりを感じさせるサウンドでもって、従来からの伸びやかな彼女の声を生かした「これまでの彼女」を感じさせる曲で、本作のもうひとつの代表作となっている。また、「不知不覚」、「没有人理我」、「脚踏車」といった曲ではこれぞ正統派台湾ポップという感じのバラード系の作品になっている。つまり本作は、音楽面では新路線と従来のAOR路線とが入り交じったような仕上がりになっている訳だ。先にも書いたとおり、彼女は本作以降、こういう音楽はどんどん捨ててしまうので、その意味でもこのアルバムは「正統派アイドル蘇慧倫」を感じさせる最後の作品となったという見方もできる。それ故、個人的には愛着のあるアルバムになっている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする