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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

ブラームス ピアノ四重奏曲 第1番(シェーンベルク編)/クラフト&フィルハーモニア管

2009年12月01日 22時39分12秒 | ブラームス
 ロバート・クラフト2回目のピアノ四重奏曲第1番である。前回のシカゴとの録音が1964年で、こちらのロンドン響とのは1998年だから、ほぼ四半世紀を経ての再録ということなるが、その年月が物をいってるのだろう。一回目ものより数段素晴らしい、実に熟成した味わい深い演奏だ。シカゴ交響楽団というバウフルな上にパワフルなオケを得て、ジョージ・セルもかくやというザッハリッヒな熱狂が横溢した演奏も悪くはなかったし、時にうなり声を上げて指揮するクラフトの十字軍的な剛直さにもある種の情熱を感じるのもやぶさかではなかったが、あまりにも直線的で、まるで真一文字に口を結んだようなその演奏は、ブラームス的な逡巡する抒情のようなものが、どこかに置き去りされてしまったような憾みを感じないではいられなかった。

 その点、この演奏はまるでシカゴの時とは別人の如き落ち着きがあり、シェーンベルクによるシミュレーションで再構成されたブラームス的な抒情を実に丹念に描いている。第1楽章など前回の演奏では、一度始まった最後で一瀉千里とばかりに精力的に進んでいったが、こちらは微妙なテンポの変動も含めて、落ちつき払ったような感覚があり、木訥としてふと立ち止まるようなブラームス的な趣をよく表現している。遅めに解釈された第2主題など聴くにつれ、「あぁブラームスを聴いてるなぁ」と感じさせてくれるのがうれしいところである。
 ともあれそういう演奏なので、第2、第3楽章も非常にいい仕上がりだ。どちらも基本的にはシカゴの時の同様に早めの解釈だが、ロンドン響(というかイギリスのオケ特有というべきか)のややくすんだ響きがブラームスにとてもよくマッチしており、時折見せるラプソディックな表現が味わい深い。最終楽章も節度がある。この熱狂的な楽章に限ってはあの性急な前回の演奏の方が懐かしいような気もするが、交響曲のラストとしては実はこのくらいの方が座りがいいのではないか。聴いている感じとしては、ハンガリー云々より、第2交響曲のラストのような趣がある。

 という訳で、このブラームス的側面を満喫できる仕上がりだ。前回の録音がシェーンベルクのオーケストレーションを焦点を当てたのに対し、こちらはその向こう側にあるブラームス的世界をじっくりくみ取った演奏といういい方も可能かもしれない(もっともこれは元々Kochレーベルのシェーンベルク・シリーズの一貫として録音されたようなのだが)。録音もCBSのようなオンマイクなものではなく、どちらかといえば、オーケストラのマスな響きに焦点をあてたふっくらとしたもので、これもまた演奏の自然な印象を倍加している。
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ウィントン・マルサリス/Jムード

2009年12月01日 01時05分12秒 | JAZZ
 「ブラック・コーズ」からほどなく発表された、第二期マルサリス・バンドの第一作(通算では第4作)である。このアルバムから管はウィントン・マルサリスのみのワン・ホーン・カルテットとなり、ピアノはマーカス・ロバーツ、ベースはボブ・ハーストにチェンジしている。いろいろと外的な理由もあるだろうが、音楽的にはアルバム3枚作ったところで、レギュラー・バンドはもやは自分のホーンだけで十分という確信を持ったというところだろう。で、ワン・ホーンともなれば、それまでの二管に比べ、色彩感やバラエティ、あるいは単純に物量という点で明らかに多少劣ってしまうから、ともすればバリバリと吹きまくって、その欠落感を埋めたくなるところだろうが、さすがに英才ウィントン・マルサリスである。このアルバムは意外にもしっとりと落ち着いた風情のアルバムになったのだ。恐るべき自信である。内容をざっとメモってみたい。

 1曲目のタイトル・チューンはスローなブルース・ナンバーである。イントロのリズムやスコアとインプロの配置は例によって手の込んだところはあるものの、一聴かなり淡々としていて、スロー・ブルースらしいビターな味わいをよく醸し出している。マルサリスのソロも淡々とした中にも、しっかりメリハリをつけているところはさすがだし、新加入のマーカス・ロバーツが前任のカークランドはかなり趣の異なるブルージーさを持っていたせいで、こういう曲では曲のムードにぴたりとハマっている。2曲目の「プレゼンス・ザット・ラメント・ブリングス」はマルサリスがミュートをつけて静かに歌う都会的なスロー・バラード。3曲目の「インセイン・アサイラム」はやっと出てきたかという感じのアップ・テンポの4ビート作品だが、例によって多彩なリズム、錯綜するモチーフなどかなり複雑な構成になっているが、どうも仕掛けのトリッキーさが過ぎたのか、ソロ、バンドのテンションともに今一歩燃焼度に欠けるような気がしないでもない。

 5曲目の「スケインズ・ドメイン」は、新主流派風で軽快なビートを伴った作品。こちらは込み入ったリズムもある種のトリッキーさも、ひとつの流れに収束していて、聴いてとても気持ち良い。ちなみにマルサリスは力8分のという感じだが、何故かジェフ・ワッツのドラムスはものすごいテンション。6曲目の「メロディーク」は2曲目と同じくマルサリスのミュートをフィーチャーしたアーバンなスロー・バラードだが、ここではマーカス・ロバーツがいいムードを出している。次の「アフター」はマーカス・ロバーツのピアノから始まるやはり、全曲以上にスローなバラード演奏。ラストの「マッチ・レイター」はアルバム中、もっともストレートな4ビート作品。ジェフ・ワッツとロバート・ハーストがよくスウィングしたリズムを刻み、マルサリスがスピーディーかつスマートなソロを展開していく。
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